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アウトプットを伴走するクラウドエンジニア育成をはじめた話

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はじめに

社内のクラウドエンジニア育成を目的として、以前からハンズオンなどを企画し定期的に実施していました。限られたメンバーと時間の中で何か新しい取り組みができないかと考え、2022 年から「アウトプットを伴走する」育成を始めました。少しずつ成果がではじめていると感じているため、Qiita でも共有させてください。

きっかけ

ありがたいことに私個人として APN AWS Top Engineers という日本独自の表彰プログラムに 2019~2022 年まで 4 年間選出いただいます。その間、所属会社から複数名選出されることはなく、どうにか社内で仲間を増やしたいなと考えていました。

また社内における私の役割としてもクラウドの専門性を個人だけではなく組織に波及させることが求められるようになってきました。

そんな中、社内の複数部門からクラウドエンジニアの育成について相談いただき、「仲間を増やす」「研修や勉強会とは違った形で継続できる」「エンジニアの成長につながる」といった観点での支援ができないかと思ったのがきっかけです。

育つ人は勝手に育つという意見もあるかと思いますが、そのスイッチが入る環境や機会を提供できないかと考えました。

アウトプットを伴走する育成とは

主に以下の 3 点に主軸を置き、自ら参加を希望したメンバー 6 名 + メンター 2 名で活動しています。

  • 社外を知る
  • 技術研鑽
  • 社内認知を広げる

また 1 つの大きな目標として 2 年後の APN AWS Top Engineers 受賞を設定しています。

メンターは私 (APN AWS Top Engineer) と私の上司 (Microsoft MVP for Microsoft Azure) です。メンターの 2 人が過去~現在まで取り組んできた活動をもとにしています。基本的にメンバーが自発的に取り組もうとしている/取り組んだ活動を週次で確認し、アドバイスをするというスタンスをとっています。

6 名というのは主に業務で AWS を活用しているメンバーです。同様の活動を Azure と Google Cloud でも社内からメンバーを募集しておこなっています。

実際にどんな活動をしているかについては以下の通りです。
共通しているのは「インプットやアウトプットを楽しむこと」の習慣をつけることだと考えています。

社外を知る

  • AWS 公式イベントや JAWS-UG 等のコミュニティイベントへの参加、登壇
  • Qiita 記事投稿 (月 2 件を目標に)

まずは積極的に外に出てほしい、業務で携わるもの以外の情報も浴びてほしいということを伝えています。
その上でインプットだけじゃなくアウトプットすること、具体的には Qiita での記事投稿や外部登壇へのチャレンジを奨励しています。

登壇経験のあるかたはご理解いただけると思いますが、準備~発表の過程で得られる登壇者自身の学びが大きいと考えています。

記事のアウトプットについては広木 大地さんの以下のポストをメンバー全員に読んでもらっています。かっこいい記事を書くのが目的ではなくインプットとアウトプットを通じて学習サイクルを回せるようになることを重要視しています。

AWS 公式イベントについても様々ありますが、特に年次カンファレンスである AWS re:Invent については参加を推奨しています。部門の予算や業務との兼ね合いはありますが、なるべく希望者が現地参加できるようにしたいと考えています。現地参加でしか得られない熱量、学び、モチベーション向上があるからです。

技術研鑽

  • 業務で得た知見や本活動の中で新しい技術を深掘り
  • 資格取得

気になった新サービスやアップデート、あるいはコンテナや Serverless など興味のある分野を検証してみるなど、実際に手を動かして学ぶことはクラウドサービスの学習においては重要だと考えています。クラウド設計・運用のベストプラクティス集である AWS Well-Architected Framework においても組織における「実験」や「スキル強化」の重要性が言及されています。

実験は、学習を加速し、チームメンバーが関心と当事者意識を持ち続けることの一助となります。望ましくない結果は、成功につながらないパスを特定することに成功した実験です。望ましくない結果が得られた実験が成功してもチームメンバーが罰せられることはありません。イノベーションを起こし、アイデアを成果に変えるには、実験が必要です。

チームは、ワークロードに対応するに際して、新しいテクノロジーを採用し、需要と責任の変化をサポートするために、スキルセットを強化する必要があります。新しいテクノロジーにおけるスキルの発達は、多くの場合、チームメンバーの満足度の源となり、イノベーションをサポートします。チームメンバーが強化している自らのスキルを検証および認識し、業界認証を追求および維持できるように支援します。組織の知識とスキルを持ち、熟練したチームメンバーを失った場合は、クロストレーニングによって知識の伝達を促進し、重大な影響のリスクを緩和します。学習のために専用の時間を割り当てます。

後述する参加条件でも言及していますが、メンバーはあらかじめ業務時間内も学習時間を確保できるよう事前に所属部門と調整しています。

資格取得はスキルの検証、認証の意味合いだけでなく、AWS, Azure, Google Cloud のようなクラウドサービスを効率的に学習するための 1つの手段でもあります。これらのサービスは扱う技術スタックの範囲がとても広いため、体系的に知らない機能やサービスを効率よく勉強していくという観点でも認定資格の取得を奨励しています。AWS Top Engineers への選出を目標しているメンバーにとっては クライテリア の 1 つでもあります。

社内認知を広げる

  • 社内ポータル、Slack 等での発信
  • 社内ナレッジサイト (Wiki) への投稿
  • 社内勉強会開催 (講師として)

