間もなく新入学のシーズンです
某SNSでも新入学を控えて関数電卓に関する投稿がじわじわ出てきている。
○○で買うなだの、スマホで十分だのと投稿する人がいる。特に前者の背景として、一部に高価なグラフ電卓を買わせようとするところもあるみたいだ。
さすがにグラフ電卓を買う必要がある分野は限られ、そこまで高価な機種を買う必要がある人は少ないだろう。しかし、一般的な関数電卓の種類は意外と多い。
特に学科推奨の機種が無く、どれを買おうか迷っている人も少なからずいるのではないかと思う。この記事では関数電卓の選び方を概説したい。
まず、メーカーのページを見る
現在国内で関数電卓を作っているメーカーは3社ある。
- カシオ
- シャープ
- キヤノン
メーカーのページをじっくり見て比較するのが第一歩。
自分が必要とする機能がその機種に含まれているか確認しよう。
取扱説明書も全機種PDF(一部はHTMLも)で提供されているため、機能や使用感を確認することができる。
また、各社とも適用分野を含めた早見表を用意している。分野はあくまで目安だが、搭載関数を確認する手がかりにはなるだろう。
- カシオ
- シャープ
- キヤノン
さらに、カシオとシャープは教育目的でPC版のエミュレータを配布している(いずれも海外サイト)。
カシオはインストール形式で日数制限あり。
シャープはインストールせず直接実行できる形式。
使用感を確認する目的であれば十分だろう。
- カシオ
- シャープ(日本の複数行モデルに近いのはEL-W506T)
関数電卓のレビューサイトを見る
東海大学遠藤研究室が「関数電卓マニアの部屋」なるページを用意している。
PCとの併用を前提に、基本的な演算の使い勝手について各機種をレビューしている。こうしたサイトを参考に購入機種を選ぶのもよい。
売れ筋を見る
そもそも売れているのはどれか。Amazonの売れ筋ランキングを見るのがてっとり早い。
3/15時点のランキングは次の通り。
- 1位:fx-375ES A(過去1か月で900点以上)[3行]
- 2位:fx-JP900CW(過去1か月で200点以上)[4行]
- 3位:EL-509T-WX(過去1か月で100点以上)[4行]
- 4位:EL-501T(過去1か月で200点以上)[1行]
- 5位:fx-290A(過去1か月で100点以上)[2行]
- 6位:fx-JP500(過去1か月で100点以上)[4行]
- 10位:F-789SG(過去1か月で50点以上)[3行]
複数行で操作性がよいカシオfx-375ES Aが最も売れており、次いでカシオClassWizの新機種(CW)、複数行で一番安いシャープEL-509Tの順となっている。
fx-JP500はClassWizの旧機種で店頭在庫限りだが、後述するように新機種が操作性の改悪を行ってしまったこともあって未だに売れ続けている。今年に入ってAmazonの在庫は切れ、マーケットプレイス出品のみとなっているため、新品を入手したい人は購入を急がれたい(なお、Yahooショッピングや楽天などでfx-JP500のメーカー再生品も販売されている)。
1行か、2行か、複数行か
おそらくここまでの説明で7割程度の方は機種を決められたことだろう。
ここからは残り3割の方に選択のポイントを解説していく。
とはいっても、大きくは
- 表示行数:1行、2行、複数行
- メーカー:カシオ系、シャープ系、キヤノン(1行機のみ)、(その他海外メーカー)
で選ぶことになる。
価格で選ぶとすれば、1行機が最も安く、2行機、複数行機と高くなる傾向にある。
とはいえ、国産機だと1行機が1000円前後であり、複数行機の安いものは実売で2000円を切るものもあるので、低価格機種で比べるとさほど大きな差ではない。
そして、1行機とそれ以外は操作方法が大きく異なることに留意が必要である。ほぼ別物といってよい。
三角関数の演算を例に取ると、sin40°の値を求めたい場合、1行機は数値→関数(例えば40[sin])と入力するのに対し、2行機・複数行機は関数→数値(例えば[sin]40[=])と入力することになる。多くの演算では1行機の方が打鍵数が少なくなるだろう。
また、1行機は逐次計算となるため、何十件もある加減算が一般電卓と同じようにこなせる利点がある。2行機・複数行機は1回の計算で式を丸ごと入れる必要があり、入力バッファを超える長さの式は複数回に分けなければならない(M+を使う手もあるが)。
1行機
国産現行品の選択肢は
- シャープ:EL-501T-X
- キヤノン:F-605G
