システム開発は難しい
それもそのはず。
複雑な業務に苦しんでいる人を救うためにシステムが存在する。
その人たちを救うためにシステム開発をしているのだ、複雑性を開発側がしっかり向き合っていかないといけない。
そんな複雑な業務を落とし込んで開発を進めていく際には、たくさんのトラブルが発生してくる。
そのためにアジャイル開発という手法が用いられ、スクラムというフレームワークも誕生し、それを導入しながら日々を送っている開発者も多くなってきた。
だけど、そのスクラムのフレームワークを正しく理解し行使しようとすると、そもそもそのフレームワークを理解することが難しく、価値の提供に難航していく現状も目の当たりにした。
そこで筆者は「価値の定義が難しい状態に向き合う」ため、あえてスクラムフレームワークをあきらめ、状況に適応しながら開発を進めていくシンプルなPDCAをうまく回せるだけのチームを創ることにした。
運用を始めて1年たった現在、実はそれは適応型ソフトウェア開発(Adaptive Software Development) 通称ASD開発というものに非常に近い実態であることを知った。
適応型ソフトウェア開発(Adaptive Software Development)
エンジニア界隈ではきっと古典といわれる古のフレームワークなんだと思う。
この本では、システム開発のイテレーションをクライミングに例えて学びを深めるスタイルをとっている。
ASD開発で最も重要視されるポイントであり、個人的にすごくシンパシーの感じた部分は、以下の一説である。
難しい道のりを無事に登頂することも大切。
登頂した後必ず心身健康な状態で下山できることを目指せ。
これを冒頭でも上げた難しいシステム開発という文脈に置き換えて考えると、
難しいシステム開発を超え、無事に価値を届けることも大切。
だが、価値をリリースをしたあと、心身健康な状態で帰宅できることを目指せ。
こう読み替えることができるのではないかと筆者は考えた。
難しい道のりをできる限りスピード感をもって進む方法は、アジャイルにおけるイテレーションに関する話につながっていくと思う。
ここでは、「心身健康な状態で帰宅する」という部分に対してフォーカスしたいと思う。
心身健康な状態
システム開発における心身健康な状態とはどのような状態なんだろうかと考えてみたところ、心理的安全性の高い状態なのではないかと考えるに至る。
心理的安全性の高い状態とは、どのような状態を示すのか。
それは筆者があちこちで登壇しているネタでもあるが、ギャルマインドに近いものがあるのではないだろうか。
心理的安全性の高い状態
心理的安全性の究極の形とは、相手にリスペクトをもってネガティブフィードバックができる状態であると考えている。
ギャルマインドにおいては、「それいいんだけど、ちょっと違くね?」という文脈だと考える。
これを言い合えるようになるには、相当な時間と鍛練が必要であると筆者は考えており、一朝一夕にここまで相手に対して発言するためには勇気が必要になるだろう。
よく知らない人間にネガティブフィードバックをされたら、当然ムカつくし、はぁ?って言いたくなってしまう。
でも、そうならず、「確かにそうだね!改める。」と言い返せる関係が理想形でストレスがない環境だと思う。
繰り返しになるが、このやり取りは心理的安全性の究極系なので、簡単にはできない。
なぜ簡単にできないのだろうか。
ネガティブフィードバックは難しい
ネガティブフィードバックは、端的に言うと相手の短所をつつく行為だ。
よく知らない人に言われたら自分の琴線に触れてしまう。
そうすると途端に関係は悪化し、仕事にも差し支えてくるだろう。
歯にもの着せぬ物言いとも言い換えてもよさそうだ。
この発言を繰り返していくと、スクラムにおけるゴリラが爆誕する。
なぜゴリラ化するのか。
それは豊かな関係性を築くことを放棄した結果だと考えている。
脱ゴリラ
なんでも言い合える環境を作りつつ、ゴリラにならないようにふるまうのは、結構な矛盾を感じるだろう。
でも、ASD開発ではここにしっかり向き合うことこそが、適応型ソフトウェア開発の神髄でもあると言っているように筆者はとらえた。
豊かな関係性を作ることで、日々の仕事が楽しくなり、ポジティブなフィードバックも増え、たまにネガティブフィードバックをスパイスのように入れていく。
そんな関係を構築することで、難しく複雑な価値提供に向けた道のりをともに進むことができる。
そして最後には心身安全に下山することができるチームに成長していくのだろう。
