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本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
掲載内容の正確性・完全性・信頼性・最新性を保証するものではございません。
また、修正が必要な箇所や、ご要望についてはコメントをよろしくお願いします。

著者 山本 泰史 (やまもと やすし)

第5回:ターゲティングの基礎

ターゲティングの粒度に関する考察

セグメンテーションの構造がある程度形作られたとき、これらのセグメンテーションをマーケティング・キャンペーンの対象顧客選定に利用できることになります。つまりターゲティングです。ターゲティングにおいても、粒度に対する考慮がなされなければなりません。 図6 は、ターゲティングの粒度に対する変遷を捉えたチャートです。

image.png

しかしながら、これらは一つの粒度から次の粒度へと移行していったことを示す訳では有りません。 前時代的と思える粒度でも、たとえ重要度は変化するにしても、現代において一定の価値を保持しています。これはメディアの変遷になぞらえると分かりやすいことでしょう。パーソナルメディアにおいて、郵便、電子メール、FAX、電話が存在する現在においても電報が存在し続けるように、ブロードキャスト型メディアにおいてポスター、雑誌/新聞、ラジオ、テレビ、インターネットが共存し続けるように、重層的な形でそれぞれがある一定の位置付けを担うことになります。

図6 の一番上にあるのはマスマーケティングです。 基本的にこの手法は、人口の全てを同じ人間であるという一部分のみに視点を定め、マーケティングを実施する方法です。例えば全ての人間にとって必要な商品であり、かつ競合他社にとって明確な差別化を訴えることが出来る商品であれば、この手法はもっとも効果の高い手法であると言えます。しかしながらこれはマスマーケティングに対して好意的な意見でもあります。 実際には投資対効果を最大化するために、対象を絞るという行為や努力を放棄したマーケティング活動と、識別することができないからです。そしてもちろんこれは非常に端的な区分でしかありません。利用するチャネル、つまりマスメディアとして考えた場合には、対象となるセグメントが明解になっているコマーシャルメッセージも存在するため、あくまでも概念論でしかありません。マーケティング手法としてのマスマーケティングと、チャネルとしてのマスメディアが混同されてはなりません。 そしてセグメンテーションの種類でご紹介してきたように、デモグラフィック属性、サイコグラフィック属性、そしてビヘイビアル属性と粒度分解が進んでいくことになります(必ずしも順番はこの限りではないかもしれませんが)。興味深いのは 90年代半ばに謳われるようになったワン・トゥ・ワン・マーケティングの概念です。それまでのビヘイビアル属性は、例えば RFM に代表されるような個人の取引活動をベースにセグメンテーション/ターゲティングを行うのに対して、テクノロジーとマーケティングに対する期待は、粒度を個人のレベルにまで落とし込みました。

しかしながら、粒度という観点から個人を特徴付ける場合、結局の所デモグラフィック/サイコグラフィック/ビヘイビアル属性を総動員するしか手段はありません。また一方で、人間の多面性それぞれを特徴付けるという観点をスポイルしてしまっています。
また人間の多面性を意識した 1人 10色型マーケティングは、その個人の TPO (Time Place Occasion) によって発生するビヘイビアの違いをベースにマーケティングをするため、純粋な粒度という観点からはビヘイビアル属性の活用レベルを深化させた手法ということになります。そういった意味では、結局のところ我々がターゲティングに使える属性はデモグラフィック属性、サイコグラフィック属性、そしてビヘイビアル属性ということになります。(ワン・トゥ・ワン・マーケティングが提唱したもう一つの重要な概念は、商品の側を顧客に合わせて調整するというカスタマイゼーションの概念です。この概念は生産や商品開発とそのデリバリーに対する概念変容を促すという意味においては革新的でしたが、ここでの論点からは若干外れるため簡単な指摘にとどめます。)

この中で、ビヘイビアル属性は、特に 1人 10色型マーケティングを実践するという意味においては未開発の分野かもしれません。 例えば給料日前と、給料日直後の経済活動は異なることでしょうし、それは特に所得が高くない顧客層や扶養者数が多い顧客層において特に顕著に表れることでしょう。前者はビヘイビアル属性によって明らかになり、後者が伝統的なデモグラフィック属性であることはご承知の通りです。ダイレクトマーケティングが培ってきた RFM の手法は、基本的にビヘイビアの集計結果しかマーケターに与えてくれませんが、その詳細を属性として捉え直すことによって、特定個人が TPO毎にどのような行動を行うのかという、より詳細なパターンを理解する可能性が広がることになります。
以降の項にてターゲティングの基礎的な部分について触れ、その後想定される手法について紹介していきます。

ターゲティングの基礎1 - リストからの対象抽出

ターゲティングの手法としての最も基本的な部分は、データベースにおける操作言語である SQL (Structural Query Language) に学ぶことが可能です。あるキャンペーンに対してもっともレスポンスの高い、合理的な顧客を導き出すとき、これらの手法を通じて、特定の変数基準、もしくは複数のセグメントを操作することになります。ここではそれらについてご紹介します。

演算子による表現

以下にご紹介する演算子は通常、SQL の SELECT (対象となる行列を選択する) 文における WHERE (条件指定) 句にて記述されるものです。 単純な数学表現と等しく、ある特定の顧客リストにおける変数と、指定した変数を演算子によって比較し、合致する顧客をリストアップします。 各演算子は以下の通りです。[ = 等しい]完全に合致する顧客を選択。[ > より大きい]変数が指定した値よりも大きい顧客を選択。[ < より小さい]変数が指定した値よりも小さい顧客を選択。[ >= 以上]変数が指定した値以上となる顧客を選択。[ <= 以下]変数が指定した値以下となる顧客を選択。[ <> 等しくない]変数が指定した値以外となる顧客を選択。

