双曲線関数のないフランス・ベルギーモデル
前回、CASIO関数電卓 ClassWiz シリーズの3桁区切り・循環小数表示のローカライズ状況を調べる に追記の形で GRAPH LITE を取り上げた。
グラフ機能を除き基本的には ClassWiz CW シリーズと同機能であるため、 GRAPH LITE と日本モデル(fx-JP900CW)のHTML版説明書を比較して機能を確認することができる。
例えば高度な計算のページは以下の通り。
で、比較してみたところ…何と、 GRAPH LITE には双曲線関数が搭載されていない。
他地域のモデルは下位機種でも双曲線関数が削られているものはない(例として fx-82EX、fx-82CW、fx-82NL のエミュレータのキャプチャを挙げる)。
フランス・ベルギーのモデルは Collège、Secondaire、Lycée(GRAPH LITE) といった名前が付いているように、いずれも教育用モデルの位置づけである。
フランスの教育課程について調べてはいないが、少なくとも日本の高校までの学習指導要領に双曲線関数が出てこない。カリキュラムにない関数をあえて削った(表記が三角関数に似ていることも合わせて)可能性が考えられるが、本当のところはわからない。
なお、双曲線関数はネイピア数 $ e $ を用いた公式で算出することができる(参考:Wikipedia)。
たまにしか使わないのであれば、CALC機能(fx-92(B) Spéciale Collège)やFUNCTION機能(fx-92 Collège, fx-92B Secondaire, GRAPH LITE)でこの公式を計算させる手がある。
余談:Grokに聞いてみた
Q. カシオがフランスで販売している関数電卓(fx-92+ Spéciale Collège、fx-92 Collège、GRAPH LITE)には双曲線関数が搭載されていません。なぜですか。
A.
カシオがフランスで販売している関数電卓(fx-92+ Spéciale Collège、fx-92 Collège、GRAPH LITE)に双曲線関数(ハイパボリック関数、sinh, cosh, tanhなど)が搭載されていない理由は、主にこれらのモデルが対象とするユーザーのニーズとフランスの教育カリキュラムに基づいています。
これらの関数電卓は、特にフランスの中学校(Collège)レベルの生徒向けに設計されており、フランスの国家教育カリキュラムに準拠しています。中学校の数学教育では、一般的に双曲線関数は扱われません。双曲線関数は高等数学(例えば、微分積分や物理学の応用)で登場する内容であり、フランスでは通常、リセ(Lycée、つまり高等学校)以降の段階や大学レベルで本格的に導入されます。一方、fx-92シリーズは、中学生が学ぶ基本的な数学(代数、幾何学、統計、分数計算など)に焦点を当てており、三角関数や基本的な統計機能などは含まれていますが、双曲線関数の必要性は低いと判断されているのです。
さらに、これらのモデルは使いやすさとシンプルさを重視しており、機能を厳選することで生徒が混乱しないように配慮されています。双曲線関数を搭載すると、インターフェースが複雑になり、中学生にとって必要以上の機能が追加される可能性があります。カシオはフランス市場向けに特化した製品開発を行っており、例えばfx-92+ Spéciale CollègeにはQRコード生成機能や自然表示機能など、授業での視覚的な理解を助けるツールが優先的に採用されています。
結論として、双曲線関数が搭載されていないのは、フランスの中学校教育における数学の範囲外であること、そして対象ユーザーに最適化された機能を提供するという設計思想によるものです。より高度な計算を必要とする生徒や専門家向けには、別のモデル(例えばfx-991シリーズやグラフ関数電卓のfx-CGシリーズ)が用意されており、そちらには双曲線関数が含まれています。
三角関数・双曲線関数の表記が違うモデル
tan が tg 表記の中東欧・セルビアモデル
中東欧モデル(fx-991CE X)は tan が tg になっており、セルビアモデル(fx-991RS X)はそれに加えて逆三角関数がArc~、逆双曲線関数がA~となっている。
sin が sen 表記のスペイン・ラテンアメリカモデル
スペインモデル(fx-991SP X/fx-991SP CW等)とラテンアメリカのCWモデル(fx-991LA CW等)は sin が sen となっている(スペイン語は正弦を seno 、余弦を coseno と表記する)。
ラテンアメリカの初代モデルは sin のままで、CWモデルも言語設定の初期値は英語であるが、なぜか三角関数・双曲線関数に関してはスペイン語表記に変えたようだ。
なお、逆三角関数の表記はArc~、逆双曲線関数の表記は初代モデルがA~、CWモデルがArc~となっている。
余談:逆三角関数・逆双曲線関数の表記
逆双曲線関数を Arcsinh(Arcsenh)/Arccosh/Arctanh と表記するのは間違いである。逆三角関数がarc(弧)であるのに対し、逆双曲線関数はarea(面積)だから、 Arsinh(Arsenh)/Arcosh/Artanh と表記すべきである。
arc と area はスペイン語でもそれぞれ arco, área となる(スペイン語版Wikipedia)。
初代モデルはたまたま字数の関係で省略されたため問題なかったが、CWモデルの表現はいただけない。改善が求められる。
みなさんは関数電卓における逆三角関数・逆双曲線関数の表記、 -1 と arc/ar 接頭辞のどちらがお好きだろうか?
arc/ar 接頭辞の場合、初代モデルだと窮屈な表記になっているが、CWモデルの場合2行に分けて書いているのでこれはこれでありかもしれないと思う。