英語での読み方が難しい数学の用語・記法をまとめます。
本記事は以下の節から構成されます。
この記事は筆者が例を見つけたときに更新する可能性があります。
本記事の一部は、服部 久美子さん著の『数学のための英語教本 ―読むことから始めよう―』の内容に触発されて書きました。とても良い本だと思いますので、お勧めです。以下、本書のことを「教本」と言及します。
発音
発音記号はCambridge Dictionaryを参考にしています。
カタカナでも表記していますが、あくまで目安です。正確な発音は辞書の音声を聞いてください。
教本由来
scalar
scalar | UK ˈskeɪ.lər | US ˈskeɪ.lɚ | link
スケイラに近い発音。スカラーではない。
語源的には scale と同根であり、scale + er だと理解できる。
参考: 教本 p.17
vector
vector | UK ˈvek.tər | US ˈvek.tɚ | link
ヴェクタ(ー)に近い発音。ベクトルではない。
参考: 教本 p.17
matrix
matrix | UK ˈmeɪ.trɪks | US ˈmeɪ.trɪks | link
メイトリクスに近い発音。マトリックスではない、と言われることが多い。
複数形は matrices | UK /-trɪ.siːz/ となっている。
Weblioには matrixes /ˈmetrɪksɪz(米国英語), ˈmeɪtrɪksɪz(英国英語)/ も掲載されている。
辞書的な発音を踏まえると matrices の方が自然に思える。
参考1: 教本 p.24
参考2: YouTube-3Blue1Brown (メイトリクスに近い発音をしている)
参考3: Wiktionary (IPA(key): /ˈmeɪ.tɹɪks/, enPR: māʹtrĭks と、マトリックスに近い発音も2番目ではあるが載せている)
eigenvector
アイゲンベクターに近い発音。エイゲンではない。
German-English dictionaryでは ˈaiɡən と表記される。
固有ベクトルを意味する。線形空間上の線形変換 $A$ に対し、$Ax = \lambda x$ を満たす $x \neq 0$ のこと。
eigen はドイツ語で "own" の意味。
参考: 教本 p.24
eigenvalue
アイゲンバリューに近い発音。エイゲンではない。
固有値を意味する。
参考: 教本 p.24
河東先生由来
algebra
algebra | UK ˈæl.dʒə.brə | US ˈæl.dʒə.brə | link
最初のアにアクセントがある。
代数を意味する。
参考: 河東先生のHP
finite
finite | UK ˈfaɪ.naɪt | US ˈfaɪ.naɪt | link
ファイナイトに近い発音。
有限を意味する形容詞。
参考: 河東先生のHP
infinite
infinite | UK ˈɪn.fɪ.nət | US ˈɪn.fə.nət | link
インフィニットに近い発音。finiteとの違いに注意。
無限を意味する形容詞。
infinite | UK ˈɪn.fɪ.nət | US ˈɪn.fə.nət | link
参考: 河東先生のHP
annihilate
annihilate | UK əˈnaɪ.ə.leɪt | US əˈnaɪ.ə.leɪt | link
アナイアレイトに近い発音。hは発音しない。
零化イデアルおよび零化域を指す。
$F$ 上のベクトル空間 $V$ の部分集合 $S$ に対し、$S$ の $V^*$ における零化域 $S^{\circ}$ は、任意の $s \in S$ に対して $[f, s] = 0$ を満たす線型汎函数 $f \in V^*$ 全体の成す集合と定義される。すなわち、$S^{\circ}$ は $S$ への制限が消えているような線型汎函数
f\colon V \to F \quad (f|_S = 0)
全てからなる。
(Wikipedia-双対ベクトル空間より引用)
語源的には、ラテン語の"nihil"(無、虚無)が関係している。ニーチェで有名なニヒリズムもこのnihilに由来する。こう聞くとなんで "h" を読まないんだという気持ちになりますが……
参考1: 河東先生のHP
参考2: ツイート
個人的蒐集
column
column | UK ˈkɒl.əm | US ˈkɑː.ləm | link
USの方はカ(ー)ラムに近い発音。コラムではない。
tensor
tensor | UK ˈten.sər | US ˈten.sɚ | link
