この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
顧客分析の手順
第25回: 品揃え変化と離反の相関理解
パターン検出分析を利用した分析の 3回目として、今回は「顧客リテンション」をテーマとした分析例をご紹介します。顧客の離反は、ある特定の現象をきっかけに発生します。その現象が簡単に認識できればコトは簡単ですし、明確に離反行動として表れればわかりやすいのですが、契約関係で縛られていない取引形態の企業にとっては、これが明確で無い場合があります。このような場合、顧客の利用や支出が低下したタイミングを捉え、その前後に起こった行動を理解することによって、離反原因を類推し、対策を立てる必要があります。
分析の前提
今回の分析では、百貨店やショッピングセンターのような、複数の服飾ブランドを取り扱っている小売業を想定しています。図36A がその分析フォーマットです。ここでは特定店舗の顧客群を対象として、顧客行動として店舗内の各ブランドを横軸に配置しています。そして、ブランド毎の購入顧客数を、5月を基準に前後 3ヶ月ずつ期間指定しています。基準となる顧客行動は、期間0、つまり 5月時におけるブランド [ D&H ] 購入顧客です。したがってこの分析の実質的な対象顧客は、5月に D&Hブランドの商品を特定店舗で購入した 2,945名です。
利用ブランドの変化把握
これをグラフで示したのが図36B ですが、この全体傾向を見ると、総顧客数は 3,000名前後で、比較的一定しているといえます。注釈として、1人の顧客が複数ブランドで買物をした場合、それはダブルカウントされるため、この点は考慮しなければなりません。また、5月という一定期間で「たまたま」 D&H を購入しなかった顧客はこの分析の対象から除外されているため、5月の数値が突出しているとは必ずしもいえません。
むしろ、5月に D&H で購入した顧客は 2 - 4月でも多くが購入していたため、D&H の顧客群は安定しているということができます。ただ、不穏なのは 6月以降でこのブランドで購入する顧客群が徐々に減少傾向にあることです。そして、D&H と CARTR が関連性の高いブランドであることが分かりますが、CARTR も低下してきています。
一方、D&H で購入しなくなった顧客のうち、幾つかは ARMNAIブランドへと流れていることが分かります。この小売業からすると、どのブランドでお買上頂いても良いのかもしれませんが、それを考慮しても購入顧客数の傾向は低下しているのが気になります。
アプローチの方向性
まず、D&H から ARMNAI へとブランドスイッチがなされた点について考えると、理由としては大きく 2つ考えられます。1. D&H の品揃えやデザインの方向性に変化があり、それを顧客が嫌った、2. ARMNAI の品揃えやデザインの方向性が D&H とかぶり、しかも D&H よりも顧客の支持を得た、...です。もしくはこの両方の場合も考えられます。その他の要因(人気の販売員が移動になった、新しい商品提案が無く、昨シーズンから品揃え上の新鮮さを印象付けることが出来なかった、季節的な要因等)も考えられますが、いずれの要因の場合も、その要因に関して D&H を ARMNAI が上回った故にスイッチが引き起こされたと考えるべきです。
D&H というブランドを今後も扱っていくと考えた場合、まずチェックするべきは、D&H がこの方向性の転換により、新規顧客の獲得を実現しているか、否かです。同じ理由で ARMNAI が既存顧客を失っていないかも気になりますが、ここでは D&H に焦点を絞ります。失った顧客以上の新規顧客を獲得しているのであれば良いのですが、もし方向転換をしておらず、流行上の観点から顧客の目先が D&H から離れていったのであれば、D&H の投入商品に関して再検討する必要があります。
そして、D&H と CARTR の関連性が高いことから、「D&H が CARTR の購入を引っ張っている」と仮定した場合、D&H の顧客減は、CARTR の売上にも影響を与えているかも知れず、この点もチェックが必要です。この場合、D&H の売上は純粋に単一ブランドの売上としてだけでなく、これによって牽引される他のブランドも含めた売上がネガティブな影響として捉えられるべきです。
したがって、D&H ブランドを立て直すためには、品揃え上の改善を実施し、その改善上の主力商品等を以って、6月以降 D&H に来店しなくなった顧客に対してアプローチをするといったキャンペーンが必要です。またその際に、CARTR とコーディネイトさせた商品群を提案する等もアイデアとして考えられます。
一方、D&Hブランドが方向性の転換を行い、それによって新規顧客を充分に獲得したのであれば、受け皿としての ARMNAIブランドは充分にその受け皿となっていないとも言えます。なぜなら 5月に D&Hブランドを購入した顧客は、6月以降、D&Hブランド以外を含めても購入顧客数ベースで低下傾向にあるためです。このため、この場合には D&Hブランドの顧客に対して ARMNAIブランドを購入頂けるよう誘導する必要があります。D&Hブランドから離れても、ARMNAIブランドが受け皿とならなければ、単純に店内のブランドスイッチではなく、この小売業にとっての離反顧客となってしまう可能性があるためです。
以上、今回含め 3回で、顧客行動間の関連性を時系列で把握する「パターン検出分析」を利用した分析例をご紹介してきました。また、15回に渡って各種の分析例を用い、新規顧客の獲得に必要な知識の取得、獲得した顧客のフォローアップ、顧客支出の増加、そして顧客リテンションといったテーマに基づき、キャンペーンアイデアにつながる知識の抽出例についてご紹介してきました。現実のデータはこのようにわかりやすいものではなく、より多くのノイズを含んだものかもしれません。しかし対象顧客セグメントを適切に切り取り、その他の分析条件(対象期間、属性、指標値、そして比較対象)を適切に選択することによって、変化や違いの把握が容易となり、多少なりともデータに対する視界が開けてくることと思います。