この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
「意思決定の自動化」と「リアルタイム・オファリング」
第6回: リアルタイム・オファリングの定義
分析によって得られた「既知」の知識を捉え、そこから行動までのプロセスをルールへと落とし込んでいくことによって、意思決定が自動化されます。言い換えれば、誰に対して、何をオファーするかを自動的に決定付ける能力を有したことを意味し、リアルタイムでオファーを案内しなければならないシーンだけでなく、様々なオファリング・シーンにおいてこの能力を活用できることを意味します。今回以降で、リアルタイム・オファリングを進めていく際の考慮点について触れていきますが、その前提としてまず、リアルタイム・オファリングの定義付けを行なっていきます。
リアルタイム・オファリングの要件
リアルタイム・オファリングの「リアルタイム」とは、企業と顧客が「同時に、同じ場所を」共有することを意味します。従って、伝統的なプッシュ型のキャンペーンや、能動的(Proactive)なキャンペーン案内は、そのトリガーが企業側から為されるという前提において、この定義から外れます。このようなキャンペーンを案内した場合、顧客側が今どこで、何をしているか、という問題は無視され、場合によってはチャネルの向こう側に顧客が存在しない可能性を有しているからです。このような種類のキャンペーンに価値が無いということを言うつもりはありませんが、リアルタイム・オファリングの実施コストに値するようなビジネス上の成果を得るのであれば、顧客の側から自社のチャネルに赴き、何らかのニーズを抱いていることを発信していることが必要です。これをトリガーとすることによって、顧客が何らかのニーズ、用事、関心を抱いている状態で対話をすることが可能となります。このような機会は希少でかつ有望なビジネス機会であり、この「真実の瞬間」を逃さないために、リアルタイム・オファリングは存在します。ここから第1点目の定義として、インバウンド(顧客から企業へ)形式でコミュニケーションが起動されることが必要と言えます。そしてそのためには、顧客が企業とコンタクトを取れるチャネル上に「今」存在していることが必要です。簡単な話、電子メールやダイレクトメールを利用したアウトバウンドキャンペーンは、このような対象から外れます。
もう 1つ重要な定義。顧客がチャネルを経由してコンタクトしてきた際には、それに付随して顧客からの情報が得られます。これには明示的な情報と非明示的な情報の両方が存在しますが、この情報を元にして、顧客がチャネルの向こう側に存在している間にオファーを案内するということです。従って例えば、全てのイベント主導型キャンペーンがリアルタイム・オファリングではありません。例えば昨日までの顧客履歴から有意なイベントを検知し、それに基づいて翌日コンタクトを始めたとしても、顧客にとっては既に昨日のことであり、リアルタイムの範疇からは外れてしまいます。以上の 2点、インバウンドのコンタクトで、その場(チャネル)、そのとき(タイミング)にオファリングを行なうことがリアルタイム・オファリングの定義と言えます。
プロアクティブ・オファリング
本稿の主題からは外れますが、整理の意味で、能動的に顧客へオファリングを実施する形式について補足します。プロアクティブ・オファリングとは、顧客行動上の変化やその兆候を、継続的、定期的にモニタリングから見つけ出し、それに基づいて顧客に対して能動的にオファーを案内することを指します。必ずしも顧客起点、インバウンドのコンタクトに備えてオファリングを行なう必要は無いため、厳密な意味ではリアルタイム・オファリングの定義から外れます。しかし、意思決定の自動化によるメリットを享受するにあたっては、必ずしもリアルタイムでオファーを案内しなければならない訳ではありません。プロアクティブ・オファリングの例として、以下のようなケースを挙げます。
ケース1: 特徴的な変化を捉える
・量販店: 今までゴルフ用品を購入しなかった顧客が、突然購入し始めた
・銀行: 毎月の給与振込額とは異なる振込先から、相対的に多額の振込が発生するようになった
これらは顧客の生活に何かしらの変化が発生したことを示しており、それに伴って新たなニーズが発生している可能性を示唆しています。分析を進めることによってこのようなパターンを拾い上げるルールを構築し、ニーズを特定できるのであればオファーを行なうことが可能となります。
ケース2: 「変化が無い」という事実も何かの兆候
・カード会社: クレジット利用が一切発生しなくなった
・顧客からの接触がここ何ヶ月か発生していない
このような兆候は何かしら商品やサービスの利用に障害が発生したことを想定させます。上記の例であれば、カードを紛失したことを想定させますし、なにかしらの理由で自社が信頼を失い、解約をする前の前兆なのかもしれません。前者の場合であれば顧客サービスの一環としてコンタクトをすべきかもしれませんし、後者の場合であってもフォローアップが必要です。「商品やサービスを売り込む」形式のオファーだけでなく、自社の商品やサービスをより満足して使っていただく「顧客ケアの取り組み」としてのオファーにも活用することが可能であり、これによって直接的/間接的に顧客の信頼/評価を高め、より長い期間の取引、関係を継続することが期待できます。
また、顧客行動を感知/定期観測するためのテクノロジーが進化すれば、以下のようなシーンにおけるプロアクティブ・オファリングも実現し、一般化することが考えられます(幾つかは実現しています)。この際、より深く顧客の個人情報を取得することになるため、個人情報の保護管理に加えて、顧客から同意を得る、提供するサービス内容や特典を明示する等が必要です。
シーン1: 家に居るとき
電化製品毎の識別情報、スイッチオン/オフや操作(例: テレビ番組のチャネル選択のようなザッピングログ)の情報を取得し、それに基づいてオファーや提案を実施。取得は通信回線や電気回線を利用。
・例: お使いの冷蔵庫から故障情報を受信しましたのでご連絡しました。修理担当を向かわせましょうか?
