はじめに
株式会社LITALICOの野田遥と申します。
プロダクトマネージャー / リサーチャーとして、プロダクト作りや研究開発に携わっています。
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主にLITALICO発達特性検査というWebサービスを担当しています。
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この記事は、LITALICO Engineers Advent Calendar 2024 の22日目の記事です。
本記事の目的
この記事では、IT以外のドメイン領域の専門家であった私がプロダクトマネージャー(PdM/PM)として就職し、実際に働いた経験について記載しております。
想定読者としては、専門知識を活かしてこれからPdMになりたい方や、ITバックグラウンド以外の人をPdMとして登用したい方などを考えております。
この記事を通して、ドメインの専門家がPdMとして働くことの面白さや難しさについてお伝えすると共に、IT以外の専門性のある人材をどのように組織内で登用・活用していくかの参考になれば幸いです。
PdMの一般的なバックグラウンド
近年ようやく市民権を得てきたPdMという職種ですが、キャリアのはじめからPdMになることは少ないと認識しています。多くの場合、PdMになる前の仕事はソフトウェアエンジニア、デザイナーなどの専門職か、ITに関連したビジネス職(事業企画、コンサルなど)など、何かしらの形でプロダクトに関連した職種であることが多いように思います。
しかし、中にはプロダクト作りと全く異なる文脈でPdMになる人も存在します。私がその典型的なパターンですので、ここではドメイン領域の専門家がPdMとして働くことについて、広く語ってみようと思います。
自分自身について
私のバックグラウンドは作業療法士 / 研究者です。
正社員として入社する直前まで、日本学術振興会の特別研究員や、教育センターの作業療法士として働いていました。
研究におけるプロジェクトマネジメントやデータ分析の経験はあったものの、ソフトウェアを作ることからは縁遠い仕事ばかりをしてきました。
プロダクトマネージャーに興味を持ったきっかけ
臨床や研究の仕事を続ける中で、ある悩みが生まれました。それは「自分一人でサービスを提供できる対象者の少なさ」という限界です。臨床で目の前のクライエントを支援することや、研究でエビデンスを蓄積していくことは重要な取り組みですが、今困っているたくさんの人たちに広くリーチできないもどかしさを強く感じるようになりました。
そのため、事業やプロダクトを作ることで、適切な情報や支援を多くの方に届けたいと考えるようになりました。特に、ソフトウェアという形態であれば人の手を介さずにサービスを届けられるので、自分の課題感にフィットすると思いました。
そんな中で、プロダクトマネージャーという仕事を知りました。
ちょうど「プロダクトマネジメントのすべて」が刊行された時期で、PdMという仕事が私のような門外漢にも認知されるようになったタイミングでした。書籍や記事を読み漁り、PdMとして発達支援につながるサービスを作りたい想いがどんどん強くなっていきました。
LITALICOへの入社経緯について
LITALICOは障害・福祉・教育に関連したサービスを広く手掛けている企業です。私の元々の仕事におけるドメイン領域とピッタリ当てはまる場所でした。
そのため、実は正社員になる前から会社とは関わりがありました。修士課程の学生だった頃から、社内で活用する子どもを対象とした検査の研究開発という役割で、研究開発部門にて業務委託・非常勤でお仕事をしていました。
その仕事のミーティング中に、先述したようなPdMへの興味を研究開発部門の役員に話したところ、ちょうどPdM組織の立ち上げタイミングだったこともあり、すぐに当時の役員に繋いでもらうことができました。
これがPdMとして働くことになったきっかけです。
ドメイン専門家が関わること
ここからは、ドメインの専門家がPdMとして働く上でのメリット/デメリットについて書いてみます。あくまで私の視点から見た感想ですので、立場や職種、背景によって様々であることは注釈として記しておきます。
メリット
最も良いインパクトのある点の一つが、深い知識と経験です。
ドメイン領域の深い専門知識があれば、チームや顧客から信頼を得やすいですし、設計や意思決定の際に専門的な視点を活かすことができます。
例えば私の場合は、検査プロダクトのアルゴリズムを研究開発しながら、検査結果レポートの実装はPdMとして関わることができました。結果的に体験設計とそれを支えるシステムの双方を一貫した形で考えることができたのは、プロダクト品質に対してポジティブに働いたと思います。
加えて、ユーザーの課題をスムーズに理解できます。背景知識があるため、顧客のニーズを的確に理解できますし、知見をふまえてプロダクトの方向性を具体的かつ正確にイメージできる強みがあります。顧客との関わりも慣れているため、スムーズなヒアリングができる可能性は高いと思います。他にも専門分野でのネットワーク活用や、市場動向に敏感になれるなど色々とポジティブな側面はあるように思います。