範囲を指定する - BETWEEN

こちらも通常、SQL における WHERE句にて記述されるものです。 ある特定の顧客リストの中から、範囲条件に合致する顧客をリストアップします。例えば年齢が 20歳から 25歳の顧客のみを絞り込む場合には、BETWEEN '20歳' AND '25歳' という表現となります。

複数の値を指定する - IN, NOT IN

こちらも通常、SQL における WHERE句にて記述されます。複数の値を指定し、それらのいずれかに合致する顧客をリストアップします。 例えば、20歳、22歳、24歳の顧客のみをリストアップする場合、一方でそれらのみをリストの対象外とする場合には、IN ('20歳', '22歳', '24歳')、及び NOT IN ('20歳', '22歳', '24歳')となります。

値内の一部分を指定する - LIKE

SQL における WHERE句にて記述されます。ある特定の顧客リストの中から、指定した値を、指定された変数の一部分に含む顧客をリストアップします。 例えば、住所に上( )、例えば上町や上野等を含む顧客をリストアップする場合、またはアンケートのフリーフォーム欄に“眠”という文字が含まれている顧客(眠れない、安眠、睡眠等)をリストアップする場合には、LIKE ( '上_' )、またはLIKE ( '%眠%' )と表現します。この場合、アンダーバーは特定の 1文字を示し、パーセンテージは、0文字を含む幾つかの文字列を示します。

値の無いことを指定 - IS NULL

ある特定の変数値が存在しない顧客をリストアップする場合、つまり、その値としていずれの値も保持していない、空欄になっている顧客を指定する場合には、値(例えば電子メールアドレス) IS NULLと表現されます。
ここでは単純に顧客リストが存在し、これらに対して抽出を行うことをイメージした記述をしていますが、実際には、顧客のリストとその属性、特にトランザクションやインタラクション等のビヘイビア属性は、別のテーブルで保持されている方がデータベースとしては効率的であり、実際にそうなっているケースが多いと想定されます。 この場合には複数のテーブルを JOIN(結合)処理した上で抽出操作を行うことになります。

ターゲティングの基礎2 - リスト間での操作

以下に示す命令は、2つの顧客リストから 1つの顧客リストを作成する場合に利用されます。例えば別々に作成した 2つのセグメントをあるキャンペーン用に結合したい場合には、以下のような命令文が利用されます。 同様のことを繰り返すことにより、2つ以上の顧客リストから 1つのキャンペーンターゲットを導き出すことも可能です。通常 SQL文においては、SELECT文同士を結合する形で利用されます。

結合取得 - UNION

A と B の 2つのリストから重複を排除した形で結合し、結果を返します。例えば A =“年齢 30歳以上”、B =“返済状況が良好”とした場合、“年齢が 30歳以上で返済状況が良好”に該当する顧客はいずれのリストにも含まれますが、UNION にて結合されたリストには、これらの顧客の重複は排除され、1行として返されます。

重複部分の取得 - INTERSECT

A と B の 2つのリストから重複する部分のみを返します。上記の UNION の例を用いた場合、INTERSECT を指定すると、“年齢が 30歳以上で返済状況が良好な”顧客のみが返されます。

重複部分以外の取得 - MINUS

A と Bの 2つのリストから重複しない部分を返します。上記の UNION の例を用いた場合、MINUS を指定すると、“年齢が 30歳以上で返済状況が良好な”顧客を排除し、残りの顧客のみが返されます。 言い換えればいずれかの条件にしか合致しない顧客が対象となります。

2つ以上の顧客リストからの操作例

容易に想定される例として、あるキャンペーンにおける対象顧客リストから、パーミッションを得られていない顧客をリストアウトする作業を想定してみましょう。キャンペーン対象顧客リストを A、オプトアウト顧客のリストを B とします。操作としてはまず A と B の INTERSECT を取得し(これを C とします)、次に A と C の MINUS を取得します。これによって双方に重複している顧客を C として識別し、A から C を差し引くことが可能となります。この考え方はキャンペーンターゲットのリスト操作における基礎的で、かつ重要な手法です。
図7 に UNION、INTERSECT、MINUS のそれぞれの取得イメージを示します。

image.png

プライバシーの考慮

最後にプライバシーに関して触れておきます。上述してきた“基礎”とは若干性質の違うものですが、顧客からのパーミッション、またはその種類はターゲティングの際に考慮されるべきです。 セグメンテーションは特定の顧客とのコンタクトを意図したものではないため、セグメンテーション全体やそれぞれの趨勢を理解するために、パーミッションの有無そのものが問題となることはありません。 しかしながら、例えば電話でのアウトバウンドコールキャンペーンにおけるターゲティングを実行していく際に、電話をかけることを許容していない顧客はこのターゲティングから除外されるべきです。 当然ながら顧客からパーミッションを得ていないことを行うという倫理/コンプライアンス上の理由が一番の理由ですが、それ以外にも重要な理由があります。正確な対象顧客のボリュームを理解し、無駄なくコンタクトする上でも本質的にコンタクトするべきでない顧客を除外するべきですし、これを実施してしまうことによる顧客の心象を害すこと、そしてそれによる離反が考慮されるべきです。これらを金額換算したときに、コンタクトを取るべきでない顧客にコンタクトした際のマーケティング経費の無駄、離反による将来的なこれらの顧客からの収益逸失、またはそれらをリカバーするための追加的な当該顧客群への費用支出が想定され、最悪の場合には訴訟等に対応する費用支出を招くことになります。

以上、今回はターゲティングの基礎概念について概観してきました。次回はこれらをベースにしたターゲティング手法についてご紹介します。

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