「ググれカス」というインターネットスラングがあります。主にネット掲示板(2ちゃんねる)や SNS で使われてきた「自分で Google 検索して調べろ」という意味の言葉です。
近年では、このながれが変わり、「まずは AI に聞け」という風潮が広がっているように感じます。分からないことがあれば、とりあえず AI に聞け、ということです。
なぜか。AI に聞けばわかるからです。
回答の精度も高いです。
これはとても便利なことです。しかし、便利だからこそ、情報発信をためらってしまうことがあります。
記事を書いた経験のある人ならわかると思いますが、ナレッジを文章で発信するのは非常に時間のかかる作業です。「AI に聞けばわかる情報を、わざわざ発信する意味があるのか?」と感じてしまったら、とても書く気にはなれません。
この問題は、初心者が学習内容を発信しようとした場合や、社内向けの(狭い)情報発信の場合にはっきり現れます。多くの場合、「AIに聞けばわかる」程度のナレッジ共有にとどまってしまうからです。
情報発信というのは面倒なものです。一方で、やめる理由をみつけるのはとても簡単です。すぐに「だったら、別に書かなくていいか。」という思いが首をもたげてきます。
しかし、だからといって「自分が発信する意味はないな。」と思うのは間違いです。なぜなら、たとえ発信する内容が基礎的なものであっても、AI に負けないナレッジ共有をすることは可能だからです。
『気づき』と『切り取り』
先に、結論を言います。
「AIに聞けばわかる」程度のナレッジ共有にとどまらない人は、経験をもとに、思考を巡らせることができる人です。
キーワードは『気づき』と『切り取り』です。
『気づき』は、言葉のとおりで、なにか経験や学習をしたときに「気がつくこと」です。あらたに得た知識といってもいいかもしれません。
『切り取り』は、気づきから「じゃあ、こんな場合にどんな課題・問題・利点があるのか?」というシナリオを考えることです。端的にいうと、"独自の視点でモノゴトをとらえ、新たな価値を生みだすこと"です。
「なんのこっちゃ」と思ったかたのために、ひとつ例をあげてみます。
※プロダクトの知識や理解は必要ありません。流し読みください。
◆気づき
Microsoft SharePoint Online のリストをデータソースとするアプリで、データを並び替える処理をつくりました。しかし、データが 5,000 件を超えた途端にエラーが出るようになりました。


