この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
商品、訴求ポイントを改善する - 2
商品に付随するインセンティブの効果
こちらの分析例では、インセンティブオファーを可変化させた際の効果、影響を分析しています。インセンティブとしてポイントサービスの加重を変更させ、それによってどのような効果があったかを見ています。例えば小売業であれば、いつか買おうと思っていた商品が存在し、それをこのような機会によって前倒しでき、結果的に提供したインセンティブを上回る利益を獲得できるのであれば、それは実施するに値する施策となります。またこのような施策は、商品そのものや商品を訴えるメッセージの改善/個別化ではないですが、商品に付随する要素を変更することにより、結果的に顧客の購入を牽引することがその目的となります。
縦軸に指定しているのは、ポイントを 2倍にした週、3倍にした週、そして評価のベースを理解するために他の施策をしないようにコントロールした週です。このそれぞれに対して、来店した顧客数、これら顧客からの販売金額、これによって付与されたポイントの総数を表示しています。さらに、過去の実績から導き出されたポイントの消化利用率を置いて、それぞれの週で将来的に発生させることになる費用を算出しています。これが[インセンティブ対象額]です。この分析から、2倍から 3倍への来店購入客数はさほどの変化が無く、顧客に与える印象にはさほどの影響が無かったことが分かります。
対して、こちらの分析ではその収益性を見ています。荒利率に変更が無く、30%であるとすると、それぞれの荒利金額と、コントロール週を基準としたときの荒利金額の差分が導き出されます。これに分析例19A にて導き出した[インセンティブ対象額]の差分を考慮します。[インセンティブ対象額差分]は、将来において顧客が売上金額の代わりに利用する金額です。そのため、ここから同じ荒利率 30%を適用し、コスト分に相当される 70%分を[インセンティブ対象コスト差分]を算出しています。さらにこのコストを[荒利金額差分]から差し引いて、[インセンティブ考慮荒利金額差分]を算出しています。この差分を見ると、ポイント 2倍によって顧客数、荒利金額共に効果があったことが見て取れますが、3倍にすると荒利金額ベースでは、効果が落ちることも分かります。金額にして約78万円のマイナスになるため、利益の絶対額に対してシビアに考えるのであれば、ポイント2倍でとどめるべきであるという判断になります。また一方で 78万円しか変わらないのであれば「派手に 3倍で行こう!」という判断をする場合もあるでしょう。特に競合店舗が同様のキャンペーンを実施しているのであれば効果は異なるかもしれませんし、その際には 3倍の方が目立つかもしれません。また、このようなキャンペーン訴求をする場合、最初に実施した際のインパクトは相当なものですが、同じコトを 2回、3回と実施していくうちに、消費者は麻痺し、効果は低減していくはずです。
競合商品の影響度理解
顧客行動の変化に影響を与える要因の 1つとして、競合他社の動向があります。特に競合他社の投入する商品が自社の商品を上回る属性を有する場合、それは自社商品の販売に深刻な影響を与えます。この例では、競合する銀行がある住宅ローンを販売開始したことを機に、どのように自社商品の購入顧客に影響を与えたかを見ています。住宅ローンを購入した顧客を、競合商品の市場投入前と、市場投入後の同一期間に分け、それぞれを顧客セグメントA、そして顧客セグメントB として絞り込み条件に用い、これを横軸に置いています。競合商品の方が優れていれば、契約獲得顧客数に影響を与えるのは当然であり、この結果が[獲得顧客数]に表れます。ただし、単に成果が優れないことを嘆くのがこのレポートの目的ではありません。どのような顧客にとって競合商品は影響が大きく、どのような顧客にとって影響が少ないのかを理解し、今後の営業施策や商品開発に活用し、この流れを食い止めることがその目的となります。
各指標値を見ていくと、競合商品が投入されてからこの商品を購入した顧客は、比較的低年齢、低年収で、返済期間が高く、ボーナス返済比率が高く、会社員に傾斜していることが見て取れます。逆に顧客セグメントA、つまりそれまでの顧客層との比較から考えると、年齢層が高く、収入も高く、自営業を営む顧客セグメントが競合商品に流れていることが想定されます。つまりこのようなセグメントにとって競合商品は魅力的に映っており、魅力的に映る商品属性を有していることが分かります。合わせて、競合商品の属性がオープンになっているのであれば、自社商品のそれと比較し、どこが劣っており、何がレポートに表示されたような影響を及ぼしているのかを理解することが可能となります。手持ち資金に余裕の無い顧客や、長期のローンを組みたいと思っている顧客にとっては自社商品が優位性を保っているのかもしれません。自営業や年齢の高い方にとって有利な商品属性(生命保険や住宅火災保険等を組み合わせている等)を有しているのかもしれません。または、ここには記していませんが、給与振込口座等のメイン口座を自行に開設している顧客の場合には影響が無く、純粋な新規獲得活動にのみ影響を与えているのかもしれません。
