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Q2B 2019参加レポート

Last updated at Posted at 2019-12-16

量子コンピュータに関する、学術よりはややビジネスよりのカンファレンス「Q2B 2019」が、カリフォルニア州・サンノゼで開催されたので、行ってきました。

参加した企業たち。うちはギリギリに応募したせいか、載ってません。
Screenshot_20191215_112216.png

大雑把な感想

  • 登壇者はほぼ日本人いないのに、参加者は日本人がかなり多く感じられました
    • 量子コンピュータ業界のカモにされてるのでは、という印象を受けました
  • Googleスプレマシー論文などで盛り上がってはいるものの、結構みんな冷静な感じでした
    • 後で触れますが、NISQの実アプリケーションがないこと、耐誤り訂正にはまだ遠いこと、という2つの大きな課題を依然として抱えています
  • NISQアプリケーションとしては、量子機械学習が伸びてきている印象です
    • 念の為書いておきますが、当面は、ディープラーニングを置き換えることにはならないです
  • 2020年登場予定のものが目白押し
    • 本当に全部出るなら、盛り上がる年になりそうです

初日: ビジネス寄りの人向けの概要

日本でも情報収集をしていれば、特に目新しい情報はない、という一日でした。

"Near-Term"や"NISQ" (Noisy Intermediate-Scale Quantum)という言葉で度々触れられる、現状の量子コンピュータについて知っておく必要があります。

(ゲート方式の)量子コンピュータにはざっくり2種類あります。

  • 未だ完成する目処の立っていない、計算を間違えることのない、長い時間の計算にも耐えうる、理想的な量子コンピュータ
  • 既に完成しているが、計算をよく間違える、計算に長い時間かけられない、誤り訂正のない量子コンピュータ

後者が、Near-Term、NISQなどと呼ばれ、前者はFault-tolerantなどと呼ばれます。
素因数分解などには、前者の量子コンピュータが必要です。
後者については、実用的なアプリケーションが現状できていません。また、使い方としても、正確な答えを出す計算には向かず、何度もサンプリングして確率分布を取るなど、アニーリングに似た使い方になりそうです。

個人的には、Hyperion ResearchのBob Sorensenさんのプレゼンが気に入りました。

参入者たちの分類として

  • Legacy players: d-wave, IBM
  • Use case developers: Honeywell
  • New entrants
    • 専業: IonQ, Rigetti, ...
    • 兼業: Intel, ATOS
  • Non-traditional players: Google, Microsoft, AWS
  • Stealth player

とのことで、あんまり表には出てこないHoneywellが水面下でやっている可能性や、Honeywellのように「今まで言ってなかったけど、実はすごいの持ってます」という企業が何社かある可能性を匂わせていました。

  • ハードウェアとソフトウェアの両面に恐ろしいほどの技術的課題を抱えている
  • どれほどパフォーマンスが出るか不確実
  • どれくらいの期間が必要か不明確

といった課題を抱えており、ROI (投資利益率)を計算するのはまだ無理である状況であるとのこと。
各社が未来予想をしていることに関しては、批判的な見方をされており、

Screenshot_20191215_115539.png

横軸、縦軸に好きな値を書き足せ、とのことでした。
厳しいなぁ、と思いつつも、同意せずにはいられませんでした。

この後に発表した緑のコンサル会社さん、気まずい思いだっただろなぁ……

QCWareのIordanis Kerenidis氏の量子機械学習レビューもとてもよかったです。

量子コンピュータが量子機械学習に向いていると考えられている理由として、

  • 量子コンピュータが線形代数に強いこと
  • もともと機械学習では計算過程にノイズが入っても問題ないアルゴリズムが多いこと

などを挙げつつも

  • データの読み込みを効率的にすることができない
  • 今あるハードウェアには無理な、大きな問題で、本当にいい結果が得られるのかテストする方法がない

という問題点も挙げていました。

2日目: Main Day

2日目はMain Dayという位置づけで、朝一番の発表で、NISQという言葉を生み出したPreskill先生が話す、という気合の入りようです。

Preskill

Preskill先生のスライドはこちらに上がっています。
いろんなことをまんべんなく話した感じです。
一番最後の

NISQ will not change the world by itself. Realistically, the goal for near-term quantum platforms should be to pave the way for bigger payoffs using future devices. Progress toward fault-tolerant QC must continue to be a high priority for quantum technologists.

