この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
「意思決定の自動化」と「リアルタイム・オファリング」
第3回: 意思決定を自動化するメリット
前回、自動化の対象となる意思決定について触れると共に、自動化の構造についてご紹介しました。今回は意思決定を自動化することによるメリットについて整理していきます。意思決定を自動化することによるメリットは、大きく以下の 3点になります。以降でそれぞれについて触れていきます。
・顧客対応スピードの改善
・マーケターの作業時間確保
・検知ロスの回避
顧客対応スピードの改善
既知の知識に基づく意思決定を自動化することによって、時間的な意味でのボトルネックが解消されます。従って、データが発生してから、マーケティングアクションに結びつくまでの時間が短縮されます。これを顧客の側からの視点で考えると、顧客が顕在的、もしくは潜在的に感じているニーズ/欲求が高いタイミングで、顧客に対するアプローチが行われることを意味します。データが発生したということは、何かしらのニーズを顧客が感じているということです。例えば「銀行口座に大口の預金が入金された」、「今までペットフードを購入したことのない顧客がペットフードを購入した」という事実は、顧客の生活に何らかの変化が発生し、それに伴って新たなニーズが発生したことを意味します。またある商品のホームページ上の情報を何度も閲覧しているのであれば、それはその商品に対する興味を抱いていることを示す兆候かもしれませんし、それが購買に至っていないのであれば何かしらの不明点や障害があって購入に至っていないのかもしれません。このようなデータから読み取れる変化を収集していたとしても、マーケティングアクションに時間がかかってしまったら、そのニーズに対応する機会を逃してしまうかもしれません。図4 は、時間経過に伴う顧客ニーズ/欲求度合いの変化を意味しています。顧客ニーズ/欲求度合いが高いということは、そのタイミングで適切なオファーができれば高い反応率を期待できるということです。しかしながらこの高い反応率(=顧客ニーズ/欲求の高い状態)は、時間経過と共に低下していきます。当初抱いていた購入意欲の減少(「落ち着いて考えてみたら、買わなくても良いかも」みたいなコトってありますよね)、競合他社の商品/サービスの検討と購入、顧客環境の変化、忘却によって、顧客心理は移ろい、ビジネス機会を自社の売上/収入に収斂できる確率は低下していきます。
自動化を採用することにより、顧客反応率の高いタイミングでマーケティングアクションへとつなげることが可能となります。ここで言うマーケティングアクションとは、キャンペーン案内や顧客対応を指しますが、いずれの場合にも、プッシュ型のキャンペーンではなく、データ変化に基づいた(擬似)プル型のキャンペーンへと移行することを意味します。もちろんプッシュ型のキャンペーンも併用して構わないのですが、その場合にはこの「反応率の高いタイミングで顧客にアプローチできる」というメリットはあきらめる必要があります。
マーケターの作業時間確保
しかしながら、プッシュ型キャンペーンにおいても自動化を行う意義はあります。キャンペーンを自動化しておくことによるメリットとしてマーケターが自由に使える時間を拡大することが挙げられます。一旦キャンペーンを計画して、設定しておくことによってスケジュールキックで対象顧客をリストし、そしてそれぞれの顧客に対するオファーを組みたて、実行してくれるのであれば、それを行なうために使っていた時間を有効に使うことが可能となります。(戦略的意思決定に必要な)分析に時間をかけるのも良し、別のキャンペーンについて考えるも良し、突発的な事態に対処するも良し、です。そしてプッシュ型のキャンペーンにせよ、プル型のキャンペーンにせよ、自動化させておけば、幾つも同時並行的に実行できます。今まで、担当者がそれぞれのキャンペーンに張り付かなければならなかったのだとしたら、同時並行的に実行できるキャンペーン数にも制約が発生しているはずです。しかしながら自動化によってその生産性は飛躍的に向上します。これは工場のオートメーションと同じロジックであり、単一時間において実行できるキャンペーンの量を増大させると共に、そこに人手が介在しなくとも良いということを意味します。この関係を示したのが以下の図5 です。