従来のマスマーケティングにおける商品と商品の競合は、純粋にスペックを同等、または優位に保つことによって成り立ちます。そこにはリーダーとフォロアー、そして抜きつ抜かれつの関係性しか存在しません。それは単純な体力勝負の世界であり、コスト的な疲弊をどれだけ許容できるかの我慢比べでしかありません。もちろん、企業体力に自信が有るのであれば、それも立派な手段の 1つです。しかしながら個別化されたマーケティングの世界においては、必ずしも商品を単一のものとして見るのではなく、様々な顧客属性を持つ顧客それぞれから異なる見方で見られていることを意識し、単一の商品でも多面的な見方がされていることを意識しなければなりません。この例であれば、既存の商品のアドオンとして前述の保険商品を用意して同等スペックに保つことも方策の 1つですが、例えば自営業者向けの住宅ローン等を開発し、当該セグメントのみに保険商品をアドオンし、保険商品追加によるコスト増を最小化することも方策の 1つです。
また、既存顧客のそれぞれに対して、公にされない、個別化されたオファーを案内することも国内外の幾つかの業界では実施されています。ステルスマーケティングと呼ばれるこの手法は、直接的にコンタクト可能な既存顧客に対して、その収益貢献度や、離反による損失の大きさに応じて、個別化されたオファーを案内し、離反の阻止/顧客の維持を図るものです。
例えば利用料金を顧客に応じて割り引いたり、競合への離反が想定される顧客に対してのみ大幅な割引クーポンを発行して案内したりすることによって、競合他社にそのオファーを知られること無く、顧客を囲い込みます。元々このネーミングは、ステルス戦闘機のように相手のレーダーに捉えられることなくオファーを届けることから名づけられました。例えば利率や利用料金等に関しては、法制上このようなオファーを適用させることができない業界も存在します。しかしながらこれ以外の商品属性や特典でこのようなアプローチができれば、表層的にマスメディアを漂う商品案内やメッセージとは別の次元で顧客との関係を築き上げることが可能となり、単純な体力勝負に自らの身をすり減らすことを回避できることになります。
前述した分析例の続きとして、この銀行は住宅ローンにご覧のような提携付加サービスを追加し、販売することにしました。住宅関連の企業各社と提携し、住宅ローンをお申し込みいただいた顧客に対して、家具購入資金(インテリアメーカーや小売店)やホームセキュリティー導入資金(警備保障会社)、引越資金(引越運搬業者)、そして住宅購入資金(住宅/建築業者)の援助をすることにしたのです。この結果、競合商品が投入される前ほどではありませんが、4,356名の顧客を獲得できました。そしてこれらの顧客は平均 1つ以上のサービスを利用し、延べのサービス利用顧客数としては 5,329名に利用いただき、ご覧のような特典提供がなされたことが分かります。当然ながらこれらの特典提供費用と、提携企業から得られるリフェラル収入の差し引き分は、どのように計上されるかは別にして当該顧客の生涯収益の中に考慮され、回収されなければなりません。
顧客フィードバックの理解
こちらの分析では、自動車保険の契約者に対して、契約時に取得したアンケート結果を分析しています。高級セダンに乗る富裕層は、どんな観点で商品を選択しているのかを把握し、今後の商品開発や付加サービスを提供する際の方向性に役立てようとしています。ここでは契約車種が高級セダンとなっている顧客で、ある特定の期間において契約いただいた顧客、そしてアンケート項目としては「当社商品の選択理由」という質問に対する回答を分析します。期間を区切ることによって、競合商品が新たに参入してきた後の顧客の心象変化や、何か大きな自動車事故やリコール等の事件があり、社会問題になった後の顧客の心象変化を理解するために特定することがあるため、ここでは絞り込み条件に加えています。ここで、[対象顧客数]は縦軸に指定した回答欄に「はい」と回答した顧客の数であり、[全体顧客数]は絞り込み条件に合致しない顧客も含めた、全ての契約顧客です。[対象顧客数構成比]と[全体顧客数構成比]は、それぞれの合計を分母にとって構成比を算出しています。そして[リフト値]は[対象顧客数構成比]/[全体顧客数構成比]にて算出しています。これによって、対象顧客数構成比が、全体顧客数構成比に対してどの程度のリフト(上昇、上乗せ)を示しているかを理解しています。
別の言い方をすれば、アンケートの回答項目に示した内容を、当該セグメント顧客は、顧客全体よりも重視する傾向にあるか、軽視する傾向にあるかを理解しようとしています。ここで縦軸に示した回答内容は、商品に影響を与えた要素をリストしており、その幾つかは商品属性であり、またディーラーによる紹介という点は、その顧客が検討する場所に対する理解を与えてくれます。商品属性、例えば機能やアピールポイントに関しては、当該セグメントにおいて支持が高い商品属性を理解し、メッセージの中心に据えることも考えられます。また、今後商品を強化する際にも、このような情報を参考にすることが可能となります。
ちなみに、「その他」のようなフリーテキストに関する回答を得ることもあると思います。記載のように 32件程度であれば 1件1件吟味しても良いですが、あまりに件数が多ければテキストマイニング等の手法を用いて分析を行なう等、さらに分析を加える必要があります。