この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
マーケティング指標の管理例 - 2
キャンペーンパフォーマンスの分析
[ 2-1. キャンペーン計画 vs. 実績 ]
このレポートでは、 1つのキャンペーンの計画と実績を対比するための分析です。計画段階での想定値がインターフェースされている必要があります。また
ここでは、試験段階でのデータも合わせて表示させています。
[ コントロール ]がナイーブな顧客行動、[ テスト ]がコントロールグループと対比されるべきテストキャンペーンのデータです。この結果をベースに[ 計画 ]が策定され、実施後に[ 実績 ]がキャプチャされて計画と比較されます。 このレポートによって、キャンペーン実施前段階のナイーブな状態から、テスト、計画、実績における各指標を理解することが可能となります。特にマスチャネルを利用したキャンペーンの場合、キャンペーンのアウトバウンドとレスポンスの紐付けができない場合が有ります。この場合、ナイーブな顧客行動が実際のレスポンスにどの程度含まれているのかを想定することが可能となり、ここから実際のキャンペーン効果を類推することが可能となります。
[ 2-2. キャンペーン間比較 ]
このレポートでは、指標値としては[ 2-1. キャンペーン計画 vs. 実績 ]のレポートと同じ指標を用いています。2つのキャンペーンを選択し、比較分析を行うことを可能にしています。
[ 2-3. 長期キャンペーンのトレンド分析 ]
このレポートでは、特にイベント主導型のキャンペーンにおいて想定される長期的なキャンペーンの継続的な評価や、実行中のモニタリングに用いることが可能です。
キャンペーンと共に表示させるトレンドのレベル(年月週日)を指定させることによって、トレンドでのキャンペーン評価や、キャンペーンの改善がもたらした利益金額や利益率の変化を理解することが可能となります。 OLAPツールのドリルダウン機能を利用すれば年から月、週、日へとトレンドの中を更に分析することも可能ですが、この場合には併せて経費を発生レベルで捕捉する、また必要な時間軸や顧客毎に按分する仕組みを背後に考慮しなければなりません。
[ 2-4. キャンペーン結果の属性別比較 ]
このレポートでは、実施したキャンペーンの結果を顧客属性毎に分解することによって(実際には明細で保持しているデータの集約方向を切り替える形で実現されるため、データ提供のプロセスとしては分解するわけではありません)、属性毎のパフォーマンスを比較することが可能なレポートです。
ここでは年齢層というデモグラフィック属性を利用していますが、顧客属性としてはその他の以下のような属性が想定されるでしょう。つまりここで属性と呼んでいるのは顧客セグメントと呼ばれるものと同義です。
・デモグラフィック属性 (年齢、性別、居住地域・・・)
・サイコグラフィック属性 (アンケートデータ等の内容・・・)
・ビヘイビアル属性
・RFM や LTV 等のスコア
・プロモーション反応度
・利用されたチャネル
・購入されたブランドや商品
・・・・
[ 2-5. キャンペーンプロファイル ]
このレポートでは、実施されたキャンペーン、または計画しているキャンペーンのプロファイルを共有するためのレポートです。
表示されるべき内容はこの限りでは有りませんが、想定される主なものをリストアップしています。またイメージファイルや企画書などのファイルに関しては、データベース側には URL を保持し、レポート上に URL を表示させることによって、マーケティング担当者が共有しているディレクトリ及び配下のファイルへアクセスできるようにしています。
このレポートはマーケティング担当者が把握するという観点以上に、関係するその他の部署の方が計画、実施しているキャンペーンの内容を共有する意味で重要になるものです。キャンペーンはマーケティングのみで行われる場合もありますが、それ以上に販売チャネル、サービスチャネルを経由して実行される場合が多いものであり、販売部門、サービス部門等との連携、意識合わせが必要になります。もちろんダイレクトコミュニケーションや計画段階からのインボルブも必要になるため、これだけでキャンペーン情報の十分な共有がなされるわけではありませんが、非同期に知識共有を実施する際のベースとして利用することが可能となります。
