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大企業で新規事業創出の専門組織を立ち上げることになった話

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はじめに

掲題の通り、データサイエンティストとして日々社内のデータ活用を推進していたのですが、そろそろ社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)だけでなく、ビジネスレベルのDXをしないとね、ということでデータドリブンな新規ビジネス開発専門組織の立ち上げをすることになりました。

私自身、このミッションについては強い思い入れが在りましたので、喜んで参加することにしました。

現在、いろいろな技術が出てきたこともあり、ビジネスにはイノベーションが同時多発的に起こり続けています。
しかし、多くの日本企業、しかも昔からある大企業ほど、この潮流に取り残され、現業の深化だけに邁進しているケースが少なくありません。

本記事では、現在の状況の一側面を整理し、どんな組織があればJapanese Traditional Company(JTC)が前に進んでいけそうかを書いていきたいと思います。
自社の変革(トランスフォーメーション)を考えている方やそこにJoinしようと思っているデータサイエンティストやエンジニアの方の参考になれば幸いです。

※データサイエンスの話は出てきませんが、データサイエンティストは割と「新規事業創造して」みたいなことを言われている方が多いようですので、ご参考ください。

世界のデジタルテクノロジーの潮流

世界の現在と未来を比較した調査資料は色々ありますが、Ark Investが出しているレポートにて、大変興味深い予測が出されていました。

以下の予測によると、既存マーケット(Non-Innovation Equity Capitalization)の市場規模に比べて、AIなどの技術の市場規模が2030年までに大きく変化することが示されています。
特にAIは2030年にはほぼ既存マーケットと同レベル(1兆$規模)、ブロックチェーンは5000億$規模まで成長し、世界の価値の重心が大きく変化することが予想されています。
スクリーンショット 2022-07-18 16.16.57.png

これが意味するところは、たった10年の間で世の中で求められる価値が変化し、既存マーケットに属する企業は主役の座から退場していくということです。

既存マーケットに属する企業は、もちろん現業に固執することもできますが、生き残りをかけて急成長していく市場を事業ポートフォリオの中に取り込んでいくことは避けられそうにありません。

ちょっと暗い日本の未来

日本は現在いろいろなリスクを抱えています。

例えば、巨大地震の懸念でこちらのレポートによれば、かなり硬い未来として、30年以内に、死者30万人、被害規模220兆円の震災に見舞われます。
また、2050年には風速90km/hrクラスの台風が控えめにみつもってもほぼ確実に発生する未来があります。
これは既存のインフラが全く耐えられないレベルの風速です。
日本はもはや予防でどうにかできる状況にはなく、国と専門家たちはレジリエンス(復興する力)に焦点をあてて議論を始めています。

ITエンジニアの給料はすでに日本よりも東南アジアの国のほうが高くなるなど、一部の職業の給料水準ではすでに後進国化が進んでいます。
これは言いかえると、日本語しかできないエンジニアの価値が低下しているとも捉えることができます。

その他にも、止まる気配のない円安(円高に向かうポジティブな理由のない状況)や中国、ロシア、北朝鮮などの国際リスクなど、日本を取り巻く状況は決して明るくはありません。

こういった状況にあって、我々は何かを変えていかなければいけないのは間違いないでしょう。

※注記
ここではネガティブな話を多く書きましたが、捉え方を変えると多くのチャンスが身の回りにあることがわかります。例えば、巨大地震や巨大台風に対するレジリエンスを高める仕組みを作ることは副次的に様々な技術開発やビジネス開発に繋がります。他の国々がまだ直面していない課題に対して我々はフロントラインにいるがゆえの競争優位を作ることができます。大切なのは容易には変えられない状況に悲観するのではなく、その状況をどう捉えるかです。

製造業のJapanese Traditional Company(JTC)が生き残るために

現状の延長線に解はないと私は考えています。
世界の変化や日本という国の置かれている状況は、現在と未来の間に横たわる深い谷のようなものであり、既存の日本の産業が何もせず延長線を走り続けていたらいつか落ちてしまうことは避けられないように思えます。
そして、その”いつか”はArk Investの予測を見ると、ほんの10年以内の短い時間で一気に起きるのかもしれません。

さて、では何が必要かと考えると、それは本質的には、昨今叫ばれているDXではなくX、つまりトランスフォーメーション(変革)なのだと思います。
そして何をトランスフォーメーションすべきかと問うならば、それは社会を形作る単位である”人”のトランスフォーメーションにほかなりません。

では、どうやって人を変えるのか?

