この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
キャンペノミクス: キャンペーン管理の経済学
第1回: 何故、キャンペーンの効果を定量化するのか?
顧客管理のデータベース、分析ソフトウェア、キャンペーン管理等のソフトウェアを導入する際、その投資対効果が問われます。このような投資に限らず、企業経営上の投資案件が効果を正当化できなければならないのは必然であり、企業が利潤を追求する以上避けては通れないものです。一方で企業経営上のファクターとしてもっとも不確実性が高く、なおかつ影響が大きいものが、自社の顧客であり、顧客がもたらしてくれる収入です。
キャンペーン、もしくはキャンペーン管理活動の効果を定量化する際にも、顧客と収入をどう捉えるかがもっとも大きな要素です。これらをどのように細分化し、それぞれの要素をどのように変化させるかを考えるかが、キャンペーン管理の効果測定作業を行う上で大きな位置づけを占めることになります。そしてそれは、投資を正当化するという意味にとどまりません。
自社の顧客を資産と捉えた場合、それぞれの資産には異なる価値が内在しています。異なる資産価値をどのように引き出していくべきか、例えば欠損していく顧客数を低減させるためにキャンペーン管理を行うのか、顧客それぞれの価値を高めていくためにキャンペーン管理を行うのか、またこの 2つに対してどのような優先順位付け、資源配分をしていくのか、こういった点が背後にあり、その総体として企業がキャンペーンに対してどのように優先順位付け、資源配分をしていくのかが決定されます。最終的な想定効果はこれら(=戦略)の遂行シミュレーションの結果とも言え、自社が今後の顧客資産運用をどのように捉えるかが反映された結果なのです。
したがって、キャンペーン管理の効果試算が完了した段階で、自社はどのように顧客資産運用をするのか、どのようにキャンペーンの量、内容、方向付けを行い、成果を挙げることを目論むのかが明確になっているということになります。その意味において、キャンペーン管理の効果試算は、以下3つの目的に見合う形になっていることが必要です。以降でそれぞれについて触れます。
1.投資対効果の正当化
2.今後実施するキャンペーン活動の目標設定
3.今後実施するキャンペーン活動の方向付け
投資対効果の正当化
企業活動における投資案件はすべて効果の正当化が求められます。もしあなたがマーケティング部門に所属していらして、キャンペーン管理の投資起案を行っているのならば、その起案を経営層に提出する上司の方は経営層から、そして経営層はさらにそのスポンサーである株主や融資先から、その正当性を聞かれます。そしてそれに対する答えを用意し、説得できるようにしなければなりません。
その際に説得できるストーリーとして、回収額が投資額を一定以上上回っていること、そして投資内容と効果獲得の方法、手順に矛盾が存在しないことが最低限必要です。一方で、離反率を xx% 改善する、顧客単価を xxx円改善するといった将来変数値の論理的な設定は大変難しく、その主体が顧客にあるという点においてコミットしづらいという課題があります。いくつかこれを補強するための方策は存在し、それについては追って触れていきますが、絶対に将来達成できる、確実な値にはなりえません。したがって、値に対する前提条件を明確化し、社内の利害関係者での合意形成を踏まえ、その前提での効果として定量化します。
今後実施するキャンペーン活動の目標設定
端的な言い方をすれば、「離反率が xx% 改善する」としたとき、それが完全に正しいと証明する策はありませんし、それを導き出すような手法も存在しません。でもいくつかの前提条件を踏まえ、利害関係者が納得し「この値を目標として皆で取り組んで行こう!」と思えるのであれば、自社の関係各位にとってそれは現実的な目標となりえます。そして「離反率が xx% 改善する」という前提さえ出来上がれば効果、つまり得られる利益がどの程度になるかは定量化できます。
そのため、効果として定量化できるということは、その前提として、「金額換算できる投資部分以外の、ヒトがどう動くかという意思や仕組み、ルール、姿勢」が投資に含まれていることが必要です。生産用の工業機械を一新するのであれば、投資した金額と得られる生産性の改善幅、そしてそれによって得られる効果は明確で堅牢ですが、キャンペーン管理のような、ヒト(社員、顧客)の動きを介在させる業務プロセスの場合、効果は移ろい易い性質のものとなります。だからこそ、これらの目標設定が必要であり、目標達成行動に対する関わり方が重要となります。
設定する目標の代表的な例としては、簡単には以下のような形になります。必要に応じてこれを顧客セグメント毎、事業部門や商品毎などに分解して設定します。また、現状の値との差分から顧客数や支出額の実数値に変換され、最終的には獲得目標となる利益に換算できるものである必要があります。例えば「離反率 xx% 改善」が目標となっている場合、現状の離反率との差分を顧客数で掛け合わせたものが「離反阻止顧客数」となり、これに顧客あたりの平均支出額、もしくは平均利益額を掛け合わせることによって、想定獲得収入額もしくは利益額が導き出されます。
・新規顧客の獲得数を xx% 増加させる
・獲得顧客の定着率を xx% 増加させる
・一定期間における顧客の支出額を xx% 増加させる
・既存顧客の休眠率(離反率、解約率)を xx% 低減させる
今後実施するキャンペーン活動の方向付け
効果試算は目標と同時に、キャンペーン活動の方向付けも表します。選択した変数が例えば「離反率が xx% 改善する」であれば、そのフォーカスは離反しそうな顧客群となります。分析の対象はこれらの顧客群を特定することになり、離反した顧客群に共通している特性を把握することになります。そして当然ながらキャンペーンの内容も離反を阻止するためのキャンペーンとなります。効果試算に話を戻すと、これらの分析と行動の結果として、目標として掲げた効果試算想定値の達成/未達として表れます。
当然ながら目標値の未達成はありえます。現実世界は不確実性に満ちており、机上の試算通りに落ち着くほど甘くはないことでしょう。しかしながら、設定した方向付けと異なる行動をしていたら、もしくは必要な行動を伴っていなかったら、それは評価できませんし、そこから学習することもできません。仮に離反率が目標通り低減したとしても、それは偶然であり、正しい投資の姿とは言えません。有り得ない例ではありますが、「離反率 xx% 改善」を目標として、行っているコトが「新規顧客の獲得」キャンペーンだったとしたら、投資が 100% 無駄に終わってしまいます。でも適切な分析とキャンペーンを実施しているのなら、仮に目標に未達だったとしても、業務プロセスのどこに問題があったのか、どこで壁にぶち当たったのか、そしてどこに当初考慮されていない与件があったのかを把握でき、それを元に今後の改善策も練ることができるようになります。その意味でも効果試算を行う上で、今後実施していくキャンペーン活動の方向付けを念頭に置くべきです。
以上、効果試算算出の目的 3点をリストしました。これを踏まえ、効果試算方法を検討していきます。