解決策は、リストにインデックスをつけることです。今回は "No" で並び替えをしたいため、No 列をインデックスに追加しました。

エラーがなくなり、うまく動くようになりました。

これだけでも「エラーの解決方法」としてナレッジになりそうですが、どうにも「AIに聞けば分かる」程度の内容になりそうです。
───ということで、このときに気づいた「😑インデックス?なんかデータベースみたいなことを言うな。」から、切り取りをしてみます。
◆切り取り
「🧐たしか、インデックスってデータベースの検索速度を向上させる構造、のことだよな?なんの関係があるんだ。」と思い、少し調べてみました。
───どうやら、SQL Server の 5,000 件問題が関係しているようです。
切り取り①:
昔のオンプレミスの SharePoint は、SQL Database にデータを保存しており、まとめて(5,000 件の)データを操作しようとすると、テーブル全体がロックされる「ロック エスカレーション」というものがあったらしい。なるほど。その考え方が SharePoint Online にも引き継がれてそうだ。解消方法がインデックスを作成するという点も同じだ。ん?となると、SharePoint Online はバックにAzure SQL とかがあるのか?
切り取り①:
インデックスの設定をしていない場合、データが増え続けるシステムだと、アプリはいつか必ずエラーを起こすことになるではなかろうか。なかなか致命的な仕様だと思うけど、どこかに書いてあったっけ?にしても、一括操作が 5,000 件までとはひどく少なく感じるな。なぜもっと増やさなかったのだろうか。 Share Point Online は多くのデータを扱う想定で設計されていないのだろうか。いや、公式には「リストには最大 3,000 万個のアイテムを含めることができる」と書いてあるな。
───まだまだ思考を巡らせることはできますが、記事から脱線してしまうので "1 階層"でやめておきます。
大事なのは、このように思考をどんどん巡らせ、深堀りしてゆくことです。みんなと同じ学習をしたとしても、気づいた内容に対して:
- あれはなぜだったんだろう。
- どうしてそうなってるんだろう。
- ということはこういうことだろうか。
と切り取るのです。
これが日常的にできている人のナレッジは、知識が深く、経験したことをあますことなく言語化できているように感じます。これが AI にも負けないナレッジです。
「情報だけ」では弱い
「勉強した内容をただまとめる」ことを否定するつもりはありません。私がいいたいことは、「情報だけ」ではインターネットの世界に出したときに弱い、ということです。
だって、私たちは情報量で AI に勝つことはできないのですから。
しかし、私たちが AI に勝てることがあります。AI は経験をしません。そのため、気づきを得ることができず、私たちのように「切り取る」ことができません。
以前、似たようなことを書きました。
AI の書く文章は無個性で、意外性がありません。AI は「ありそうにない仮定の話」をつくり、それを論理的に説明することが苦手です。
そのため、「どこかで聞いたことのある話」しか出せず、人間の手が加えられないかぎり「よくあるよね」といった、それっぽいコピーコンテンツを生みだす事になります。
出典:Qiita.「😭文章を「AIっぽい」と揶揄されたくない。🧐だからアンチパターンから「AIっぽい」を撲滅する。」(2025/3/24)- https://qiita.com/haihaikazuma/items/a0a9788d323dbd873914
AI に勝つためには、「気づき」と「切り取り」によって新たな価値を生みだすことが大切です。製品のチュートリアルをやっただけでも「なぜこの手順が必要なんだろう。」という思考を巡らせることで、思わぬノウハウが得られるものです。
もしかしたら、恥ずかしい経験が含まれるかもしれません。
「こんな初歩的なミスしたのは、きっと俺だけ。」
「手順どおりに進めたのに、チュートリアルも動かなかった。」
もしかしたら、価値がないと思ってしまっているかもしれません。
「こんな情報、誰の役にも立たんだろ。」
「この程度なら、AI に聞けばわかるだろう。」
しかし、発信を躊躇う必要はありません。
よくから「初心者の気づきにも価値がある」といいますが、私は AI が発達した今でも、それは変わっていないと思っています。本当に重要なことは、どう切り取るか、だからです。
おわりに
実は、この「気づき」と「切り取り」の必要性は、学習にかぎった話ではありません。もっと日常的なものであり、人生を面白くするための心構えです。
ちょうどいい例がここにあります。
次のポストは、ちょまどさんという方から紹介されている「ChatGPT のアイコンって、フレンチクルーラーに形が似てね?」っていう気づきです。
(なぜか引用元の画像がたまに描画されないので、こちらにも貼っておく)
— ちょまど@育休中エンジニア (@chomado) June 23, 2023
> Azure OpenAI Service を軸としたセッションを数多く準備しております
とのことで、
似ているから軽食にフレンチクルーラーを出したという(良い)https://t.co/KKBJErRauw #AzureTechDay pic.twitter.com/XYv9kVzgsY
きっと、Open AI の開発者もフレンチクルーラーが大好きで、開発の合間に食べながら「やっぱこの形、いいな。」と思ったのでしょう。
───まぁ、そんなことはないでしょうが、ここで言いたいことは「こんなしょーもない気づき」でも、思考を巡らせることはできるということです。(分かっているとは思いますが、しょーもないというのは決して悪口ではありません。)
こういう「気づき」には人を魅了する、ついクスッと笑ってしまうような「面白さ」があります。まるで、芸能人が持っているネタ帳です。
このようなネタは、ふつうであれば出すタイミングはありません。「いつ出すねん(笑)」というようなネタです。私はこのネタを 1 年ほど眠らせており、今日ようやく披露することができました。
しかし「やれやれ、ようやく出せたぜ。さて、次のネタでも探すか。」とはなっていません。私はこういうネタを何百個も持っているからです。
キッカケはどんなものでもよいのです。つねに気づきに敏感で、その気づきは必ずメモをし、切り取れないかを繰り返し確認する習慣をつけること
そうすることで、人生にも深みがでると思いませんか?
以上です。