本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
セグメンテーション/ターゲティングの考え方
第1回:セグメンテーション/ターゲティングの考え方
概要
セグメンテーションは、顧客マーケティング及びビジネスのあらゆる側面において必要となる顧客理解のための基礎的な手法であり、この能力はそのまま長期的、短期的な市場適応能力を反映します。そして市場競争が激しくなる環境において、この能力は益々重要となることでしょう。またターゲティングは、実施するマーケティングキャンペーンの投資対効果を最大化するために最も重要な要素である、顧客の輪郭を描き出すために必要不可欠な能力です。
このコラムでは顧客理解のための礎となる、セグメンテーションとターゲティングの基礎的な考え方についてご紹介します。まず、セグメンテーションとターゲティングの違いについて触れ、次にセグメンテーションの単位、変数、属性といったセグメンテーションを形作る上で重要となる概念と手法についてご紹介します。そしてこれらのセグメンテーション手法をベースにした、ターゲティングの手法について併せてご紹介していくことによって、特定のキャンペーンにおいてもっとも合理的な顧客を選択していくためのプロセスと、顧客理解のために企業が保持可能なケイパビリティについて概観していきます。
第1回目の今回は、セグメンテーション及びターゲティングの考え方について触れていきます。
粒度コントロールのケイパビリティ
一般的なセグメンテーションとターゲティングの違いは、例えば“男女に区分し、男性に対して靴を販売する”とした場合の、男女の区分がセグメンテーションであり、男性が(靴の)ターゲットと表現されます。 例えば雑誌のようなメディアを用いてマーケティングを実施するとき、靴の広告ページは男性の足元を対象としたメッセージになるでしょう。この構造は、顧客マーケティング、つまり個人を識別し、必要とあらば特定の個人向けにオーダーメイド型のマーケティングを実施していく際にも適用されます。その個人の特徴を理解し、そこに合わせた商品を適用する、もしくはある特定のニーズを満たす商品がもっとも効くであろう顧客を識別する場合にもこれらは適用されることになります。セグメンテーションとターゲティングを写真に喩えるのであれば、セグメンテーションは写真の解像度、つまり粒の細かさを意味し、一方でターゲティングは対象へのピントを意味します。この現実世界を正確に切り取るためには、高い解像度を実現できるカメラと、ピントを合わせるカメラのフォーカス機能やカメラマンの力量の両方が必要になります。
しかしながら、現在の市場において起こっているコトを眺めてみると、マーケティングはあるべきセグメンテーションとターゲティングの粒度を失っている場合があるように見受けられます。マスマーケティングに過度に依存したマーケティング活動が、思ったような成果を挙げられないケースです。供給過剰、かつ情報過多の今日の世界において、消費者は十分な知識と、商品の選択肢を保持しています。供給過剰な市場とは、供給者が必要とする総需要数に匹敵する需要が存在しない状態を指し、特性として、需要の喚起が常にされ続けているために潜在需要は存在せず、市場そのものが拡大しないという傾向を持ちます。この拡大しない市場において競争原理が適切に働いている場合、供給者全ての生き残りが許されないため、その中で生き残り、あわよくば成長していくためには、何らかの差別化要素が必要となります。差別化要素は一般に商品やサービス / ブランド認知度、機能、価格等によってもたらされます。 この市場における複数のメジャープレイヤーがこのような差別化を実施していくとき、多大なマーケティング費用、多大な商品開発 / 実装費用、そしてこれらをまかないつつ市場における価格競争力を維持するための企業体力が必要となります。そしてこのスピードは加速化し、一方で競争は熾烈となり、その効果は低減していきます。メジャープレイヤー間での機能や価格の差別化行動は、当初のダイナミックなものから比較的微細な部分にフォーカスが当てられたものとなり、差異は小さなものとなっていきます。そして同時に競争の熾烈化は、商品 / ブランド認知や機能拡張、価格低減を追加的に実施した際の効果幅の減損をもたらすようになります。これはおそらくその市場において新たなパラダイムシフトが起こるまで続いていくことでしょうし、ポスト・パラダイムシフト環境下においても異なるステージで同じ競争を繰り広げるのみでしょう。また、もう一つの要素である情報過多は、消費者に十分な知識を与え、上述した価格や機能に対するセンシティビティを与えます。これによって消費者は当該商品に対しての必要性と不必要性、つまりニーズを明確過ぎるほどに理解し、選択においてより厳しい目をもつようになります。逆の見方をすれば、市場は臨界点まで需要喚起された状態を維持し続け、上述したニーズに対して新たに喚起され、覚醒する消費者が存在しない状態となります。消費者は追加的なマーケティングメッセージ に対して麻痺していくようになり、Same old story となったマーケティングメッセージに新たな関心を抱くことが少なくなってくるのです。
