この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
「意思決定の自動化」と「リアルタイム・オファリング」
第10回: シナリオ#2 [小売店舗来店顧客へのオファー]
リアルタイム・オファリングのシナリオ 2つ目。今回は小売店舗、それもスーパーマーケットでのオファー案内を考えていきます。POS端末とキオスク端末の両方を用いた、割引クーポンのオファーを実施します。
事前の分析
最初に、顧客を嗜好性に基づいて分類をするため、クラスター分析を施しました。投入する変数としては各商品の購入数量を利用して分類し、以下 4つの分類を導き出しました(いずれにも属さない顧客も存在、セグメント間での顧客重複は無し)。
1.セグメントA:食材志向(素材商品関連の売上が多い)
2.セグメントB:インスタント/レディメイド志向(調理済み商品、半加工商品の売上が多い)
3.セグメントC:純和食志向(和食商品の売上が多い)
4.セグメントD:健康志向(オーガニック、健康食品の売上が多い)
そして、それぞれのセグメントに属する顧客群ごとに分析を実施し、支持率が特徴的に高い商品群を導き出しました。例えばセグメントD:健康志向に所属する顧客群に関しては、以下のような商品が上位にリストアップされました。
ここで購買率は、該当する顧客が発生させたバスケットの数を分母に、縦軸に指定した商品が含まれるバスケットの数を分子に置いて計算した結果です。これを全顧客における購買率と、セグメントD に関する購買率で表示しています。またリフト値は[購買率(セグメントD]/[購買率(全顧客)]にて計算しています。リフト値が 1 であれば、セグメントD の購買率と全顧客の購買率が等しいことを意味し、リフト値が 1 より大きければ、セグメントD に特徴的な商品の購入であることを意味します。リフト値の大小を見ることによって、当該セグメントに特徴的な購買を炙りだしています。この分析を各セグメントA-D に対して施し、後述する POS端末上でのオファーに活用することにします。
さらに別の分析として、セグメントごとにアソシエーション分析を実施します。この分析を実施する前提として、アンカーアイテムを定義することにします。アンカーアイテムは、顧客がそのお店に定期的に来店する目的になっている商品です。ここでは、各セグメントにおける購入回数の高い商品として定義します。図23 で購買率を算出していますが、これを顧客ごとに算出し、最も高い指標を得た商品と同義です。一方でアソシエーション分析を実施することによって、アンカーアイテムと関連性の高い商品を導きだします。
例えばアンカーアイテムがパスタであったとします。図24 にて示す通り、パスタを対象商品、アンチョビを関連商品とした場合、購買率として示している 0.20%はバスケット 1個あたりにアンチョビが含まれている確率です。これに対して併買率は、パスタが含まれているバスケットにアンチョビが含まれている確率(同時発生確率)を意味しており、これが 0.80% であるということは、パスタがバスケットに含まれている場合に、アンチョビが購入される確率が 4倍跳ね上がることを意味しています。この 4倍を意味している(0.80% / 0.20%)のがリフト値です。この結果を後述するキオスク端末上でのオファーとして利用することにします。
続いて、図23 における購買率(セグメントD)とリフト値の関係、そして図24 における併買率とリフト値の関係について考察します。購買率は言い換えれば支持率であり、この値が高い場合、単純に良く買われている商品であることを意味します。併買率に関しても、特定の対象商品と一緒に買われる確率の高い商品であることを意味します。セグメントD における購買率、そして併買率ともに、ある特定条件に絞り込む(特定セグメントに条件を絞り込む、特定商品購入時に条件を絞り込む)ことによって得られる確率値の変化を捉えたものあり、リフト値はその跳ね上がり度合いを数値化したもので す。ここで問題となるのは、セグメントD における購買率および併買率を意思決定指標として採用すべきか、それともリフト値を採用すべきかという点です。前者を採用した場合のリスクとして、一般的な売れ筋商品(スーパーマーケットであれば牛乳、卵等があてはまるでしょうか)は当然のごとく高い指標値を有します。これに対して後者、リフト値を採用した場合にもリスクが存在します。元々購入頻度が低い商品が偶然に購入された場合、一緒のバスケットに含まれていた商品に対するリフト値を押し上げることになります。これらを考慮し、ここでは、一定以下の購買率/併買率を有する商品を足切りし、その上でリフト値が高い順にオファー候補商品として案内することにします。
