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この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
掲載内容の正確性・完全性・信頼性・最新性を保証するものではございません。
また、修正が必要な箇所や、ご要望についてはコメントをよろしくお願いします。

著者 山本 泰史 (やまもと やすし)

顧客分析の手順

最終回: 感性を刺激するための分析

前回までで、幾つかの分析フォーマットを駆使した分析手法、そしてそこに至るまでの手順について概観してきました。最終回の今回はまとめに代えて、分析の意義について整理します。

感性 vs. 理性?

良く、「データは過去のものであり、本当に必要なマーケティング上の情報やアイデアは、外部から得るしかない」といった主張や、「顧客は心理や感性に基づいて動いているのだから、データやそれに基づいた論理的結論はあてにならない」といった主張が見受けられます。一方でこれに対する反論として「すべては経済行動なのだから、合理的な選択の結果であり、すべて定量的な観点から把握できるはず」といった主張も存在します。

筆者としては、いずれも極論でしかなく、現実のマーケティングに携わる方々からすれば「(感性も理性も)使えるものはすべて使う」という貪欲な姿勢が重要であると考えます。別の言い方をすれば、データの観点から捉えた方が良い部分と、肌感覚や感性、センスで捉えた方が良い部分の両方があり、それらの両方を駆使することによってマーケティング活動がうまく行くのであれば、それで何の問題もないはずです。重要なのは結果であり、自らのアイデアが顧客に響き、顧客と共有できるかどうかです。イデオロギー的に、どちらかかに属さなければならないという理由はありません。

そして、各々のアプローチには相互に役割が存在しています。例えば、ある単一のキャンペーンが、企業活動の一環としてどの程度の経済的価値があるかを理解するのにデータ分析は役立つはずですし、一方でキャンペーンのメッセージ文言やクリエイティブの印象、もしくはもっと根源的なキャンペーンアイデアの発想はマーケティング担当者の感覚が捉えるしかありません。

さらに、この役割分担に加えて、データ分析と感性に依存したアプローチが相互補完的である点も注目すべきです。例えば自らの感性に従って、何らかのキャンペーンやそれを伝えるメッセージを作成したとしましょう。それがどの程度効くのかを定量的に捉え直してくれるのはテストマーケティング等を通じて得られるデータです。また、常日頃よりデータに慣れ親しむことができれば、徐々にデータが見せてくれる顧客の微細な変化にも気付くようになり、データの向こうにいる顧客に対して思いを巡らせることも容易となります。自らの感覚を鋭敏にするためにデータが役割を果たしてくれるのです。

データを通じて「顧客に思いを巡らせる」

企業の商売は、顧客が自社の商品やサービスを購入してくれることによって成り立っています。一方で顧客の側では日々の生活を送っており、その中で必要な「何か」、を商品やサービスを購入することによって満たしています。これがニーズと呼ばれる概念ですが、このニーズには当然ながら人間である以上、もしくは日本人である以上共通している部分が存在します。一方でそのヒトの送る生活によって様々に異なる部分も存在しています。

企業は今日、社会生活の多様化、直接的/電子的なコミュニケーション手段の進展、企業競争の激化、人口の伸び悩みも含めた消費需要の減退といった理由から、共通性に根ざしたニーズだけでなく、多様性に根ざしたニーズも細かく拾い上げ、商売へと転換していく方向へと進んでいます。

このような状況下で企業が捉えるべき単位、それが顧客の「生活」です。「生活」は喩えるなら、ヒトの生活する風景を数分の動画に収めたようなものです。多くの人々がその主役にあてはまるシーン(朝食をとる風景)もあれば、比較的少ない人々しか当てはまらないシーン(交通事故に遭う風景)も存在することでしょう。ヒトはそれぞれの日常生活を移り進み、それが 1日、1週間、1ヶ月、1年といった形でつなぎ合わさって、人生が進んでいきます。これらの生活を、例えばあるセグメントを代表する 1人のヒトの生活として分析から想起することができれば、そこに求められている商品やサービスも想像し易くなるはずです。また、そのデリバリータイミングや経路も想像が容易になるはずです。たとえ解像度が悪く、写りはおぼろげであろうとも、そのヒトの生活を切り取った動画を頭の中に再生できているなら、分析はマーケティング担当者の想像力を確実に強化してくれています。

テクノロジーやチャネル、想像を超える量の顧客やデータといった介在物を通じてしまうが故に、モノゴトは複雑に見えるかもしれません。でも、突き詰めればそれは、「ヒト(マーケティング担当者)がヒト(顧客)を理解する」行為なのです。

分析の目的が行動であり、業績指標改善への寄与であることは本稿で述べてきた通りです。そしてそこに至るまでの本筋も、前回までで示してきました。これに加えて分析に好ましい副次効果があるとすれば、それは分析が顧客に対する想像力や理解力を豊かにしてくれることです。そこから得られた理解が、訴求力の高いキャンペーンを捻り出すための豊潤な土壌になることです。豊潤な土壌がもたらす力 - それは感度でもあり、定量的な理解に基づいた理知的なアプローチでもあるのですが、この能力が再度本筋である「行動と業績指標改善のための分析手順」にフィードバックされれば、この手順を廻す際のスピード、そして分析結果に基づく行動や意思決定の精度を改善してくれるはずです。

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