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この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
掲載内容の正確性・完全性・信頼性・最新性を保証するものではございません。
また、修正が必要な箇所や、ご要望についてはコメントをよろしくお願いします。

著者 山本 泰史 (やまもと やすし)

市場変容を促す

フィットを生み出すための取り組み

特に市場において認知を得ていないような商品や、汎用性が高いが故に消費者に利用用途をイメージさせにくい商品、また消費者にアピールできるであろう目的が地味な商品の場合、市場における認識を覆し、他の商品が保持している市場や、競合商品が保持している市場を奪取することを画策しなければなりません。また、消費者の観点から考えた場合、目的性が省力性、経済性、効率性といった性質で括られない商品の場合、消費者が今現在保持しているフィットだけにとらわれていると、本質的なビジネス機会を逸してしまう危険性があります。

人間の欲望にはきりがありません。もっと長生きしたい、もっときれいになりたい、もっと賢くなりたい…といった感情は、人間の利益、そして満足に傅くものであり、人間の人生における究極的な目的に近しいものです。 そしてそれは、純粋に必然性を満たし、必要悪として認識されるような商品には持ち得ないニーズの拡大可能性を有しており、それはすなわち消費者の生活スタイル、生活ステージ、そして生活シーンそのものの拡大を意図するものです。

人は用も無いのに飛行機に乗ったりしません。だからといって渡航の用事がある人に限ってビジネスをしていたら、ビジネス機会は限界をきたしてしまいます。でも渡航の用事を作ることができれば、そのビジネス機会は、その飛行機の座席を埋めたり、便を増発したりする可能性を有することになります。海外出張の頻度を高めることは難しいかもしれませんが、様々な国の観光情報を提供して、消費者に対する案内を行なったり、旅行会社とタイアップして商品を企画したりすることは、多くの航空会社で実施していることと思います。このようにフィットを生み出し、市場変容を促すための取り組みを評価する、またはその機会を発見するための分析について幾つかご紹介します。

クロスセル機会の発見

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この分析では自社の商品、サービスをより多く活用してもらうため、その素養のある顧客セグメントを理解しようとしています。分析例 11A では、あるクレジットカードの利用顧客の分析をしています。母集団として利用金額が上位の顧客に絞り込み、縦軸と横軸に同じ[利用シーン]セグメントを置いて、各セグメントの重複を見ています。クレジットカードの場合、顧客は幾つかの利用シーンを持っており、複数のシーンで利用されていればいるほど、メインで利用されているクレジットカードであると想定することができるでしょう。ここで 1人の顧客がある 1枚のカードを利用しており、ある一定の基準以上で記載した利用シーンにおいて利用していれば、当該セグメントに属されることとします。従って、例えば[ネット決済]と、[レストラン]の両方でこのカードを利用している顧客も存在し、[ネット決済]セグメントに属していながら、[レストラン]セグメントにも属している顧客は、[ネット決済]セグメントにおける顧客総数の 12%に上ることを意味しています。

そしてこのレポートでは、この重複度に対するしきい値の条件として、30%から 99%を定義し、該当するセルを網掛けにしています。 [レストラン]セグメントの 33%が[百貨店]セグメントに属する顧客であり、同様に[百貨店]セグメントの 43%が[レストラン]セグメントであることを示しています。この 2つのセグメントは、互いに高い重複度を示しており、比較的相関度が高い利用シーンであると想定されます。実際にはここからさらに絞り込み、例えば男性と女性で違いがあるのか、年齢層で違いがあるのか、上位 10%顧客と、顧客全体では異なるのか等も検証しなければなりません。それによって、例えば女性の友人同士でお買物とお食事をするようなシーンがそこに浮かび上がるかもしれません。いずれにしても、複数の利用シーンに共通する顧客が数多く存在し、そこに何らかの背景を読み取ることができるのであれば、それぞれの利用シーンの片方にしかカードを利用していない顧客に対しては、もう片方のシーンをアプローチすることもビジネス機会を探るという意味においては試してみる価値があるかもしれません。

