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この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
掲載内容の正確性・完全性・信頼性・最新性を保証するものではございません。
また、修正が必要な箇所や、ご要望についてはコメントをよろしくお願いします。

著者 山本 泰史 (やまもと やすし)

購入決定基準

要素間の比較分析

多目的性、そして目的間の関係に着目したアプローチは、競合他社の製品と自社製品を比較する際にも力を発揮します。テレビの画質を考えたとき、ある目的(有名フットボーラーの華麗な足技を堪能したい)を持った顧客には「効く」要素(高画質)が、別な目的(そこそこの画質で映れば充分、なぜって退屈な日常を埋めるための刹那的な娯楽でしかないから)を持った顧客には「効かない」ということが現実に存在するはずです。

もちろん、全方位において競合優位を維持できればそれは素晴らしいことですが、一方でそのコスト対効果も考慮されるべきです。効果的に勝ち抜くためには顧客の側が重視する目的に従順であり、そこに対して集中的に競合優位を発揮できるよう商品を調整しなければなりません。

逆に顧客は、自分が重視しない要素に対して競合他社と同等か、それ以下であったとしてもマイナスの点数を付けません。なぜならそれは、根本的に「どうでも良いこと」だからです。絶対的な商品が理想ではありますが、それは売る側の潔癖症でしかないケースが多く、顧客にとっての購入理由とは全くの別問題です。

1つのケースを考えていきます。例えばある顧客が、幾つか賃貸物件がある中から、家賃 10万円以内、駅から10分以内の物件を探しているとします。この場合顧客の究極的な希望は、(現実的であるかは別にして)家賃 0円、駅から 0分の物件です。これが他の物件に勝ち抜くための絶対的な条件になります。さらにこの条件に対して、家賃が 2万円低いことと、距離が 1分短いことは、この顧客にとって同じ価値だとします。家賃 8万円、駅から 10分以内の物件と、家賃 10万円、駅から 9分以内の物件は等しい魅力に映ることになります。

ここで競合物件に対して顧客を獲得するためには 2万円=1分=1ポイントとしたときのポイント数をなるべく少なくすることが必要となります。家賃と距離のポイント傾斜が異なる場合、それ以外の条件(占有面積等)が加わる場合にも考え方は同じです。このようなポイント化と、要素ごとの加重点数付けは、数値化しないまでも、顧客が観念的に考えていることです。

シャツを選ぶとき、バッグを選ぶとき、会社帰りの電車で読む 1冊の単行本を選ぶとき、思考のスピードと量、判断の明晰さは異なれど、突き詰めればこのような判断が 1つの取引をもたらしているはずです。

このような中で検討すべき点は、1. 自社の改善可能性/改善容易性の存在する要素、2. ポイント傾斜の高い要素、3. ポイントとならない要素、4. 新たにポイントとできる要素の 4点です。1. 及び 2. に合致する要素は、自社が一番傾注するべき要素です。

例えば家賃の値引きに余裕があり、顧客も家賃を重視するのであれば、これはチャンスです。しかしながら、2. の要素に自社が傾注できない、つまり 2. に対して 1. が両立しない要素の場合(例:動かしようのない駅からの所要分数)、顧客との対話の中から 4. を探し出すべきです(例:この物件は日当たりが素晴らしいです)。そして、1. に対して 2. が両立しない要素の場合(例:まだまだ自社は値引き交渉に応じることができるが、顧客は家賃を気にしていない)や、3. に該当する要素 (例:シャンデリアをお付けします)は、努力の意味がない可能性を意識すべきです。この場合、自社の対象顧客ではないかもしれず、結局の所、時間と手間(コスト)をかけるに値しない危険性があるのです。

購買を決める要素、決めない要素

前述の要素を、顧客の側から整理してみます。それぞれの要素が対象としている目的には、顧客の購入にあたっての役割が与えられています。そしてそれらは大きく、以下のような形で位置づけられます(図5 参照)。

1. 主目的

顧客は商品を購入するとき、単一、もしくは複数の目的を有します。前述の賃貸物件であれば、家賃と駅からの距離がその条件になります。この 2つの条件は、例えば「自分の収入の範囲内で寝床を確保する」ことと「通勤、もしくは通学の際になるべく歩く時間を減らしたい」という目的によって導き出されたものです。そして複数の目的間における関係性は、前述の通りです。これは購入に対してアクセルの働きをします。

そして、この条件には、最低条件と最高条件が存在します。最低条件は「最低限このような条件で購入したい」という条件であり、最高条件は「この条件なら充分満足、これ以上の条件を探すのは時間の無駄だ」という条件です。これは主目的の条件がオン/オフ(例:フローリングか、否か)の場合には、考慮されません。

2. 副目的

さらに、この条件を共に満足させる、同等の物件が幾つか見つかった場合、人間にはさらに欲が出ます。日当たりが良い物件、占有面積の広い物件等、本来 2次的な条件の善し悪しが購入を決める要素となります。これは 2次条件においても同等であれば 3次、4次と条件は広がり、進んでいくことでしょう。

最初に挙げた主目的が「絶対に満たされなければならない条件(Must have)」であるとするならば、これは「あったら良いなという条件(Nice to have)」ということになります。そして多くの場合において、主目的に対する最高条件の追求と、2次的な条件では優先順位付けがなされることになります。

3. 不要性/無意味性

ある目的、そしてそれを実現するための機能、商品属性は、ときに顧客にとっては意味の無いものである場合もあります。MP3プレイヤーで、ある曲順(例えばアルバムに収録されている順番)に複数の曲を聴きたい顧客にとって、シャッフルの機能は何の意味もありません。一方でそれがあるから購入を止めるかというとそうでもありません。あくまでもこの目的性は無視されるのみです。

