この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
商品のアウトライン
商品の魅力を理解するために最初に取り組むべきテーマは、商品を構成要素に分解していくことです。最初に一番大きなくくりとして、自社が提供する商品は結局のところ何なのかを見極める必要があり、その中から魅力を見つけ出す必要があります。派生して提供される価値や利益、そして商品の中身は後ほど検討するとして、実質的に何を顧客に対して提供し、何に対して対価を頂戴するのかが定義されなければなりません。
物財、サービス財、混合財
自社が販売している商品が物財なのか、サービス財(もしくは非物財、無形財)なのか、それともその混合財なのかは、その商品に対する顧客のアクセス、もしくは商品のデリバリー方法に大きな影響を与えます。物財は顧客が来店するか、顧客のいる場所に届けるかしなければなりません。一方、サービス財であればこのような物品のやり取りは発生せず、通貨も含め、情報のやり取りで完結しうるものです。金融サービスにおけるサービスデリバリーでは、物品であれば考慮しなければならない概念を考慮する必要はありません。通信サービス、例えば携帯電話も同じ概念を有しますが、この場合は携帯電話端末という物財と組み合わせて利用される商品です。運送サービスや旅客サービスであれば、場所の観念そのものに対する課題を解決するための輸送プロセスがその商品となります。
また、物財の場合には在庫との関連性を意識しなければなりません。在庫が多いことは機会損失を回避する上で不可欠ですが、多すぎる在庫は企業経営を圧迫します。また、過剰在庫を消化しようと価格を下げれば、消費者はそれなりの価値しか感じなくなるかもしれません。逆に在庫が少ない場合、希少性はその価値を高める可能性を有しますが、機会損失も覚悟しなければなりません。これは無形財においてもある程度検討されるべきテーマです。サービス提供のためのプラットフォームリソース(回線網や店舗網、配送網、金融機関における融資資金、ホテルの部屋数等)をどの程度準備するかは、企業効率と機会損失のバランスを検討するうえで重要な点です。また、物財の場合にはいったん所有権が移ればいつ何時でも好きに使えますが、サービス財のときには利用可能な時空に制限が加わる可能性があります。例えば ATM の利用可能時間、携帯電話の通話可能地域等はこの最たるものです。根本的に無形サービスは何らかのプラットフォームリソースを企業が提供し、そのプラットフォーム利用を商品として切り売りし、提供するという形になることが多いため、プラットフォームリソースの維持や運用効率性の観点から、制限が与えられることになります。このように、その商品が有形のものであるか、無形のものであるかは顧客の商品/サービス利用欲求に対して様々な影響を与えることになります。
売り切り型、加入契約型(課金形態)
商品が売り切り型のものか、それとも加入契約型かも、その商品の性質から派生する属性の 1つです。定期預金口座はその性格から加入契約型に向いた商品であると言えます。もちろん売り切り型で販売することもできなくはないですが、そこで設定される価格設定には、その口座を一生維持していく費用を考慮しなければならず、大きな金額となることが予想されます。売り切りで販売したとしても支持を得ることは無く、淘汰される運命の商品になることは想像に難くありません。一方、売り切り型でも加入契約型でも適用できる商品も存在します。例えば新聞は駅の売店で購入することも可能ですし、購読契約を結んで毎日届けてもらうことも可能です。また、この両方を適用する商品も考えられます。この 2つを単一商品として定義すべきかはともかく、オフィスのコピー機とその保守サービスはその典型です。提供する商品が持つ継続利用性が強ければ強いほど、加入契約型を採用することが多くなる傾向にあります。この場合、提供する商品は継続的に品質を保たなければなりません。反対に売り切り型の場合には、毎回の販売において、常に競合との比較にさらされることになります。この観点から見ると、顧客それぞれの将来価値を想定しやすいのは加入契約型であると言えます。