分析例 11B では同じ絞り込み条件を用い、対象となる顧客数を算出した例です。縦軸には主利用シーンを置き、先ほどの 33%、そして 43%を分解しています。[セグメント顧客数]は、それぞれ縦軸に指定した利用シーンに該当するセグメントです。この 2つのセグメントで重複するのが、[重複顧客数]です。そして[重複顧客数]/[セグメント顧客数]にて、分析例 11A にて示した[重複度]を算出しています。したがって、[セグメント顧客数]から[重複顧客数]を差し引いた顧客数が[非重複顧客数]ということになります。これらの顧客はそれぞれ上から、百貨店でカードを利用しているがレストランでカードを利用していない顧客数=1,700名、レストランでカードを利用しているが百貨店でカードを利用していない顧客数=2,700名となります。これらの顧客に対するアクション例として、自宅から通勤住所間に存在する加盟レストラン、もしくは加盟百貨店を案内してみることが考えられます。

もちろん「そもそも外で食事をしないが、百貨店ではカードを利用する顧客」、そして「百貨店では買物をしないが、レストランでカードを利用する顧客」も存在するため、あまりにしつこい案内はすべきではないかもしれません。まず 1度、このような案内を行い、反応があった顧客に対してはさらに利用傾向や顧客属性を分析し、どのような背景を持つ顧客なのかを理解する必要があり、この理解に基づいて今後このようなクロスセリングの案内をする際の参考にします。そしてこれは、反応が無かった顧客に対しても同様です。グルメ嗜好はきわめて高いが、ファッションには全く関心のない顧客は、ここで反応の無いほうの顧客に類別されます。このような顧客に対しては、敢えて利用シーンの拡大を試行するのではなく、例えば新たに加盟した、評判のレストランを案内する等、今現在顧客が属しているシーンを徹底的に訴求するほうが効果的で、効率的であると言えます。

シーンの深耕

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こちらの分析は、旅行会社を想定した例です。金額的にも時間的にも余裕があり、旅行にもこなれており、かつある特定地域に対する旅行に関心が高い顧客セグメントを見つけ出しています。絞り込み条件として、個人利用の顧客で、ヨーロッパ地域に 3回以上渡航し、それらがいずれもオフシーズンに集中している顧客を対象としています。そして特に支持率の高い、顧客数で上位 5地域をリストアップしたレポートです。当然ながら 3回の渡航が集中している顧客もあれば、いずれかに分散している顧客、また上位 5地域以外の顧客も存在します。この過去の渡航地域に対する理解は、今まで渡航した地域と異なる地域を個別化して案内する際にも、同じ地域の違う季節や異なる観光スポットを案内する際にも役立てることができます。しかしながらここで主眼としているのは、オンシーズンではなく、オフシーズンに旅行ができ、かつ旅行そのものに関心があり、それをするだけの余裕がある顧客群を導き出すことにあります。

これらの顧客を導き出し、それぞれの嗜好性を詳しく理解することができれば、これらの顧客に対するオフシーズン向けの観光案内を行うことが可能となります。オフシーズンの稼働状況の低いタイミングでの飛行機、宿泊施設等を利用いただければ、顧客にとっても快適で、かつ比較的リーズナブルなオファーを提供することが可能となります。渡航地域や旅行テーマのバリエーション(ウィンブルドン観戦、収穫祭、ワイナリー巡り、レストラン巡り、オペラやミュージカル三昧等)を過去の渡航地域を考慮しつつオファーすることによって、「旅行」というシーンを深堀りし、頻度や嗜好性を押し広げる可能性があるかを理解していきます。これによって顧客毎の頻度的な限界、嗜好性の観点からの限界(グルメ嗜好はあるが、芸術には関心がない。あるいはその逆等)を理解することも可能になり、最終的にはその範囲内にオファーのレベルを合わせることができれば、この顧客のシーンをできるだけ深耕し、それを維持していくことが可能となります。

実施結果の効果測定

顧客に対して様々な形で案内を行い、認識や理解の変容を促したとき、その活動がどのように結果に表れ、どのように自社のビジネスに結びついているかを理解することは非常に重要なことです。これを理解することによって、その活動が正しかったのか、何か至らない部分があったのかを学ぶことが可能となり、それを顧客の反応を通じて評価することが可能となるからです。従ってここでご紹介する 3つの分析例は、単なるクリエイティブメッセージ案の評価から、販売方法、購買時のエクスペリエンスといった、顧客が購買時に感じる知覚がどのように結果に結びつくかを学び、「効く」要素と「効かない」要素を選り分けることを目的としています。直接的には、個別のメッセージ案内における「効果の高いアプローチ方法は何か」という点における定量的な理解を得ることが目的です。

