ここに1枚の紙があります。

・白い ”紙”
・横線の引かれた ”紙”
・厚手の ”紙”

上であげた3つの修飾語を、ひとつにまとめて ”紙” という名詞にかかる文章をつくるとき、順序はどうすればいいでしょうか。

まずは順序のままに並べてみます。

白い横線の引かれた厚手の紙

───すぐに気がつくように、これだと「白い横線」の引かれた紙、つまり横線が白いことになってしまいます。

エンジニアの文章には修飾語が多いです。そのため、文章の読みやすさや美しさを意識しないと、このような「ねじれた」文章を書いてしまうことがあります。

いそいで作成した文章であればなおさらです。

本記事では、文章を一瞬で読みやすくする修飾語の2大原則をお伝えします。結論、次のルールにしたがうだけで、文章は格段に読みやすくなります。

2大原則

①長い修飾語は前に、短い修飾語は後に。

②大状況・重要内容ほど先に。

はじめに

本記事では、修飾語の並び替え例について 4 つの例文でご紹介します。

3語の修飾語の例を、有名な文章読本から2つ：
・古式蒼然とした透明な青いコップ
・日本列島の上空に花子の放った風船が小さな点となって消えていった

2語の修飾語の例を、私の考えたものから2つ：
・最新のリファクタリングされたバージョンをクローンする。
・追加されたタスクをタスク一覧画面から確認する。

修飾語の2大原則

①長い修飾語は前に、短い修飾語は後に。

この原則は、文の分かりやすさ・自然さを決めるための最も重要な基礎をなすものといえるでしょう。例えば次の例：

正順：古式蒼然とした透明な青いコップ

この文章は、「長い修飾語は前に」なっています。(正順になっている)

・古式蒼然とした “コップ”
・透明な “コップ”
・青い “コップ”

では、これを逆順にしてみます。

逆順：青い古式蒼然とした透明なコップ

「青い古式蒼然とした」で文章が切れてしまったはずです。このように、長い修飾語を後ろにすると、読み手に負担をかけ、混乱させる恐れがあります。

上記の例のように、修飾語が3語もあれば違和感に気がつけるかもしれません。しかし、修飾語が2語の場合はなかなか気がつくことはできません。例えば次の例：

逆順：最新のリファクタリングされたバージョンをクローンする。

この文章は、「長い修飾語は前に」なっていません。(逆順になっている)

・最新の “バージョン”
・リファクタリングされた “バージョン”

では、正順に直してみます。

正順：リファクタリングされた最新のバージョンをクローンする。

いかがでしょうか。「長い修飾語は前に、短い修飾語は後に。」することが有効だと分かったのではないでしょうか。

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「長い修飾語は前に…」と言われても、よくある「修飾する側とされる側の距離を近くせよ」という文章論を信じている人から「主語・述語の関係がめちゃくちゃになるじゃないか！」と言われてしまうかもしれません。

その点については『日本語の作文技術』の中で回答されています。

問題の本質は、いわゆる「主語・述語」関係ではないのだ。たとえば次のような例を考えてみる。

Ⓐ明日はたぶん大雨になるのではないかと私は思った。
Ⓑ私は明日はたぶん大雨になるのではないかと思った。

右の二つでは、Ⓐの方がイライラしなくて読める。なるほどこの場合は、いわゆる「主語・述語」がⒶの方が近いからわかりやすいともいえよう。では、次の例はどうか。

ⓐ明日は雨だとこの地方の自然に長くなじんできた私は直感した。
ⓑこの地方の自然に長くなじんできた私は明日は雨だと直感した。

この二例では、明らかにⓑの方がわかりやすい。しかしいわゆる主従関係からすれば、ⓐの方がわかりやすくなければならぬはずである。これは実は当然であって、「主従関係」などというものは、日本語の作文を考える時、百害あって一利もないのである。

本多勝一著, 『日本語の作文技術』P56（朝日文庫、1982年）

経験的にこの原則───「長い修飾語は前に…」のとおりに並び替えている、という人は多いかもしれません。分かりやすい日本語を作文するという点においては正解です。

②大状況・重要内容ほど先に。

例えば次の文章があります：

正順：日本列島の上空に花子の放った風船が小さな点となって消えていった

この文章は、原則①の「長い修飾語は前に…」の点からは三者平等です。

・日本列島の上空に “消えていった”
・花子の放った風船が “消えていった”
・小さな点となって “消えていった”