テンサ(ー)に近い発音。テンソルではない。
affine
affine | UK əˈfaɪn | US əˈfaɪn | link, link2
(ア)ファインに近い発音。アフィンではない。
線形変換と平行移動を組み合わせたもの($x \mapsto Ax+b$)を指す。
ラテン語で「類似・関連」を意味するaffinisに由来する。
pseudo
pseudo | UK sjuː.dəʊ- | US suː.doʊ- | link
シュードに近い発音。ギリシア語由来であり、psychology などと同様に "p" が黙字になっている。
参考1: Wiki-Pseudo
参考2: Wiki-黙字
pseudo-inverse: 一般化逆行列 (Moore–Penrose inverse とも)
A=U\Sigma V^\top \implies A^+ = V \Sigma^+ U^\top
where
\Sigma^+ = \mathrm{diag}(\sigma_1^{-1}, \sigma_2^{-1}, \ldots, \sigma_r^{-1}, 0, \ldots, 0)
参考: 高校数学の美しい物語
chaos
chaos | UK ˈkeɪ.ɒs | US ˈkeɪ.ɑːs | link
ケイオスに近い発音。カオスではない。
chaos theory: カオス理論。数的誤差のため予測が困難とされている、二重振り子などの複雑な現象を扱う理論。
anti
anti | UK ˈæn.ti | US ˈæn.t̬i | link
(ア|エ)ンティに近い発音。アンチではない。
antisymmetric low: 反対称律
relative
relative | UK ˈrel.ə.tɪv | US ˈrel.ə.t̬ɪv | link
レラティブに近い発音。リラティブではない。
relative error: 相対誤差
relative entropy: 相対エントロピー
image
image | UK ˈɪm.ɪdʒ | US ˈɪm.ɪdʒ | link
イミッジに近い発音。イメージではない。
写像の像を意味する。
remainder
remainder | UK rɪˈmeɪn.dər | US rɪˈmeɪn.dɚ | link
リメインダーに近い発音。リマインダーではない。
剰余を意味する。
リマインダー(スケジュールやメモの内容を思い出させる機能)は、英語で reminder と綴る。
suffice
suffice | UK səˈfaɪs | US səˈfaɪs | link
サファイスに近い発音。サフィスではない。
It suffices to say that ~: ~と言えば十分である
個人的な衝撃度ランキング2位(1位はscalar)でした。sufficientと混同していました。
私と同じようなミスをしていた方は例文をたくさん聞くと矯正されるかも知れません。
複数の発音が許容されている用語
dimension
dimension | UK /ˌdaɪˈmen.ʃən/ /ˌdɪˈmen.ʃən/ | US /ˌdɪˈmen.ʃən/ /ˌdaɪˈmen.ʃən/ | link
ダイメンションに近い発音(UK1番目)とディメンションに近い発音(US1番目)がある。
quasi
quasi | UK ˈkweɪ.zaɪ- | US /ˈkwɑː.zaɪ-/ /ˌkweɪ·zɑɪ/ /kwɑzi-/ | link
上記の発音を寡聞にして聞いたことがありませんが、辞書では上記の発音が載っています。
クワジ・クワザイに近い発音を私は聞いたことがあります。
参考1: クワジ派 YouTube - SciPy
参考2: クワザイ派 YouTube - Dr Ganguli
固有名詞
Hermitian
Wiktionaryは /hɜː(ɹ)ˈmɪʃən/
Oxford English Dictionaryは /həːˈmɪʃən/ (British English)
Merriam-Websterは /ˌhər-ˈmi-shən-/
どれが最も一般的かなどは不明だが、ハーミシャンに近い発音、あるいは、ハーマイシャンに近い発音、あるいは(h)エァーミシャンに近い発音。エルミートではない。
Hermitian matrix: エルミート行列。複素正方行列 $A$ が $A = A^\dagger \ (\colon= \bar{A^\top})$ を満たすとき、エルミート行列と呼ぶ。
参考: 教本 p.76
Jacobian
Wiktionaryには /jɑːˈkəʊ.bi.ən/ /d͡ʒəˈkoʊ.bi.ən/ が載っている。