(ご紹介しているデータは架空のデータです。当然ながら、実際に同様の分析結果が導き出されるとは限りません。実データに基づいて分析を行ってセグメンテーションを実施し、特徴的な購入商品を捉え、オファーに活用する必要があります。)
インターフェース・デザイン
POS端末上での配備
POS端末上では取引精算終了後、レシート発行直後に続けて割引クーポンを発行します。すべての顧客ではなく、前述したセグメントのいずれかに該当する顧客に対してのみ実行することとし、また割引幅に関しては顧客の重要度に応じて案内することにします。また、案内商品に関しては前述した分析結果に基づいて決定します。割引クーポンのイメージは以下のような形式です。バリアブルとなっているのは該当商品メッセージ部分、割引率部分、そしてその取引をハンドリングするためのバーコード印刷部分です。顧客がこの割引クーポンを次回来店時に持参し、該当商品を購入すれば、この割引を適用できるようにします。目的は再来店であるため、今回購入した商品の割引クーポンが発行されてしまい「もう買っちゃった商品の割引クーポンなんて...」と思われないようにする必要があります。ただし、リピート性の高い商品に関してはこの限りではありません。これに関しては追って考察します。
キオスク端末上での配備
キオスク端末上では、来店時におすすめ商品として案内し、これに対して割引クーポンを発行できるようにします。割引クーポンの形式は POS端末から発行される形式と同様のものであるとして割愛します。タッチパネルの画面操作を前提とした場合、以下図26 のような画面表示を想定できます。
スクロールによって膨大な商品を案内させることは可能ですが、あまりに長い時間端末の前で操作させるわけにもいきません。ここではいちどきに 4商品を案内。スクロールによって 5ページ表示させ、合計 20商品分の案内枠を用意することにします。ここで案内される商品は各顧客の所属セグメントと、前述した分析結果に基づいて案内されます。たとえば顧客A と B 共にアンカー商品がパスタであったとします。しかしながら顧客AがセグメントA(食材志向)、顧客B がセグメントB(インスタント/レディメイド志向)に属していたならば、顧客A に対してはオリーブオイル、顧客B に対してはレトルトミートソースが案内されるといった具合です。表示された商品のバナー広告をクリックすると、割引クーポンが発行されます(クーポン内容は POS端末発行のものと同形式と仮定)。
ルール
ここまでで基本的な分析、そしてチャネル上で展開するオファーとそのプッシュデザインを整理しました。これを日常的に廻していくとなると、もう少し工夫が必要になります。このままでは同じ商品がいつも案内されることにもなりかねないからです。まず、前述した分析は一定サイクルで実施しなおし、オファー案内するべき商品をリフレッシュする必要があります。また、POS端末、キオスク端末問わず、クーポンが発行された商品に関しては一旦案内候補商品から落とす必要があります。加えて POS端末上では、そのときに購買された商品に関する割引クーポンを案内しないよう制御する必要もあります。一方で高頻度に購入されるリピート商品に関しては比較的高頻度で案内してもよいかもしれません。ここでは図23 におけるセグメントごとの購買率を進化させた形で、顧客-商品ごとの購買率を算出し、これを利用する形でのロジックを考えます。まず、購買率が 0.5 であるとした場合、2回の来店購入で 1回は購入される商品であることを意味します。購買率が 0.1 であれば、10回に 1回です。すなわち、前者の場合は 1回休み、後者の場合は 9回休みで、休みの後はまたオファー案内しても自然であるということができます。これを数式化すると、[休みカウント = (1/購買率) - 1]となります(正確には端数処理が必要ですが割愛します)。このロジックを分析結果として得られた候補商品にかぶせて、得られた値(=休みカウント)分だけ案内候補商品から落とすことによって、顧客の購入サイクルに合わせたオファー案内が実現します。
このロジックをすり抜けた商品で、なおかつリフト値が高い商品は、POS端末上の案内オファー、もしくはキオスク端末上の案内オファーとして生き残ります。POS端末上の場合はセグメントリフトに応じたトップ1の商品、キオスク端末上の場合は併買率リフトに応じたトップ20 の商品です。ただし、トップ20 の表示順はリフト値の高い順番に表示されます。
