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はじめに

待ち行列の問題で特に離散分布の確率を計算するために使われるz変換の変換テーブルのチートシートです.
z変換は制御理論やディジタル信号処理の分野では,$F(z^{-1})=\sum_{k=0}^{\infty} f_kz^{-k}$とされています.それは$z$が$z=exp(j\omega t)$と定義されており,$z^{-1}$が1クロック遅延させるという物理的意味をもち,z変換が離散時間系の伝達関数を表していたからでした.待ち行列での確率計算で使われる変換には伝達関数といった物理的な意味はなく,離散確率分布$p_0,p_1,...,p_k,...$の母関数として計算を簡易にすることを主目的に使われます.このため,z変換の定義を$$f_n\iff F(z)=\sum_{n=0}^{\infty}f_nz^n$$
としています.

変換表

nが数列のインデックスで,mは正定数とします.

No. 数列 z変換
1 $f_n$(定義) $F(z)=\sum_{n=0}^{\infty}f_nz^n$
2 $A\alpha ^n$ $\frac{A}{1-\alpha z}$
3 $n\alpha ^n$ $\frac{\alpha z}{(1-\alpha z)^2}$
4 $n^2\alpha ^n$ $\frac{\alpha z(1+\alpha z)}{(1-\alpha z)^3}$
5 $\frac{1}{m!}(n+m)(n+m-1)...(n+1)\alpha^n$ $\frac{1}{(1-\alpha z)^{m+1}}$
6 $\frac{1}{n!}$ $e^z$

z変換のもつ定理

No. 数列 z変換
1 $af_n+bg_n$ $aF(z)+bF(z)$
2 $a^nf_n$ $F(az)$
3 $f_{n/k} ~ n=0,k,2k,...$ $F(z^k)$
4 $f_{n+1}$ $\frac{1}{z}[F(z)-f_0]$
5 $f_{n-k}$ $z^kF(z)$
6 $nf_n$(平均) $z\frac{d}{dz}F(z)$
7 $n(n-1)(n-2)...(n-m+1)f_n$ $z^m\frac{d^m}{dz^m}F(z)$
8 $f_n \bigotimes g_n$畳み込み $F(z)G(z)$
9 $\sum_{k=0}^nf_k$ $\frac{1}{1-z}F(z)$

例題

1 等比級数

(問題)
$p_n=(\frac{1}{2})^n$のz変換を求めてください.$p_n$は,サイコロをn回振ってn回全てで偶数の目の出る確率など,比較的よくお目にかかる等比級数です.ただし,$p_0=1$とします
(解答)
定義より$F(z)=1+0.5z+0.25z^2+\cdots$は初項1で公比0.5zの等比級数となりますので,高校数学の公式より$$F(z)=\frac{1}{1-0.5z}$$となります.このz変換は,変換表の第2行を使って$A=1,\alpha=0.5$としても得られます.

2 ポアソン分布

(問題)
平均値$\alpha$のポアソン分布の確率をz変換を求めて,平均が$\alpha$になることを確認してください.
(解答)
平均値$\alpha$のポアソン分布で,$k$個のイベントが発生する確率は
$$p_k=\frac{\alpha^k}{k!}e^{-\alpha}$$なので

\begin{align}
P(z)&= e^{-\alpha}+e^{-\alpha}\frac{1}{1!}z+e^{-\alpha}\frac{\alpha}{2!}z^2+e^{-\alpha}\frac{\alpha^3}{3!}z^3+\cdots\\
&=e^{-\alpha}(1+\frac{1}{1!}z+\frac{\alpha}{2!}z^2+\frac{\alpha^3}{3!}z^3+\cdots) \\
&=e^{-\alpha}e^{\alpha z} \\
&=e^{\alpha(z-1)}
\end{align}

第2式から第3式へは変換表の第6行と,定理表の第2行を使っています.
$P(z)=p_0+p_1z+p_2z^2+p_3z^3+\cdots$なので,$\frac{dP(z)}{dz}=p_1+2p_2z+3p_3z^2+\cdots$.

よって平均$E=1p_1+2p_2+3p_3+\cdots$は

$\frac{dP(z)}{dz}|_{z=1}$で求まります.

$\frac{dP(z)}{dz}=\alpha e^{\alpha(z-1)}$なので  

$\frac{dP(z)}{dz}|_{z=1}=\alpha$

待ち行列の問題では,ポアソン分布の平均値は$\lambda t$で現れることが多く,$e^{\lambda t(z-1)}$の形のz変換が見つかるとポアソン分布に逆変換されるとひらめくことが必要とななります.

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