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この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
掲載内容の正確性・完全性・信頼性・最新性を保証するものではございません。
また、修正が必要な箇所や、ご要望についてはコメントをよろしくお願いします。

著者 山本 泰史 (やまもと やすし)

商品の後ろ盾-企業

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企業 - 商品の送り主

企業がどのようにビジネス展開をしているかという点は、顧客の購買にも大きな影響を与えます。商品そのもの以外の理由で、顧客が購入を決定するとき、企業の施策や事業展開が大きな影響を与えています。商品そのものから得られる利益に対して、それ以外の利益が得られる、もしくは差別化が可能であるとすれば、それは販売やサービス提供に関連した企業活動によってもたらされるものです。もちろんこれらを含めて商品と定義することも可能ですが、ここではあくまでもエッセンスとしての商品以外で、購買を決める要素を見ていきます。

1. インセンティブオファー

ポイントプログラムや景品、割引、無償で提供される顧客サービスの類がこれに当たります。これらは全て、顧客に対して購買時に還元される利益です。もちろんそれが顧客にとって購買を誘発できる魅力が無ければなりません。「どうせ同じ商品を買うのであれば、利益還元が存在するほうを購入しよう」、「どうせそのうちこの商品を買うのだから、利益還元が存在する今、購入しよう」という気持ちにさせることがその目的です。しかし、いずれにしても購入されない商品であれば、そもそも購入目的が存在しないのですから、どんなインセンティブオファーを付与しても意味は無く、虚しいだけです。ではインセンティブオファーそのものが目的になったら…テクニックとしては考えられます。よくあるのは子供向けのお菓子におまけの玩具が付いて、それを子供が欲しがるケースです。でもそのとき、それはお菓子を売っているのではなく、玩具を売っているのです。お菓子そのものの魅力や目的が訴求されないまま販売されるのであれば、売上は実現できても、お菓子のマーケティングとしては本末転倒です。

インセンティブオファーにも性格が存在します。提供している商品との関連性が高い場合、これはその商品の利用に対して関心を持ち、利用者、つまり消費者がその商品を心地よく使ってもらえるよう気を配っていると言えます。例えば「シチュールーの購入顧客から抽選で xx名にシチューなべをプレゼントする」、「住宅ローン購入顧客に対して、ホームセキュリティサービスの特別割引オファーをアフィリエイト案内する」といったインセンティブオファーは、これに該当する例です。インセンティブオファーが顧客にとって奇異に映らず、企業も自信を持ってこれをインセンティブ(購買を誘発し、購買目的を強化する要素)として位置づけることが可能です。

逆に提供している商品との関連性が無い場合、インセンティブそのものが単独での魅力を持たなければなりません。前述のお菓子に対する玩具の例がこれにあてはまります。これは子供に対して、お菓子の魅力とは全く関係のない、魅力的な何かをインセンティブとして用いた例です。このようなインセンティブがもたらす良い効果は、インセンティブに魅力を感じる顧客層へ新たにアプローチができる点にあります。ただし、購入してもらう商品との関連性は低いため、消費者にとって一見奇異に感じることは覚悟の上で実施されなければなりません。また、この新たなアプローチの過程で、本来アピールさせたい商品の魅力を感じてもらえなければ、その効果は一過性のものに終わってしまいます。

また、提供している商品との関係がニュートラルな性質のインセンティブオファーも存在します。小売店やクレジットカード、航空業界におけるポイントプログラムやマイレージプログラムの類です。これは将来に擬似的な通貨として利用可能であり、自社、もしくはアフィリエイトからの商品/サービスに利用できるようになっています。その本質は自社に購買を集中することによって、顧客が追加的な価値を得られること、これによって、自社商品/サービスに対する顧客の粘着度合いを強めることにあります。多額の支払いをした顧客ほど、多額の特典を得られるようなプログラムを適用することによって、他社から囲い込み、他社の商品/サービスから顧客を遠ざけることが目的となります。一方で商品そのものの価値は変わりません。

インセンティブオファーに関して 1つ考慮されなければならない点は、(会計上どのように計上しているかは別にして)販売経費として適切なレベルであるか否かという点です。インセンティブオファーの経費額と、それによって追加的に生成された商品の利益額を比較したとき、差分として収益性が無ければなりません。もちろん、その商品やビジネス形態に応じて、長期的な形でこの収益性判断をすべきか、それとも極めて短期的な形で比較すべきかは異なってきます。しかしながらいずれにしても、追加生成利益を上回るほどに販売経費がかさみ、赤字になることは避けなければなりません。

