この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
顧客分析の手順
第13回: 顧客解約トレンドとリレーションシップ年数
第13回: 顧客解約トレンドとリレーションシップ年数
行動トレンド分析を利用した分析例の 3回目。今回は「顧客リテンション」を目的とした分析例をご紹介します。
分析の前提
今回は電話会社を想定し、解約顧客を対象とした分析を実施します。既に解約してしまった顧客であるため、少なくとも当分は自社に戻ってくることはないかもしれませんが、解約顧客に特徴的なプロファイルを見つけ出すことができれば、今後の解約候補顧客を見つけ出すことが容易となり、解約を阻止する際に役立てることが可能となります。
そしてこれは電話会社を想定した分析例ですが、同様のケースは他の業界にも当てはまります。クレジットカードや物販業の場合、一定期間以上利用の無くなった顧客を休眠顧客として定義しますが、このような顧客群も同じ状況と言えます。
唯一違いがあるとすれば、電話というサービスの特徴です。特別なケースを除いて、顧客が電話会社と契約する際に、その契約先は 1社であり、複数事業者と契約することはありません。例外となるのは固定電話と携帯電話で契約事業者が異なるようなケース、そして法人等で複数回線を用いていて何らかの理由で契約先を複数にしているケースでしょうか。そして一般の消費者にとって契約先の事業者をスイッチする行為は、それなりに手間のかかる行為であり、他社がスイッチを促す際の障壁としても高くなります。
このため、顧客が自社との解約をしたという事実は非常に重いものです。もちろん止まれぬ理由で解約される顧客も常に一定数いらっしゃるとは思いますが、解約顧客が目に見えて目立つのであれば、その顧客行動は充分に分析に値するものと言えます。
解約トレンドの理解
図21A では、基本契約を解約した顧客群を対象に、解約時期をトレンドで、解約顧客のそれまでの契約年数区分毎に見ています。第2週から第4週にわたって、解約顧客数が減少トレンドにあるのは好ましい傾向です。もちろん 30,000名強の顧客が毎月解約しているということは年間36万名に及び、ちょっとした地方都市の人口分が解約することを意味します。従ってこれに関しても改善の余地がありますが、その数は順調に縮小してきています。
このチャートをグリッドで示したのが以下の図21B ですが、契約年数別の構成比で見ても、第2週から第4週で大きな変化はありません。強いて言えば 1年未満で解約に至る顧客が減っていないことが気になりますが、ここでそれを追求するのは割愛します。
それより、第5週で解約顧客数が増加に転じていること、そして契約年数が 5年以上の顧客において解約が増加していることが気になります。いままで電話というサービスを使っていた顧客が、突然不要になるということも考えにくいため、おそらく他社にスイッチされたと考えるのが妥当でしょう。「本当の」電話会社におけるマーケティング担当者の方であれば、筆者や読者のみなさまのように、このグラフだけで判断するのではなく、競合他社が新たに打ち出したサービス等についても詳しい情報を仕入れているはずです。従って、その情報と併せると「2009年第5週に解約した、これまでの契約年数 5年以上の顧客 = 7,366名(グリッド参照)」の理由はより明快だと思います。
いずれにしても、他社にスイッチしたという前提で想定できる理由は、長期契約者優遇/割引プログラムのような囲い込みプログラムの料金プランが、他社の新規投入プランに比べて 5年目以降で大きく見劣りしてしまうようにデザインされていることです。
アプローチの方向性
まずは、5年以上の利用顧客が魅力的に感じる料金プランを整えることが必要になります。そして次に、5年目以上の未解約顧客をこちらの料金プランへと誘導することが求められます。どの程度魅力的であるべきかは、競合になっている他社のプランと同等程度であれば充分です。スイッチングの手間とコストを考えれば、引き分け狙いで充分だからです。また、対象となっている顧客は既に 5年以上契約関係にあり、基本的にはキャリア・ホッピングを好まないであろう顧客も想定できることからも、「当社との契約を続けて頂ける限り、損はさせない」というメッセージが打ち出せれば維持に充分です。
そして、既存の料金プランを契約している顧客に関しても、毎月契約が 5年目に突入することを考慮すべきです。これらの顧客に関しては 5年目以前のタイミング(例えば 4年半を過ぎたタイミング)で新規の料金プランへの誘導を促します。料金差を問題としていない顧客群であるかどうかを選り分けることができれば、5年目以降に解約してしまう顧客に対してさらにピンポイントにアプローチすることが可能となりますが、ここでは話をシンプルに保つため、契約期間が 4年半に達した顧客に対して、毎月誘導キャンペーンを張っていくことにします。
行動トレンド分析の適用分野
以上、ここまで 3回に渡って行動トレンド分析を利用した「新規顧客の獲得」、「優良顧客の育成」、「顧客リテンション」のための分析例をご紹介してきました。行動トレンド分析は、任意の期間を指定し、その期間内トレンドを、特定指標で、特定の属性に分割して把握していく分析です。
そのため、図21 の顧客数(指標)は、利用回数や通話時間、課金額等で把握することも可能ですし、同様に図21 の契約年数(属性)は、性別や年齢層のような純粋な顧客属性だけでなく、一般に指標値と目される定量的な変数を分割、集計して利用することも可能です。また、分析の対象顧客としても、任意のセグメントを利用することが可能となっています。そのため、時系列で見た変化を把握し、どのような顧客行動が増加しているか、もしくは減少しているかを見つけ出すためには適切な分析と言えます。