本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
第6回:ターゲティングの手法例 - 1
ターゲティングの手法例
ターゲティングを行っていく際に重要となるポイントは 2つあります。 1つは各セグメントについての分析を行い、理解と洞察を得ることによって、実施するべきキャンペーンの特性(利用するチャネル、タイミング、商品等)を特定することにあります。これは発見された顧客の嗜好性や行動パターンに基づいてキャンペーンプランニングをする探索的な手法です。そしてもう 1つは、マーケターが既に、実施するキャンペーンの特性に関して特定の意図を保持しており、これらに合致することが予測される顧客リストを逆算して導き出す手法です。 当然ながらこれらの 2つのアプローチは分断されたものではなく、互いに影響を与え合うことになります。どちらかに偏ってしまえば、事業ドメインから外れた、顧客におもねり過ぎたメッセージを訴えるリスク、もしくは顧客の支持を得ることの無い、顧客を無視したメッセージを訴えるリスクを内包したキャンペーンとなってしまいます。
ここでは前者に相当する、認識されているセグメントについての包括的な分析によって、ターゲットとなり得る顧客層を全体の中からスクリーニングしていくアプローチを紹介していきます。ただし後者のキャンペーン特性が大枠において決まっている場合にも、この中から適切な手法を選択することになるため、それらについては随時触れていくことにします。各セグメントに関してスクリーニングを行っていくとき、以下の 3つの手順に基づいて進めていくことにより、そのセグメントの理解を深めることが可能です。もちろんこれが全ての分析手法ではありませんが、少なくとも大枠でそのセグメントの特性を理解することが可能となることでしょう。 当然ながら各セグメントはある一定の属性条件に基づいてセグメント化されていますが、その指定された属性条件以外に、どのような変数特性を保持しているかを理解することが分析を実施する目的です。セグメンテーション、及びターゲティングの基礎でご紹介してきたような、単純な絞込みや 2リスト間の操作では、特定の意図に基づいて属性条件を指定します。これはある一定の知識や前提条件をセグメンテーションの主体者であるマーケターが保持しており、これに基づいて絞込みを行っているといえます。これに対し、分析は幾つかの視点でこれらのセグメントを捉えなおし、それまでに発見できなかった変数特性を理解し、そこから更に絞り込むことによって実施するキャンペーンの精度を向上させることを意図しています。
1. セグメント内の構造を理解する
最初に実施する分析は、特定セグメントの内部構造を理解することです。そのセグメントを各指標に照らし合わせたときに、セグメントの中がどのような構造になっているかを理解します。またそれらの構造が時間軸の変化に伴って、どのような変化傾向にあるかも理解するべき重要なポイントです。
2. セグメントの行動パターンを理解する
次に実施するべきは、そのセグメントが持つ行動パターンを理解することです。ここでは購買行動に焦点をあて、どのような商品を一緒に組み合わせて購入しているか、またどのようなサイクルやタイミング、シーケンスで購入をしているかを理解します。当然ながら同一セグメントにおいてもそれぞれの個人が同じ行動パターンを有するとは限りませんので、パターンの集中度合いと分散度合いを理解することが必要となります。
3. セグメント間の違いを理解する
分析による理解を必要とする各セグメントの内部的な理解がなされた後に、実施するべきは複数のセグメント間の理解を行うことです。関連性が想定されるセグメントとの比較を行うことによって、そのセグメントが持つ変数特性が相対的にどのような意味を持つのかを理解します。