しかし、内容の意味するところが平等ではありません。例えば、「日本列島の上空」が全体の中で占める意味はもっとも重く、おおきな状況をとらえています。

そこで、原則①が適用できない場合は、大状況・重要内容ほど先に並び替えます。

では、こちらも逆順にしてみましょう。

逆順：小さな点となって日本列島の上空に花子の放った風船が消えていった

明らかにまずい順序であることが分かると思います。また、急に「小さな点」が出てきて、後半になってようやく、「風船が小さな点になった」ことが分かります。

このような文章は、読み手を「疲れさせる文章」になっており、直感的に「読みにくい」という悪印象を持たれてしまうことがあります。

原則①と同様、修飾語が3語であればこのような───「明らかにまずい」という違和感に気がつけます。しかし、修飾語が2語であれば、気がつくのが難しくなります。例えば次の例：

逆順：追加されたタスクをタスク一覧画面から確認する。

この文章は、「大状況・重要内容ほど先に」なっていません。(逆順になっている)

・追加されたタスクを “確認する”
・タスク一覧画面から “確認する”

では、正順に直してみます。

正順：タスク一覧画面から追加されたタスクを確認する。

いかがでしょうか。「大状況・重要内容ほど先に。」することが有効だと分かったのではないでしょうか。

エンジニアにおいては：
・どの環境で、どのサーバーで、どのサービスが
・どのソースコードの、どの関数の、どの処理が

───というような場面で使える原則だと思います。

この2大原則「程度」の並び替えであれば、脳死でできるはずです。脳のリソースをあまり使うことなく、サクッと分かりやすい文章にしたい人は参考にしてみてください。

逆順は「、」によって解消され、主張が強化される

言いたいことはすべていってしまったので、おまけとして『逆順は「、」（読点）によって解消され、むしろ主張が強化される』という話をして終わろうと思います。

そもそも、なぜ逆順の文章を書いてしまうのか。

私は、人の感情が先行するから───つまり、自分が重要であると思っていることを先行して書きたくなるからだと考えています。

逆順：最新のリファクタリングされたバージョンをクローンする。
　⇒「最新の」ものを確認して欲しい！

逆順：追加されたタスクをタスク一覧画面から確認する。
　⇒「追加されたタスク」を確認して欲しい！

ただ、その感情を優先することもできます。方法は簡単で、逆順でも問題がないように「、」（読点）を付けるだけです。

最新の、リファクタリングされたバージョンをクローンしてください。

追加されたタスクを、タスク一覧画面から確認してください。

修飾語が3つもあると、文学の領域になるかもしれませんね。

正順：古式蒼然とした透明な青いコップ。
逆順：青い、古式蒼然とした透明なコップ。
　⇒「青い」ことが強調されており、文頭で「幻想的」な印象を与えることができる。

正順：日本列島の上空に花子の放った風船が小さな点となって消えていった。
逆順：小さな点となって、日本列島の上空に花子の放った風船が消えていった。
　⇒「小さな点となった」というような、時間経過や状況を強調したい場合などに有効。

句点はまったく使わないか、なんとなく「いい感じのところ」に打つ人がほとんどだと思いますが、このようなテクニックもあるので意識してみてください。

また、テンについては『日本語の作文技術』に、「テンの二大原則」が書かれています。本記事では原則のご紹介までで、詳細は省略します。

第一原則　長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界にテンをうつ。（重文の境界も同じ原則による。）
第二原則　原則的語順が逆順の場合にテンをうつ。

本多勝一著, 『日本語の作文技術』P104（朝日文庫、1982年）

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さいごまで読んでいただきありがとうございました。これで、冒頭の「白い横線の引かれた厚手の紙」も、怖くなくなったのではないでしょうか。

以上です。

参考文献

奥田靖雄著, 『正しい日本文の書き方』
岩淵悦太郎著, 『悪文』
本多勝一著, 『日本語の作文技術』