この本書は2017年4月1日にTradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
競合する商品、惹き合う商品
1. 他商品との相対的な関係-競合
購入商品に対して影響を与える商品、その最たる例が競合商品です。前回までで整理してきたように、商品の目的レベルで競合する商品(アイスクリームと、ワンサイズ小さいスカート)や、便益レベルで競合する商品(アイスクリームとケーキ)、そして作用もしくは事実レベルで競合する商品(A社のアイスクリームと B社のアイスクリーム)が存在します。
そしてこれは、背後に存在する企業間の関係においても同様のことが言えます。先進国に特有の現象として、様々なビジネス活動が発達し、あらゆる市場において競争関係が起こり、誰もフォーカスしていない、手付かずの市場を発見することは困難になっています。現代の企業、特に市場においてメジャープレイヤーとしての役割を発揮できる規模の企業にとって、競争とは未開の地を開拓していくような類の競争ではなく、既に開墾された、ある一定面積を持つ土地の中で、畑を耕しながら陣取り合戦をするようなものなのかもしれません。競争関係にある企業は自社の一挙一動をモニタリングしており、自社もそれは同じです。まさに抜き差しならぬ状態。
そのような中で差別化を行うとき、差別化のポイントは常に変わり続けるものです。理由の 1つは複数の競争関係にある企業間で行われる、自社の弱みを打ち消しあう行動にあります。ある 1社が価格訴求をすれば、もう 1社は同等の価格展開を行い、ある 1社が新たなサービスを展開すれば、もう 1社は追随します。そして理由のもう 1つは自社の強みを活かそうとする行動にあります。市場におけるプレイヤーが同一のポイントを巡って競争し続けているとき、ある 1社は違いを打ち出し、目立つことによってそこから抜け出そうとします。
このようなお互いの行動に対する投影と反射は、差別化ポイントをめまぐるしく変えていきます。価格が差別化のポイントであったのが、ある特定の品質や機能に変わり、品質や機能の向上に限界が見えれば、インセンティブの提供を以って差別化しようとします。インセンティブ競争が行き過ぎて効果がなくなれば、再び低価格路線に走るプレイヤーも出てきます。残念なお知らせですが、このような輪廻とバトンリレーは永遠に続き、その差別化ポイントがなんであれ安全圏内へと到達することは出来ないのです。
変動する競争環境下において、常に頭1つ抜け出し、顧客に対して魅力をアピールし続けていくためには、目的、便益、作用、事実の各レベルにおける差別化ポイントを理解し、そのポイントを訴求すること、もしくはそのポイントが最も映える市場(=時と場合=ケース)にアピールすることが必要です。従ってこのような商品に対して実施すべきは、同等のポイントと差別化できるポイントを整理し、差別化ポイントにおける商品の目的、便益、作用、事実を継続的に分析し、それらが変動する市場環境においてどのように映るのかを理解することです。また企業レベルでの競争関係、もしくは商品改廃を伴う場合の競争関係を改善していく際には、自社の経営資源、そしてコアコンピテンシーとの兼ね合いを考慮しながらこれを実施していく必要があります。
2. 他商品との相対的な関係-主従
あるテレビゲーム機とそれに対応するゲームソフト、あるプリンターとそれに対応するプリンタトナー、ある携帯電話サービスと追加で提供される携帯メールサービス、ある生損保商品に対するオプション特約…このように、商品と商品の間には主従関係が存在することがあります。ここで主商品に従属している商品は、主商品の存在に大きく影響を受けることになります。
このような商品間関係を考えるとき、最初に認識するべき点はその主従関係の強さです。例えば保険商品のオプション特約は、主契約があって初めて契約可能であり、最も強い主従関係にあると言えます。これは主商品が、無形財に類するものであり、サービスとして有事に提供されなければならない性質のものであるため、最も強い主従関係として契約条件が規定されます。一方テレビゲーム機に対するゲームソフトは、プラットフォームとしてのゲーム機が無ければゲームソフトを作動させることができないという意味において強い主従関係にありますが、売買契約の前提条件ではありません。これは物販であり、比較的安価な価格帯の商品であることも影響していると思いますが、顧客が互換性のあるゲーム機を既に保有していることを暗黙の前提として販売しており、顧客はゲームソフトだけを購入することも可能です。このような状態にあるとき、従属状態にある商品の市場は、主商品を既に購入している顧客に限られることになります。従って、主商品が販売されるチャネルやコンタクトポイント、そしてこれら主商品を購入した顧客群が、このような従属商品販売の好機であり、対象市場です。
一方、従属商品が主商品にもたらす影響も存在します。テレビゲーム機を購入する際に顧客が検討する要素の 1つとして、「どのようなゲームソフトが動作するのか」という点が考慮されることでしょう。本来テレビゲーム機はそれだけで意味があるものではなく、ゲームソフトがあって顧客はそのエクスペリエンスを得ることが可能です。この意味において、ゲーム機の販売を拡大するためには、多様なゲームソフトのバリエーションを用意する、もしくはキラーソフト(一時期のマリオブラザーズのような、ゲーム機そのものの需要をも牽引可能な商品)を用意することが必要になります。
