野生哺乳類とヒルの研究がDNAで出会った
屋久島の野生哺乳類と吸血性のヤマビルに関する分子生態学研究の論文を紹介します。
Host selection of hematophagous leeches (Haemadipsa japonica): Implications for iDNA studies.
Goro Hanya, Kaori Morishima, Tomoya Koide, Yosuke Otani, Shun Hongo, Takeaki Honda, Hiroki Okamura, Yuma Higo, Masamichi Hattori, Yuki Kondo, Yosuke Kurihara, Sakura Jin, Aji Otake, Izumi Shiroisihi, Tomomi Takakuwa, Hiroki Yamamoto, Hanami Suzuki, Hisashi Kajimura, Takashi Hayakawa, Nami Suzuki‐Hashido, Takafumi Nakano.
Ecological Research (in press). DOI: 10.1111/1440-1703.12059
登場動物の写真
*Ecological Research* 誌の [graphical abstract](https://wol-prod-cdn.literatumonline.com/cms/attachment/7fffa7f9-ae92-45c3-851e-16b4a0d95ea7/ere12059-toc-0001-m.jpg) より
屋久島のヤクシマザル(Macaca fuscata yakui)とヤクシカ(Cervus nippon yakushimae)
早川研究室より
論文の概要
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【対象】 吸血動物(hematophagous animal)のヒル(環形動物門ヒル綱)。ご存じの通り、動物の血を吸って生活している。じめじめした森を歩いていると、気づいたら足が血まみれになっていることがあるのは気配なく忍び寄られたヒルに血を吸われた結果。
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【調査地】 屋久島(世界自然遺産を有する鹿児島県の島)でヤマビル(Haemadipsa japonica)を収集。
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【方法】 ヒルの腸内に含まれているヒルが他の動物から吸った血液からDNAを抽出。哺乳類のミトコンドリアDNAのバーコード配列を、従来のサンガーシークエンサーや次世代シークエンサーを用いて同定。
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【結果1】 ほとんどのDNA配列がヤクシカであると同定。ヤクシマザルや、ヤクシマタゴガエル(Rana tagoi yakushimensis)も検出。同じサンプルから複数種が検出されることもあり、ヒルは同時に複数の動物から吸血している可能性がある。
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【結果2】 ほとんどがシカというのは、同所でのカメラトラップに観察できる動物相の頻度と異なっていた。
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【考察】 地上性で体サイズが大きいシカは吸血対象としやすく、ヒルは頻度高く選択した結果と考えられる。ヒメネズミ(Apodemus argenteus)やヤクシマザルは樹上性傾向が強く、さらにサルにいたっては自身や他者についたヒルを物理的に除去できるため、哺乳類側の吸血回避戦略も関係してるだろう。
論文の波及効果は?(私見含む)
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ヒル由来の環境DNA(iDNA = invertebrate-derived DNA)でその環境の生物相を把握しようという研究は2012年に提唱されている(Schnell et al. 2012 Current Biology)。
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しかし、ヒルのiDNAデータは、ヒル自身のホスト選択(host selection)の影響を受けており、生物相の多様性の理解には直接用いることができないことを、今回の屋久島での研究が示している。
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むしろ、ヒルのホスト選択と、四足動物(シカ、サル、カエル)の吸血回避戦略を示唆するということで、ヒルの生物学研究が進んだのかもししれない。
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哺乳類の生態学研究と、無脊椎動物の生態学研究が、分子生態学研究で繋がるというのが面白いですね。