価格規模
どのような価格規模かは、購入意思決定の長さと複雑さに大きく影響を与えます。一般に高い価格であれば意思決定にさまざまな考慮が必要となり、大概において時間も要します。また企業側からすれば 1件あたりの販売額は大きくなり、また機会そのものも希少となるため、その機会を逃すことが収益に大きな影響を及ぼすことになります。これは企業側でどの程度、そしてどのように販売経費を投下できるかという問題にも派生します。家や自動車の購入であれば、一般には営業担当者が赴きます。大手法人向け販売(例えば電車の販売)であれば、一顧客企業に複数名の営業担当者を配備することもあります。一方で、ポテトチップやスティービー・ワンダーのニューアルバムを売るために同じことはしません。もちろんメーカー側では小売業向けの営業担当者を、小売店では販売員を割り当てますが、これは特定の誰かのために割り当てられたのではなく、大量にさばくために割り当てられているものであり、顧客の側が店頭や Webサイトへ赴かなければなりません。また、1件あたりの販売額が比較的小さく、販売機会は比較的多くなるため、購入の意思決定に関与する方法も異なってきます。テレビコマーシャルや店頭のポスターといったブロードキャスト型の案内を行い、後は買う側の判断にお任せです。店頭で他社のポテトチップを購入する危険性も、ビスケットやおせんべいに流れる危険性も許容しなければなりません。このように商品の価格規模は、購入意思決定プロセスへの関与方法が異なり、それにともなって販売経費の利用構造や、利用チャネルが異なってくる(販売単価が高ければ個別営業担当者に傾斜してコスト配分、販売単価が低ければ広告費用に傾斜配分等)ことになります。
ボリュームに関する属性
その商品がどの程度のボリュームを提供するかを規定します。ADSL であれば帯域幅、食品や化粧品であればパッケージ容量がこれにあたります。ボリューム属性は多くの場合、価格設定、及び購入後の利用形態と密接に関係しています。もちろん同じシャツの異なるサイズごとに、異なる価格を採用することはありません。しかしながら、例えば 500ml の牛乳と 1,000ml の牛乳には量的な違いしか存在せず、価格の違いは 500ml と 1,000ml に依存したものです。もちろん販売の手間やパッケージング経費等も考慮されるため、素直に 2倍の価格とはなりませんが、それに近しい価格設定がなされます。また、購入後の利用形態も考慮すべき点です。同様に牛乳を例に取れば、何人で、どの程度、どの期間で消費されるかという利用ボリュームの観点と、牛乳という商品の耐用期間、つまり賞味期限に依存します。これらのバランスの中で牛乳の量的パッケージングはなされ、利用されることになります。消費者の立場からすれば、新鮮なうちに牛乳は飲みきりたい、一方で家庭において飲む量は大体決まっている、冷蔵庫の大きさも決まっている、といった観点からパッケージボリュームの選定がなされます。同様に企業の立場からは個別の家庭ごとにパッケージングを変更する、もしくは 10ml 間隔でパッケージングすると、生産性やその販売、管理効率に大きな影響を与えることになります。もちろんこれが収益につながるのであればこれも考慮に値すべきパッケージ展開ですが、前述した牛乳の価格規模から考えるとこれはあまりにコスト高です。このため、このような中から淘汰されて生き残ったボリュームが、現在店頭に並ぶパッケージボリュームということになりますが、消費パターンが変わっていくときには、現在のパッケージボリュームも変わっていくはずです。
耐用期間に関する属性
その商品を購入した後、どの程度利用可能なものであるかを規定します。ほとんどのサービス財においては、その耐用期間は瞬間的なものであるか、契約に基づいた一定期間となります。これに対して物財は、物質の変容、劣化を許容しなければならず、購入し、保有した商品は耐用期間という運命を有します。食品であれば賞味期限、衣料品においても単純な繊維の劣化のみならず、流行に基づく風化という期限が存在します。例えば自動車に関しても、必ずしも本当に移動手段として機能しなくなるまで乗る訳ではないため、この耐用期間は商品そのものの耐用期間だけでなく、利用する側の観点から見た耐用期間も考慮されなければなりません。