ジャコ(ウ)ビアンに近い発音。ヤコビアンではない。
Jacobian matrix: ヤコビ行列。 $J=\left(\frac{\partial f_i}{\partial x_j}\right)_{i,j}$
参考: 教本 p.76
Poisson
Poisson | UK ˈpwæs.ɒn dɪs.trɪˌbjuː.ʃən | US pwəˈsoʊn dɪs.trɪˌbjuː.ʃən | link
USの方の発音だと、soʊnにアクセントがある。日本語だとpwəにアクセントがあると思われる。
Poisson distribution: ポアソン分布 $P(X = k) = \frac{\lambda^k e^{-\lambda}}{k!}$
Gaussian
Gaussian | UK ˈɡaʊ.si.ən dɪs.trɪˌbjuː.ʃən | US ˈɡaʊ.si.ən dɪs.trɪˌbjuː.ʃən | link
ガウシアンに近い発音。日本人ならば大抵は正解の発音をしていると思います。
外国籍の方がゴーシアンやゴッシャンに近い発音をされるのを聞いたことがあり、そういう訛りもあるのだと知らないと推測がかなり難しいです。
Erdos
Wikiは /ˈɛrdøːʃ/ だが、これはハンガリーの発音であり、下記のGoogleを信用すると、これはBritish Englishに近い。
Googleでpaul erdos how to pronounceと検索すると、2025年6月現在、American Englishでは "ehr·duhsh" と発音するとされており、日本語のエルデ(ィ)シュに近い発音である。日本語版Wikiの表記はポール・エルデシュ。
Erdos–Renyi model: ランダムグラフに関するモデルであり、$n$ 頂点 $M$ 辺の $G(n,M)$ と、$n$ 頂点辺生成確率 $p$ の $G(n,p)$ がある。
Erdos number: Erdos numberは、数学者 Erdosさんとの共著距離を表す。Erdosさんと共著を書いた人は1、Erdosさんと共著を書いた人と共著を書いた人は2、というように定義される。
Wolfram
Wolfram | UK ˈwʊl.frəm | US ˈwʊl.frəm | link
ウルフラムに近い発音とウォルフラムに近い発音を聞いたことがあり、その中間に近い。そもそもこの"wʊ"の音が日本人に難しいという話もある気がします(要出典)。Wolfe条件で有名なPhilip Wolfeさんの名前も同じ発音。
wood: /wʊd/
woman: /ˈwʊm.ən/
Wolfram Alpha: 数式を入力すると計算結果を返してくれるウェブサービス
Stephen Wolfram: Wolfram Alphaの開発者
Wasserstein
steinの部分について、"aɪ"の音で発音することに注意。
Wasserstein計量で有名なRussian-Americanの数学者のLeonid Nisonovich Vasersteinさんだが、このWassersteinの綴りはドイツ語由来らしい。
同じくドイツ生まれのアルバート・アインシュタインさんの綴りも "Albert Einstein" と "stein" を含む。
参考1: YouTube - How to Pronounce Stein
参考2: YouTube - Introduction to the Wasserstein distance
参考3: How To Pronounce Wasserstein
W_p(\mu, \nu) = \inf_{\gamma \in \Gamma(\mu, \nu)} \left(\mathbf{E}_{(x, y) \sim \gamma} d(x, y)^p \right)^\frac{1}{p}
($\Gamma(\mu, \nu)$ がカップリング、つまり、よくある堆積した土の例でいうところの移動方法の集合なので、堆積を移動する最小コストを表す)
参考4: Wikipedia
Zorn
英語ではゾーンに近い発音のこともある。日本語だとツォルンとよく言われる。尤も、Max August Zornさんがドイツ人であり、リンク先に"German: tsɔʁn"とあることから、日本語の方が本来に近い発音かも知れない。
参考1: YouTube
Zorn's lemma: 半順序集合 $P$ は、その全ての鎖(つまり、全順序部分集合)が $P$ に上界を持つとする。このとき、$P$ は少なくともひとつの極大元を持つ。
参考2: Wikipedia - ツォルンの補題