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既存のキャンペーンの改善や、新規にロールアウトするキャンペーンに時間をかけることができれば、対象顧客の絞り込み、オファー内容の精緻化、案内チャネルの選定、コミュニケーション手法やコンタクトタイミングの決定精度を高めることが期待できます。これはキャンペーンの投下資本収益率に良い影響を与えることになります。プル型キャンペーンにおいて顧客ニーズ/欲求の高いタイミングで案内することによる反応率増加への期待と合わせて、キャンペーン効果を最大化することに寄与します。ここまでのメリットを整理したのが、以下の図6 です。
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図5 におけるドット(●)は時間単位であり、余った時間を費やすことにより増加できるキャンペーンの量を意味します。また図6 におけるドットは、余った時間を費やすことにより改善できる、単一キャンペーンの精度改善を案内/反応顧客で表しています(単一キャンペーンレベルでは案内/反応顧客数ともに減少するが、反応効率は改善される)。イラストレーションですのでそれがどの程度の量であるかを表現したものでありませんし、作業時間、キャンペーン数、案内顧客数、反応顧客数、そして最終的な貨幣価値へと変換した際にどの程度の変換レートになるかを明示したものではありません。しかしながら、今まで既存キャンペーンの実行に占有されていた時間が解放されることにより、この時間を新たなキャンペーンや、既存キャンペーンの改善に費やすという形に変換できる様を示しています。そして、当然ながら同時並列的に実行できるキャンペーンの量は時間経過と共に増加していくため、その生産効率は高まっていくことになります。もちろん時代の変化に伴って退役するキャンペーンや改善を要するキャンペーンも出てくることになりますので、用意したキャンペーンが未来永劫利用できる訳ではありませんが、それでもそのキャンペーンが効果を発揮できるうちは、自動化ロジックに任せておくことが可能です。蓄積したキャンペーンの数だけ生産性は増加し、人間はより戦略的な意思決定や、創造的なキャンペーンプランニング、既存キャンペーンの評価や改善、そして突発的な事態への対処に時間を充てることができるようになります。
検知ロスの回避
最後に挙げるメリットは、検知ロスの回避です。自動化のロジックが漏れなく顧客ニーズ/欲求を拾い上げてマーケティングアクションにつなげてくれるのであれば、人間による見落としを防ぐことができます。人間がデータを検索して、分析を行う場合、見落としをしてしまう可能性を否定できません。単純な話、毎週離反想定顧客をリストアップする方が今週リストアップを忘れてしまったり、やらなきゃいけないと分かっていても他のことに忙殺されてできなかったり、絞り込み条件の一つを設定し忘れてしまい、ルーズな条件から必要以上の顧客にフォローアップメッセージをしまったり、といった事態はあり得るかと思います。また個人だけではなく、組織としてルールを適用することにより、個人の知識や能力、経験によるばらつきを回避することが可能となります。個々人が一定以上のクオリティを有している組織であれば、このようなロスは発生しないかもしれませんが、手間をコンピューターに代行させ、自動実行できれば検知ロスを心配することも必要なくなります。
自動化のリスク
ここまでメリットについて記載してきたので、リスクについても整理しておきます。自動化ロジックを構築するには、顧客ニーズ/欲求を適切に合致条件としてセットアップしなければなりません。あやふやで感覚的な顧客ニーズ/欲求の把握ではなく、明確なロジックにするというのは中々大変であり、充分な分析が必要となります。また、顧客行動そのものが外部環境の変化により変化する可能性もあります。一旦構築した自動化ロジックを盲目的に信頼するのではなく、継続的に見直し、それが正確に顧客ニーズ/欲求を切り取ってくれる条件であるかどうか、設定した条件に対して後続で実行されるマーケティングアクションは顧客ニーズ/欲求を満たしてくれるものであり続けているか、お角違いなオファーになっていないかを継続的に検証する必要があります。これらのリスクを回避するためにはデータ分析を行っていくことが必要です。
具体的には、設定した条件を導くために用いた、前提となっている分析結果が同様の結果を今も有しているか、そして条件に基づいて実行されたオファーが、期待される結果を生み出しているかをチェックしなければなりません。そして、それらが自動化ロジックを構築した前提が当初のそれから変化しているのであれば、微調整や、条件とオファーの練り直しが必要です。