品質とその階級付け
その商品が持つ品質も属性の 1つです。これは定量化が可能か、否かを問いません。成田からフランクフルトに飛ぶ飛行機のエコノミー、ビジネス、ファーストクラスは、同じ飛行機の中に存在し、乗客は同じ距離を飛行します。もちろん席の広さやリクライニング可能な角度は異なりますし、乗客あたりの接客人員も異なりますので、その量を定量化することは可能ですが、それをしても余り意味の無いものです。それよりも「飛行時間における快適さ」という品質が、この三つのクラスを分け隔てています。そしてこの快適さは仮に定量化できたとしても、その感じ方は人によって千差万別です。パソコンや保険における電話対応サポートを訴えるテレビコマーシャルで、第三者機関による調査集計結果(「顧客満足度第1位!」等)を引用するのは、本質的に定量的でないサービスレベルを定量的に(=分かりやすく)イメージさせたいが故です。
属性とその階級付けが持つ特性の 1つは、その認識が顧客の側に委ねられているという点です。もちろん企業の側でも定義するのですが、それに対する意味合いや有用性は顧客によって異なります。テレビの画質は、視力の良い方や画質を要求する番組(自然風景やフットボールの試合等)をご覧になる方には気になるかもしれませんが、なんとなくテレビをつけている方にとっては、ある一定以上の画質である前提においてどうでもいいことかもしれません。
外観
商品が持つ外観も、属性の 1つです。いわゆる消費財であればパッケージデザインがこれに該当します。また衣料品や、自動車、携帯電話等の身に着けるものである場合、デザインそれ自身が商品機能、もしくは顧客が必要とすることそのものとなることが多いでしょう。またサービス財においても、梱包関係のデザインやサービス提供時における顧客とのインターフェースはこれにあたります。例えば銀行やクレジットのカード、電話会社の請求書等商品の代替として顧客に印象を与えるものは全て、これに該当します。このようなデザインやイメージは、様々な観点から設計されています。機能/操作性や利便性、デザインそのものの秀逸性、法令もしくは社会倫理上記載しなければならない情報の記述、提供する商品やサービスそのものの訴求点やメリット等です。
これらが重要となる理由は、その外観が商品内容を表現するものであり、何であるかを顧客に訴え続けるものだからです。物財であれ、非物財であれ、ヒトは可視化できるものを以って商品を判断します。競合商品との比較で差別化を図るのであれば、中身を差別化するだけでなく、それを正しく顧客に伝えなければなりません。その際、時には目立たせることも、時には誠実さをアピールするために抑えた印象を与えることも必要になります。また商品から得られる便益を、顧客に事前に伝えることも重要な点です。特に多目的性を持つ商品で、かつ一般に認知されていない商品カテゴリーに属する場合、その用途イメージが無ければ顧客からの選択は難しくなります。日本で豆腐を売るとき、市場である顧客はそれぞれに目的性(湯豆腐や麻婆豆腐等)を持ち、説明が無くともそれを利用できる成熟度を有します。しかしどこか別の国、例えばカメルーンで同様に販売しても、おそらくうまくはいきません。豆腐の利用用途に対する成熟度、商品理解を持たないことが想定されるためです。成分表だけでなく、料理方法やどんな味がするかをパッケージに記載することが必要となるでしょう。このように外観には、うまく顧客を誘導する目的があり、それは顧客の購入時から購入後の利用を含めて想定されなければなりません。
このほかにも、商品によっては規定されるべきポイントがあるかもしれません。しかしながらこのようなポイントを以って、自社の商品の姿を位置づけることができ、商品の中身について検討していくことが可能となります。次回は、商品分解の続きとして、「商品の目的と、その分解」について触れていきます。