そんなチームを創るために、筆者が1年間取り組んできたことを紹介したい。
Good & New
筆者が1年間365日毎日欠かさずに行ってきた取り組みが「Good & New」というフレームワークだ。
Good & New とは
以下にフレームワークについての引用を記載する。
Good&Newはアメリカの教育学者ピーター・クライン氏がチームの活性化のために開発したゲームです。3~10人ほどのチームに分かれ、一人一人が24時間以内に起こった「良かったこと(Good)」と「新しい発見(New)」を1分ほどで発表していきます。
発表が終われば、全員で発表者に対して拍手を送ります。
この取り組みを朝仕事を始める前に毎日欠かさず行ってきた。
その結果、いろいろな効果が得られたので、ここで紹介したい。
効果① お互いのことが深くわかる
仕事上でつながっているだけの存在だと極めて無機質な相手に見えてくる。
その延長で代替可能な部品のようにふるまってしまう自分に気づくことも多かった。
でもこの取り組みを通して、当たり前のことなのだが、相手も血の通った人間であることを何度も認識することになる。
リモートワークで開発を行うチームにとっては、この気づきを得ることがどれほど大変で、尊いことなのかを思い知る日々を過ごすことができた。
効果② プライベートな開示よりも仕事の開示のほうが楽であると気づく
プライベートなことは、話しやすい部分と話しにくいことも当然ある。
だんだんお互いのことがわかってくると、所見では話しにくかったことも話してみてもいいかなという気持ちを醸成することができることを知った。
気が重い話を気軽に話せるようになったことで、圧倒的に普段していた仕事の相談がとんでもなく簡単に話せるようになっていくことに気づきを得た。
特に何か問題が発生していたり、言いにくいトラブルの話が生まれたとき、かなり気軽に相談が発生するようになった。
その結果、そのイテレーションの振り返りを通して、次のイテレーションではすぐに対策をうったり、事前にキャッチアップして未然につぶしたりすることが可能になり、チームのベロシティが向上したことを観測した。
効果③ Good & New をしに仕事に来るメンバーが増えた
なんだか気が重いなー、仕事やりたくないなぁと思っているメンバーは当然いるし、自分もそうだった。
でもそんなときに、「まぁ、メンバーとGood&Newだけやりたいから、出社するかー。」という日も多々あった。
この朝のアンニュイな気の重さだけ突破すると、なんだかんだじわじわ作業ができる状態にもなっていて、停滞が減ったことを観測できた。
効果④ 認知負荷・ワーキングメモリーが圧迫されているメンバーに助け舟を出せた
システム開発をクロスファンクショナルなチームで進めていると、フェーズによって余裕のあるメンバー・山場を迎えているメンバーなどいろいろな立ち位置がある。
そんななかでGoodな話もNewな話でさえも、一切思いつけなくなる現象に陥ったメンバーがちらほら現れた。
そのメンバーは仕事のプレッシャーに飲み込まれつつあり、助けを求めたくてもそれに頭が回っていない状態であることが多かった。
そんなときに「だいじょぶそ??」と聞くと、「実はー、、、」と悩み相談が始まる場にも変化できる柔軟性があった。
自分もその状態に何度もなったが、Good&Newを通して、認知負荷が軽減され、ヒューマンエラーが減ったことを観測できた。
効果⑤ チームへの帰属意識が高くなった
メンバーは全員正社員ではなく、多くはビジネスパートナーだ。
ビジネスパートナーと仕事をするときには、どうしてもオーナーシップが課題に挙がってくる。
でもGood&Newを取り組んでいると、一緒に働いているメンバーの為に動きたいという気持ちが生まれ、結果的にチームに対する帰属意識に変わり、オーナーシップが生まれ始めたことを観測した。
その結果、たくさんの自己組織化の誕生を観測することができ、ASD開発で求める「創発」マインドを生み出す結果に至った。
まとめ
このような5つの効果を生み出すGood&Newは、アジャイル開発などチームを形成して動くスタイルの仕事現場では、きっと有効に作用するものであることを筆者は1年間の取り組みを通して知ることができた。
これからもGood&Newを通して、創発できるチームを続けていきたいと思う。
そして、Adaptive Software Development に対する知見も身に着けて、より高い山を登ってやろうともくろんでいる。
ここまでよんでくれてありがとう。
最高だぜ。愛してるベイビー!