llama.cpp
は、Meta の LLaMA モデルの推論とデプロイに特化した軽量な C++ 実装です。このプロジェクトは、大規模なディープラーニングフレームワーク(PyTorch や TensorFlow など)に依存せずに LLaMA モデルを効率的に動作させることを目的とし、特に個人PCやモバイル端末といったリソースの限られた環境での実行を可能にしています。以下では llama.cpp
の主な動作原理について、モデルの表現方法や推論手法を解説します。
1. モデルの表現
llama.cpp
では、LLaMA モデルのデータ構造とストレージ形式がメモリ効率を重視して設計されており、特に量子化によってメモリや計算量の削減を図っています。モデルの主な構造には、重み(weights)、埋め込み(embeddings)、Transformer 層のマルチヘッドアテンション、前方フィードネットワーク(FFN)などが含まれます。
モデルファイルの読み込み
LLaMA モデルの重みファイルは .bin
形式のカスタムバイナリファイルとして保存されており、このファイルにはモデルの層数、各層のパラメータサイズ、埋め込み行列、層ごとの正規化パラメータなどが含まれています。llama.cpp
では、メモリを節約するためにモデルの重みを 4bit または 8bit の整数に量子化します。
struct llama_model {
int n_vocab; // ボキャブラリサイズ
int n_ctx; // コンテキストサイズ
int n_embd; // 埋め込みの次元数
int n_layer; // 層数
int n_head; // アテンションヘッド数
std::vector<layer> layers; // Transformer 層
ggml_tensor *embeddings; // 埋め込み行列
ggml_tensor *norm; // 最終層の正規化
// 他の必要なパラメータ
};
読み込み時に、llama.cpp
は .bin
ファイルを解析してこの構造にデータをロードし、メモリ効率を確保するために量子化します。量子化された各層のパラメータ(マルチヘッドアテンションや前方フィードネットワークなど)は整数として表現されるため、計算コストとメモリ使用量が抑えられます。
2. 推論プロセス
llama.cpp
における推論は、入力を埋め込み、アテンションメカニズム、フィードフォワード計算、活性化といった手順で処理し、最終的に出力予測を生成する流れです。以下に推論の主なステップを示します。
埋め込み層
入力テキストはトークン化され、それぞれのトークンのインデックスが埋め込み行列で参照され、埋め込みベクトルが取得されます。
ggml_tensor* embedded_tokens = ggml_get_tensor(model.embeddings, input_token_ids);
この生成された埋め込みベクトルが、次の Transformer 層で利用されます。
Transformer 層
LLaMA モデル内の各 Transformer 層はアテンション機構とフィードフォワードネットワークで構成されています。以下の2つのステップで推論が進みます。
1. マルチヘッドアテンション
マルチヘッドアテンション層では、入力に対して各トークンのアテンション重みを計算します。llama.cpp
では、重みのデータを異なる量子化レベルで保持することで効率化を図っています。
// QKV 計算
auto query = ggml_linear(model.query, x);
auto key = ggml_linear(model.key, x);
auto value = ggml_linear(model.value, x);
// アテンション重みの計算
auto scores = ggml_softmax(query * ggml_transpose(key));
auto context = ggml_matmul(scores, value);
2. フィードフォワードネットワーク(FFN)
FFN では、アテンションの出力に対して線形変換-活性化-線形変換を行い、非線形マッピングを実行します。
auto hidden = ggml_relu(ggml_linear(model.ffn_1, context));
auto output = ggml_linear(model.ffn_2, hidden);
残差接続と層の正規化
各層の出力は残差接続と正規化が行われ、安定性が確保されます。各層の結果は入力特徴量に加算されます。
x = x + context + output;
推論フローの概要
最終的に、llama.cpp
は全層の結果を集約し、モデルの予測値を出力します。
3. 量子化による最適化
llama.cpp
の大きな特徴として量子化が挙げられます。浮動小数点の重みを 4bit や 8bit の整数に変換することで、モデルのメモリ使用量を大幅に削減し、計算速度を向上させています。この量子化は、カスタムの ggml
テンソルライブラリを使用して行われ、低精度計算をサポートするため、推論時に整数演算へ変換され、計算速度とリソース効率が向上します。
// 例:重みの 4bit 量子化
auto quantized_weight = ggml_quantize_4bit(original_weight);
4. 推論の実行
ユーザーは llama.cpp
を使用する際、モデルファイルと入力テキストを指定して推論関数を呼び出すだけで結果を得られます。
std::string input_text = "What is the capital of France?";
auto result = llama_infer(model, input_text);
std::cout << result << std::endl;
推論関数は forward
関数を呼び出して入力を処理し、予測結果を出力します。このフローは効率化されており、リソースの限られた環境での実行に適しています。
まとめ
llama.cpp
の中心原理には、モデル構造の軽量化表現、量子化による最適化、および簡潔で効率的な推論フローが含まれています。C++ と ggml
テンソルライブラリを利用することで、リソースの少ないデバイスでも複雑な Transformer の推論が実現されており、簡潔かつ効率的に LLaMA モデルが実行できる設計となっています。