本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
第7回:ターゲティングの手法例 - 2
前回の連載にて、セグメント内の行動理解のための分析例をご紹介しました。今回は、セグメントの行動パターン理解、そしてセグメント間の関係理解のための分析手法例について説明をしていきます。
2. セグメントの行動パターンを理解する
2-1. 関連性の分析
今回まずご紹介するのは、指定したセグメントがどのような行動パターンを示すかを理解するための分析です。
この分析では、特定の商品分類を基準商品分類として、この商品分類と一緒に購入されている商品分類を縦軸に置き、両方購入している顧客数を表示させたものです。 特定商品間の相性度、クロスセリングの可能性等を理解するために用いられる手法です。 基準として規定した商品分類A に対して、商品分類A と一緒に購入される傾向が高ければ、縦軸に指定した商品分類との相性が高いことが想定されます。 交叉率は基準商品分類を購入した顧客の中で、一緒に縦軸の商品分類を購入した顧客の割合を示し、各商品分類とのクロスオーバーがどの程度発生するかを理解しています。物品購入の場合は、併買率や関連購買率と読み替えることが可能です。
これらの関連性、相性度から、シンプルなクロスセリングに利用することが出来るのはもちろんですが、同時に顧客が自社の商品やサービス群をどのように使っており、どのようなライフスタイルの中にこれらの商品やサービス群を取り入れているかを想定することが可能となります。 キャンペーンターゲットとしてこれらの組み合わせを見たとき、このライフスタイルに必要な構成要素がオファーするべき商品やサービス群であり、それは最もその顧客に自然に訴えることができ、かつ魅力的なメッセージである可能性が高いと言えます。ここでは商品分類と記載していますが、いずれの商品(物財、非物財、もしくはその混合財)、もしくは商品属性も適用することが想定されるでしょう。
またターゲティングへの適用方法も幾つか想定されます。ミュージシャンA とミュージシャンB の関連性が高いとき、どちらかの CD (もしくは .mp3ファイル)を購入(もしくはダウンロード)していない顧客にそれぞれをクロスセルすることも考えられますし、それぞれのミュージシャンの新譜が発売されれば、どちらかを購入している顧客をターゲット候補とすることも可能です。 またバイヤーがこれらの顧客層に支持されるであろう、比較的無名のミュージシャンC を案内することも考えられるでしょう。 この場合、バイヤーが見つけるミュージシャン A、B、C に共通する商品属性は音楽という商品の性質上極度に感性に依存したもの(もの悲しいメロディ、図太いベースライン等)ですが、それを案内した結果、つまり顧客の反応度はデジタルにキャプチャ可能であり、それはすなわちバイヤーが捉えた感性の持つ“市場性”を明確に数値化することでもあります。
2-2. タイミング/シーケンスの分析
セグメントの行動パターンを理解するためのもう一つの分析は、購入のタイミングおよびシーケンスの分析です。
行動パターンとは、ある特定の行動に対して次の行動が引きずられ、連鎖する様を指します。 最も端的な例は、商品A を購入した顧客が商品B を購入するということです。前述した [2-1. 関連性の分析] において、この発生頻度に対する理解を得ることが可能ですが、キャンペーンを実施していく意味においてはそのタイミングやシーケンスも重要であり、この分析が理解したいテーマはそこにあります。 ここでは、基準商品分類である A を購入した顧客が、その購入タイミングを期間0 とした際に、そこからどの程度の期間で各商品分類の購入に至ったかを理解しています。
横軸に指定したのは、基準商品の購入日に対して、分析商品が購入された日までの期間です。 当然ながらこのスケーリングは分析の対象によって異なり、任意に指定されなければなりません。このレポートでは期間0以降のタイミングについて理解を試みていますが、逆に期間0 以前のタイミングを理解することも想定されます。ここから、ある一定のパターンを認識し、キャンペーンの実施タイミングに役立てることが可能となります。 タイミングがやってきた顧客をターゲットとして拾い上げ、イベントベース(例 : 商品A を購入してから xx日間経過し、まだ商品B を購入していない顧客にオファーを提供する)のキャンペーンを実施していくことも想定されます。基準商品と分析商品の関係は、TVゲーム機の購入顧客が再来店し、ゲームソフトのような関連/付属製品を購入するタイミングを理解するといった形で適用することが想定されます。 またプリンタートナー等の補充購入サイクルを理解するためにも活用することも想定されるでしょう。 この場合は基準商品と分析商品が同じ商品となります。基準商品、分析商品共に複数の商品を指定することにより、同様の属性を持つ商品を併せて分析の対象とすることが可能です。