研修はもちろんやって悪い選択肢ではありませんが、学校教育のように座学で良いことを教えても、研修が終わったらまた同じ顔をして日々のルーチンに社員が戻っていくのならほとんど効果はないでしょう。

例えば、シナモンAIの堀田創氏の著書トランスフォーメーション思考ではMTP(Massive Transformative Purpose)を定めることにより、人の認知モデル(物事の捉え方)を根本的に切り替えていくことが提案されていました。
自分自身、これを実践してみて確かに効果があるとは思いましたが、また同時に、既存の生き方・働き方に凝り固まった殆どの日本人にとって、これは難しいことだと感じました。
スクリーンショット 2022-07-30 23.46.45.png
こちらより図を引用)

では仕事も一緒にトランスフォーメーションさせればどうか?
業務プロセス自体を変えることは”仕事”という枠組みを捉え直す良い機会になりますし、そういった環境の変化は必然的に人に変化を及ぼします。
しかし、業務プロセスのトランスフォーメーションは現状の延長線上にある生産性向上の取り組みでしかありません。
このような取り組みで得られる人の変化もやはり、現状の延長線上のものに過ぎません。

そこで私が考えるのは、新規ビジネス創出を通じた人のトランスフォーメーションです。
仕事自体を既存の延長線から外し、不確実性の大きい環境で仕事をすることでルーチンをこなすことではなく、クリエイティブであることにインセンティブが働くようになります。
もちろん、新規ビジネス創出に挑戦するにしても無策では単なる人材育成への高い投資をするだけになってしまいますし、それを企業としてやるという意思決定はできません。
そこで、それを支援する組織を作るという話になるわけです。
スクリーンショット 2022-07-31 0.10.59.png

新規ビジネスを生み出す組織はどんな組織?

では、どのような組織・仕組みがあれば良いのか、私の考えを以下にまとめました。
(本当はもっとたくさんの側面があると思いますが、ひとまず今見えている風景だけ)

メンバーの能力/マインド

ここで、チームメンバーが共通的に有するべき能力/マインドについて、事業創出・事業開発関連の文献を調査した結果、私がエッセンスだと感じた要素だけメモがてら列挙したいと思います。
これらの能力/マインドを100%持っている人は残念ながら私の会社にはほぼいないのですが、目指すところはこういうところかなと考えています。
(具体的な技術のスキルは対応する案件の多様性によって幅が出てくると思うのでここでは割愛)

  • その時々で必要なスキルを身につける「なんとかする」能力
  • アンラーンする力
  • チャレンジ精神
  • 論理的思考力
  • ドキュメンテーション能力
  • コミュニケーション力

また、特定の能力ではないのですがあえてここに加えるなら、立ち上げ初期に未成熟な組織にとって必要なこと、貢献できることを見つけてひたすら役割の隙間を埋められるメンバーがいることは理想です。
私はまずはそういう役割を演じられたらな、と考えています。

自走型組織であること

新規ビジネス創出を支援する組織は、既存ビジネスと離れた領域を扱うため、環境変化による影響度が高く、また多くの人と連携を図っていくため以下の図で言うところの右上の赤丸の領域に当たります。
この領域に属する組織は自走型組織と呼ばれます。
スクリーンショット 2022-07-31 17.25.58.png
こちらから図を引用)

言うは易しですが、自走型組織を作るためにはかなり運営上の注意が必要です。
例えば、人事評価の仕方に絞っていうと、成果主義またはプロセス主義強まると自走型組織から離れていくということが往々にして起こります。

  • チームの連携よりも成果(KPI)が重視される場合:個人プレーへのインセンティブが高くなります。結果としてチームワークは働かず、各人個別の個人プレーをメンバーはするようになります。(上図の左上側のコンサル(成果主義)の領域にシフト)
  • 成果よりも業務プロセスが重視される場合:固定的な働き方にインセンティブが働きます。メンバーは業務プロセスの履行を優先し、環境変化に対する柔軟性を失っていきます。(上図の右下側の工場(プロセス主義)の領域にシフト)

上記の例からわかるように、成果主義とプロセス主義の引力に逆らって自走型組織の領域にとどまるためには特別な工夫が必要です。
私自身どういう設計にすればよいのか考えあぐねているところはありますが、以下の6項目を評価軸としておくことが有効ではないかと考えています。