しかしながら、このような活動を数多く積み重ねていくことによって知識が蓄積され、学習曲線の上昇を図ることが可能となります。そしてそれは、顧客の知覚と反応に対する全般的な理解を向上させ、新たに案内するメッセージにおいても勘所を掴み、マーケティング担当者の感覚を先鋭化させることへとつながるのです。結果的に、ありとあらゆる選択肢の試行を回避しつつも、より効果の高いアプローチ方法を特定するまでの時間を短縮し、最終的にマーケティング活動におけるコストの低減をもたらします。

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こちらの分析は、インターネットチャネルにおける保険商品のカタログ送付依頼、見積送付依頼の状況をトレンドで把握したものです。シュミレーションページを新たに開発して、このページがどのような影響、そして効果を与えたかを理解しています。バナー広告からシミュレーションページへ至るルートの効果、通常のホームページから流入してきた顧客が、シミュレーションページを経るルートの効果、これによって従来からあった見積送付ページと、カタログ送付ページの変化を見ています。これを見ると、バナー広告によって新たな顧客層が取り込めている点、シミュレーションを経ることによって、ホームページからの流入顧客の、見積送付依頼件数が増加している点(2行目+3行目)、一方でカタログ送付依頼の件数にはさほど影響がない点が理解できます。

ここでは新たな、セルフサービス型のアプローチ方法を展開することで、当該チャネルの構造をどのように変化させたかを見ることができます。もし、この結果に満足でなければ、シュミレーションページのデザイン変更やバナー広告のメッセージ内容、バナー広告の掲載先を変更する等、試行錯誤によってよりよい結果、つまりより多くの顧客から関心を得られ、より顧客に真剣な検討をさせる仕組みを探し出さなければなりません。その際にそれぞれの手法がどのような効果、変化の違いをもたらしたかを理解することを可能とします。

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こちらの分析では、あるビールブランドを売り場にて訴求した際に、どのように効果の違いをもたらしたかを見ています。仮に第33週はエンド陳列、第34週はこれに売り子をつけて販売した結果だとしましょう。この場合、2つのアプローチ方法がどのように違いをもたらしたのかを理解することができます。また例えば第33週が通常の陳列で、第34週が大量陳列、もしくは割引訴求であるとすれば、通常販売に対してどの程度の上積みがもたらされたのかを理解することが可能となります。

小売業であればこのようなデータは POSデータから取得することが可能であり、仮に顧客ID付きのデータでなくとも、アプローチそのものに対する効果を理解することができ、季節や温度、曜日による販売動向の違いを理解することが可能となり、仕入や陳列に役立てることも可能となります。またメーカーにとってもこのようなアプローチ方法の違いを理解することができれば、どのようなアプローチは販促経費をかけるに値するのかを理解し、今後アプローチ方法を選択する際に参考にすることも可能です。また、新規に商品を投入するタイミングと、継続販売している商品に適用する場合の効果の違いも参考になることでしょう。

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この例では「ADSLを 1ヶ月無料でお試しいただき、良ければそのままお使いいただく」キャンペーンを展開したときの収益性を理解しようとしています。顧客に 1ヶ月間疑似体験していただき、利用体験をシミュレーションしていただくアプローチ方法を選択したとき、どのような効果が得られるかを理解しています。

分析では、このキャンペーンに申し込んだ顧客、そしてその顧客が 1ヶ月経って、継続利用したか、それとも 1ヶ月で終了したかを選り分けています。そして申し込みいただいた顧客が向こう 36ヶ月利用すると仮定し、その際の利益額を算出しています。さらにこれに対して広告費用、経費率、そしてキャンペーン用に 1ヶ月無料にした分のコストを足しこんで経費額合計を算出し、このキャンペーンがどのような ROI:Return On Investment(投下資本収益率)を得られるかを算出しています。

一定期間に及ぶようなサービスを提供するとき、投資回収はある程度の期間の中でなされます。ここでは無料期間を 1ヶ月、そして想定利用期間を 36ヶ月と固定し、その効果を評価しています。また、さらに「何ヶ月サービス利用が継続すれば元が取れるのか?」、「今現在の平均的なサービス利用月数はどの程度か?」、「何ヶ月無料の場合がもっともインパクトと収益性のバランスが良いか?」といった考えを検証できれば、このアプローチ方法にファインチューニングを施すことが可能となります。また、ここでは割愛しますが、通常の申し込み顧客数からの収益アップリフトと、当該キャンペーン実施時の経費アップリフトを比較すれば、このキャンペーンが好ましい結果をもたらすものかどうかも評価可能です。

以上、顧客、つまり市場に対して変容を促し、新たなフィットを生み出すために、利用可能な分析の例をご紹介しました。

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