4. 目的阻害性

他の目的を大きく阻害する場合、その購入が差し控えられます。MP3プレイヤーにシャッフル再生の機能しか無ければ、ある曲順に複数の曲を聴きたい顧客は当然、他の商品を選びます。ダイエット中の顧客にとってアイスクリームやケーキは天敵であることでしょう。これは購入に対してブレーキの働きをするものです。

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このように、複数の目的、そしてそれに付随する要素間を組み合わせ、顧客の購入に対する思考構造が作成され、これに基づいて購入商品/サービスの決定がなされます。これを購入決定基準と呼びます。

また、根本的なテーマも考慮に入れなければなりません。顧客がこの商品購入を必須と考えているかどうかです。もう来週にも引っ越さなければならないのに、家賃と駅からの距離において希望の条件を見出せないのであれば、何らかの妥協をせざるを得ません。もし「良い物件が無ければ、また今度探せばいいや」と思っているのであれば、妥協をする必要はありません。この場合、顧客は買わないという選択肢も留保しています。

購入決定基準に対するアプローチ

顧客が購入決定に際して抱く思考構造に対して、自社の商品/サービスが持つ目的と、それを導き出す要素を洗い出せれば、顧客に対するアプローチの参考にできるようになります。まずは主目的に対応し、次に副目的に対応する/主目的における条件のバーを上げることによって、競合優位性が発揮されます。

またコスト対効果の高い目的への集中と、不要性の高い要素の切捨てができれば、自社の資源を最大限に活用しつつ、コストを最低限に抑えることが可能となります。そして、目的阻害性の弊害が大きいことを発見できれば、これへの対処も可能です。

しかしながらこれは、購入決定基準に対して、極めて従順なアプローチです。もう 1つのアプローチ、顧客の思考構造にあがない、その優先順位に変容をもたらすアプローチも検討に値します。顧客の機嫌を損ねることのないように気を付けつつ、マーケティングメッセージや商品の調整によってこれを変容できるのであれば、今まで対象にできなかった顧客群を対象とすることが可能となります。

例えばダイエット中の顧客を取り込むために、「アイスクリーム(or 乳脂肪分)は太らない」という事実を突きつけることもその選択肢の 1つですし、なるべく太らない食べ方(例えばより小さなパッケージサイズ)を提案することも選択肢の1つです。もちろんダイエットの覚悟が揺らいで、霞んでしまうほどにアイスクリーム本来の美味しさを訴え、その味わいを脳裏に思い起こさせることもアプローチ方法の 1つです。

また、自社商品が持つ要素が全て、顧客にとっての不要性/無意味性に帰属してしまう場合には、本質的にその商品が市場において求められているものであるかを見極める必要があります。全く目的を見つけられない商品になっているのであれば、単にライフサイクルエンドと結論付けざるを得ません。

しかしながら新たな価値、新たな便益をもたらす要素の場合、消費者がそれに覚醒していないことも考えられます。既存の市場に存在する商品と、同じ文脈の中にその商品が位置づけられる場合、顧客はそれに対する審美眼、審査眼を有します。市場調査やアンケート、サーベイも顧客の想像力の範囲内であれば有用な情報を提供してくれます。しかしながらそれは、既知の商品と比較できるが故です。

一方で新たな価値をもたらす商品、新たな概念で生まれた商品が顧客の想像力の外側にあるとき、顧客ニーズを、顧客の中に見つけることはできません。それを提示することによって顧客を驚かせ、新たな概念を理解させ、彼らの目を向けさせることが重要です。顧客が抱いている既存の購入決定基準に対して異を唱え、変容を仕掛けなければなりません。それは放っておいても理解してもらえる類のものではありませんが、今日稀に見る未開の市場への入り口でもあるのです。

このようなアプローチは、全く新しいアプローチではありません。従来からのマスマーケティングの世界においても、これは常套手段です。整理の仕方は色々あると思いますが、商品展開のパフォーマンスを高めるための正攻法であり、いわゆるポジショニングと呼ばれる手法です。

マスマーケティングとマスプロダクションに依存した商品である場合、市場のマジョリティに内在する購入決定基準に的を絞り、商品を開発し、投入することになります。そのため、商品を投入するタイミングや場所、そして対象となる顧客は固定し、そこに対して最大限の結果をもたらすように調整されます。そしてこの背景にあるのは、異なる購入決定基準を持つ顧客は「外れ値」として無視するという考え方です。これらの顧客が持つ市場機会をスポイルすることも、市場におけるマジョリティが存在する限りにおいては、効率性の名の下に許容されます。

しかしながら現代的なマーケティングでは、マスカスタマイズ/パーソナライズという手法を用い、顧客それぞれの目的や、購入決定基準に応じて、最も訴求できる要素を可変対応させることが可能となってきています。そして電子的なチャネルやデータベースの技術は、商品だけでなく、時間や場所という概念を考慮し、その顧客が最も必要とする時空に合わせて訴求することも可能としています。

今日の成長しない、大衆概念の潰えた市場においてフィット(淘汰からの生き残り)を意図するならば、前述した効率性はそこに存在せず、それぞれの顧客が持つ、異なる複数の購入決定基準に対応し、商品を魅力的に見せる術を身につけなければなりません。そのためには、ここまでで述べてきたような商品そのものが持つ要素のみならず、商品が置かれた環境を理解し、商品が最も映えるケースを見つけ出すことが必要となります。

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