これは、同じエンジニアである妻から聞いた話なのですが、彼女の案件で「メンバー全員で公式ドキュメントを読みあわせる」という取り組みがあったそうです。
で、この方法「チーム全体にとって大きなメリットがあるんじゃないか?」と思ったので、共有させていただきます。
「誰も知らない」から「みんな知ってる」に
私は開発職なので、めずらしいことなのかそうではないのか判断がつかないのですが、その案件では、導入対象の製品について詳しい知識を持っているメンバーが一人もいなかったというのです。
誰もその製品をさわったことがなく、とりあえず強そうなメンバーを入れて、経験年数とカンどころで"ゴリ押し"しようという、なんとも危険なプロジェクトだったときいています。
しかし、ある若手メンバーの提案によって、たった1日でメンバー全員の「大丈夫だろうか」という不安を解消し、メンバー全員が最低限の知識を得ることができたというのです。その方法が、冒頭の「メンバー全員で公式ドキュメントを読み合わせる」というシンプルな方法です。
では、具体的にどんなことをしたのか。
『2時間枠の会議を設け、プロジェクトに参加していたメンバー全員で、一字一句、ドキュメントを漏らさずに全員で上から読んだ。』
これだけです。
各メンバーが個別に読んでいったのではありません。経験や役職に関わらず、全員で集まって、1つの画面を見ながら、みんなで紐解きながら読んだというのです。
私はこの取り組みにすごく感銘を受けました。この「全員がきちんとドキュメントを読むこと」が、とても大事なことだと思ったからです。
ほとんどの人はドキュメントを全部読まない
これは個人的な意見なのですが『きちんとドキュメントを読める人』は、かなり少ないと思っています。また、同じくらい、読んで理解できる人も少ないと思っています。
・ほとんどの人はドキュメントを"全部"読まない。
・ほとんどの人はドキュメントの読んでも分からない。
そして、この性質は、チーム内で次の問題を引き起こすと考えています。
・読むメンバーと読まないメンバーで、知識レベルに差が生まれる。
・そのため、課題や問題をあげるのはいつも同じメンバーになってしまう。
・「分からない」メンバーは時間が経てばたつほど言いだしにくくなる。
私はこの問題について、かなり解像度を高く提起できていると思っています。
なぜなら、私がそうだからです。
私も全部読まないし(全部読んだ気にはなっている)、判断もできないクセに"大事そうなところ"だけをつまんで読みます(時間もないし)。また、読んでも理解できないことが多く、公式サイトを閉じてそれっぽいブログサイトの記事を読んで、分かった気になっています(何も分かっていない)。
当然、これでは残念な結果になります。お客さんとの会話についていけず、課題や問題を上げることもできず、上司に「何か気になることはありますか?」と振られてもトンチンカンなことしか言えず、なんといいますか、こうやって無能が爆誕するんだなーって我ながら情けなく思ったりします。
しかし、最近「案外それがふつうなのかもな…」という風にも思うようになりました。
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メディア『Books&Apps』を運営者である、安達裕哉さんの『読んで分かるは才能』という記事にこんなことが書かれています。
なぜなら、誤解を恐れず言うと、仕事ができる/できないにかかわらず、「読んで、わかる」能力をもつ人はきわめて少数だったからだ。
少しでもわかりにくい文章、長い文章は、そもそもまず「読んでもらえない」し、それ以上に「読みたくない」と言われる。
仮に読んでもらえたとしても「誤解されて伝わる」か「うまく意図が伝わらない」のだ。
(…)
そう。普通の人は「何回読んでも理解できない」のが当たり前なのだ。
出典:Books&Apps. “「読んだらわかる」のは、特殊な才能”(2023/6/29) -
https://blog.tinect.jp/?p=82374
元記事のテーマが「中学生にもわかるように書け」であり、伝え方について説いているという点では、この記事の内容とは少しズレてしまうのですが「何回読んでも理解できないのが当たり前」というのは、私もつねづね「分かる、めっちゃ分かる…」と思っております。
また、同記事では次のようにも書かれています。
とはいえ、最近では「知識労働」が増加し、気を配って作られたわけではない(中学生では読めない)文献や資料を「読めない」ことが、仕事においてしばしば致命的な要因になってしまうことがある。
また、大学などが「無償で公開」しているノウハウも、読めない人にとっては存在しないのと同じだ。
特にテクノロジーの分野ではそれが顕著で、それが、「読める人」と「読めない人」の、差を生み出しているのかもしれない。
はい。これも私の身に起きていることですね。気持ちとしても完全同意で、心から「そう、そうなんだよ…」と思えた内容でした。
───というワケで、この取り組みを聞いたときに「私みたいな無能にとって最高の取り組みやん!」と感銘をうけたのです。そして、私が考えているチーム内で発生する問題もまとめて、しかもメンバー全員が解決できる取り組みなんじゃないかと思ったのです。
ほかにもメリットいろいろ
もう言いたいことはすべて言ってしまったので、さいごに『メンバー全員で公式ドキュメントを読みあわせる』ことで「こんなメリットがあるよ!」というのをご紹介して終わろうと思います。
①読み飛ばしがなくなる。
本記事の最初に上げた内容です。全員で読むために、読み飛ばしがなくなります。ドキュメントをすべて、隅々まで読むことができます。冷静に考えたらこれはスゴいことです。やるべき。
②分からない内容はその場で解決できる。
経験の浅いメンバーが、分からない内容をその場で解決することができます。メンバー全員で読むため、自分の理解が追い付かないときは、周りにすぐに聞けるほか、その時点では周りの理解も低い状態なので「分からない」と声を上げる敷居も非常に低いです。やるべき。
③全員の作業方針が一致する。
読み合わせたあと、全員が今の課題や問題を理解するため、その後の作業方針が一致します。このあと何をしなければならないか?ほかに確認しておかなければいけないことはなにか?どんな情報が不足しているか?この認識をメンバー全員が共有することができます。やるべき。
④経験の浅いメンバーの知識レベルが分かる。
経験の浅いメンバーの知識レベルが分かるため、プロジェクトリーダーが指示を出しやすくなります。逆に経験の浅いメンバーは、誰に相談をすべきなのかが分かります。チーム全体の効率がアップするほか、スキルアップにつながります。やるべき。
⑤チームの一体感が高まる。
全員で1つの作業をすることで、チームの一体感が生まれます。また、同じ知識レベルを共有しているという想いがそれを後押しします。そのため、プロジェクトへのモチベーションや協力体制が強化されます。やるべき。
⑥メンバー全員が課題をあげることができる。
重要な要件や注意事項を全員が理解することで、経験豊富なメンバーはカンどころから、経験が浅いメンバーもフレッシュな視点で、トラブルとなるリスクや課題を低減できる提案をすることができるようになります。やるべき。
以上です。