この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
顧客分析の手順
第18回: クロスセル機会と対象顧客の発見
クロスセグメント分析を利用した分析例の 2回目、今回は「優良顧客の育成」をテーマとした分析例をご紹介します。顧客からの支出を増加する際のアプローチとして、今まで購入いただいている商品/サービスとは異なる商品を購入いただく「クロスセル」というアプローチがあります。これを検討するための分析例をご紹介します。
分析の前提
クロスセグメント分析は、縦軸と横軸の両方に複数のセグメントを配置しますが、この際のセグメントは、互いに重複していても構いません。分析の対象となるのは縦と横のセグメントで、これらが互いに重複していることは当然として、横と横、縦と縦のセグメントに関しても重複していることが可能です。図27 をご覧ください。横軸は互いに重複無しのセグメント配置ですが、縦軸はそれぞれが重複しています。たとえば定期預金の残高が 500万円以上の会社員も、自営業もいらっしゃることでしょう。これらの重複がこの分析では許容されています。
この分析例は、図27 でご覧になれるとおり、金融機関を想定したデータ、分析例を用意しています。考え方として、横軸にクロスセルとそのベースとなる商品購入顧客をセグメントとして配置し、縦軸に対して、購入と関係のありそうな顧客属性の候補をそれぞれセグメントとして配置しています。以下にそれぞれを整理します。
対象セグメント:
・ 地域A に居住する顧客。この条件は以下の縦軸セグメント/横軸セグメントの上位条件として作用する。
横軸セグメント:
・ [総合口座のみ] 総合口座を保有しているが、住宅ローンを契約していない顧客
・ [総合口座+住宅ローン] 総合口座と住宅ローンの両方を契約している顧客
・ [住宅ローンのみ] 住宅ローンを契約しているが、総合口座は保有していない顧客
縦軸セグメント:
・ [定期預金残高 > 500万円以上] 定期預金の残高額が 500万円より高い顧客
・ [会社員] 職業欄の記入が会社員、会社勤めの顧客
・ [自営業] 職業欄の記入が自営業、自営業を営んでいる顧客
・ [ローン(住宅ローン以外)商品契約中] 学資ローン、自動車ローン等のローン商品を契約している顧客、ただし住宅ローンは含まない
・ [投資商品契約中] 投資信託や国債等の商品を契約している顧客
このような各セグメントに対して、縦軸と横軸で両条件に合致する顧客群をマトリックス表示させています。そして表示させる指標として顧客数と顧客数構成比(対象セグメントを分母)を表示させています。また、各セグメントの単独条件に合致する顧客数と顧客数構成比に関しては、各セグメント名称の隣(縦軸セグメント)、真下(横軸セグメント)に表示しています(紺色部分)。
(母集団と合計の顧客数は同じ値とはなりません。理由は、地域A居住の顧客でも総合口座、住宅ローン以外の商品を契約している顧客がいるためです。)
顧客セグメント毎の傾向
ここで最終的に期待する結果としては、総合口座を保有している顧客群から、住宅ローンを案内する候補としての顧客群を理解することとします。例えば、持家区分が「賃貸」の顧客を対象にして案内するのが適切と想定できますが、ここではそれに追加する絞込条件として適切な条件を探していきます。もちろん、[会社員]や[投資商品契約中]といったセグメントレベルで案内するのではなく、最終的な選定条件は様々に検討して住宅ローンを案内しなければなりませんが、ここでは、その条件を構築するための要素属性を拾い上げるため、以下の点を整理することにします。
・ そもそもの母集団が大きい層
・ 総合口座+住宅ローンの割合が高い層
データを見ていくと、当該地域においては会社員が半数以上を占めています。また、住宅ローンと総合口座両方保有している割合は、定期預金が 500万円以上の顧客、そして会社員で相対的に高く、ともに 3.3%となっています。従って、まずは会社員で定期預金が 500万円以上の顧客を対象とする、もしくはこの顧客群向けにキャンペーンの案内メッセージを考えるのが最初の方向性といえます。
また、3.3%に相当する 20万名の会社員は既に住宅ローンを契約済みです。この顧客群が契約をした年齢、その時の年収、預金残高等が把握できれば、会社員、定期預金残高に加えた対象顧客の条件として活用できそうです。
アプローチの方向性
このような分析によって、アプローチしたい商品やサービスに対して、支持を与えてくれている顧客群はどのような顧客群で、どの程度のボリューム存在しているのかを理解することが可能となります。これによって対象顧客の絞込み条件を適切に設定することが可能となりますし、案内メッセージを対象顧客(今回の例であれば会社員)にとってより魅力的なものとすることが可能となります。今回は金融商品と、図27 に示したようなセグメント条件で実施しましたが、他の様々な商品やサービス、そして他の様々なセグメントにも適用できる分析です。