#【疑問1】LibraはFaceBookが管理・発行する仮想通貨か?
一般的に最も誤解されやすい部分はここだと思われる。
FaceBookが呼びかけ、テクニカル基盤を提供し、建付けをした先導的立場にあるのは事実だが
Libraの管理(つまり、mint:発行とburn:焼却による通貨価値のコントールや運用方針の決定)は全てスイスに本拠地を構えるLibra財団に委ねられる。
FaceBookはLibra財団のメンバーではあるが、特別な権利を保持していないため、1投票権を持つに過ぎない。
Libra財団は100企業程度によって構成していくという構想があり
現時点(2019年7月)では28企業程度がメンバーとなっているため、FaceBookには1/28 ~ 1/100の投票権(影響力)しかない。
なお、システム(プロトコル)的にもFaceBook1社だけでは、いかなる送金をも勝手に行うことはできない。
この辺は雑に言えばLibra財団のメンバーが各々の承認ノードを持っているため、そこで多数決を得ないと送金ひとつも勝手に行えない仕組みだ。 1
#【疑問2】Libraを買っておくと儲かるか?(法規制をクリアし入手できると仮定して)
以下の2点の事由からまず儲からない。
- Libraは主要国の通貨や債券の組み合わせと価値連動するステーブルコインである(通貨バスケットペグ)2
- Libraには利子が付かない
Libraは明確に決済手段としての用途に限定されており、ビットコインのようなSoV(Stock of Value:価値の保存)用途は持ち合わせない。Libraを購入するのは(LinePayやPayPayのような)キャッシュレスアプリにチャージするのと同じ行為だ(ただ、キャッシュレスは3%還元とかのPointはつくが、Libraにはつかないだろう)。
#【疑問3】Libraには現在の決済ネットワークを代替できるだけのキャパシティがあるか?
現時点ではない。
VISA等のクレジットカードでは最大で秒間5万6千トランザクションを裁け、平均でも秒間3千トランザクション程度らしいが、発表当時の内容では、Libraはせいぜい最大で秒間1千トランザクションが限界のような記載がある。
ただ、明確にスケーラビリティを解決するための指針3が提示されていないことを不安視する向きもあるが
FaceBookの技術力(=その技術に強みを持つところを買収できる資本力という意味も含めて)を持ってすれば、今後は段階的にスケーラビリティを拡大することは十分可能だとは考えられる。
#【疑問4】Libraは日本含めた各国の規制に立ち向かえるのか(どうなるのか)?
ここは正直分からない。
そもそも、ビットコインでさえ今後(規制面で)どうなるか分からないのに急遽出てきたLibraなんぞがどうなるかなんて、本当に分からない。
一つ言えるのは、FaceBookは独占的にLibraを扱うわけでもなく、Libraに利子をつけるわけでもないので
銀行業務に参加するつもりはなく、また、規制当局(米国)と衝突することを望んではいないだろうということだ。
日本においては、(専門家以外が)現時点の法規制と照らし合わせてどうこう言うのはナンセンスだとも思う。
一般的に言われるのは以下の通り。
・ 通貨建て資産として見做されるか? ⇒ 見做されなければ仮想通貨(暗号通貨)扱い
・ 通貨建て資産の場合は、「為替取引」「前払い式決済手段(Suicaみたいなやつ)」「証券(金融証券)」のいずれか
#【疑問5】Libraはパブリックチェーンかコンソーシアムチェーンか?
どちらでもない。あるいはどちらでもある。
承認ノードはLibra財団メンバーのみに限定されるため、その意味ではコンソーシアムチェーンとも呼べる。
ただし、その利用(スマートコントラクトコードの登録を含む全アクセス)は誰に対してもオープンのように見受けられ、その意味ではパブリックチェーンとも言える。
なお、ホワイトペーパーでは将来的には承認ノードの選定含めて完全なパブリックチェーンに移行する計画自体も示唆されてはいる。
#【疑問6】Libraの競合相手は存在するか?
あえて言えば、EthereumとEOSになろう(現時点ではEOSの方がより近い)。
どちらもスマートコントラクト機構を持ち、トークン4を扱える(コンソーシアム運用も可能な)パブリックチェーンだ。
それぞれ特徴は違えど5、広義にはスマートコントラクトによるカスタマイズ可能な決済手段足り得る。
(他のアルトコインは知らないが)ビットコインは明確に競合ではないと考える。
ビットコインは通貨としての役割に特化しており、構造が全く異なる6。
#【疑問7】Libraは普及するのか?
見守りましょう。
FaceBookが独占的に掌握し管理する仮想通貨でない以上、
パートナー(共同出資するコンソーシアムメンバ)を集う現実的な線だったのかもしれないが
10億 × 100社 = 1000億というのは、(FaceBookの資本力からすれば)本気度は見え辛いかもしれない7。
(もっとも、FaceBook自身はLibraブロックチェーンの開発等諸々で実質的には10億を優に超える金額を投入しているとは思うが)
当然、米国を中心に世界各国の規制圧力もかかるだろう。
だが、一筋縄ではいかないだろうことは恐らくFaceBook自身が一番分かっていることであり
そのために影響力のあるVISAやMasterCardを含む一定規模のコンソーシアムを集い、スイスに財団を置いて権限を分散化させ
通貨バスケットペグや利子を付けない形をとり、ブロックチェーンのアクセス自体は全てのユーザに開放したのだろう。
また、この試みが成功するにせよ、仮に失敗するにせよ
Libraのおかげで仮想通貨・ブロックチェーンといったニュースが(流出事件以外で)普通にTV等のメディアでも流れるようになって
ブロックチェーンの認知度は大きく向上したのは個人的には非常に喜ばしく思っている。
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承認ノードの多数決で合意を得なければ、送金情報などの新しいデータを書き込めない=送金が認められない。なお、多数決というのは結構ラフな言い方で、実際にはBFT(Byzantine Fault Tolerance)を備えた合意形成アルゴリズムが採用されている。 ↩
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JPY(日本円)ペグで説明すると100円で購入したLibraの価値は常に100円のままということになる。Libraの場合は対象がJPYではなく通貨バスケットだが、そこに対しての価値が連動する点では同じ。 ↩
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所謂、Layer2(lightningNetwork:ビットコイン、plazma:イーサリアム)といったスケーラビリティ向上のビジョンは現時点では展開されていないように見える。 ↩
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色々ツッコミあるとは思うが、ここではトークン=コイン(仮想通貨)だという程度の認識で十分。 ↩
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EOSはスケーラビリティ(性能)は良いが分散性に難があり、Ethereumは現時点でスケーラビリティ(性能)に難があるといった感じだ ↩
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スマートコントラクト機構はほぼ備えず、UTXOという秘匿性を重視した方式を取り、将来に渡ってPoWコンセンサスアルゴリズム(電力の消費により価値を創造し、何物にもペグしない)を採用する点で、全くの別物である。 ↩
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例えば、EOSの資金調達額は4000~5000億程度。 ↩