#問題
こんにちは,突然ですが問題です.
$$i!\overline{i!}=0.27$$を示せ
これはなぞなぞではありません
れっきとした数式です.特殊関数論を履修している方も一瞬数式とすら思わないかもしれません.
諸悪の根源はフォントです.$\TeX$文字で問題文を書き直すと次のようになります.
$$i!\overline{i!}=0.27$$を示せ
これなら,問題文が明確に理解できますね.
$\overline{\ }$を付けているのは,意味のある計算にするためです.
詐欺っぽいですがこらえてください.
要は,虚数の階乗の二乗を求めろということですね.
まだ問題文を解読できた段階です.
まず,虚数の階乗ってなんやねん!ってところです.
階乗って整数でしか計算ふつう計算しません.
整数では,
$$1,1,2,6,24,\cdots$$
と続く数列です.漸化式で書くと,
$$a_n=n a_{n-1}$$
となります.
階乗の概念をいきなり複素数まで拡張することは難しいので
実数にまで拡張します.
#ガンマ関数
入力が単一引数で整数であるメソッドを数列といいます.
入力が単一引数で実数であるメソッドを関数といいます.
定義域を実数まで拡張すると関数になります(そうでない場合もあるので注意)
数列の$a_j$と$a_{j+1}$を補完する滑らかな曲線を探します.
たまたま見つけたのがガンマ関数です.
ガンマ関数$\Gamma(x)$は階乗とよく似た性質を持っていることが知られています.
ガンマ関数$\Gamma(x)$は階乗の一般化といってもいいでしょう.
ガンマ関数$\Gamma(x)$の定義式をみても意味が分からないので
いくつかの性質をみてみましょう
- 正の整数$n$に対して$\Gamma(n)=(n-1)!$
- 正の実数$x$に対して$\Gamma(x+1)=x\Gamma(x)$
- $\Gamma(1)=1$
これらをみれば,ガンマ関数が階乗の一般化であると納得できると思います.
2番目の事実は,階乗の漸化式といえます.
1番目は$n$が少しずれていることに気をつけましょう
3番目は初項を定めているだけです.
実はガンマ関数の入力が実数だけでなく,実部が正の複素数でもうまく計算できます.
これで$i!$を考えることができます.
ガンマ関数を少し踏み込んで勉強すると,相反公式に出会うでしょう
ガンマ関数の相反公式
$$\Gamma(x)\Gamma(1-x)=\frac{\pi}{\sin \pi x}$$
相反公式の公式証明は難しいのですが,留数定理を勉強した人は楽しく証明を読めると思います.
#問題の解答
多少天下り的な部分もありますがご了承ください.
まず,$z=ix$と置きます.
なぜ$x$をつっくけるかというと,一般の公式を作って,最後に代入すると計算がうまくいくからです.(オイラーの公式もそうでしょ)
$$|z!|^2=|\Gamma(z+1)\Gamma(z+1)|=|z||\Gamma(z)\Gamma(z+1)|.$$
ここで,
$$|\Gamma(z)\Gamma(z+1)|=\Gamma(z)\Gamma(1-z)$$
を使います.(この証明は簡単でつまらないものなので省きます)
下の式に当てはめると,
$$|z!|^2=z\Gamma(z)\Gamma(1-z)$$
また,相反公式から
$$|z!|^2=\cfrac{\pi z}{\sin \pi z}$$
$z=ix$を代入すると,
$$(ix)!\overline{(ix)!}=(ix)!^2=\cfrac{i\pi x}{\sin i\pi x}$$
となります.$\sin ix =i \sinh x$を使い,x=1を代入すると
$$i!\overline{i!}=(ix)!^2=\cfrac{\pi x}{\sinh \pi x}\mid_{x=1}$$
あとは計算機に任せば
$$\cfrac{\pi}{\sinh \pi}=0.27$$
となり,
$$i!\overline{i!}=0.27$$
示をすことができました.
ガンマ関数をテクニカルに使うと,
$$\int_0^1 x^x dx$$
なんかも計算できたりします.