属性パフォーマンスの分析
[ 3-1. 属性パフォーマンス - 構成比 ]
こちらのレポートでは、属性毎のパフォーマンスを比較しています。従ってキャンペーンに限定せずに、特定の属性(顧客セグメント)が特定の期間においてどのようなパフォーマンスを示したかを、属性毎の比較で示しています。
レポートは大きく 3つに分かれており、[ 全体 ]部分では、将来利益( 3年 )として、向こう 3年間で当該属性から獲得が想定される利益金額合計を表示しています。 この計算方法は前述したようにその企業によって異なります。また指定期間における売上金額、粗利金額、経費金額、利益金額、顧客数が表示されています。これによって、各属性の力関係がわかるようになっています。また各属性に属する顧客数は異なるため、顧客 1人あたりの将来利益( 3年 )、売上金額、粗利金額、経費金額、利益金額を表しています。 それぞれ各属性に属する顧客数で割ったものであり、各属性における顧客 1人あたりのパフォーマンスの違いをここでは認識しています。[ 構成比 ]部分では、[ 全体 ]部分の合計を 100%としたときの構成比をそれぞれの属性間関係を理解するために表示しています。これらのレポートによって、それぞれの属性の力関係、その属性に属している顧客のパフォーマンスを理解することが可能となります。
[ 3-2. 属性パフォーマンス - トレンド ]
このレポートでも、属性ごとの比較を行っていますが、横軸にはトレンド(ここでは月)を置き、属性間の力関係の変化を表しています。
表示しているのは売上金額ですが、[ 3-1. 属性パフォーマンス - 構成比 ]にて表示したような他の指標に切り替えることも必要になるでしょう。 自社の顧客層が徐々に変わってきた、例えば若年層化してきた等の傾向はこういったレポートを通じて理解することになります。属性は静的なものではなく、顧客数、顧客行動がもたらす売上や利益等の指標値は常に変化する動的なものです。そのためその動的な変化を認識し、重視するセグメントや改善を要するセグメントを認識し、キャンペーン活動やその他の企業活動に役立てていく必要が有ります。
まとめ - キャンペーン評価に求められる要件
ご紹介してきたキャンペーンの事前/事後評価から、キャンペーンを評価する上での要件を幾つか抽出し、まとめと致します。
1点目はイベント主導型マーケティングのような長期に、そして非同期に展開されるキャンペーンの評価をしなければならないという点です。トレンドでキャンペーンの評価ができなければなりませんし、キャンペーンそのものも継続的な改善がなされることが想定されるため、それらを追跡していくことが必要になります。
そして 2点目はマルチステップ化への対応です。[ 端的な評価測定ケースの考察 ]の ケース3 及び ケース4 でご紹介してきたように、複数のキャンペーンや依存関係にあるキャンペーンを評価しなければなりません。それぞれのキャンペーンが別のキャンペーンにシナジー、つまりプラスの作用をもたらす場合と、カニバリゼーション、つまりマイナスの作用をもたらす場合とが考慮されなければなりません。これに対する解として、全体のキャンペーン結果を最大化するために個別のキャンペーンを最適な形で配置する、もしくは取捨選択することが必要になります。
最後に 3点目としては、収益性に対する厳密な理解を行えることが必要となります。 特に長期的なキャンペーンの予測を行っていく際には、資本コストを考慮し、将来的な利益を正確に見積もる必要が有ります。実施するキャンペーンは、例えば銀行にお金を預ける際の金利に代表される、一般的に堅実と想定されている資産運用からの収益や、全く投資分野の異なる投資計画等と比較され、生き残らなければなりません。また、このキャンペーンに投資がなされるのであれば、資金調達によって発生する利息以上の成果をもたらすことが期待されます。そしてこれらを含めて正確に理解することによって、実施するキャンペーンが投資するべき対象であるか否かを判断することが必要となります。ある意味では機関投資家やファンドマネージャーのように、顧客という資産をベースにキャンペーンを投資の対象として捉え、クライアントである自社の投資リターンを最大化させることが現代的なマーケターの姿であり、マーケティングに求められる要件となってきているのです。