2. 品揃え展開

その企業が、どの程度の品揃えを保持しているかも、購入に影響を与えます。特にある単一の商品だけで生活上の目的を達成できない場合、目的達成のための一式が揃っていることは消費者にとって好都合です。これは単一目的に限らず、多くの小売店では品揃えを多くすることにより、消費者の多様なニーズにワンストップショッピングという形で応えようとしています。またバリエーションの多さは、消費者に選択を与え、消費者に自主的な選択をしたという実感を与え、自分が希望するモノがあるのではないかという期待を与えることになります。旅行代理店や不動産サービス等で用いられるマーケティングメッセージに、登録されている旅行パッケージ商品の数や物件数がアピールポイントとなるのは、これが理由です。あるテーマ(不動産)に対して、特定の企業やアクセス先(不動産物件の検索サイト等)を思い浮かべてもらえれば、購入ニーズのある顧客を抜かりなく集客する様を想像いただけると思います。またそこに品揃えが多ければ、そこで購入まで完結する可能性も高くなります。このようなバリエーションの広さは小売、旅行、不動産等のような、販売代行(消費者から見れば購買代行)的で、集約/集積的な意味合いの強いビジネスモデルにおいて重視されている要素です。

一方、自社にて商品やサービスを開発する企業において、品揃えは提供商品間の関連性や、経営資源の最大効用化と強く結びつきます。このような企業は、自社の商品/サービスが購入されなければ利益に結びつかないため、競争関係にある商品/サービスに対して、なんらかの競合優位、差別化要素を持つことが生き残る上で必須条件となります。そしてこの背後に存在するのが経営資源です。特に他社にはできないことを実現可能とする経営資源(例えばネットワーク網や特許、テクノロジー、人的資産やプロセス等)はコアコンピテンシーと呼ばれ、これが品揃え展開を行なっていく際の拠所となります。

このような企業において、事業ドメイン、もしくはフォーカスエリアと呼ばれる自らの土俵を規定するとき、それは 2つの観点から検討され、策定されます。1つは自社の経営資源、特にコアコンピテンシーを最大効用できるかどうかという点です。新たな経営資源の追加的な獲得や投資が大きければ、それはリスクが高まり、合わせてノウハウや人的経験に依存するような遂行計画の実行にもリスクが伴います。そのため、既存の経営資源を最大効用できること、もっと極端に言えば再利用できることが 1つの条件となり、この条件に当てはまるか否かに基づいて事業ドメインの線引きがなされます。そしてもう 1点は、投入する商品の市場に対して、その企業がアクセスを保持しているかという点です。もし既にその市場に対して別な商品を投入しており、その市場の市場動向や嗜好性、ニーズを理解し、既存顧客との関係を維持しているのであれば、これは新規に商品投入する際の不確実性を最小化できるということになります。この 2つの観点に合致していれば、その企業は競合他社に対して有利であるか、少なくとも伍して事業を進める確率が高くなります。事業ドメインの線引きを行なうとき、これがその商品を線の内側へと含める合理的な論拠となります。

このような背景により、企業はコア商品との関連性が高い商品群を品揃えとして保持し、市場に対して投入していくことになります。製造業、例えばアイスクリームメーカーであれば、バニラ味のアイスクリームに対して、チョコレート味やストロベリー味のアイスクリームが展開されます。通信業における通話(IP電話)、インターネット、放送(映像配信)のトリプルプレイ化の流れは、IPネットワーク網という資源を最大効用化する、自社の事業ドメインに忠実な展開例と言えます。

そしてこの展開軸は、消費者の認知を高める上でも好ましい影響を与えます。同一企業が、商品のバリエーションを広げる、または、ある利用目的を様々な形でサポートできるように多商品展開すれば、消費者は同一レベルの品質や特性をイメージしやすくなります。また利用にあたっての利便性も享受しやすくなります。これは過去に自社の商品を購入した顧客、自社の他商品を既に購入している顧客、そしてこれらに満足している顧客に好ましい影響を与えます。顧客は購買を確定させるための要素の 1つとして品揃え展開を考慮するようになるのです。

そしてこのような信頼の蓄積を、より意図的な形で展開するのがブランドです。

3. ブランディング

極めて狭義にブランドを捉えるとき、それは記号です。前述のように、信頼の蓄積が顧客の側にあってはじめて成り立つものであり、あるシンプルな記号、アイコンを以って、その信頼を顧客の記憶に呼び起こさせることがその目的です。スティービー・ワンダーのニューアルバムが発売されるたびに購入する顧客は、前作までのエクスペリエンスから「スティービーが駄作を作るわけが無い」、「スティービーの才能が枯渇するわけが無い」と信じ、購入を続けます。もちろん CDショップの視聴コーナーで確認する方や、ラジオで聴いて購入する方もいるとは思いますが、熱心なファンが「スティービー・ワンダー」の記号から呼び起こすのは、ちょっとコミカルでありながらも優しい声であったり、暖かい音像であったり、美しいメロディラインであったり、それらを長年作り続けてきた彼の音楽に対する真摯な姿勢だったりするはずです。彼ら/彼女らにとってスティービー・ワンダーというミュージシャンブランドは記号であり、それまでの記憶を呼び起こし、蓄積された信頼を意味するものです。

