この本書は2017年4月1日にTeradata Japanのブログに掲載された内容を、再掲載したものです。
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著者 山本 泰史 (やまもと やすし)
顧客分析の手順
第15回: 削除候補商品と優良顧客の関係
「パーセンタイルプロファイリング」を利用した分析例として、今回は「優良顧客の育成」をテーマとした分析例をご紹介します。顧客により多く支出いただくためには、それに見合う価値を提供しなければなりません。価値の主たるものとして、商品やサービスが存在します。そして今日、企業は数多くの商品やサービスを扱うようになってきています。
分析の前提
今回は分析実施の前提として、物販業を営む企業を想定します。オンライン販売や物理店舗における小売販売がその代表ですが、物質として存在する商品を直接消費者に対して販売する企業では、一般に数多くの商品を扱っています。目的は一回の来店機会においてより多くの商品を販売できるように、そして「何も買うものが無い」ために顧客ががっかりしてしまわないようにすることです。
そして、次々に新たな商品が開発され、投入されると、それと引き換えに社会的な役目を終えた、もしくは役割が縮小する商品も出てくることになります。売れ筋の商品は移り行き、そこから外れた商品は削除されることになります。そして扱う商品が膨大になればなるほど、削除商品の選定は雑になりがちです。
全体 vs. 特定セグメント
この分析では、全顧客を対象としたクインタイル(5等分割)分析と、扱い停止予定の商品を購入している顧客セグメントを対象としたクインタイル分析を実施し、比較しています。図23 は全顧客が対象、図24 は扱い停止予定商品購入セグメントが対象です。
両方の分析ともに、年間買上金額順で顧客を並び替え、年間買上金額の高い順から顧客を 5つのグループに分割しています。グラフのバーとして表示している指標値は所属する顧客の年間買上金額の合計値を所属顧客数で割った、平均的な 1人あたりの年間買上金額です。一方は全顧客を対象としており、一方は特定の商品を購入した顧客に絞り込んでいるため、当然ながら顧客数は大きく異なります。従って比較をし易くするために 1人あたりの年間買上金額を指標値として利用しています。
このケースでは、扱い停止を予定している商品を購入している顧客セグメントは、全般的に全顧客の平均的な買上金額よりも高い買上金額を記録していることが分かります。本来、この商品が扱い停止になる理由は、おそらく販売数量が少なくなっているか、後継の商品を投入するためのいずれかと想定できます。
アプローチの方向性
しかしながらこの分析結果が示すように、当該商品がこのような高い買上金額を示す顧客群に支持されていることが分かれば、この商品を簡単に削除するわけにはいきません。扱いボリュームを減らす等の検討は必要かもしれませんが、扱いを停止してしまうのは、これらの顧客の来店理由を 1つ無くしてしまうことになりますし、来店いただけたにしてもこの商品の買上が減り、来店あたりの支出額が低下する可能性があります。
物販業に限らず、「ビジネスにおいてもっとも希少性が高いのは、顧客が自社チャネルに足を運んでくれた瞬間」です。この瞬間において良い提案(=商品の陳列)ができれば、顧客はそれを受け入れ、支出を許容してくれます。でも欲しいものが見つからなければ、がっかりしてしまいます。当然ながら支出も増加しません。この分析例においてこの商品は、もしかしたら来店理由になっているかも知れず、また支出増の 1ファクターになっているのです。
また、後継の商品を投入する場合には、それが本当に後継としての役割を担っているのかが検討されなければなりませんし、これら顧客群の後継商品への移行をスムーズに進めるためのアプローチが必要になります。陳列レベル、もしくはダイレクトメール等を通じたアプローチで「従来商品(今回扱い停止の商品)より良くなった点、メリット」等を伝え、顧客に理解を促すことが必要になります。
パーセンタイルプロファイリングの適用分野
パーセンタイルプロファイリングは大きく、以下の内容を定義して実施されます。
1. 分析の対象となる顧客セグメントの特定
2. 顧客をグルーピングする基準定量指標の決定
3.グルーピングする数の指定
4.表示させる定量指標の特定
これらは全て任意に指定します。例えば 3.の値を「4つのグループ」に指定すればクォータイル、「5つのグループ」に指定すればクインタイル、「10のグループ」に指定すればデシル分析となります。最大100(パーセンタイル)までの任意の整数を指定可能であるため、「パーセンタイル」プロファイリングと呼ばれています。 また、2.で指定した基準定量指標と、4.で指定される定量指標は異なっていても構いません。例えば、図23、図24で表示する基準定量指標を買上金額で把握しつつ、定量指標を「平均買上点数」とすることも可能です。これにより、買上金額が高い顧客は、平均買上点数が高い故に買上金額が高いのか、それとも単価の高い商品を購入しているために買上金額が高いのかを理解できるようになります。
パーセンタイルプロファイリングのコンセプトは、「等しい顧客数で等分したにも関わらず、定量指標で分割した場合にどのような指標量差異が現れるか?」を把握するための分析であり、定量指標で顧客セグメントを分解することによってセグメント構造を明らかにすることが目的です。