保険商品においてこのような相互依存関係は存在せず、主契約のみでも購入意義を見出すことは可能です。しかしながら、追加可能なオプションの種類が他社に対する優位性となることも考えられ、この意味では購買を決定付けるのはオプションであるということもできます。この場合、これらの商品群を単一の商品として位置づけ、その中で、差別化要素として利用可能な、属性の一つひとつと捉えることも考えるべきです。
3. 他商品との相対的な関係-相性
主従関係よりも緩やかな商品間の関係も存在します。例えばコーヒーと砂糖、チーズとワインのような商品の間には、それぞれ独立した商品であると共に、生活においてよく散見される組み合わせとして見て取ることができます。一方で緩やかさは、他の商品との関係も許容しています。コーヒーと煙草、コーヒーとミルク、コーヒーとケーキ…いくつかの望ましい組み合わせが存在します。鮮やかなスカイブルーのドレスシャツにジャケットをコーディネイトするなら、黒、白、グレーといった抑えたトーンが好まれることでしょう。これは人によって、そして同じ人間でもケースによって異なるものであり、厳格な関係が存在するものではありません。
このような緩やかな関係を当たり前に見て取れるのが、カテゴリーやブランドで括られた商品群です。どこまでを 1つのカテゴリーとして括るかはそのときどきによって異なるかもしれませんが、「マイホーム」という意味において住宅ローンと住宅警備のセキュリティサービス、DIY商品は同じカテゴリーに含まれ、我が家を住み心地良いものにするパズルの一つひとつです。そして DIY の中でも庭いじりや園芸に関する商品は同一カテゴリーに含まれ、自宅の庭を美しく保つパズルの一つひとつを構成します。
相性の良い関係にある商品は、お互いがその目的を想起させやすいという意味において、近しい販売チャネルやコンタクトポイントを共有することによって相乗効果を得やすく、また現実にそのような傾向にあります。小売店においてもこのような相性は考慮され、巧みに陳列に用いられています。また Webサイト上のバナー広告においても、これらの相性は考慮されています。ポータルサイトに用意されている英和-和英辞書サービスのスペースには、英会話学校や英語教材の広告が表示されますが、これは顧客の想起を促しやすくすると同時に、対象となる顧客層が集まりやすい場所を考慮した例の典型です。
4. 同一商品間の関係
ここまでで述べてきたのは異なる商品間での関係ですが、同一商品が複数存在するときの関係も補足しておきます。例えば小売店の陳列棚に、フェースを多く用意している商品と、少なく用意している商品では、消費者の見え方にどのような違いが見られるでしょうか。また、棚に充分な在庫が置かれている商品と、少ししか残っていない商品を見た場合、消費者はどのようにこの背景を類推するでしょうか。マーチャンダイジング効率という観点からは、売れる商品は在庫を多めにしてフェースを広げ、売れない商品は在庫を少なめしてフェースを絞るというのが鉄則であり、また欠品してしまいそうな状態が好ましくないことは明らかです。しかしながらマーケティングの観点からは、別な心理状態が働くことも考慮に入れなければなりません。
ある商品が社会一般に流通しているという事実は、一定のポピュラリティを得ているという知見を消費者に示します。もし複数商品間での差別化要素や違いが微細であったり、判断の難しいものであったりする場合、その違いを分析して、自らの判断で購入商品を選択することは非常にコストがかかるものです。その際、人間は模倣的な購入によってこのコスト投入を回避しようとします。「売れているということは、良い商品なのだろう」という結論は、自分以外のたくさんの人間による判断を妥当なものであるとして購入するということです。
同様のことは小売店以外でも起こります。バイラルマーケティングが持つ強さは、たくさんの人間による判断を妥当なものとするのではなく、自分が信頼している人間の判断を妥当なものであると認識する、または自分と類似性を持つ人間の判断を妥当なものであると認識することに起因しています。
反対に棚に少ししか商品が残っていない場合、売れ行きの良い商品であると認識するかもしれません。これは前述したポピュラリティの証明であると同時に、希少性を訴えかけることになります。同一商品が限られた数量しか存在せず、社会全体における需要よりはるかに少ない供給量しか出回らないとき、商品確保の欲求は高まることになります。もちろん全く必要の無い商品であれば、その商品が希少であろうが、余剰であろうが知ったことではありません。しかしわずかでも必要性を感じる商品である場合、また希少性の高い商品そのものを保有することによる公的/私的満足や、オークションサイト等での換金可能性を認識した場合、希少性はその商品の魅力を高め、購買訴求力を強くすることになります。これは物財に限らず、時限性の高い商品にも同様のことが言えます。ローリングストーンズのコンサートチケット、センターコートで行なわれるウィンブルドン決勝戦のチケット、xx名様限定のホテル宿泊プラン等は、時間消費型でかつ一過性の商品であり、加えてハコのキャパシティによっても希少性の磨きがかけられています。このように、同じ商品でもその供給量が異なれば価値が変わるということも、考慮するべきテーマの 1つです。