  • 組織で取り組む業務の全体理解度
  • 実働におけるパフォーマンス
  • 説明責任能力
  • 他メンバーの支援能力
  • チーム・関係者のマネジメント能力
  • チーム内外からの信頼の獲得

これらの評価軸の肝になる考え方はチームへの貢献です。
自走型組織では個人を業務成果によって評価することは難しいため、チームへの貢献という指標で捉え、その上で、チームのパフォーマンスは総合実績で見ていくことになります。
もちろんこのような仕組みには、特定の分野特化の人は評価されないなど、良し悪しがありますが、一つの運営の方向性としてTryしていこうと思います。
また、上記6つの指標で優秀なメンバーは次項の心理的安全性のある環境を作る上でも重要な役割を果たしていくと考えられます。

心理的安全性があること

チームの運営に取り入れたいこととして心理的安全性の確保があります。
昨今様々な場所で言われることですが、成功するかもわからないプロジェクトで、しかも社内の経験が乏しい状況において、心理的安全性を保つことは簡単なことではありません。

心理的安全性を持った組織として運営を行うためにだから僕たちは、組織を変えていけるを参考にしようと考えています。
だかぼく(上記書籍の略称)のひとつひとつのコンセプトを紹介することはしませんが、詳細を知りたい方は公式サイトを見るとかなり多くの情報が公開されているので参考になると思います。

書籍の中では具体的な施策ではなく、以下のようなコンセプトが綺麗にまとまって紹介されています。
新しい組織の運営面ではこういったコンセプト(3つの共感デザインと3つの価値デザイン)のあるチーム内環境をメンバーと作り上げて行きます。
P101.jpg

この中のパーパスの共有は次節とも関係していきます。

エフィカシーの高いチーム

堀田創氏の著書「チームが自然に生まれ変わる」の中で、紹介されていたコンセプトにエフィカシー(Self-Efficacy)とWant toがあります(下図)。

スクリーンショット 2022-07-31 18.05.25.png
(こちらより図を引用)

エフィカシーとは簡単に言うと「やれる気」であり、これが高い状態というのは根拠のない感覚的な自信みたいなものがあり、頑張らなくても自然にできるという確信を持てているような心理状態です。
例えば、高いゴールに対して、高いエフィカシーを持っていると達成に向けたアクションを「あたりまえのように」実行していくことができたりします。
またWant toとはメンバーひとりひとりが持っている「真の価値観」のことを指します。
普段、会社の中で仕事をしていると、個人のWant toが表面に出てくることはほとんどありませんが、これが目指すゴールに対して一致していると良さそうなのは想像に難くないと思います。
(本記事では組織に注目していきたいので、自己分析の側面が強いWant toの見つけ方については割愛します。詳細はこちらの書籍を参照ください)

ではどうしたら高いエフィカシーを持つことができるのでしょうか?

「チームが自然に生まれ変わる」ではこの仕組みを認知科学で説明していますが、(その詳細は書籍に譲るとして、)キーとなる考え方は、人間にはそれぞれ外部刺激と反応の間に”無意識の内部モデル”があるということです。
あるシチュエーションに対して人によって捉え方が異なることは想像に難くないと思いますが、それは個々人の内部モデルの違いによって引き起こされています。
内部モデルは無意識にあるので意識して変えることが難しいですが、書籍の中ではこれを変える方法として以下の2つの条件を満たすゴールの設定を挙げていました。
- 真のWant toに基づいていること
- 現状の外側に設定されていること(現状の延長では絶対に届かないゴール)

人間の認知機能はVRで仮想現実の世界に没入できるように、別の現実に高い臨場感を感じて没入できれば、変革が可能だとしています。(解像度の粗い例えで恐縮ですが、書籍の方ではもうちょっと実例を挙げて説明してくれています)

さて、エフィカシーについて本当にそんなことができるのかわからない話を書いてきましたが、ここで述べたい本質は、チームメンバーが自分ごととして大きな目標に対して前向きに、何だったら前のめりになって進んでいけるようにしたい、ということです。
メンバーの内部モデルを変えるような臨場感のある高いゴールや、メンバーひとりひとりのWant toを知ってそれとチームのゴールをすり合わせること(ダイレクトには合わなくても、抽象度を挙げて方向を揃えていくこと)には意味があると思います。