については、激しく同意です。
NISQとfault-tolerantの間の断絶を埋められるのか、fault-tolerantの前に再び量子コンピュータ冬の時代が来るのか、というのは、量子コンピュータ界隈の人たちの大きな関心のひとつです。

NISQの応用が盛り上がる→投資が活発にされる→fault-tolerantにつながる、という流れがベストなんですが。
NISQの応用が盛り上がらないor盛り上がるもののfault-tolerantにつながらない→幻滅期をむかえる→誰もfault-tolerant量子コンピュータにお金を出さなくなる→冬の時代
というシナリオがありえそうなのです。

空軍研究所

AFRL (air force research laboratory)の発表では、AFRLでは

  • Q-Timing
  • Q-Sensing
  • Q-Comm/Networking
  • Q-Computing

の4本柱を、それぞれ

  • Today
  • Mid-term Concept
  • Long term

の3段階にわけて戦略的に捉えていることが見えてきました。

なお、Q-TimingやQ-Sensingについてですが、これらは量子コンピュータからは若干離れるのですが、デバイスの発達や量子情報理論の発達による、センシング技術の発達や精度のいい時計の開発にも空軍は関心を持っています。
(精度のいい時計について、時計の精度向上はGPSなどの位置情報システムの精度向上に直結します)

Martinis

続いて、Googleのデバイスを作っているMartinis先生の発表。

本当にすごいデバイスだと思いました。

Screenshot_20191215_130203.png

接続の多さ、その割にエラーの少なさは、本当に素晴らしいです。

ほか

次以降は、各社取り組みの紹介で、そんなに面白いものはなかったのですが、Honeywellは引き続き要注目だと思いました。
あんまり情報を出してこないんですが、他社があんまり触れていない「High-resolutions rotations」に触れているのが、真面目にやってるなぁ、と。
実際測ってみれば分かるんですが。RXとかRZって、結構、回転の精度悪いんですよね。そこらへんをうまくできるなら、QAOA, VQEなどの「シミュレータなら動くのに……」が多少マシになるのかな、と思ってます。

Quantum Benchmark社は、量子コンピュータ系ソフトウェアのかなり低レイヤーをやっている会社で、そちらも個人的にはかなり興味深かったです。

3日目: Applications and Research

3日目は、途中、4つのセッションに分かれて好きなのを聴きに行けます。
私は、午前はMachine Learning Research、午後はSoftware & Applicationを聴きました。

セッションが分かれる前に、Vazirani先生と、空軍研究所のポスドクの方の話がありました。

Vazirani先生は、そこまですごいことは言ってないんですが、話の端々に、この人は本当に量子コンピュータを理解できているんだな、と感じられる場面があり、大変興味深かったです。

空軍研究所、IBMをかなり使い倒していて、接続のない箇所のCNOTをどのようにつなぐとエラーが少なく済むか、などを、相当研究しています。

機械学習関連だと、Iris CongさんのQuantum CNNは面白いな、と思いました。

また、X社も結構面白いことを言っています。
ピクセルを縦x横で捉えると線形部分空間で分離できないということが起こりうるので、ピクセルの数だけ次元を用意してワンホットエンコーディングするといいが、次元がむちゃくちゃ大量にいるのでテンソルネットワークを使う、と。
正気か、と思いますが、面白い提案ではあります。

続いて、Software & Applicationのセッション。
シンガポールのベンチャーのHORIZONは、量子コンピュータ用プログラミング言語と処理系を作っていますが、

  • ハードウェアにフォーカスした言語(Hydrogen)
  • サブルーチンにフォーカスした言語(Helium)
  • アルゴリズムにフォーカスした言語(Beryllium)
  • アプリケーションにフォーカスした言語(Carbon)

の4段構成となっていて、それぞれのレベルで必要なことをやる、といった思想になっています。

最後に、Scott AaronsonのAsk Me Anythingのコーナー。
会場からの質問にAaronsonが何でも答えて、Q2B閉幕となりました。

まとめ

GoogleのあのSupremacy(?)以外には、ものすごく大きな一歩はなかったような気はしますが、着実に進歩が感じられました。
また、玉石混交の量子機械学習界隈は、従来の機械学習を置き換えるとは思えないものの、数多くの手法が出てきており、非常に興味深くはあります。

これまでに散々言われている、エラーが多い、アプリケーションがない、Fault-tolerantはいつできるか分からない、という状況は全く変わっていないものの、今後ますます、多くのプレイヤーが量子コンピューティング業界に参入し、盛り上がりを見せるような予感は感じています。

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