また、これは願望も入っていますが、未経験故の素直さはあるかなと。プロダクトマネジメントにおける型が固まっていない分、本人に意欲と学習能力があれば伸び代は十分にあります。
デメリット
経験や知識があることのメリットを話してきましたが、かえって顧客理解を妨げる可能性もあると感じています。PdMとして重要な役割の一つが、顧客の体験をフラットに見てインサイトを見つけることです。しかし、自身の専門性は、むしろそれを邪魔することがあります。知ること=バイアスを形成することなので、専門知識がある人ほど過去の経験や知識に囚われやすくなります。ドメインの専門家がPdMとして働く場合は、特に意識して客観性を導入する必要があると感じています。
また、立ち上がりに時間がかかることの覚悟は、本人だけでなく周囲にも必要かもしれません。プロダクト作りの基礎を知らないため、初期の動きが悪くなりやすい傾向にあると思います。特に私の場合は全体像が見えてから成長が加速するタイプで、感覚を掴むまでにかなり苦労したのがこのような考えにつながっている理由かもしれません。幸い優秀なシニアメンバーにご指導いただいたおかげで今はやれています(と信じている)。
総じて言えるのは、専門知識や経験があることはポジティブにもネガティブにも作用するということです。
入社時・採用時の注意点
上述したメリット・デメリットをふまえると、本当にドメイン知識に秀でていることがプロダクトの品質・利益につながるのかは、領域によって異なると思います。
例えば私が働いている教育や福祉のドメインの場合、専門性は生きると思いますが、普段の業務との乖離が大きく適応に苦労する方も多そうです(例:ITとの関わりが薄い、プロジェクト型かつチームでの仕事が少ないなど)。私の場合、臨床家としてだけではなく、リサーチャーとしても働いていた経験がプラスになったことは間違いありません。
また、個人の特性によっても異なるように思います。エンジニアが割と人を選ぶ仕事であるのと同様に、PdMもそうかなと。技術への興味はもちろん、顧客の体験・課題への興味が強いこと、チームでものづくりをすることへの意欲やスキルがあることなどは、大きな要因になると感じています。
また、育成が一定期間必要になるケースも多いと思います。自分の場合は、研修期間等はなくいきなり配属され働き始めましたが、長めに成長を待ってもらえた印象を持っています。配属当初は厳しい上司に業務の中でフィードバックをもらいながら、動きや考えを修正していく毎日でした。
即戦力として動けるべきというのは当たり前に大事である一方で、ドメインの専門家はソフトウェア開発については素人です。その点をふまえて、成長を促し待つ心構えも受け入れ側の組織としては必要になると思います。自分はそのおかげでPdMとして仕事ができるようになったので、組織に恵まれた人間のポジショントークですが。
PdMになりたい人にとって
正直に申し上げると、自分はタイミングと運に恵まれて機会を得たタイプで、再現性があると全く思っていません。しかし、いくつかチャンスはあるように思います。
社内異動
私も正社員ではなかっただけで似た形ですが、社内の他の職種から移ってくるパターンです。この場合、専門性や能力もある程度見えているので、チャレンジとして登用してもらいやすいかもしれません。
それっぽい仕事を担って、役割名が後でついてくる
会社の中には「プロダクトマネジメント」と名前がついていないだけで、それに類する仕事がたくさん落ちています。積極的に仕事を拾って動いていくことで、後で正式な名前がついてくる可能性はありそうです。正直、PdMという名前がついていることよりも、実態としてプロダクトマネジメントをすることの方が重要だと思います。
会社や組織の初期に入る
これも私の体験ですが、PdM組織の立ち上げタイミングや、会社自体が若いベンチャーの場合、PdMの役割が固まっていない分、役割が固定化された組織に比べると入り込む余地はありそうです。一方で、育成体制が整っていることは期待しにくいので、自力で成長して成果を出す気概はマストだと思います(この形に限らずですが)。
PdMになりたい人のキャリアに関しては世の中にいい書籍がたくさん出てきているので、読んでみてください。
補足)医療・福祉・教育職でPdMに関心のある方向けにはもっと良い構成がありそうなので個人のnoteとかで別途書こうと思います。
終わりに
これまでPdMとして働いてこれたのは、何よりチームに恵まれたからだと考えています。
入社直後は上司や関係者の皆様に厳しくも温かく見守っていただきましたし、自律的にプロダクトを守るようになってからも優秀なメンバーにたくさん助けられています。
実現したいことにはまだまだ辿り着いていませんが、PdMとして胸を張れるようなプロダクトを作り、育てていきたいです。
自分と似たようにドメインの専門家の方、特に臨床・研究職の人で関心がある人は是非ご相談ください。
最後になりますが、LITALICOはいい会社なので、関心のある方はぜひお越しください。
次回予告
明日は@k_kamonさんの記事が公開予定です!そちらもぜひご覧ください。