「祠ひとつだけ」と言ったな? あれは嘘だ。
はじめに
祠を一つクリアして終わる予定だったんです。
でも素材を拾って、道具を作って、島が見えたから飛んでみて、祠があったから入って…。
そうして3時間が溶けていました。
この現象、プレイヤーの意志の弱さではなく、設計の強さに起因します。
本記事では、ティアキンの“returnできない構造” を、設計・実装視点で解剖します。
プレイヤーは何に巻き込まれているのか?
1. スタックベースの問い再帰構造
ティアキンにおける「やること」は、命令ではなく問いとして自然発生します。
function tick(player: Player) {
if (player.seesSomethingWeird()) {
player.stack.push(() => investigate());
}
if (player.picksUp(Material.MysteriousLeaf)) {
player.stack.push(() => tryFuse(Material.MysteriousLeaf));
}
if (player.hears(Sound.ShimmeringBell)) {
player.stack.push(() => glideTowardSound());
}
player.stack.executeNext(); // ← returnが消える瞬間
}
これが1回のtickごとに走っていると思えばいい。
しかも stack.push()
される内容は小さく、軽く、気になるものばかり。
2. タスク設計が再帰可能
プレイヤーの行動はすべて次の問いを返すように設計されています。
言い換えれば、一つの行動がreturnではなく、再帰呼び出しになる。
function investigate() {
const discovery = scanEnvironment();
if (discovery.type === "shrine") {
return enterShrine();
}
if (discovery.type === "material") {
return tryFuse(discovery);
}
if (discovery.type === "npc") {
return startSideQuest(discovery);
}
return explore(); // ← 謎の再帰構造
}
つまり、プレイヤーが「やめよう」と決断するには、stackが空かつ新しい問いが見えない状態が必要。
でも、ティアキンにはそれがほとんど訪れない。
3. システム側の“快適トラップ”
プレイヤーのスタック実行環境は、ストレスが最小化されるよう設計されています。
const ExecutionContext = {
loadingTime: nearZero,
visualCueDensity: high,
interactionFriction: low,
ambientCuriosityLevel: sustained,
};
この実行コンテキストの中で stack.executeNext()
が走り続ける。
プレイヤーはタスクをこなしているつもりで、設計に巻き込まれている。
設計的な要点まとめ
設計要素 | 実装メタファー | 効果 |
---|---|---|
自発的動機 |
player.stack.push() の自然発火 |
“やらされ感”の排除 |
粒度の非対称構造 | 小〜特大サイズの非同期イベント | プレイのスキマに“適当な何か”が常に入る |
再帰的連鎖設計 | return explore() |
明示的な中断点が存在しない |
快適な実行文脈 |
ExecutionContext の最適化 |
誘導されているのに快に感じる |
応用アイデア(マジで使えるやつ)
1. 学習アプリ
function onUserSolvesProblem() {
suggestNext(() => {
if (userCurious()) {
push(similarConcept());
} else {
push("didYouKnow"Trivia());
}
});
}
→ 明示的に「次へ」と言わず、自然な知的スタックを促す
2. プロダクトツアー設計
function onFeatureDiscovery() {
if (user.engaged) {
stack.push(() => tryAdvancedUsage());
}
}
→ スキップ可能に見せて、興味だけで操作が進むUI導線
3. メンタルUX設計(瞑想・日記系)
function afterUserWritesThought() {
suggest("whatDoesThisConnectTo?");
}
→ 思考の“return”を遅らせ、問いの連鎖によって内省を深める
結論:ティアキンは人間イベントループを設計している
ティアキンは「プレイヤーの選択の自由」ではなく、スタックと問いと快の連鎖によって、
“returnを書かせないUX設計” を成立させている。
この構造は、フロー状態・学習設計・情報探索などにも応用可能。
要するに、「やめどき」が見えないというUX設計は、
実装可能だし、応用可能だし、実際楽しい。
next:
How Zelda Fused My Brain
ティアキンの祠に学ぶ、ミニマルな関数設計
-
クラフト=自己帰属性のUXモデル
(予定)
注釈
この記事は、QSAループを用いた「ティアキン ゲームレビュー」生成実験のその2です。
- ゲームレビューその1:やめようと思ったそのときに、やめられなかった
- ゲームレビューその3:時間が溶ける設計について
- QSAループを用いた「ティアキン ゲームレビュー」生成実験: