この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
顧客分析の手順
第26回: 顧客分析を行動につなげるためのポイント
今回は、顧客分析の手順、特に基礎理解を終えたあとの流れについて整理します。前回までに示した幾つかの分析例を通じて、キャンペーンを実施すべきポイントの理解、キャンペーンアイデアを見つけ出し、キャンペーン計画に落とし込むにあたってのポイントについて概観してきました。今回はここからエッセンスを抽出し、考慮すべき手順やポイントをまとめます。
分析から行動へ
分析結果をキャンペーンへと結びつけ、顧客に対するアプローチに昇華するためには、以下のような手順を踏むことが望ましいです。もちろん以降でご紹介する手順が唯一絶対であると主張するつもりはありませんが、これによって、本来企業がマーケティング部門に対して求める点と、顧客が自社に対して求めるニーズ充足の両面に目を向けることが可能です。そして、最終的には「何らかの形で顧客に対してアプローチしなければならない」ことを考慮すると、合理的かつ基本に則った手順であると考えます。
1. 基準指標値の設定:
新規に獲得しなければならない顧客数、離反率の目標値、維持すべき顧客支出額…顧客管理上の重要な指標を定義し、それらを維持することによって、上位の企業業績指標へ寄与できるようにしなければなりません。これは顧客全体を管理する際にも当てはまりますし、特定のセグメントを管理していく際にも当てはまります。顧客管理や CRM への取り組みが初期段階であるならば、まずは顧客全体に対して基準指標値を設け、続いて重要なセグメント毎に細分化して管理できるようにしていきます。
2. 基準指標値の凌駕/未達:
基準指標値をモニターしていく段階で、その指標値が基準を大きく凌駕したり、達成できなかったりする場合があります。逆にこれが無ければ商売的には順調と言えますが、なかなかそうはいきません。指標値に対して大きく凌駕したということは、自社が認識していない顧客ニーズがそこにあるということを意味し、それは自社のビジネス機会です。一方で達成できなかった場合、これは何らかの改善が必要であり、ニーズ充足が出来なかったが故に未達成に終わっていると理解できます。これは自社の改善機会と言えます。
3. 凌駕/未達ポイントの把握:
このため、凌駕したポイント、未達成だったポイントを特定する必要があります。最初に実施するべきは、その凌駕をもたらしたのは誰か?、未達成をもたらしたのは誰か?を理解することです。つまり、凌駕/未達ポイントを「セグメント」として特定することが求められます。
4. 対象セグメントのプロファイル把握:
対象セグメントが特定できた段階で、当該セグメントのプロファイルを把握します。どんな商品やサービスを購入してきたのか、どのようなチャネルを利用しているのか、どのようなタイミングで自社の商品やサービスを利用しているのか、どの程度の活動ボリュームが存在しており、経済的にどの程度重要な顧客群なのかを理解します。
5. 対象セグメントの期待内容整理:
これによって、対象セグメントがどのような顧客層であるかを理解でき、どのようなニーズを有していて、どのような案内を、いつ、どのチャネルを通じて実施するのがもっとも適切なのか、を把握します。
6. キャンペーン立案:
期待内容が明快になれば、あとはキャンペーンの構成要素に落とし込むのみです。ここまでのプロセスで得られた、「誰に対して、何を、いつ、どのチャネルを通じて案内するか?」を決定するに充分な知識は存在しているのですから、あとはそれをキャンペーン管理ツールに対してセットアップし、実行に移していきます。
このプロセスを実行していく際に、重要なポイントが 2つあります。1つは、このプロセスをなるべくたくさん実施することです。言い換えれば、なるべくたくさんの凌駕/未達ポイントを見つけ出し、それに対応できるキャンペーンを数多く生み出すことです。これは多くのビジネス機会や改善機会を発見し、その機会を収益に転換できるということを意味します。
そしてもう 1つは、数多くの凌駕/未達ポイントを見つけ出したら、経済的な影響度が高いポイントから取り組むことです。このようなポイントは当然ながら企業業績にも大きな影響を与えることになります。したがってこのような機会は、自社の業績を大きく伸ばす機会でもあり、自社の業績を大きく縮小させてしまう脅威でもあります。業績への影響度を認識し、必要に応じて優先順位を上げて取り組むことが求められます。
分析を適用できるポイント
ここまででご紹介してきた分析の手順、そして分析例では、以下の 4点についてデータを利用した分析が出来ることを示してきました。以下の 4つは、順序だったプロセスとして考えるべきものではなく、分析を通じてこういった側面を押さえるべきというポイントです。
1. 現状、事実を把握する:
増加、もしくは減少傾向にある顧客セグメントはどのような顧客属性を有しているか、またそれぞれの商品やサービスがどの程度利用されているか、どのチャネルが利用されているか等、現在どういった状況にあるかを把握するために分析を利用可能です。これによって客観的で、定量的な事実を前提としてキャンペーン計画を作成することが可能となります。
2. 新たなキャンペーンのアイデア(仮説)を得る:
例えば特定セグメントの顧客数減少は、何らかの手を打たなければならないことを示してくれます。そして減少を引き起こした顧客群のプロファイルを理解し、元々のセグメントや、以前の当該セグメントにおける顧客行動と比較することによって、何が不満足をもたらしているのかを類推することが可能となります。そしてこの類推された不満足こそ、ニーズであり、改善機会であり、キャンペーンのアイデアなのです。もちろん、そのアイデアはあくまで類推の結果であるため、仮説の域は超えません。しかし、すべての物事は「もしかしたら、こういうことなのでは?」という仮説からしか始まりません。
3. 思いついたキャンペーンアイデア(仮説)の実効性を裏付ける:
キャンペーンアイデアが導き出された段階で、その兆候をデータが示しているかを確認するためにも分析を利用可能です。これは分析以外の取り組みから導き出されたアイデアの場合に特に重要となります。例えばある日突然思いついたアイデア、雑誌やインターネット、誰かとの会話の中から導き出されたアイデア等がそれに該当します。データの中に仮説通りの兆候が表れているのであれば、仮説に対する確証を得ることができます。確証を得るに充分でないのであれば、仮説そのものを考え直すことが必要になりますし、必要に応じてテストマーケティングやアンケート調査を用い、追加でデータを取得することも手段の 1つです。
4. キャンペーンの詳細内容を決定するための知識を得る:
キャンペーンアイデアの実効性が裏付けられた段階で、キャンペーンの対象顧客、案内商品やサービスを含めたオファー内容、案内タイミング、案内チャネルを決定する必要があります。たとえばキャンペーンの対象顧客を絞り込む条件に、追加の 1条件を加えるべきか否か、チャネルA とチャネルB のどちらを選択するべきか…これらを適切に選定できるかによってキャンペーンの「効き」も変化します。対象顧客の分析がこれらキャンペーン構成要素の選定に必要な知識を与えてくれます。よく「神は細部に宿る」と言いますが、キャンペーンの細かな要素を決定していく際にもデータが、言い換えれば顧客の足あとが判断の基準を与えてくれます。
次回は最終回。データ分析がマーケティング活動においてどのような役割を担い、顧客へのアプローチを実施するにあたってどのような意義を有しているのかについて考察します。