将来的に一緒にクラウドを学んでいく仲間を増やしていくためには社内への発信も重要です。

いわゆる社内ポータル (社内報) サイトに定期的に活動トピックやイベント参加報告などを育成メンバー自ら投稿しています。例えば昨年末に「2022 年末 AWS GameDay 大会 for AWS Top Engineers」というイベントに育成メンバーと参加し、3 位入賞することができました。こういったイベントに参加したメンバー自ら学びや楽しさといった熱量を発信することで、「次回は自分も参加してみたい」と考える社員が増えるきっかけになってほしいと考えています。

昨今リモート勤務の割合が増え、特に部門を超えてのつながりが少なくなっています。こういった発信により、不定期に社内開催されるビアバッシュなどのオフラインイベントで「よく AWS の情報について書いてくれている人ですよね」のような会話が生またり、部門を超えた横のつながりができたりするきっかけになるとよいなという思いもあります。

講師としての社内勉強会の開催も意図としては外部登壇と似ています。資料や講義内容の準備・検証など、講師を担当することで得られる学びや経験があります。

参加条件

  • 目安として業務時間内に月 30 時間程度の活動時間を確保できること
    • あくまで組織としての育成プログラムであるため、業務時間内に活動できるように教育用の工数確保をお願いしています
    • どちらかというと参加メンバーの上長との調整です
  • 活動の趣旨を理解し、本人の参加意思があること
    • 目標のためには少なからず業務時間外の活動も必要になる点についても伝えています
    • 本人が参加に前向きであればスタート時点での知識レベルに制限はありません

事前のモチベーションは高かったが、実際に取り組んでみたら自分には向いていなかったというケースも想定されます。こういった活動は誰かに強制されたり、本人がつらい思いをしながらでは継続することが困難です。そのため本人の意向次第では途中リタイアも OK としています。それがマイナス評価になることもありません。

メンターがサポートしていること

定例会

メンバー + メンターで週 1 の定例会を開催しています。各自が 1 週間の間に取り組んだインプット & アウトプットの状況や今後の予定などを共有しています。その中で気になった Web 記事やブログの紹介をしてもらう時間を必ず設けています。内容は必ずしも AWS のアップデートである必要はありません。ChatGPT や Stable Diffusion などの生成 AI で遊んてみたとかそういったものでもかまいません。業務にこだわらず様々な技術トレンドを意識的にインプットするという習慣づけてもらいたいからです。

1on1

月に 1 回の頻度でメンバーと 1on1 を実施しています。雑談や個別のお悩み相談、キャリア相談などがメインの話題です。

月 30 時間の活動については、業務の波によってはやはり確保が難しい時期もあり、ある程度学習のサイクルが回ってきたメンバーにとっては「アウトプットしたいのに時間がとれない」というもどかしい状態になることもあります。そういった状況もヒアリングしつつ、必要に応じてメンバーの上長を交えて対策を考えることもあります。

Slack

定例会や 1on1 以外での連絡は基本的には Slack でやりとりしています。AWS 関連イベントの共有や、Qiita 記事の内容確認、定例会で盛り上がった話題の延長戦、業務上の技術的な質問などなど内容は問わず、普段から気軽に連絡がとれるような場として必要です。

クラウド LT 大会の企画

社外の勉強会などでの登壇を推奨していますが、やはり最初の心理的なハードルは高いものだと思います。そこで自社の人事部門と共同で社内・社外の方々にむけて「クラウド LT 大会」を企画し、隔月くらいのペースで実施しています。募集は connpass でおこなっています。直近で 3/1 に第 3 回を予定しているので興味のある方がいらっしゃれば気軽にご視聴ください。

また会社間交流的な意味でジョイントの LT 大会や勉強会もできたらおもしろいかなと考えています。もし興味を持っていただける企業様がいらっしゃれば Twitter の DM でご連絡いただけたら嬉しいです。

実感している効果

昨年から取り組み始めた育成であるため、AWS Top Engineers 受賞などの対外的な結果はもう少し先になるかもしれません。が、共通の目標を持ち、参加メンバー同士で刺激し合いながら、持続的に学習サイクルを回すという点においては成果が得られていると感じています。

実際にメンバーから聞いている声としても

  • インプット & アウトプットしていた内容を業務に生かすことができた
  • 自ら情報収集を行う習慣ができた、業務以外の情報にアンテナを張っておくことの重要性に気が付くことができた
  • インフラだけじゃなくアプリケーション回りにも目がいくようになった
  • この活動を通してチーム内でナレッジを共有するようになり、文化が変わってきた
  • チーム内で資格をとっていこう、クラウドネイティブを勉強していこうという空気ができている
  • 定例会などで業務と関係なく技術の話をできる時間があるのは単純に技術者として楽しい

というようなポジティブなものが多いです。

またメンター視点では、実は定例会や 1on1 くらいしか大きな工数はかかっていません。以前はワークショップなどの研修型教育も内製で実施していましたが、教育を担当するメンバーが限られている状況下においては多種多様な研修を用意したくても時間がなく、スケールもしづらいという悩みがありました。

アウトプット伴走型の育成は、メンバー数も開始当初の3 人 から 6人に増加し、Azure や Google Cloud もあわせると 2 桁の人数になりますが、今のところ他の業務に手がまわらないといようなことは発生していません。

また全社ミーティングでこの育成プログラムが参加メンバーの個人名とともに紹介されるなど、社内の注目度も高いです。全社の活動トピックとして取り上げてもらえている、会社も活動を支援してくれているというのは、それ自体がメンバーのモチベーションにも少なからず繋がります。

この事例が少しでもどなたかの参考になれば幸いです。

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