この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
顧客分析の手順
第17回: 新規獲得顧客の流入経路とプロファイル
今回からは、クロスセグメント分析を利用した分析例をご紹介していきます。クロスセグメント分析はその名のとおり、セグメントを縦軸横軸に配置してクロスさせ、セグメント間の重複を理解することを可能とします。今回はこの分析を、新規顧客に適用しています。
分析の前提
想定する企業として、インターネット販売をしている企業を想定しています。しかしながら幾つかの要素を変更すれば、様々な業界に適用可能なはずです。まずは図26 をご覧いただき、この分析フォーマットの見方について説明します。
他の分析と同様、クロスセグメント分析でも分析対象となる母集団を対象セグメントとして規定しています。この分析では 2008年度新規獲得顧客10,000名がその対象です。そしてこれとは別に、幾つかの顧客セグメントを縦軸と横軸に配置しています。この例では縦軸にポータルサイトN、横軸に平均買上点数と性別を元に絞り込んだセグメントを配置しています。
そしてこのセグメントに合致する顧客の関連指標がすぐ近くに配置されています(藍色部分)。これによると平均買上点数 > 5 の顧客は 1,000名、この 1,000名がもたらした買上数量は 14,749、そして顧客あたりの買上点数は 14.75 となります。 さらに真ん中部分のグリッドは、縦横両方のセグメントに合致する顧客群の関連指標を表示しています。ポータルサイトA から流入し、平均買上点数 > 5 の顧客は 500名存在していることを示しています。
流入チャネル毎の顧客差異
従ってこの分析は、新規に獲得した顧客群が、それぞれどのポータルサイトから流入しているのか、そして流入経路によって顧客属性と指標値にどのような違いが発生しているのかを見ることが可能となっています。また横軸を基準に見れば、男性を多く獲得できるポータルはいずれか?、買上点数の少ない顧客しか呼び込めないポータルはいずれか(ポータルC ですね)?を把握可能です。
また、この分析を見ていく際に、それぞれの縦横セグメントの選定条件に純粋合致する顧客数を基準とすることが出来ます。例えばここでの対象顧客10,000名のうち、男性と女性の割合は 7 : 3 ですが、ポータルサイトC からの流入顧客はおおよそ 1 : 2 (900名 : 2,100名)に逆転しています。この観点で見ると、男性の流入割合が多いサイトはポータルA、女性の流入割合が多いサイトはポータルC です。
同じように平均買上点数 > 5 の顧客構成比が高いのはポータルA (1,000 : 9,000 vs. 500 : 1,500)、逆に買上点数の低い顧客を多く呼び込んでいるのはポータルC (1,000 : 9,000 vs. 200 : 2,800)です。
アプローチの方向性
このような知識を得ることによって、今後のポータル(バナーやテキスト広告等)選定にあたって、この結果を活用することが可能となります。ポータルA に掲出すべきバナー広告は男性向けの内容、ポータルC に掲出すべきバナー広告は女性向けの内容と方向付けができます。一押しの入荷商品が女性向けのものなら、この商品をウリにした広告の掲載先として、優先順位が高いのはポータルC です。また、ポータルA は大量購入を期待できる顧客を呼び込めるため、品揃えの豊富さや、大量購入によるインセンティブ(ポイント付与等)がアピールポイントとなるかもしれません。このように、バナー広告の内容と、掲載先の両方についてどうするべきかという理解が得られ、今後獲得したい顧客の属性に応じて広告メッセージと掲載媒体を選定することが容易となります。
チャネル毎に分解する
ご紹介した分析例では、新規に顧客を獲得するためのマスチャネルということでポータルサイトを例に挙げました。マスチャネルからの流入をデータとして捕捉するためには、何らかの細工をデータエントリーポイントに仕掛けなければなりません。例えば、ポータルサイトA からの流入用にログ採取用のページを置き、ここからのセッションで申込みがあった顧客に対して、「ポータルサイトA からの流入」とフラグ付けされなければなりません。例えば TVCM からの流入を把握する場合にも、TVCM用の WebサイトURL、検索キーワード、コールセンターの電話番号を用意し、入り口で識別できるようにする必要があります。
また、新規顧客、そしてマスチャネルのみならず、既存顧客の、ダイレクトチャネルに関するアクセス経路に関しても分析の対象として価値があります。特にインバウンドチャネルに関しては、顧客の各チャネルに対する好意度を理解するのに最適です。例えば電話、Webサイト、物理葉書を持って来店といった経路を有している企業があるとします。一度もアクセスが無い経路に関しては、その経路を通じた案内をしても効果が期待できません。電子メールを開いて、Webサイトにアクセスしてくれる顧客と、未開封のままメッセージがほおって置かれてしまう顧客、物理葉書を持って来店する顧客と、自社のダイレクトメール案内とは全く無関係に来店する顧客、…これらの違いを認識できれば、もっとも反応率が高いチャネルを「顧客毎に」決定できます。
クロスセグメント分析に話を戻すと、各チャネルを縦軸に、そして顧客属性や定量指標等をもとに特徴づけしたセグメントを横軸に配置すれば、案内チャネルからの流入顧客数が、各セグメントに対してどのように分散、集中しているか、そして相対的にどのセグメントが多く、どのセグメントが少ないかを理解できるようになります。顧客プロファイルを把握できれば、案内するべきメッセージも自ずと明確になります。