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キャンペノミクス: キャンペーン管理の経済学 第6回 システム投資の適用によるROI試算

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この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
掲載内容の正確性・完全性・信頼性・最新性を保証するものではございません。
また、修正が必要な箇所や、ご要望についてはコメントをよろしくお願いします。

著者 山本 泰史 (やまもと やすし)

キャンペノミクス: キャンペーン管理の経済学

第6回: システム投資の適用による ROI試算

想定獲得利益額は、必要な投資をテコにして導かれるものです。ここでいう投資とは、追加的もしくは入替的に導入されるキャンペーン管理システムや分析システム、顧客データベースといったコンピューターハードウェア、ソフトウェアだけでなく、導入や開発、コンサルティングに伴う費用、保守サポート費用等が含まれます。ここではそれら費用と、効果の関係を ROI: Return On Investment (投下資本収益率、投資対効果、費用対効果)として算出します。

費用対効果の把握

図4 では、投資費用と利益に関する試算表です。横軸には改善前の現状値、そして改善後の 3年間の値、そして 3年間の合計値を置いています。

image.png

費用に関する変化

初期費用: 主にハードウェアやソフトウェアといった物品購入にまつわる費用を置きます。

運用費用: 保守サポート費用やコンサルティング費用等、継続的に発生する費用を置きます。例えば現行のシステムが存在し、刷新に伴ってこの費用がなくなるのであれば、純粋な費用増として発生する部分を特定するため、現状の運用費用を把握する必要があります。

費用合計: [初期費用]+[運用費用]にて算出されます。

費用差額: 改善後の[費用合計]から改善前の[運用費用]を差し引きます。理由は仮に改善措置を施さない場合にもこの費用は発生するため、この費用は現状の効果を維持するための費用としてカウントアウトしなければならないためです。

利益差額に関する変化と最終的な経済効果

利益差額: 図2(反応率とキャンペーン数改善に基づく経済効果)もしくは図3(顧客数と顧客単価改善に基づく経済効果)にて導かれた[利益差額]をそのまま代入します。

純利益額: [利益差額]-[費用差額]で算出します。創出した利益から、発生費用を差し引き、純粋な儲け部分を特定します。

ROI%: [純利益額] / [費用差額]で算出します。1円投資して 2円が帰って来たら、そのうちの 1円が回収された後の残りということになりますので、1/1=100% の ROI となります。

また図4 を見ると、投資した費用は 2年目のどこかで回収できていることが分かります。したがって大まかな投資回収までの期間は 2年と言えます。投資回収期間は、ROI が 0% となるまでの期間的な長さを意味する指標で、上記の ROI同様 1円の投資をしたと考えた場合、帰ってきた金額の累計が 2年目のどこかで 1円になったことを意味します。

より正確な投資対効果把握をする場合

より正確に投資対効果を求める場合には、以下の 2点、割引率と減価償却を考慮する必要があります。詳しくは割愛しますが、いずれも財務上の観点から投資対効果を考える際に必要な方法ですので、簡単に触れておきます。例えばマーケティング部門の方がこれを試算することは本稿では想定していませんが、実際に財務部門が投資判断として考える場合には、このような調整が加えられるため、概要のみ記述します。あくまでもベースとなるのは、ここまでの手順で、費用と効果を洗い出すことです。それらを踏まえて以降の方法や考え方が適用されます。

割引率: 仮に「50円投資」して、「1年目に 50円回収」することと「2年目に 50円回収」することではその価値が異なります。単純な話、50円投資する際には、どこかから 50円を調達しなければなりません。例えば銀行から 50円借りる場合、いつか利子をつけて返却する必要があります。複利計算で考えれば、回収までの期間長ければ長いほど、利子額は増加しますし、そうなった場合に回収すべき投資額も変化していくことになります。したがって同額投資であれば回収までの期間が短ければ短いほど、投資案件としては有利であり、長ければ長いほど、その金額価値を割引いて考える必要が出てきます。

これを考えるための指標が割引率であり、この割引率として代表的に利用される指標が WACC (Weighted Average Cost of Capital: 資本コスト)です。これはいわば利率に相当するものであり、企業が資本を調達する際のコストを意味します。そしてこの割引率を適用して、将来得られる金額を現在の価値に換算しなおしたのが NPV(Net Present Value: 割引現在価値)であり、この割引現在価値をベースに投資対効果を算出したものが IRR(Internal Rate of Return: 内部収益率)です。財務上の観点からより正確に試算する場合には、利益効果に対してこれらの計算を適用しなおします。正味現在価値の計算方法はこちらを参照下さい。

資産と減価償却: 例えばコンピューターのような資産を購入した場合、これらは資産として計上されるため、正確には支払いが発生したタイミングに一括で計算されません。この場合償却率を掛け合わせた金額を毎年計上することになります。例えば 100円のコンピューターを購入し、5年 36.9% の償却率を適用したとする場合、1年目には 36.9円を費用として計上し、2年目は(100-36.9)*(0.369)=約23.3円を計上します。これをさらに 3年間続けます。このような方法が、定率法と呼ばれる償却方法であり、これ以外の代表的な方法としては定額法があります。定額法の場合には例えば 5年 20% という償却率を適用し、100円の投資に対して 20円ずつ償却/計上していく方法です。

この考え方は、取得した資産の価値が利用や時間経過に伴って目減りするという考え方に則っています。また、100円の投資をしたけれど、資産として自社は 100円の価値があるものを取得したため、支払った 100円と投資物品の 2つは等価であり、バランスシート上は同額の資産で、資産内容が現金からコンピューターになったのみという考え方です。一方でキャッシュフローという観点から見た場合、購入に対して支払いがなされ、実際にお金が出て行くのは変わりません。そのため、投資対効果を直感的に理解するためには、初期費用として考えて差し支えありません。

自信を持って行動に移すために

ここまでで、キャンペーン管理に伴う経済効果の試算モデル、それを利用した算出方法、例について説明をしてきました。現状の数値や、投資金額に関しては固い数値を置くことはできると思いますが、想定で置かなければならない改善指標に関しては、確度という面で難しい部分があるかと思います。残念ながら、未来を正確に予測することは出来ません。よって完成した費用対効果試算表も、不確実性を内包したものです。社会与件など、予期できない様々な理由で変動しうるものです。

しかしながら、重要な点は、現実的な想定値を置き、それに基づいた試算を行い、関係部門や経営層も含めて合意形成に至るプロセスを経ることです。このプロセスを経ることによって、どこに経済効果の力点があり、何をしなければならないかが明確になってきます。また得られた試算結果を目標にして、その目標に向かって適切な意思決定と行動を経て、目標値を実現することがその目的です。パーソナルコンピューターの概念を提唱したアラン・ケイは、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」と述べています。この言葉自体はイノベーションに対する姿勢の言葉ですが、同じ姿勢はありとあらゆる、将来に向けた行動に当てはまります。自社のキャンペーンに関わるチームが、同じ数字とそれに対するアプローチを共有したとき、経済効果試算の表は机上の空論から、自信を持って一歩を踏み出すための道しるべとなるのです。

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