この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
掲載内容の正確性・完全性・信頼性・最新性を保証するものではございません。
また、修正が必要な箇所や、ご要望についてはコメントをよろしくお願いします。
著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
キャンペノミクス: キャンペーン管理の経済学
第3回: キャンペーン反応率の改善
コンピューターシステム、そこに管理される顧客データ、そしてマーケティング部門のリソース再配分に基づき、キャンペーン実行の自動化が可能となり、またこれによって他に振り分けることが可能な余剰時間が生み出されます。ここからは、この余剰時間を利用したキャンペーン効果の改善について検討します。
精度の高いキャンペーンを、数多く実行する
企業業績にキャンペーンが寄与するとき、その好ましい姿は「精度の高いキャンペーンを」、「数多く実行する」状態です。精度とはつまり無駄打ちや機会損失の少ない、反応率の高いキャンペーンであり、数多く実行するとは、実施するキャンペーン種類の拡大を意味します。
そしてこの掛け合わせが、企業業績への寄与をもたらします。反応率はキャンペーン案内顧客数に対する反応顧客数の割合で表されます。そのため、反応率が高ければ無駄の少ない、顧客にとっても無用な案内とならないキャンペーンと言えます。反応率を改善するためのメソッドとして行われるのは、先鋭化されたニーズごとにキャンペーンを立案し、案内顧客数を絞ることです。ただ、これによって案内顧客数は小さな単位となり、反応顧客数の割合が相対的に高くとも、企業業績への寄与は微少となります。そのため、絶対的な反応顧客数を増加させるためには、合わせてキャンペーンの数を多くする必要があります。
経済効果試算例
図2 は、キャンペーンの反応率と、実施キャンペーン数に基づいた経済効果の試算例です。図の横軸には現状の値、そして 1年後以降の改善後の値を入力する欄を置いています。そして現状からの改善度に関しても各年で配置しています。
キャンペーンあたりの顧客数
横軸の一番上の区分[顧客数 / キャンペーン]では、[案内顧客数]、[反応顧客数]、[反応率]を配置しています。いずれも 1つのキャンペーンあたりの値であり、ここでは平均値をおきます。簡単な例で 2回のキャンペーンを行い、それぞれの[案内顧客数]が 1,000名と 2,000名であれば、平均の 1,500名がここにセットされます。[反応率]に関しても同様です。
案内顧客数: キャンペーンを案内する対象者の数です。現状の値、そして改善後の各年想定値を入力します。分析に基づいて案内無用な顧客を適切に対象から取り除くことが出来れば、この値は縮小されます。
反応顧客数: キャンペーンを案内した顧客の中から、それに反応を示した顧客の数です。現状の値、そして改善後の各年想定値を入力します。[案内顧客数]で記したように無用な案内が取り除かれただけなら、この値は変更無しです。しかしながらより先鋭的なニーズに対してキャンペーン立案を行い、分析に基づいて適切な案内内容、チャネル、そして特にタイミングを選定することが出来れば、反応顧客数の値は増加します。例えば、対象顧客条件の 1つに「性別 = 女性」を加え、男性を対象から外したとします。このとき案内メッセージを「女性にとって効く」内容にすることができれば、対象顧客により適した案内となり、反応顧客数の増加を期待できます。
反応率: [反応顧客数] / [案内顧客数]で算出します。実際に試算想定をしていただく場合には、反応率の想定値を置き、そこから逆算して反応顧客数を算出しても構いません。その場合、反応顧客数は[案内顧客数]*[反応率]で導かれます。
単一キャンペーンにおける顧客あたりの金額
次の区分[金額 / キャンペーン / 顧客]では、キャンペーンに伴って発生する経費や収入を記載します。
案内経費単価: キャンペーンを案内するに伴って発生する経費をここに置きます。例えばダイレクトメールのキャンペーンを考えた場合、ダイレクトメールのクリエイティブ作成費用、印刷費用、紙代、郵送費用の合計を、案内顧客数で割った金額がここに入ります。経費全体で管理している場合には、それらを実施キャンペーン数で割り、さらに前述した[案内顧客数]で割ることによって求められます。厳密な値である必要は無いため、おおよその数値で構いません。案内顧客1人あたりの経費であるため、余りにみすぼらしい案内にも出来ず、分析によって改善する余地はないかもしれませんが、もしある場合には、改善後の想定数値を置く場合にこの値を減少させます。
反応経費単価: キャンペーン反応を示した顧客に対して適用されるインセンティブの、顧客あたり単価がここに置かれます。割引額、ポイント付与時には相応の金額換算分、ノベルティ等を贈呈する場合にはその金額換算分が該当します。正確な利益率を算出したい場合には、ここに商品やサービスの原価金額も含めます。考え方は[案内経費単価]と同じで、経費全体で管理している場合には実施キャンペーン数と反応顧客数で割り算することによって平均値を算出し、セットします。改善後の値に関しても想定値を入力します。
収入金額単価: キャンペーン反応によって得られる収入単価をセットします。クロスセリング等によって単価改善を図る場合には、この値が改善後の想定数値として増加します。
キャンペーンあたりの金額
続いての区分[金額 / キャンペーン]は、ここまでの顧客数関連指標と、金額関連指標を計算して算出します。基本的には 1つのキャンペーンでどれだけの経費が発生し、一方でどの程度の収入が得られたか、そして最終的に収益性はどの程度であるかを理解します。
案内経費合計: [案内顧客数]*[案内経費単価]にて算出します。
反応経費合計: [反応顧客数]*[反応経費単価]にて算出します。
経費合計: [案内経費合計]+[反応経費合計]にて算出します。
収入金額合計: [反応顧客数]*[収入金額単価]にて算出します。
利益金額合計: [収入金額合計]-[経費合計]にて算出します。
経費 / 収入(経費率): [経費合計] / [収入金額合計]にて算出します。収入に対する経費の割合を意味します。
利益 / 経費(利益率): [利益金額合計] / [経費合計]にて算出します。いわゆる投下資本収益率です。
ここで注意したいメカニズムは、[反応経費合計]は反応顧客数が増加すれば、同じ経費単価でも増加傾向となる点です。このとき、収入単価(これも反応顧客数と組み合わさって[収入金額合計]の因子となっています)の増分との兼ね合い次第では、キャンペーン反応率が改善されても、[利益金額合計]は低減する可能性があります。