上記の図27、図28 はここまでのルール展開を整理したチャートです。ブルー部分は両チャネル共通で実施される処理であり、オレンジ部分はリアルタイムで展開される処理を意味します。違いとして、POS端末向けでは購買率+リフト値を計算しているのに対して、キオスク端末向けには併買率+リフト値を計算しています。また、キオスク端末用には顧客ごとにアンカーアイテムを計算/定義していますが、併買率の計算は顧客を対象としていません。併買率の計算にはセグメント全体を対象として実施することによってセグメントの特性を考慮すると共に、顧客の既購入商品内での縮小均衡(既に購入した商品の中からしかオファー商品が選択されない危険性)を回避しています。
評価
最後に評価方法に関して検討します。POS端末から割引クーポンを案内する場合、顧客は既に精算を済ませてしまっているため、当該クーポンは次回の再来店を促すものです。このため、顧客来店頻度が維持、向上されたかが重要な評価ポイントとなります。これに対してキオスク端末からの割引クーポンは、今からなされるお買物に対してプロモーション上の影響を与えるために利用されます。従ってこの案内に対する評価ポイントは、来店買上時のバスケットの大きさ、つまり 1回あたりの買上点数を増加させているかがポイントとなります。
また、このオファー案内を継続的に進めていくうちに、様々なことが分かってくるはずです。顧客の観点で考えれば、割引クーポンを利用しない顧客も存在するかもしれません。このような顧客に関しては特に案内を実施する必要はありませんが、来店喚起をするためには別の方法を考える必要があります。同様に商品の観点で考えた場合にも、案内してもクーポン利用してもらえない商品が存在するかもしれません。このような商品に関しても案内候補から除外する必要が出てきます。顧客ごとの割引クーポン案内回数とそれに対するクーポン利用回数、商品ごとの割引クーポン案内回数とそれに対するクーポン利用回数を捉えることによって、オファー反応度の差異を把握し、改善を進めることが可能となります。また、より緻密に実施するのであれば、何度か案内しても利用されなかった顧客-商品の組み合わせをオファー候補から除外することもアイデアの一つです。
そして長期的に見た場合には、前述した分析結果として得られているルールに関する調整も必要です。現在定義しているセグメントは市場動向を的確に捉えているか、リフト値よりも購買率や併買率で順位付けしたほうが好ましくないか、適切な候補商品の足きり条件はどこになるか等々、時には試行錯誤とそれによる効果を見定めながら、オファー候補商品の生成ロジックを改善していく必要があります。
その他の検討アイデア
ご紹介してきたようなシナリオは、スーパーマーケットに限らず、物販一般に活用できるアイデアです。また、1回の来店で取引が複数発生するような業態(百貨店やショッピングセンター等)においては、最初の取引から、次の取引までの間をリアルタイム・オファリング適用の機会、つまり「真実の瞬間」と捉えることも可能です。今はほとんどの人が携帯電話を持つ時代であり、携帯電話へのメッセージ案内ができるのであれば、1回目の取引発生で得られた知識を即座に活用することも考えられます。例えば顧客が「ネイビーのジャケットを購入する」事態を想定します。アソシエーション分析を事前に施し、これに対して同時購入する可能性が高い商品として「丸首のインナー」、「ネックレス」、「スカーフ」がリストアップされていたとします(併買率の高い順)。これを見た担当の方は、それぞれおすすめ商品(どこのブランドのどのアイテム)に落とし込み、3つのメールコンテンツ枠に流し込むメッセージを事前準備しておきます。そして一旦顧客が「ネイビーのジャケットを購入した」ら、このメッセージ群をおすすめ商品として携帯電話の端末にメール案内します。当然ながら想定される幾つかの商品に対してこれを決定しておき、購入された商品に応じておすすめ商品は可変させます。同じロジックを発展させれば、1回目の購入商品が「ブラウンのバッグ」、2回目の購入商品が「ベージュのスカート」という複数条件が発生した場合の提案候補も絞り込めます。
直近で購入された商品を「検索ワード」、それに対する案内商品を「表示サイトへのリンク」と捉えれば、サーチ・エンジン・マーケティングと同様の考え方ですので、おすすめ商品として案内する広告枠は入店する各ブランド・ショップに入札させても良いかもしれません。
次回は Webサイト来訪顧客に対するオファーシナリオを検討します。