の二択である(EL-501T-Xの前モデル、EL-501J-Xも店頭在庫限りで併売)。
カシオもかつては1行機を国内で販売していたが、現行品はない。海外では fx-260 SOLAR II などの型番で販売している。
1行機においてカシオ系とシャープ系で大きく違うのが定数計算である。これは一般電卓と同様、カシオ系は演算キーを2回押してKが表示される方式、シャープ系は演算キー1回でKが表示されない方式となる。
もう一つ、度分秒の入力もカシオ系とシャープ系で異なる。カシオ系は度[°′″]分[°′″]秒[°′″]と仕切り文字としてキー入力するのに対し、シャープ系は度.分(2桁)秒(2桁)と小数形式で入力した後[→DEG]キーで10進数に変換。演算後[→D.MS]で60進数に戻す。
キヤノン機は定数計算がシャープ系、度分秒計算はカシオ系となっている。キー表記はシャープ系に近く、分数計算ができる点はカシオ系と、両者の方式が入り混じった機種となっている。
なお、シャープ系の過去機種(おそらくはEL-506P)を模したクローン関数電卓が海外で多数販売されている。モノタロウの関数 電卓 簡易タイプもその一つ。
2行機
国産現行品は
- カシオ:fx-290A
- キヤノン:F-715SA/F-715SG
の2種類で、どちらの機種も操作感に大きな違いはなく、細かな機能の違い程度である。
一方、2行機はシャープの現行品がない。海外では何機種が販売されている。
2行機でできることは複数行機でもほぼ実行できる。それでも2行機を選ぶメリットがあるとすれば、
- 価格が安い
- 結果表示行が7セグで見やすい
- 複数行機でシフト操作が必要な関数の一部を直接入力できる
…といったところだろうか。
3つ目の特徴の一例として、fx-290Aとfx-375ES Aのキー配列を見てほしい。fx-290Aは x-1やx3、nCrなどを直接入力できることがわかるだろう。
2行機のクローン品も存在する。主にカシオのfx-82MSを模したもので、アマゾンで価格の安い順に並べるとクローン品がゴロゴロ出てくる(アリエクでは送料別だと200円弱のものまであり、1行機よりも安い)。私も海外で買ったfx-82MSクローン(JS-82MS-A)を持っているが、コントラスト調整機能がないものの普通に使えるレベルである。fx-290Aという現行品がある以上そちらを買うべきだが、どうしても安く買いたいというのであればクローン品も選択肢となるかもしれない(購入は自己責任で)。
複数行モデル
国産現行品は
- カシオ(ES):fx-375ES A
- カシオ(CW):fx-JP900CW/JP700CW/JP500CW
- キヤノン:f-789SG
- シャープ:EL-5160T/520T/509T
店頭在庫のみの機種で
- カシオ(EX):fx-JP900/JP700/JP500
がある(カシオClassWiz初代モデルは海外モデルの型番からカシオ(EX)として分類する)。
1行機・2行機を選ぶ必然性が無い人は、このどれかを買うことになるだろう。
いずれの機種も、3~4行表示が可能な画面を持ち、教科書通りの入力・表示(数学自然表示/教科書ビュー/式通り入力表示)が可能である。
一方、2行機のような1行入力モードに切り替えることも可能である。
操作性の点で大きくカシオ系(カシオ・キヤノン)とシャープ系に分けられるが、カシオ系の中でもカシオ(CW)はそれ以外と使い勝手がやや異なるので、実質的には3種類に分けられると言ってよい。
カシオ系とシャープ系で大きく異なるのは三角関数等の関数入力で自動的に括弧が付くか付かないかの違い。カシオ系は必ず開き括弧が付くため、式を続ける際は閉じ括弧を付けなければならない(単体のみの計算であれば閉じ括弧は省略できる)。一方シャープ系は括弧が自動で付かないため、単独の数値のみであれば閉じ括弧を付ける必要がない反面、式を与えたい場合は開き括弧を自分で入力しなければいけない。
また、一般電卓同様の定数計算機能があるのはシャープ系のみである。
使いやすさの視点でこれらの機種をざっくりまとめると以下のようになる。
分類 | 解像度 | 行数 | 文字 | 常に小数結果 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
カシオ(ES) | 低 | 3 | ドット | 分数入力以外 | |
キヤノン | 低 | 3 | ドット | 分数入力以外 | |
カシオ(EX) | 高 | 4 | 明朝 | ○ | |
カシオ(CW) | 高 | 4 | ゴシック | ○ | 一部関数はメニュー選択、指数入力に難あり |
