はじめに
今年re:Invent2023に初めて参加することができました
以下の記事でも書いた通り本当に参加して良かったし、また来年も参加したいと思っています
ただ一方で、Keynoteを聴いたり帰国後に情報を振り返っていたら、ふと 「AWSはイノベーションのジレンマに陥ってるのでは?」 と思いました
そんな中でいちエンジニアが色々と考えたことを、つらつらと書いておきます
前置き
筆者はビジネス書を読むのが好きな普通のエンジニアです
そして、「イノベーションのジレンマ」はかなり奥が深い話です
正直なところ、筆者はイノベーションのジレンマを完全に理解していると自信を持って言えないです
なので、もしかしたら理解が間違っている部分があるかもしれません
もし見つけたら、ご意見をいただけると幸いです
またこれが一番言っておきたいことですが、 AWSもしくはAmazonのことを悪く言うつもりはなく、むしろ筆者はどちらの企業にも大変お世話になっており、なおかつAWSのことは大好きです
これからも上記企業の応援をしたい!という思いを込めて記事を書いています
イノベーションのジレンマとは
ハーバードビジネススクールの教授である「クレイトン・クリステンセン」さんが書かれた書籍のタイトルで、そのまま理論の名前として使われることもあるようです
イノベーションのジレンマは以下のような現象のことを指します
業界のトップ企業が、顧客の声に耳を傾け、新技術に投資しても、なお技術や市場構造の破壊的技術に直面した際、市場のリーダーシップを失ってしまう現象
(著書の帯より引用)
しかもこの現象は、 トップ企業がうまくやろうとすればするほどリーダーシップを失いやすくなる と書かれています
その流れをざっくり説明すると
- トップ企業ではステークホルダーのために持続的技術を磨き、既存サービスのブラッシュアップや新機能追加をどんどん進める
- 一方で、今までにはなかった革新的な破壊的技術が、新興企業で生まれることがある
- 誕生したばかりの破壊的技術は、しばらくの間は顧客のニーズを全く満たすことができない
- トップ企業は目もくれない、もしくは扱おうとしても直接利益に繋げることができない(=ステークホルダーの理解を得られない)
- ただし、いずれ破壊的技術は既存の技術を大きく上回る性能を発揮し始め、それを使っている新興企業がメキメキ伸びる
- 気がつくとトップ企業は新興企業に置いていかれ、世界で使われている技術も全く新しいものに置き換わる
イノベーションのジレンマが怖いのは、文字通り「ジレンマ」なのでなかなか抜け出せないところです
大企業はすでに存在している顧客を満足させることが第一ですが、一方で破壊的技術に注意しないといけません
ただ、破壊的技術にガッツリ投資すると業績への影響があり、顧客や株主への説明責任が発生します
そんなジレンマに縛られている間に、しがらみが一切ない新興企業はのびのびと破壊的技術を使って製品開発をします
そして気がつくと、世界で使われる技術が丸っと置き換わってしまう、そんなことが今まで頻繁に起こってきたのです
持続的技術と破壊的技術
上記で出てきた「持続的技術」と「破壊的技術」について、クラウドと例えに使って補足しておきます
持続的技術
すでにある製品やサービスの質を高める技術のこと
例えば、AWSではインスタンスの種類がたくさんありますが、それぞれ「世代」という考え方があります
世代が新しいほどCPUやメモリの性能が高くなり、価格も安くなる傾向があります
このように、既存の製品やサービスにさらに磨きをかけて、顧客が求めているものに答えていく技術のことを「持続的技術」と呼びます
破壊的技術
「従来とは全く異なる価値基準を市場にもたらす(引用)」 ような技術のこと
誕生当初は顧客のニーズを満たすことができない、寧ろ性能が下がるが、破壊的技術によって生み出された製品やサービスはシンプルだったり使い勝手が良かったりします
例えばクラウドそのものが破壊的技術と言えると思います
AWSが誕生した当初は、キューイングサービスのSQSやオブジェクトストレージのS3しかありませんでした
その後登場したEC2も、揮発性メモリしか使えなかったので基幹システムを載せるなんてもってのほかだったとのことです
※AWSの昔話が知りたい方は、こちらの本をぜひお読みください
しかし、今ではオンプレ環境では到底実現できないようなサービスばかり存在し、オンプレからクラウドへの移行が進んでいます
このように、誕生当初は見向きもされない真新しい技術だが、いずれ既存の技術を破壊する可能性を秘めている技術を「破壊的技術」と言います
なお、この破壊的技術の厄介なところは 「何が破壊的技術になるかの予測が難しい」 ことです
なので、そもそもトップ企業は対抗策を打つべきかどうかの判断がしにくいと考えられます
イノベーションのジレンマに対する対抗策
著書の中で、イノベーションのジレンマへの対抗策として挙げられているのは以下の3つです
- 破壊的技術が十分使えるものになるように参入する