今回は 1. セグメント内の構造理解に関する分析手法例をご紹介し、次回にて残りの 2つに関連した分析手法例をご紹介し、説明を加えていくことにします。 スクリーニングのアプローチは、重要と考えるセグメント、キャンペーンターゲットの母集団に関して以上のような手順でスクリーニングを行っていくこととなります。本来であればきちんとした時間を費やし、全てのセグメントに対してこれらの分析を実施し、自社の顧客に対して明快な理解を得ることが望ましいのですが、一方でマーケターが費やす時間も貴重な資源であり、重要なセグメントから優先順位をつけて取り組むことが現実的な解となることでしょう。 サン=テグジュペリが描いた小説“星の王子さま”の世界で、キツネは王子さまに、50億の夜空の星や 5,000本のバラの花から、自分の星とそこに咲く 1本の花を "Differentiate" してくれるのは、費やした時間であることを諭すシーンがあります。ターゲティングの世界において利用される変数データは、それこそそのままでは数字や文字の羅列であり、顧客の輪郭を思い浮かべるには余りにも想像力の刺激に欠けるものです。 キツネの言葉を借りれば、まさに“肝心なコトは目に見えない”のかもしれませんし、そこから輪郭を描ききるためには時間を費やして顧客理解に努めることが必要になります。もちろん無駄に時間を費やしたり、それ自体が目的になったりしてはいけませんが、一方で必要な時間をかけ、対象となる顧客の姿を理解することも必要です。顧客の量的/質的な変数データは、生身の人間であるマーケターの頭脳に、訴えかけるべき顧客の明確なイメージを描かせるために存在するのであり、理解したい顧客の姿もまた、量的/質的な変数データの背後に存在する生身の人間であるということも、忘れられてはなりません。
1. セグメント内の構造を理解する
1-1. 層化分解による分析
最初に実施するのは、セグメント内の構造を理解するための分析手法です。
縦軸にリストしているのは買上金額のような、ある量的な変数をベースに等分化した顧客のグループです。 ここでは例として 4つに分解していますが、これは n等分すると考えて構いません。必要であれば 10等分、50等分、100等分といった形で層化します。そしてそれぞれの層化された顧客グループ毎の各指標値を理解することによって、当該セグメントにおけるパフォーマンスが、どのような構造になっているかを理解します。 例えば買上金額貢献度の高い顧客へのキャンペーンを実施したい場合には、リストの上位が対象となるかもしれません。また収益性の高い理由を来店回数や、ここには記載していませんが来店 1回あたりの支出額に発見できるかもしれません。ここでの想定は物品購入ですが、通信業の場合、各指標値は左から順に、[顧客数]、[平均通話回数/顧客]、[請求金額合計]、[平均請求金額/顧客]、[平均利益金額/顧客]となり、来店 1回あたりの支出額も、1通話あたりの時間や請求金額に読み替えることが可能です。 これらの指標から、収益性をもたらす牽引要素を発見し、優良顧客層の予備軍をそこへ誘導するようなキャンペーンを計画することも考えられるでしょう。また別の分析の母集団としてここで下側に位置する顧客層を絞り込み、更にパフォーマンスが低い理由を特定するためのベースとして利用することも考えられるでしょう。ここで等分を行っている理由は、層化された各顧客グループにおけるパフォーマンスの偏りを理解することにあります。例えばここでは顧客 1人あたりの買上金額において 8,000円あたりが損益分岐となると理解でき、現状の当該セグメントにおいては、Bottom 25%にこの損益分岐点が存在していることが想定できます。顧客を等分に層化しても、その他の指標も同様に応分のパフォーマンスを保持しているとは限らず、そのときの偏りを理解することが必要となります。
1-2. 経時変化の分析
続いての分析は、セグメント内の時間的変化を理解するための分析です。
指標値、期間は例として置いていますが、任意のセグメントに関する指標値と任意の期間(日、週、月、四半期、年等)を利用することになります。特定セグメント属性毎の趨勢を時系列で把握していくことにより、どのセグメント属性が拡大、または縮小傾向にあるかを理解します。特定のセグメント属性が大きな成長を続けており、自社が実施している商品やサービス、キャンペーンがこれらのセグメント属性に対してアドレスしていないのであれば、これはビジネスチャンスであり、顧客サービスレベルを低下させるリスクでもあり、いずれにしても市場変化を示す重要な兆候であると理解できます。 同様にここで規定した指標値が低下傾向であれば、何らかの理由で離反や、競合からの侵食が始まっている傾向と見て取ることができます。これらの縮小、もしくは拡大したセグメント/セグメント属性をキャンペーンターゲットとすることも可能ですし、更にこれらの顧客グループを別な視点で分析することも必要になってくるでしょう。
以上、セグメント内の構造理解のための分析手法例をご紹介しました。次回にセグメントの行動パターン理解、そしてセグメント間の関係理解のための分析手法例について触れていきます。