Barzilai
バジライに近い発音。
参考: YouTube / forvo / How To Pronounce などの複数サイト
Borwein
ボォー(ル)ウェインに近い発音。
Barzilai–Borwein法のBorweinさんです。個人的事情から本記事のおまけで数理的な解説をしています。
Borwein積分のBorweinさん親子の子供側と同一人物でもあります。
\begin{align*}
& \int_0^\infty \frac{\sin(x)}{x}\frac{\sin(x/3)}{x/3}\cdots\frac{\sin(x/15)}{x/15} \ \mathrm{d}x \\\\
={}& \frac{467807924713440738696537864469}{935615849440640907310521750000} \pi \\\\
\approx{}& \frac \pi 2 - 2.31\times 10^{-11}.
\end{align*}
参考1: YouTube-3Blue1Brown
参考2: How To Pronounce
難単語
一般
contraposition
$P \implies Q$
- 逆 : converse ($Q \implies P$)
- 裏 : inverse ($\neg P \implies \neg Q$)
- 対偶 : contraposition ($\neg Q \implies \neg P$)
reciprocal
reciprocal | UK rɪˈsɪp.rə.kəl | US rɪˈsɪp.rə.kəl | link
reciprocal は 「逆数」を意味する。$\frac{1}{x}$ のこと。
inverse は 「逆」を意味する。$x \mapsto e^x$ に対して $x \mapsto \log x$ のような関数の逆写像を指す。
Hessian inverse が $(\nabla^2 f)^{-1}$ であるので混乱しそうになるが、基本は日本語と変わらず、逆関数か逆数かの違い。
参考: Stack Exchange
写像
morphism
morphism(射)は、そもそもの数学的な難しさもあるが、特に似た用語が多く混乱しやすい。
- homomorphism | 語源 | 準同型写像 $\left( f(x \cdot y) = f(x) \cdot f(y) \right)$
- isomorphism | 語源 | 同型写像 (逆写像が存在する準同型写像)
- endomorphism | 語源 | 自己準同型 (自己への準同型写像)
- automorphism | 語源 | 自己同型 (自己への同型写像)
- homeomorphism | 語源 | 同相写像 (位相同型とも。連続かつ全単射であり、逆写像も連続な写像)
最適化
狭義凸
strictly convex: $f(tx + (1-t)y) < tf(x) + (1-t)f(y)$ と等号のない不等式で凸不等式を満たす関数
「真に凸」と言いますが"strictly convex"を「真凸」と訳すと誤訳です。「狭義凸」と訳すのが正しいです。
参考: 私のやらかし
真凸
proper convex: 少なくとも一つの $x$ に対して $f(x) < \infty$ が成立し、全ての $x$ に対して $f(x) \geq -\infty$ が成立する凸関数
参考: Wikipedia - 真凸函数
ツイート
radii
radii | UK ˈreɪ.di.aɪ | US ˈreɪ.di.aɪ | link
radius /ˈreɪ.di.əs/ (半径) の複数形
alumnus (男子卒業生) の複数形 alumni (男子卒業生たち または 男女両方を含む卒業生たち) と同じく、ラテン語由来の複数形。
Wikipediaは、(radii or radiuses)と書いており、後者の用例もない訳ではない。
参考1: 外来複数形
参考2: Twitter
equilibria
equilibria | UK ˌi:kwʌˈlɪbri:ʌ | US iːkwɪˈlɪbɹɪa | link
上記の発音記号は例外的に Weblio のものを使用。
equilibrium /ìːkwəlíbriəm/ (平衡) の複数形。
参考: 上記ツイートのリプライ
整関数
entire function
複素数平面の全域で定義される正則函数を指す。関数全体ではない。
参考: 私の友人の鍵垢ツイート
定義の仕方
Let A (数式) denote B (内容).