参加したメンバーが1年後には全員自己変革を遂げて新しい内部モデルを持っている、そんなチームにしたいと思っています。

挑戦(失敗)できる環境とメンバー

これは心理的安全性や、自走型組織であるための評価基準とも関係していますが、0→1にすることが求められる新規事業創出において失敗はつきものであり、何を成果として評価するかは組織が挑戦に対しての積極性を保っていく上で大変重要な要素です。
つまり、組織として失敗を許容し、更に失敗をしてそこから学ぶことにインセンティブが働く、そういう環境が必要です。

また同時に、不確実性が高く、失敗の可能性が高いことに挑戦でき、失敗から学んで次に活かせる人というのは希少です。

新しい組織では環境をまず揃え、その中で失敗をできる、学べるメンバーを育成していきたいと思います。
転んだらおしまいの環境では0→1のための一歩を踏み出せません。
転んでも大丈夫である環境というのはこの新しい組織の必須条件です。
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(転んでも腹ばいで滑っていくペンギンたちのような柔軟性がよき)

おまけ:どんなフレームワークを使っていく?

私がデータ活用を前提としたビジネスモデルの中で最も本質を捉えていると考えているのがダブルハーベストループです。(参考書籍はリンク先を参照)

ハーベストループというのはビジネスが回ることでデータが溜まり、そのデータを活用することでビジネスが強化される仕組みのことで、これを1つのビジネスモデルの中で複数(2個以上)組み合わせて作ったビジネスモデルをダブルハーベストループと言います。(下図参照)
スクリーンショット 2022-07-31 12.28.47.png
(こちらより図を引用)

ここでいくつかのポイントがあるのですが、最も重要なのはUnique Value Proposition(UVP):最終的な顧客提供価値です。(上記のモービルアイの例では右上にある「より安心な運転体験」がUVP)
こういうループを書いてしまうとデータによって強化されるAIモデルのことを考えてしまいがちですが、AIの一つの機能だけ(1つのハーベストループだけ)で回るビジネスモデルは模倣されやすく、長期的な競争力にはなりえません。

そこでUVP(最終的な顧客提供価値)を基準にしてUVPを強化する仕組みとして複数のハーベストループを作り出していくことを考えていきます。
上記のモービルアイの例では画像認識AIが1つ目のハーベストループとしてあり、2つ目のループとして、自動車の位置情報という新たなデータを取り込むことで事故予測AIの性能を劇的に向上させ、モービルアイ搭載の自動車が走るほど、モービルアイ搭載の自動車が増えるほど安全性を高める事ができるという強力なダブルハーベストループを確立しています。(2017年に1兆7000億円でインテルに買収)

ハーベストループの作り方は様々ありますが、例えば、こういうことを前提としてビジネスモデルを作る際に、ではどうやってデータを集めるのか、どこに集めるのか、MVP(Minimum Variable Product)時点でハーベストループを回せるように設計するにはどうすれば良いのか等、これまでのプロダクト開発に複数の要素を加えて検討していく必要があります。

UVPはその新規事業が達成したい大きなパーパスに直結するものになると思います。
今回はパーパスについては記載しませんでしたが、組織メンバーにとっても、顧客にとっても魅力的であるために事業のパーパスは良いものを作っていきたいですね。

おわりに ~明るい未来を創るために~

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今回書いたことは、まだ絵に描いた餅です。
実際に組織ができて動き始めたらいろいろなところで躓くことでしょう。
しかしながら、失敗しながらも進んでいく、そういうひたむきさ・貪欲さがあれば、どんどん変わっていけると、私は信じています。

私は以前から日本が100年先も存在できるためには、人・組織・社会のトランスフォーメーションが必要だと考えてきました。
ここ数年はたまたまデジタル技術の発展が取りだたされて、デジタルのトランスフォーメーションだけに注目が集まっていましたが、本質的にはそれだけでは日本は変わらないと思います。
必要なのは、後進国化し、経済力などが落ちるところまで落ちた日本の現状に気づいて、ひたむきに、貪欲に自己変革をする人、組織、社会を作り上げていくことだと、私は考えています。

日本はここ200年の間に2回の大きな自己変革を遂げてきました。
明治維新と戦後復興です。
その時の仔細な状況は違いますが、日本が世界から大きく遅れを取っている状況は同じです。
私は今回の取り組みがきっかけとなってひとつのJTCが自己変革を遂げ、更には日本社会に影響を与えることができることを願っています。

またこの記事が、日本の未来を創る方々の参考になれば幸いです。

参考文献

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