シャープ | 低 | 4 | ドット | 分数入力以外 | 三角関数等は自動括弧無し、定数計算可 |
文字の見やすさ
整数・小数の結果表示だけを考えると、3行機のカシオ(ES)・キヤノンは文字が縦に大きいため見やすく感じられるだろう。
4行機は整数・小数の結果表示で見ると文字がやや小さくなる。分数になると同じ文字サイズで表現するカシオ(EX)とカシオ(CW)が見やすい。カシオ(EX)は明朝、カシオ(CW)はゴシックであり、カシオ(CW)の方がより見やすく感じられる。
低解像度4行表示のシャープは分数や複雑な式の表示が見づらい。
常に結果を小数表示したい
カシオ(EX)とカシオ(CW)は「数学自然表示入力/小数出力」が選択でき、このモードだと分数で入力した場合も含めて必ず結果が小数で表示される。
それ以外の機種はLineOモード(カシオ(ES))、Lineモード(キヤノン)、LINEモード(シャープ)に切り替えると、分数入力したもの以外は結果が小数で表示される。
なお、シャープ機を除いて、[SHIFT]→[=]と操作するとどのモードでも結果が小数表示となる(カシオ(EX)とカシオ(CW)は≈表記あり、カシオ(ES)とキヤノンは≈表記なしだが、同等の機能が割り振られている)。
この機能は[=]を兼ねているため注意が必要である。AnsやPreAnsを含む式で一度[=]を押して答を表示した後に、分数等を含む結果を小数で表示させるため[SHIFT]→[=]と操作してしまうと、Ans(直前の答)の中身が変わってしまい異なる答が出てしまうからだ。
計算履歴を残したい・数式を記憶したい
カシオ・キヤノン機は電源を切ると計算履歴が消えてしまう。一方、シャープの複数行機は電源を切っても計算履歴が残る(メモリ容量の範囲内)。
また、シャープの上位機種であるEL-5160Tはフォーミュラメモリー機能が搭載されている。4本の式を記憶でき、呼び出した後ALGB機能で計算する。
数式記憶という点では、カシオ(CW)にもFUNCTION機能が搭載されている。2本の式を記憶でき、電源を切っても消えない。この式は数表作成機能と共有される。なお、X以外の文字を使った場合は変数に保存されている値が使用される。
色々と難があるカシオ(CW)
カシオのClassWiz新機種であるCWシリーズは、「説明不要で誰もが簡単に使いこなせるデザイン」を目指して開発されたという。
その結果キーの数が減り、機能キーが2つから1つに減ったことでCATALOGメニューに回された関数が多い(階乗や順列・組み合わせもメニューから入れる必要がある)。
さらに、指数入力[×10x]の挙動も他の関数電卓と異なり、演算の優先順位が下位になってしまっている。例えば、 6×103÷3×102をカシオ(CW)で計算させると答が200000=2×105となってしまう。他の関数電卓は指数部分の優先順位が高いため(6×103)÷(3×102)と扱われて答が20となる。カシオ(CW)でも分数にしたり指数部分をカッコでくくったりすれば意図した答を導くことは可能だが、煩雑になりミスも生じかねない。
先程紹介した東海大学遠藤研究室の関数電卓セレクトガイドではわざわざカシオ(CW)をお薦めしないと明記している。
まとめます
最後に選択のポイントを表にまとめる。
目的 | おすすめ |
---|---|
・一般電卓に近い操作感がよい ・大量の加減算を行う ・簡単な関数計算が主で、少ない打鍵数がよい |
1行機 分数あり:キヤノンF-605G 分数なし:シャープEL-501T |
・入力式は表示してほしいが安い方がよい ・結果表示は小数でよく、大きい文字がよい |
2行機 カシオfx-290A キヤノンF-715 |
・教科書通り入力をしたい ・整数・小数の結果が見やすい方がよい |
複数行機 機能少なめ:カシオfx-375ES A やや機能多い:キヤノンF-789SG |
・教科書通り入力で結果を小数表示させたい ・分数を含む結果が見やすい方がよい ・高度な演算も速い方がよい |
複数行機 操作性悪め:カシオ(CW) 操作性良いが生産終了:カシオ(EX) |
・電源を切っても計算履歴が残る方がよい ・複数行機で一般電卓のような定数計算をしたい |
複数行機 シャープEL-5160T/520T/509T |
・よく使う数式を記憶させたい |
複数行機 シャープEL-5160T カシオ(CW) |
最近の関数電卓は安っぽくなっているとはいえ、よほど乱暴な使い方をしない限り何年も使えます。慎重かつ大胆にお選び下さい。