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本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
掲載内容の正確性・完全性・信頼性・最新性を保証するものではございません。
また、修正が必要な箇所や、ご要望についてはコメントをよろしくお願いします。

著者 山本 泰史 (やまもと やすし)

最終回:モデリング環境の要件、まとめ

モデリング環境の要件

前回までで 6つの分析手法を紹介してきましたが、これらに共通する部分をまとめておきます。

image.png

1点目として絞り込みの条件は、分析を実施する母集団を規定したい場合に利用します。ここで絞り込まれた条件に含まれる顧客のみが分析の対象となります。 またここには複数のセグメントも含む、特定のセグメントも母集団(a)として含まれることが想定されます。そして 2点目として表示される指標値は、固定された値だけではなく自由に切り替えを行い、同じ切り口で複数の指標値を比較する必要性があるということです。 3点目はここから発見されたそれぞれのセル/行/カラムに表示されている顧客グループ、もしくはその指標値が代替表現する顧客グループは、それぞれがそこから導き出されたセグメント、もしくはキャンペーンターゲットになり得るということです。 これらの顧客グループをセグメント/キャンペーンターゲットの類を問わずに絞り込み、更に分析の母集団((a)の部分)として利用する、もしくは最終的なターゲット顧客リストとして利用することができれば、それはマーケターに柔軟性に富んだセグメンテーション/ターゲティングの手法を提供し、最終的に高度に洗練されたセグメント/キャンペーンターゲットをもたらすこととなります。 技術的な機能としては、図8 に示したような連鎖が幾重にも実施できなくてはなりません。

まとめ

映画“ガタカ”では、遺伝子工学が発達した未来の世界において、受精段階で遺伝子操作を行い、病気等の原因が取り除かれた形で生まれてくる人間が描かれています。 また“利己的な遺伝子”を著したオックスフォード大学の教授、リチャード・ドーキンスは遺伝子が人間を突き動かし、それらが人間の心理や行動に影響を与え、自らの複製を存続させるために人間を誘導していることを指摘しています。 人間が自らの遺伝子を完全に解読することに成功したとき、もしかしたら遺伝子一つ一つの情報や作用から表層に発生する人間の心理や行動を理解し、マーケティングに役立てる日が来るのかもしれません。心理学や計量経済学、そして金融工学の理論を取り入れてきている現代のマーケティングは、将来的に遺伝子工学の恩恵をもこうむることになるかもしれません。 人間を動物として捉えたとき、それは遺伝子により作られており、外界からのインプットを受け、それが行動を促しています。頭脳やそこでうごめく心理、理性・・・これらは人類進化の過程で形成され、社会生活の中でインプットされた結果であり、本能的な行動欲求に対しての利益最大化を目的としたコントロールを行うための機能です。それは行動欲求に対して、自らの種の存続を目的とした欲求制限と、行動欲求に対する後追いの正当化をするに過ぎません。 学生が寝る間を惜しんで勉学に勤しむのは、今を犠牲にすることによって将来の獲得利益を最大化したいからであり、恋愛をロマンティックに感じたり、自分の子供をいとおしく感じるのは、そうすることが種の保存を促すのにもっとも適切な方法だからです。それは自分の頭脳がそう考えている、心がそう感じているのではなく、純粋に遺伝子の仕業であり、ヒトは操られるのみなのです。頭脳や心理、理性はそれを自らの主体性に基づくものだと思わせ、適切かつ自律的にコントロールさせるために、遺伝子が進化の過程で発達させてきた機能に過ぎません。少なくとも遺伝子を基準に考えれば。

将来、表層的な行動から深層心理、そしてその先へと分解していくトップダウンアプローチがマーケティングに寄与するか、それともアトミックレベルの遺伝子と環境変数から、表層の行動モデルを導き出すボトムアップアプローチがマーケティングに寄与するかは分かりません。いずれにしてもこの遠大な構造を理解できたとき、現在とは比べ物にならない精度で個人の行動や反応を予測できるようになり、それはマーケティングの効果や効率を飛躍的に向上させることになるでしょう。 また現在とは比べ物にならないほどプライバシーに対する問題も考慮されなければならないことでしょう。もしかしたらこれは Sci-Fi映画/小説に影響を受けた過大な妄想でしかないのかもしれませんが、一方で事実として人間の行動とは全く予想しがたいものであり、我々がそれを読み解くための鍵は非常にわずかなものであることには変わりありません。

そういった意味では、ここで紹介してきたセグメンテーションとターゲティングの粒度でさえも、ホモサピエンスと名付けられた動物の、しかも個体差がもたらす本来の複雑性を映し出すにはあまりにも稚拙で、本来必要なフォーカスからは程遠いものなのかもしれません。今日の企業は顧客に関する膨大なデータを保持し、またはその可能性を有しています。 一方で上述した観点から見たとき、これらのデータが顧客の行動を 100%正確に予測するには、“充分に”不充分であることも確かです。コップの中の水は半分にも満たないのに、その量は我々をそこで溺れさせるほどに膨大なのです。 しかしながら、だからこそ、これらのデータを最大限に活用し、おぼろげながらにも顧客の輪郭を掴み、表層的な行動の背景にある“何か”を汲み取り、コンタクトに活かすことが必要となります。そしてここから、顧客が期待するコトと、自社が提供できるコトのクロスポイントを見つけ出さなければなりません。現在得られる粒度を最大限に活用して顧客を理解し、出来うる限り個人やその行動にピントを合わせ、その個人にとって最適な商品を、最適な時空(タイミング + チャネル)で提供していくための礎とすることはとても重要なことです。 なぜならセグメンテーションとターゲティングに用いる属性変数を人間であるという 1つの変数のみに着目し、おおよそ目をつぶってマーケティングを実施するのと変わらない手法を採択するのと、個体差に着目し、出来る限りその個人の目線に立ってマーケティングを実践するのでは、雲泥の違いがあるからです。そしてこの雲泥の違いは、マーケティングの効果、効率のみにもたらされるのではなく、個人を尊重するという観点からも重要な点です。

1通のダイレクトメールを考えたとき、その内容が顧客の期待と合致しないのであれば、それは個人から見た迷惑や無駄であり、自社から見た経費の無駄でもあり、離反可能性の起点ともなり得ます。一方でそれが顧客の期待と合致するのであれば、それは個人から見た期待の充足機会であり、自社から見た成長機会であるだけでなく、その個人にとって自社は必要な存在であるというレゾンテートルをも示してくれているのです。1通のダイレクトメールが 180度方向の異なる結果をもたらすのであれば、その内容と送付対象こそが、つまりターゲティングの能力そのものがその結果の違いをもたらしているといっても過言ではありません。 その個人にとって無用で、意味のないメッセージを送らないという意味において、そしてその個人にとってもっとも重要な、ニーズの高い要素をサポートすることが出来るという可能性を肯定する意味において、セグメンテーションとターゲティングは、マーケティング、ひいては企業活動の重要な牽引子となるのです。

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