このような形で分析を行うことによって、行動パターンに関する全般的な傾向を理解することが可能になると共に、キャンペーンターゲットをイベントベースで“待ち受ける”際にコントロールするべきタイミングを理解することが可能となります。
3. セグメント間の違いを理解する
3-1. 嗜好性の比較分析
最後にご紹介する 2つの分析は、セグメント間に存在する違いを理解するため分析です。
こちらの分析では、各セグメントを縦軸に置き、一方で横軸に商品分類を置くことによって、嗜好性の違いを明確化しています。当然ながらそれぞれの個人には嗜好性というものが存在するものであり、その嗜好性の違いそのものを理解したい場合には、嗜好性をベースにセグメントそのものが構築されなければなりません。 ここではそれ以外の顧客を特徴付ける基準に基づいて作成されたセグメントを並べ、各セグメントの嗜好性を比較し、特徴を理解しています。
横軸に関してここでは商品分類で区分していますが、例えばファッションアパレルであればブランドや色彩の嗜好性といった商品属性、旅行代理店であれば旅行先(ヨーロッパ派、アジア派、国内派等)の嗜好性等の商品属性が考えられることでしょう。ここで指定したセグメントが、例えば収益性に基づいたセグメントであるとした場合、収益性の高い顧客セグメントはどのようなブランド嗜好性を持つか、収益性の低いセグメントとどのような傾向の違いを示すかということがこのレポートの理解するべきテーマとなることでしょう。 また、もう一つの理解するべきポイントは各セグメントの嗜好性の集中度と分散の範囲です。集中している、例えば顧客が多く含まれているセグメント属性と商品分類の組合せは、当該セグメント顧客と自社を結び付けているアンカー的な嗜好性であると考えられますし、それ以外の組合せも含め、どのように嗜好性が分散しているかを把握することが、各セグメントの嗜好性の範囲を理解することにつながります。
指標値に関しては、ここでは単純な購入顧客数を指標値として利用しています。あわせて売上金額やサービスの利用回数等で把握することは、その嗜好性の集中/分散度合いを総合的に理解することにつながります。 ここから、これらのセグメントに対してキャンペーンを実施する際に、反応の高いオファーが何であるかを理解することが可能となると共に、特定のオファーに対して反応の高いセグメントを探索することが可能となります。
3-2. セグメント重複度合いの分析
2点目の分析は、2つのセグメント間における、重複度合いを理解するための分析手法です。
縦軸と横軸にそれぞれ異なるセグメント/セグメント属性をリストしてクロス集計することによって、各セグメント属性の重複度合いを俯瞰することが可能となります。 分析例では買上金額の構成比を指標値として表示していますが、顧客数を指標値に用いれば単純な構造を理解することに利用することもできるでしょう。 本来この分析のポイントは、2つのセグメントがどのように絡み合っているかを理解することにあるのですが、一方で、同一のトレイルセグメントにおける異なる期間を、それぞれ縦軸/横軸に配置することによって、両期間におけるセグメント属性間の顧客移動を理解できることも利用用途の一つです。 例えば横軸に前年の買上金額をベースにしたセグメント属性をリストし、縦軸に当年の同じセグメント属性をリストし、指標値として顧客数を利用することにより、離反が想定される顧客グループや、逆に優良顧客へと成長した顧客グループを識別することが可能となります。また当然、通常の全く観点の異なるセグメントを比較することも可能です。シンプルに年齢層と性別をそれぞれ縦軸と横軸にとれば、自社顧客のデモグラフィック構造を一覧することになるでしょう。ここから特定のセルに該当する(例えば 50代男性等)顧客グループを抜き出して、更に分析の母集団とすることも場合も考えられますし、シンプルにこの顧客グループをキャンペーンターゲットとすることも想定されます。
以上、前回および今回で、各セグメンテーションをスクリーニングし、ターゲティングを行うための分析手法 6つに関してご紹介をしてきました。 最終回の次回は、モデリング環境の要件、まとめをしてこの連載を締めくくりたいと思います。