この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
顧客分析の手順
第22回: 利用低下顧客の傾向理解
関連性分析を利用した分析例の 3回目。今回は「顧客リテンション」をテーマとした分析例をご紹介します。前回の分析例では、顧客全体と特定商品購入セグメントでそれぞれ関連性分析を実施して比較しましたが、今回は、上位顧客セグメントと、上位顧客の中でも離脱傾向にある顧客セグメントで比較を実施します。
分析の前提
今回の分析例では、旅客企業のデータを想定しています。図32 に示したように、成田発、米国4都市への渡航をそれぞれ商品として見立て、利益金額上位 30% の顧客を母集団として渡航顧客数構成比を 4渡航先毎に算出しています。
そして上位 30% の顧客ということは、比較的頻度が高く、もしかしたらさまざまな都市へ渡航しているかもしれません。この例では複数渡航先への重複を許容し、また渡航顧客数ということで、頻度に関しては無視しています。したがって 1人の顧客が同一都市へ 2回以上渡航しても、顧客数1 としかカウントされません。また 1人の顧客が 2都市に渡航した場合には、各都市に 1 とカウントされます。
渡航先の比較
図32 における傾向を見るに、自社の上位 30% 顧客は、サンフランシスコとロサンジェルスへの渡航をしている顧客が多いことがわかります。特にサンフランシスコへの渡航は 50%弱を占めており、上位顧客にとって重要な渡航手段として用いられていることがわかります。ただ、ここで示した値が多いのか、少ないのかは顧客全体と比較したり、特定のほかの期間と比較したりしなければ、実際に自社のビジネスボリュームを確保する上で充分な数字なのか判断できません。基礎理解としてはこれが必要ですが、改善すべき点、需要が伸びていて対応しなければならない点は、比較によって認識する必要があります。
ここでは、この上位 30% を母集団とした分析を基準にして、さらに上位 30% でかつ利益金額が低下した顧客(特定の 2期間を比較した場合に利用金額が減少した顧客)に絞り込んで、同様の分析を実施して います。その結果が図33 ですが、これを見ると、図32 に示した傾向とは若干異なっていることがわかります。
図33 では対象を絞り込んでいるため、若干数値自体は異なっていますが、サンフランシスコとロサンジェルス渡航に関しては渡航顧客数構成比がほぼ同等であることがわかります。違いがあるのは、シカゴ行きの便と、アトランタ行きの便です。 シカゴ行きの便に関しては、大きく落ち込んでいるのがわかります。またアトランタ行きの便に関しては、逆に増加しているのがわかります。このあたりに利益金額低下顧客の特徴がありそうです。
アプローチの方向性
通常、分析を実施する方は価格情報や、外部の情報等も頭に入っているかと思いますが、ここではその情報が無い前提でここまでの話を進めました。明らかにシカゴ行きの便が利用される率は低下しており、これに関しては自社の価格や他社の価格との関係、新規参入便等の情報があれば、それが原因と類推できます。シカゴ行きの便に関しては、純粋に価格を下げて競合に対抗するという手段が残されていればそれを選択することも手段です。
また、シカゴ便に何か特別なサービスを追加するなどして、渡航顧客数を回復させることも考えられます。例えばこれらの顧客は上位 30% の顧客であるため、上位顧客に限った特典を追加し、価格を下げることなく上位顧客を維持できるかを検討することがまず必要です。これによって顧客を維持できれば、全体の価格を押し下げる必要がありません。これは利益金額の圧迫を防ぐことにもつながります。
そしてアトランタ便。利用顧客数が増加しているということは好ましいですが、これが利益低下顧客数に特有の傾向であるということは、価格を下げ、利益を圧迫した結果として利用顧客数の増加がもたらされているのかもしれません。もちろん価格を上げてしまうことは中々難しいですし、今現在の価格も競合との関係の中で設定されているはずですので、価格に手をつけるのは難しいかもしれませんが、これについては反対にサービスをシンプルにし、経費率を下げることが求められます。また、アトランタ便以外への利用も促していくことにより、顧客の渡航利用全体としての利益を維持していくことも必要です。もちろん、渡航需要はその場所に行かなければならないという理由に基づいて発生するため、シンプルに需要を伸ばすことは考えにくいですが、一旦これらの顧客が他の都市に渡航しなければならないとなった際に、自社便を選んでくれるように日頃からの関係維持を行なうことが重要になります。
以上、関連性分析を用いた分析例を、今回含め 3つご紹介してきました。いずれもどの商品が支持を得ていて、どの商品が支持を得ていないか明らかにすることを可能としてくれる分析です。また特定商品を購入した顧客に限定してこの分析を適用することによって、商品間の関連性の強さ、弱さを理解することが可能となります。これによって背後に存在している顧客の嗜好性や、日常的なニーズを理解することが可能となります。