はじめに
NTTデータの西川です。
普段は公共部門の技術集約組織でクラウドの導入支援に従事しています。
2024/6/26~27にWashington, DCで開催されたAWS Summit Washington, DCに現地参加してきました。そこで今回はAWS Summit Washington, DCのKeynoteのサマリをブログにまとめてみました。
本ブログを通してGenAIがUSの公共部門のシステムでどのように利活用されているのかを知ることができます。
AWS Summit Washington, DCとは
USの首都であるWashington, DCで開催されたAWS Summitは公共部門のトピック※1にフォーカスしたAWS Summitです。前進のDC Summitを含めると、今年で14回目の開催となります。
※1 連邦政府、州政府、地方自治体、教育、非営利団体、医療など
AWS Summitでは、インタラクティブなワークショップに参加したり、講義形式のプレゼンテーション通して、AWSの活用事例や最新情報を学ぶことができます。
Keynoteサマリ
0.イントロ
スピーカーはVice President of AWS Worldwide Public SectorのDave Levy氏。
20年間眠っていたRip Van Winkleが全く違う世界に目覚めたという物語※2 の紹介からKeynoteをスタートしました。彼はこの比喩を用いて、GenAIによるドラスティックな変化、現在の技術革命の状況であることを強調しました。そして、AWSはこの技術革命の最前線にあり、AWSのユーザーがGenAIの力を活用できるようにするためのツールやリソース、インサイトを提供することこそが、今回のAWS Summitの目的であると示しました。
※2 主人公のリップが山中で奇妙なオランダ人の一団に酒をふるまわれて寝込んでしまい、目を覚ますと20年も経っていて世の中が変わっていたという話。
参考:コトバンク
1.公共部門組織向けの新しいGenAI Initiative
AWSはGenAIを民主化し、あらゆる組織が最先端のソリューションを安全に、容易に、かつ費用対効果の高い方法で構築できるようにすることを使命としています。
公共部門のお客様やパートナーがGenAIによるイノベーションを加速できるように支援する「AWS Public Sector Generative Artificial Intelligence (AI) Impact Initiative」を発表しました。AWSのGenAIサービス※3、インフラを使用するGenAIプロジェクト全体で、最大5,000万ドルのAWSプロモーションクレジットやトレーニングなどを支援します。
※3 Amazon Bedrock、Amazon Q、Amazon SageMaker、AWS HealthScribe、AWS Trainium、AWS Inferentiaなどが対象。
2.ゲスト登壇1:CIAのGenAIに対する見解
CIA※4 のDirector of Artificial Intelligence Innovation(AIイノベーション担当ディレクター)であるLakshmi Raman氏とDave Levy氏は、CIAがGenAIや新しい技術にどう取り組み、利⽤しているか、⼈材育成への投資が急速な技術進歩にどう対応しているかなど、幅広い話題についてディスカッションしました。
※4 CIA(Central Intelligence Agency):国家安全保障会議に必要な情報を提供することを主任務とし、他国の国家秘密の探索や情報収集、政治工作、反米的団体の監視などを行っている。
参考:コトバンク
以下、一部QAを抜粋
Question(Dave Levy氏)
GenAIによる変革をどう見ていますか?