もちろん、上述したような構造の中でも圧倒的な差別化を図ることが出来れば生き残り、成長を謳歌することも可能でしょう。認知度や価格、機能等において卓越性を誇示することができれば、それはマスチャネルのみならず、店頭やオンライン比較サイトのような全てのレイヤーにおいて強みを発揮し、思い通りの成果を挙げることが可能となります。また、消費者の検討リストに載るという意味においてマスマーケティングが重要な位置付けを担うことも変わりありません。おそらく一定ボリュームのマスマーケティングなくして消費者の商品認知を得ることは困難なはずです。しかしながらそれが決定的な差別化要素ではないことも考慮に入れなければなりません。検討リストに載ることと、最終的に選択されることは全く別のことです。一方、上述したような構造の中で、マーケティング経費や商品開発 / 実装費、価格リーダーシップといった量的で体力に依存した戦略とは異なる手法を用いて期待する成果を遂げる場合、セグメンテーションとターゲティングの粒度をコントロールすることが有効な手法となりえます。これは単純に粒度を細かくするということを意味しません。自らの商品がもっとも差別化できる市場がどこか、そしてどのレベルに市場を細分化すれば自らの優位性を最もアピールできるかを認識し、その細分化した市場に自らの商品をポジショニングすることによって期待する成果を得ることが目的です。従って必要に応じてマスマーケティングも、より粒度の細かいパーソナライズされたマーケティング手法も、ときにはその両方も採用されなければなりません。重要な点は商品やサービスを競合他社との関係において、もっとも優位性を発揮できるレベルに粒度コントロールできる能力を持つことであり、その企業におけるマーケティング上のケイパビリティは粒度のコントロール幅と最適な粒度の選択能力に大きく依存するということです。
セグメンテーションとターゲティングの違い
以上のような前提条件を踏まえ、現在のテクノロジーにおいて利用可能なセグメンテーションとターゲティングの手法、そしてその粒度について触れていきますが、その前に、セグメンテーションとターゲティングの違いについて整理しておきます。上述したようにセグメンテーションとは細分化であり、ターゲティングとは細分化したどの部分にフォーカスを当てるべきかということです。図1 にその違いを対比させて表現しています。
セグメンテーションはある変数が同じもしくは似ているという状態に基づいて、顧客をグルーピングする、もしくは分類する手法です。これはマーケティングのみならず、様々な分野に適用できます。またこれを利用してセグメント間の違いや力関係を理解することも可能です。もちろんマーケティングに活用することがもっとも大きな利用用途であることは言わずもがなですが、その目的はあくまでも汎用的なものです。このセグメンテーションによって大きな利益を得るのはマーケティング部門だけでなく、事業戦略や商品企画/開発の部門等も挙げられるでしょう。例えば小売業であればセグメンテーションを店頭の品揃えや売り場作りに役立てることが出来るはずです。これに対してターゲティングは、対象となる顧客を選択する手法です。目的はある特定のキャンペーンに対して利益を最大化させることが可能な顧客を導き出すことにあります。この両者の関係ですが、ターゲティングを行っていく際にセグメンテーションは非常に重要です。これが無ければ対象となる顧客を選別するための基準が無いため、ターゲティングは不可能に近くなります。前項で記述した"粒度のコントロール幅"とはセグメンテーションを意味し、一方で"最適な粒度の選択能力"とはターゲティングを意味します。従って、ターゲティングはセグメンテーションに大きく依存していますが、セグメンテーションはターゲティングから基本的に独立した存在であり、企業がビジネスを遂行する上でモニタリングするべき対象であるということが言えます。顧客の嗜好性に添った形でビジネスを遂行するのであれば、このセグメンテーションの変化に基づいて事業ドメインや商品開発のベクトルを設定する、または必要に応じて事業ドメインの修正、拡大、縮小を行うことになるでしょう。
ちなみにターゲティングにはターゲット顧客層にとって最適な商品を選択するというプロセスと、自社が保持する商品にもっともアピールするセグメントをターゲットとして選択するというプロセスがあります。いずれの場合にも商品と顧客がマッチしていなければ正しいターゲティングとは呼べません。よく言われる対比論で、プロダクトアウトとマーケットインの比較が議論され、往々にして今日の議論ではマーケットインこそが正義であるかのように語られますが、顧客が必要とするものを提供するために、自社の事業ドメインやそこから導き出された商品を逸脱することは、無用なコストと無用なリスクを自社にもたらすことにつながります。また一般論で展開されるように、顧客が無視された形での商品展開が必要な成果をもたらさないこともまた事実です。重要なことは商品からのアプローチであれ、顧客からのアプローチであれ、それぞれがお互いにマッチすることが重要なのであり、ビジネスの結実を意味する取引には必ず商品と顧客の両方が必要なのです。
一方でセグメンテーションとターゲティングにおいて利用されるテクニックについては、重複または同様のテクニックに依存しています。これがこの 2つの重要な違いをもつ概念が同一視されがちな理由でもあります。いずれもテクニックとしてみた際には顧客A と顧客B の違いを発見し、それぞれを別のグループに選り分ける手法です。これがセグメンテーションの場合にはセグメントA とセグメントB という 2つのグループとなりますが、ターゲティングの場合はキャンペーンの対象顧客リストか、否かという判断の違いになるだけです。次回以降においては便宜的にセグメンテーションで重要になる手法と、ターゲティングにおいて重要となる手法に分けてご紹介していきますが、それぞれのテクニックは両方で利用可能である部分が多いことを念頭においてください。