それ以外の使い方は多くの場合に非推奨とされる。
参考: 教本 p.90
他サイト
参考用に、数学における英語の用語がまとまったサイトをいくつか列挙しておきます。
Hyper Collocation: arXivでの共起表現や用例を調べることができる
数式
基本的数式
等号
$x=y$
これの読み方は、
- $x$ equal $y$
- $x$ equals $y$
- $x$ equals to $y$
- $x$ is equal to $y$
のどれが正しいか?
2の $x$ equals $y$ が基本的にはequalの三人称単数現在形としての動詞用法として最も正しい。
4の $x$ is equal to $y$ も叙述的用法の形容詞として正しいが、やや冗長とされる。
1の $x$ equal $y$ は、sがないので文法的に誤りである。
3の $x$ equals to $y$ は、動詞用法としての"equals"と形容詞用法としての"be equal to"が混ざっている。動詞用法では"to"は不要である。
参考1: Weblio
参考2: Cambridge Dictionary
累乗
$x^2$: $x$ squared
$x^3$: $x$ cubed
$x^n$: $x$ to the power (of) $n$ / $x$ raised to the $n$-th power / $x$ raised to the power of $n$ / the $n$-th power of $x$ / $x$ to the $n$(-th)
$2^{16}$: two to the sixteen(th)
底数はbaseと呼ばれ、指数はexponentと呼ばれる。
参考1: Wikipedia - Exponentiation
The exponent is usually shown as a superscript to the right of the base as bn or in computer code as $b^n$. This binary operation is often read as "b to the power n"; it may also be referred to as "b raised to the nth power", "the nth power of b", or, most briefly, "b to the n".
参考2: StackExchange
The more common way to say it (in math class or in a mathematical presentation) is a ellipsis of the first: "two to the sixteenth" or just as commonly "two to the sixteen" depending on how rapid speech you are using.
根
$\sqrt{2}$: the square root of two
$\sqrt[3]{2}$: the cube root of two
$\sqrt[n]{2}$: the $n$-th root of two
負の値
-10などの負の値について、"negative ten"と読む方が良いという話があります。尤も、数学者においても、"minus ten"と読むのが一般的とされています。
$15-10=5$ における"-"はminusと読みます。
参考1: StackExchange
It is good mathematical practice to distinguish between positive and negative numbers
……(中略)……
it is very common for people, even mathematicians, to use "minus" in speech
参考2: penta_mathさんからの情報。ありがとうございます。
最後に
以上です。
他の例をご存じの方は、是非教えてください!