Answer(Lakshmi Raman氏)
GenAIは、私たちが仕事をする上で必要不可欠となった人間とマシンのチームワークを促進するための1つのツールだと考えてます。AIやテクノロジーが私たちの労働⼒の代わりにはならないと考えているが、労働力を大幅に補強し、タスクを完了する速度を向上させることができます。結果として人間は、より重要な仕事に集中することができます。
また、これは⾮常に動きの速い分野であるため、GenAIに対して様々な考え⽅が出てくるものであると考えています。実際のところ、非常に多くの変化があり、それらをどのように取り入れ、どのように考えているかというと、私たちはまだ初期段階にいると思っています。私たちの国家安全保障の使命と非常に高いレベルの課題に対してGenAIを活用できるように、私たちがどこへ向かっていくのかを見るのがとても楽しみです。
3.ゲスト登壇2:米国陸軍におけるAI Layered Defense Frameworkの取組事例
⽶国陸軍のPrincipal Deputy Assistant Secretary(調達、兵站、技術担当主席副次官補)である Young Bang⽒は、アメリカ合衆国国防総省 (DoD) における新興機能への関⼼、GenAIの潜在的なメリット、陸軍の階層化されたフレームワークについて説明しました。
AI Layered Defense Framework
米国陸軍では安全かつ迅速にGenAIを利活用するために、AI Layered Defense Frameworkというフレームワークを導入しています。
機密性の高いシステムは十分に安全であると判断されるまでに通過しなければならない制御層が増え、低リスクなシステムには柔軟性を持たせています。
システムごとのリスク分類例
- 高リスク:戦術、武器関連システム
- 中リスク:外部システム(会計、人事管理など)
- 低リスク:内部システム(国防総省ユーザ向けのシステムなど)
4.US Intelligence CommunityでのClaude3
AWSではGenAIサービスの開発において8つのコアディメンションに従っており、安全で革新に適した環境を作り出すための重要な構成要素となっています。
責任あるAIのコアディメンション
- Controllability:制御性
- Privacy&Security:プライバシーとセキュリティ
- Safety:安全性
- Fairness:公平性
- Veracity&Robustness:正確性と堅牢性
- Explainability:説明可能性
- Transparency:透明性
- Governance:ガバナンス
今回、AWSとAnthropicは、US Intelligence Community※5 向けのAWS MarketplaceでAnthropicのClaude 3 SonnetおよびClaude 3 Haikuモデルが利用可能になったことを発表しました。
※5 米国諜報機関。CIAやDoDなどを含む18の組織で構成されています。
参考:Members of the IC
政府機関の顧客がGenAIを活用して組織を変革し、国家が直面している最大の課題のいくつかに取り組むための支援をさらに強化します。これにより、政府機関の顧客へのアクセスが拡大し、速度、パフォーマンス、価格の選択肢が提供されます。
5.ゲスト登壇3:フィラデルフィア小児病院(Children’s Hospital of Philadelphia:以降、CHOP)における事例
CHOPのDirector of Data Driven Discovery in Biomedicine(バイオメディカルにおけるデータ駆動型発見ディレクター)のAdam Resnick氏から、AWSと提携して、D.A.V.I.D. (Data, Analytics, Visualisation, Insights, Discovery) という新しいプラットフォームを立ち上げることを発表しました。
D.A.V.I.D.
D.A.V.I.D.はGenAI支援プラットフォームです。臨床医はこれを使用して希少疾患に関する質問をしたり、希少疾患のデータを取得したりすることが可能です。病院がAmazon HealthLakeを通じて小児の希少疾患に関するデータを安全に相互に共有できるようになります。
6.小児医療と研究の取組みの推進
GenAIなどのクラウドテクノロジーの利用に資金を提供する「AWS IMAGINE Grant: Children’s Health Innovation Award」を発表しました。小児科研究の加速、子供の健康の改善、子供をサポートする専門職の労働力と介護者の支援に役立つプロジェクトやPoCに対し、700万ドルの戦略的助成金を提供します。
所感
- 直近数十年のトレンドとして、日本は人口動態の変更により、労働力人口が大きく減ることは明らかなので、国内においても早々にGenAIによる生産性向上に取り組む必要があることを再認識しました。
引用:「最大のトレンドは、全ての先進国で労働力の供給が減っていることだ」と出木場氏は指摘。
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米国陸軍の事例は日本の公共部門の組織において安全かつ迅速にGenAIを導入する際のフレームワークのモチーフになると思いました。
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先進組織以外は、日本だけでなくUSにおいても公共部門のGenAIの取組は初期段階であるという印象を持ちました。
おわりに
海外のTech Eventは初参加でしたが、楽しく、実りが多かったです。現地で見聞きしてきた経験は本当に貴重だったと実感しています。次はAWS re:Inventにも参加したいと思います。
※ 本ブログに記載した内容は個人の見解であり、所属する会社、組織とは関係ありません。
【参考】
KeynoteはYoutubeで視聴可能です。