- 破壊的技術が成熟するのを待って参入する
- 破壊的技術を扱える小規模な組織を作り、そこに任せる
そして、3つ目が一番可能性が高いと言っています
この方法は、例えば大企業の一つの部署もしくはチーム単位で破壊的技術を使った製品開発を行うようなことを指します
しかも、大企業の中からスピンアウトさせてしまうことで完全に任せることができ、成功確率が上がるとのことです
AWSサービスのアップデートの様子をイノベーションのジレンマに当てはめてみる
前置きが長くなってしまいましたが、ここからAWSにイノベーションのジレンマを当てはめてみて感じたことを書いていきます
破壊的技術の誕生から持続的技術の連鎖へ
そもそもクラウド自体が破壊的技術と考えられると思うので、AWSは「クラウド」という破壊的技術を最初に成功させたすごい企業だと思います
今では会社の重要なシステムであっても、AWSをはじめとしたパブリッククラウドを使うことが普通になってきています
ただし、re:Inventに限らず最近のAWSの新発表は「持続的技術」が多いように感じます
例えばS3に関しては、すでにGlacierや低頻度アクセス用のタイプなど、約8種類あります
ここに今回、低頻度アクセスに磨きをかけた「Express One Zone」が追加されました
非常にニーズがあるサービスだと思う一方で、持続的技術の代表例だと思いました
このように、AWSの新発表は徐々に持続的技術の方が多くなってきているような気がしました
Amazonの使命がしがらみになってしまわないか
ただし、持続的技術をバンバン磨くのは、Amazonの使命を考えると当たり前のことだとも考えられます
その使命とは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」です
この使命によってクラウドはどんどん使いやすくなっており、筆者ももれなくこの使命によって助けられていると感じることが多いです
ただ裏を返すと、「顧客の要望を実現し続けているうちに破壊的技術が生まれ、追い越されていく」という流れを冗長させかねないとも思います
対抗策
では何も対向策を打っていないのかというと、そんなことはないと思います
re:Inventでの発表の中での破壊的技術(?) Amazon Qと量子コンピューター
re:Inventの新発表の中で、破壊的技術になりうると思ったものもありました
ひとつはAmaozn Qだと思います
筆者は現地でAmazon Qの発表を聞いていましたが、「AWSさん、やばいものを発表してきたな。。。!!!」と恐れ慄きました
今までの仕事のあり方をガラッと変えてしまう、そんなサービスだと思います
Amazon QをはじめとしたAI関連の発表が多かったですが、破壊的技術の候補として十分考えられるAIにもちゃんと力を入れているのだと感じました
もうひとつ筆者が気になったのは、 Monday Night Liveで登場した量子コンピューターです
Peter DeSantisが実物を手に持って話していましたが、面白かったのは 「現在まさに改良を重ねている、いずれ良い発表ができる」 という話だったことです
新発表の嵐になるKeynoteの中でわざわざこの話をしたのは「量子コンピューターにも力をいれてるんだぜ」というアピールなのかなと思いました
量子コンピューターも破壊的技術になりうるものだと思いますが、今はとても使える代物ではないという状態らしいです(Keynoteの中でも話していました)
といいつつも、実際に量子コンピュータをどのように開発しているのかについてのビデオが流れるなど、AWSが力を入れていることがとてもよくわかる発表でした
これは明らかに「破壊的技術への対抗策」だと筆者は思いました
Day Oneの文化
ここで最後に、Amazonのカルチャーから対抗策を考えてみます
そもそもAmazonには「Day Oneの文化」というものがあります
これは「創業したばかりの1日目の時の気持ちを忘れないようにしよう」といった文化です
顧客を大事にしつつも、新しい挑戦や実験を怠らず失敗も受け入れよう、そんな文化になっています
顧客を大事にするという「持続的技術」に繋がりうる要素がありつつも、挑戦や失敗を受け入れる「破壊的技術」につながる要素もある、非常にバランスが取れた内容だと感じました
この文化がAWSを含むAmazon社内では浸透していると聞いたことがありますので、そもそもの文化が破壊的技術への対抗になっているのではないかと感じました
最後に
色々と思ったことを書きましたが、re:Inventに参加したことで一人のファンとしてAWSを応援したい気持ちが高まりました
それに、クラウドが一般的になったからと言ってもまだまだ黎明期にあると感じます
成熟しきっているように見えるAWSも、伸び代ばかりだと思いました
今後どんなふうにAWSやクラウドが進化していくのかが楽しみですし、その進化に少しでも貢献できるように頑張っていきたいと思いました