このような概念を、企業や商品、サービスに適用していった場合、企業活動が映し出される全ての外観にブランドを意味する記号、そして統一されたデザインをまとい、記号という少ない情報を利用して豊潤なコンテクスト(多くの場合においてそれは購買に値するものであることを示す、順序立てられた情報の構造)を顧客に思い出させることが目的となります。そしてそのとき、その企業が見られたいイメージ(親しみやすい、親切である、安心、信頼できる、先鋭的である等)に誘導するためのクリエイティブデザインやメッセージングも手法として取り入れることになります。

ただし、当然ながら初めて目にするブランドデザインに対して顧客は記憶を持たないため、この場合ブランドの本質的な機能を果たしていません。ブランドがブランドたる所以は、その背後に存在する顧客との歴史を代替表現できる点にあり、ブランドデザインの旗の下、顧客に対して継続的に活動を行い、一つひとつ信頼を築き上げてきたから価値があるのです。その意味で、ブランディングには記号やデザインとして用意されたイメージの下、顧客接点における様々な活動を、企業が自ら「こう見られたい」というイメージへと近づけていく行為が必要であり、それこそがブランドを本質的な意味でブランドにするための活動(=ブランディング)といえます。

ブランドを価値のある記号として顧客の心理に植えつけることができたとき、購買に対して良い影響を与えることが可能となります。あるブランドを冠とした商品A によってもたらされた満足や信頼は、ブランドという記号で集約され、次に再度商品A を購入する際のレーザーガイドとなります。またその顧客の記憶において新たに展開する商品B に伝播させることも可能となります。また、人づてやメディアを経由してこの記号の背景が伝わっていけば、そのブランドは社会的な認知を得ることになり、商品A を購入/経験したことが無い人にとっても好影響を与えることが可能となります。また複数の競合するブランドに対する価格的なプレミアムを上乗せすることや、同等の機能属性(例えば同等の価格)であった場合に自社商品を選んでもらえるというメリットが生まれます。もちろんブランドを傷つけるような事態が起こればこの逆も起こりえますが、ブランドによって顧客はその商品を信頼し、時には盲目的な忠誠さえも抱きます。特にファッション性の高い商品ブランドにおいて、この忠誠の構造は当てはまります。顧客はそのブランドが背後に持つ姿勢や考え方、センスや特性を自らのそれと同化させるようになります。ブランドの記憶は顧客の中に内在するため、その記憶が好ましいものであればある程、その記憶と自分自身を結び付けて考えるようになるのです。

4. チャネル展開

顧客の側から見たとき、購入時の利便性も購入を決定付ける要素の 1つとなります。お店に商品が無ければ買うことができないのは自明であり、今現金の持ち合わせが無い顧客にとってクレジットカード決済ができないことは、購入をあきらめさせるに足る要素となります。また、全く同じ属性を保持する商品が 2つ存在し、この両商品の取得コストが異なるとき、取得コストの低いほうに顧客は流れます。この取得コストは時に実際の金額であり、時にこれは時間や手間も含めて換算されたコストです。

例えばある新刊書籍を購入するとき、おそらくそれは書店に山積みされており、インターネットで注文して届くのを待つよりは、何かのついでに書店に寄って、買って帰る方が低コストで済みます。この場合、書籍取得までの時間、決済や宅配の手数料等がその比較対象となります。しかしながら、同じ書籍を数年後購入するとした場合、それは書店に置いてあるか分からず、幾つもの書店を探し回らなければならないかもしれません。このような手間や煩わしさと不確実性に対して、インターネットで注文して届くのを待つ手間を比較するとき、顧客はインターネットチャネルを選択することになるでしょう。

一方、時間のコスト換算レートは、顧客のマインドセットに大きく影響を受けます。前述の新刊書籍を緊急に読む必要が無いのであれば、何か他の書籍をインターネットで注文する際の「ついで」で良いかもしれません。学生がある書籍をどうしても今日中に入手し、それを参考にレポートを書かなければならないのであれば、何店舗でも見つかるまで書店を廻らなければなりません。

このように考えると、チャネル展開の特性は低コストチャネルを選択する顧客の利益最大化要求に対して、競合する企業に対する相対的な低コスト性を訴求する必要があり、それは魅力そのものの付加というよりも、購買阻害要因の緩和にポイントがあると言えます。また一方でこのようなチャネル配備そのものは企業にとってのコスト要因にもなるため、顧客にとっての利便性と、企業にとってのコスト負担レベル、そして最終的な収益性の観点からチャネル展開が検討されなければなりません。

ご紹介してきたこれらの要素は、商品そのものによってもたらされる利益ではありませんが、購入にあたって消費者が意識する要素の幾つかであり、これらの要素は商品の「後ろ盾」となっていると言うことができます。

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