最後に少しだけ補足です。
あくまで個人の意見として、英語を話すときに発音で示したことを全て厳守する必要はないと思っています。よく言われていることですが、訛りや文法の間違いは文意が正確に伝わる限り許容されがちです。
ただ、お恥ずかしながら私は未だに英語の発音が聞き取れないことがあります。予めその傾向を把握しておけば、楽に聞き取れることも増えると思います。
例えば、インドの方の発音はイギリス英語の影響を受けていることが多いです。18世紀頃から1947年8月15日のインド独立まで、イギリスの植民地だった影響と思われます。また、Wikipediaによると、"R" を強く発音する傾向があるらしいです(water(水)- ウォータル)。
また、フランスの方の発音は、イギリス英語的な傾向に加え、フランス語の影響も当然受けているので、"R" や "H" の音が特徴的です。例えば、"hospital"(病院)は、オスピタルのように発音される方が多いらしいです(参考)。実際私も Hessian の "H" が抜かれている発音を聞いたことがあります。
以上の英語・ヒンディー語・フランス語はいずれも「インド・ヨーロッパ語族」に分類されていますが、語派としては異なり、英語はゲルマン語派に、フランス語はロマンス語派に分類されるようです。共通点と差異の両方を歴史に見出せます。

Auf at Japanese Wikipedia, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
こういった傾向も踏まえた上で、辞書的な発音を知っておくことは、数学的主張の理解に有効だと思います。
本記事が皆様の数学に関する英語の理解に役立てば幸いです。
おまけ Barzilai–Borwein法
本記事の途中で言及したBarzilai–Borwein法は、かなり面白いアルゴリズムなので、少しだけ記します。
Barzilai–Borwein法1は、凸関数に対する単純な勾配法において、step sizeを次のいずれかに設定する方法です。
\alpha_k^{\mathrm{LONG}} = \frac{\langle s_k, s_k \rangle}{\langle s_k, y_k \rangle} \quad \text{or} \quad \alpha_k^{\mathrm{SHORT}} = \frac{\langle s_k, y_k \rangle}{\langle y_k, y_k \rangle}
準Newton法において、セカント条件 $B_{k+1} s_k = y_k$ が重要であることを前提とします (参考スライド p.28)。
すると、ヘッシアン行列の近似 $B_{k+1}$ として単位行列の定数倍 $1/\alpha I$ を使おうとすると、
\begin{align*}
& \arg\min_{\alpha} \lVert s_k / \alpha - y_k \rVert^2\\
={}& \arg\min_{\alpha} (\alpha^{-2} \lVert s_k\rVert^2 - 2 \alpha^{-1} \langle s_k, y_k \rangle + \lVert y_k\rVert^2)\\
={}& \frac{\lVert s_k\rVert^2}{\langle s_k, y_k \rangle}
\end{align*}
あるいは、
\begin{align*}
& \arg\min_{\alpha} \lVert s_k - \alpha y_k \rVert^2\\
={}& \arg\min_{\alpha} (\lVert s_k\rVert^2 - 2 \alpha \langle s_k, y_k \rangle + \alpha^2 \lVert y_k\rVert^2)\\
={}& \frac{\langle s_k, y_k \rangle}{\lVert y_k\rVert^2}
\end{align*}
かを使うのが自然です。これらは正に上記のBarzilai–Borwein法のstep sizeに対応します。
ここで、$\alpha_k^{\mathrm{LONG}}$ と $\alpha_k^{\mathrm{SHORT}}$ の大小関係を考えると、
\begin{align*}
&\lVert s_k\rVert \lVert y_k\rVert \geq \langle s_k, y_k \rangle \quad \text{(Cauchy–Schwarz)}\\
\implies{} & \frac{\lVert s_k\rVert^2}{\langle s_k, y_k \rangle} \geq \frac{\langle s_k, y_k \rangle}{\lVert y_k\rVert^2} \\
\implies{} & \alpha_k^{\mathrm{LONG}} \geq \alpha_k^{\mathrm{SHORT}}
\end{align*}
であるため、この命名が自然であることも分かります。
なお、このstep sizeはBB step sizeとも呼ばれます2。
Rayleigh商との関係でも捉えられます3。
-
Barzilai, J., & Borwein, J. M. (1988). Two-point step size gradient methods. IMA journal of numerical analysis, 8(1), 141-148. ↩
-
Tan, C., Ma, S., Dai, Y. H., & Qian, Y. (2016). Barzilai–Borwein step size for stochastic gradient descent. Advances in neural information processing systems, 29. ↩
-
Raydan, M. (1993). On the Barzilai and Borwein choice of steplength for the gradient method. IMA Journal of Numerical Analysis, 13(3), 321-326. ↩