はじめに
投稿者の方でも多く書評が上がっている「世界一流エンジニアの思考法」を年明けから読んでいましたが、個人的に単なる自己啓発本という位置づけではなく、読み手のマインドや、ともすれば生き方についてきっかけを与えてくれる良書なのではないかと思いました。
良書と思った理由
「自分がモヤっと思っていたことや、ダメだったなと思うを言語化してくれたこと」だと思います。ネガティブなことや、自分がやってみてダメだったことって、どうしても言葉に落とすところが難しかったりするんですが、そこをきちんと拾い切れていて、明確なセンテンスにしてくれているところです。
目からうろこだったこと
僕もコーディングや設計をやっていたころから人よりも作業が遅く、理解にも時間がかかっていたので「才能がない」とか「この仕事向いてない」といつも思っていて、個人の嗜好は置いておいて、エンジニアを職業としてやっていくしかないのかな・・・と思っていたんですが、
- どんなに頭のいい人でも理解には時間がかかる。だから理解には時間をかけた方がいい。
- 30分から1時間を割当てたら、そのこと「のみ」に取り組む。すぐに終わらないものは、人に問い合わせるなど、物事を進めておいて待ち状態にし、次のタスクに進む。
- 一つのことをやっているときは、他のことは一切せずに集中する。
というできるひとこそ、自分が出来ることを最大限にやろうとしていて、そのやり方の問題なんだなというのが理解できたのがとても大きかったです。
Be Lazyという考え方
エンジニアは怠惰であれ。これはこの本を読む前からは耳にしたことのあるキーワードですが、実際に今の日本で業務をしていると、怠惰でいるかな?というのが正直な思いですよね。いろんな作業がマルチタスクになって、納期厳守が第一で、少しでも品質に問題があると、途端に使えないエンジニアの烙印を押され、評価が下がる…。そんな思いを抱えながら業務を行っているのが、正直な気持ちなのかなと思います。
ちなみにBe Lazyの考え方は以下の通り。
- 望んでいる結果を達成するためには、最低限の努力をする
- 不必要なものや付加価値のない仕事(過剰準備含む)をなくす。
- 簡潔さを目指す。
- 優先順をつける。
- 時間や費やした努力より、アウトプットと生産性に重点をおく。
- 長時間労働しないように推奨する。
- 会議は会議の時間内で効率的かつ生産的に価値を提供する。
Be Lazyの考え方では、優先順位はつけても、高いものをきめたらそれ「しか」しない。集中して取り組む。日本のように優先順位はつけるけど、結局は書かれていること全部やるという進め方を否定していることが理に適っているなと思いました。
やることを極力少なくして、より価値の高いことに集中する。
とても良い考え方と思う一方、単なる「作業」ではダメだということを示唆しているのかと思います。Be Lazyという考え方は、字面だけの良さそうな考え方でなく、「やることに集中する以上、単なる作業で時間を潰すのではなく、常に価値の高い業務を取捨選択し、効率を考えてアウトプットする」という、"小さなことからコツコツと"に慣れている日本人の考え方には実は結構ハードルの高いことではないのかなとも思う次第です。
それでも、エンジニアしてこの視点や考え方というのはとても重要。実際の業務とは完全にまではいかなくても折り合いをつけて取り組んでいきたいマインドだと思います。
「批判」の文化に対する警鐘
第7章 AI時代をどう生き残るか?という章で、筆者の牛尾さんは何故に日本にはChatGPTのようなサービスが生まれなかったのか、という問いに対して、「アメリカは専門性を高めるという蓄積に価値が置かれ、(品質が担保出来ないことがあるため)スピードは思ったよりも重要視されていない」ということと併せて、日本における「批判文化」について指摘と強い警鐘を鳴らしています。
2020年6月のCOVID-19におけるCOCOAのリリース後に沸き起こったアプリに対する批判をはじめ、ソフトウェアには常に不具合やバグがつきものなのにもかかわらず、日本では常に完璧なものを求められ、先陣を切って何かにトライする人に対して嫉妬にも似た粗探しや批判、冷笑、抽象が渦巻き、新しいチャレンジを阻害している、というものです。
これは個人的にもとても身に覚えがあり、僕も新しいサービスや提案をしたときに、実際には権限もないし、手も動かさない人たちから、口だけ出されて、この人たちのために提供するサービスって何なんだろ?と思ったこともありますし、今もいろんな部署の方々から「専門家なら出来て当たり前」「完璧なものが出来て当然」というマインドが多く、それによって心が潰れる温床がたくさんあるよな、と実感します。
もちろん批判する側も、彼らの立場があるから、と理解している面もありますが、結局批判する人たちって大体「何もしていない」人たちなんだな、と経験上思うわけです。
ここで牛尾さんは、大事なマインドとして
- Contribute(貢献)する文化
- 人に何かを期待するのではなく、まず「自分がどういう貢献ができるか?」という公共性をベースに考える
- 常に「ありがとう」といえる感謝の気持ちを心がける。
ことの重要性を説いています。
これは、今すぐ働いている場所の環境や文化を変えることは出来なくても、今自分が出来ることって何だろう?というのを、会社基準ではなく世の中基準で考えたら、足りない部分や吸収しなくちゃいけない部分というのが見えてくるし、感謝して貢献するという気持ちを持ち続けて発信することによって、自分の仕事環境がちょっとでも変えて行けるのかな、と思います。
牛尾さんが見てきたこと、世界一流のエンジニアの皆さんがやっていることって、本当に「口で言うのは簡単だけど、実際にやるのは難しいこと」だし、彼らだって僕らとそこまで大差ないのだから、いますぐでなくても、心がけ一つで、ほんのちょっとは近づける存在なのではないか?と気づかされた一冊でした。
感謝の気持ちを込めて
牛尾さんにはとても良い書籍に出会わせて頂き、本当にありがとうございました。
書かれていることのすべてを今すぐできるわけではないし、現実と折り合わせる必要はあるけど、エンジニアとしてでなく、人として重要なマインドを気づかせてくれたのかなと思います。
あと、クラメソさんの書評も大変よかったので、リンク張らせて頂きます。
https://dev.classmethod.jp/articles/review-how-world-class-engineers-think-book/