・例: お使いの携帯電話のバッテリー、そろそろ交換しませんか? 充電履歴を頻度で捉えて実施
シーン2: 特定施設内に入ったとき
店舗、空港ラウンジ内等のゲートウェイで ICカード等の識別情報をスキャン、それに基づいてオファーや提案を実施
・例: 過去の購買履歴と重要度を元にお勧め商品を案内、「xx様、ご来店ありがとうございます。3F婦人売場xxxブランドにて新作のバッグが入荷しました。是非お立ち寄りくださいませ」と携帯メールで通知
・例: メールやテーブルディスプレイ等で「xx様、ロサンジェルス行きxxx便の搭乗が始まりました。xx番ゲートまでお越しくださいませ」と通知
シーン3: 移動しているとき
移動端末(人間であれば携帯電話、自動車であればカーナビ等)と GPS を組み合わせ、情報を送受信し、それに基づいてオファーや案内を実施
・例: 携帯サイトホームページのバナー広告表示を、居場所や時間帯に基づいて個別化する(11:30 から 13:00 の時間帯に、永代通り上でアクセスした顧客 >>> 通り沿いのレストラン広告を表示)
・例: イギリスの自動車保険会社 Norwich Union社の「pay as you drive」: 契約車両に GPS端末を搭載してもらい、走行量や走行パターン等に応じて保険料を課金する商品 (http://www.teradata.com/t/newsrelease.aspx?id=64)
両手法の類似点と相違点
上述してきたプロアクティブ・オファリングは、意思決定を自動化した際のフレームワークをそのまま活用できる手法です。意思決定の自動化が可能になった場合にはそのメリットを最大限活用すべきで、リアルタイムであるか否かに限らず、このような手法にも適用すべきであるという観点から、ちょっと多めの文章量を割きました。両方の手法が持っている相違点に着目すると、どちらも顧客行動上の変化を利用したプル型の手法でありながら、アプローチに違いがあることが分かります。リアルタイム・オファリングは純粋な顧客からのコンタクトをトリガーにして「今、この場で」オファーを案内するため、顧客に対する提案がスムーズに実施できます。これは一方で時間的な要件が非常に厳しいことを意味します。これに対してプロアクティブ・オファリングは、時間的な制約は(早いに越したことは無いにせよ)、相対的に厳しくありません。顧客は自社のチャネルの前に居てくれている訳ではないため、自社がコンタクトを行ないたいタイミングでコンタクトを試みることが可能です。しかしながらその場合には顧客も自らの生活を送っており、自社のコンタクトに応じてくれるタイミングであるかどうかは顧客に委ねられます。その意味では、リアルタイム・オファリングよりもルーズなコンタクト成功率を許容しなければなりません。
加えて、直接的な顧客行動上の変化ではなく、間接的な、複数のデータから導かれる変化/兆候を捉えるとき、取りうるオファーの候補が特定できないケースもあります。人的チャネルを利用できるのであれば、これをトリガーにしてコンタクトを始め、正確なニーズは対話によって特定することにより、より顧客のニーズに沿ったオファーを提案することも可能です。
次回は、リアルタイム・オファリングを実現するために利用可能なチャネルの種別、そしてコンテンツの種別を整理します。