アドベントカレンダー参加者のみなさまがガチで書きすぎて、量子コンピュータに興味はあったけど、まだ詳しく知らない方々は、ちょっとどうしようって思ってるんじゃないでしょうか。
案外誰も書かないので、ここでは、量子コンピュータの話題についていくために本当に最低限必要なこと、つまり、量子コンピュータには2種類ある、という話を書こうと思います。
これ知ってるだけで、量子コンピュータ関係のニュースの見方が変わってきますよ。
#量子コンピュータは大きく分けて2種類
量子コンピュータは大きく分けて、量子ゲート方式と量子イジングモデル方式の2種類があります。
どちらも、量子力学の原理を応用して計算に活かしていることには変わりはないのですが、単なるデバイスや処理系の違いというにはあまりにも大きすぎる違いがあるので、必ず区別する必要があります。
雑な例え話をすると、電気ポットも電気掃除機もどっちも電気を使った製品だけど、全然同じではないですね。
#量子ゲート方式
2007年以前は、量子コンピュータといえば、量子ゲート方式を指していました。
それ以後は量子イジングモデル方式も盛り上がってきたので、あえて「量子ゲート方式」のように呼ばれることが増えてきました。
今まで「電話」と呼ばれていたものが携帯電話の普及と共に「固定電話」と呼ばれるようになったのと似ています。
古典コンピュータ(通常のコンピュータのこと)が、AND, OR, NOTなどのゲートの組み合わせによっていかなる計算も実現できるように、アダマールゲート(H)、回転ゲート(π/8)、制御NOTゲート(CNOT)という3種類のゲートがあれば、いかなる量子計算も行えます。
これらのゲートの組み合わせによって、汎用的な量子計算を行おう、というのが量子ゲート方式です。
ここでは、量子計算とは何かについては述べませんが、古典コンピュータでできる計算はもちろん、量子計算に含まれています。
素因数分解が早くできる、ソートされていない配列から O(√N) でデータを探し出せる、などの話は、量子ゲート方式の話です。
(なお、素因数分解に関しては、量子ゲート方式でのショアのアルゴリズムとは別物ですが、量子イジングマシン方式でも、実現しているようです。
https://qiita.com/mdrft/items/ed8f5e52fd364c605468 が詳しいです。)
なのですが、現時点では、動いている実機は少なく、また、実用的な性能を持った実機はありません。
IBMのQという量子ゲート方式のマシンがクラウドで使えて、量子ビットの数が5のものと16のものが動いています。けれど、5量子ビットは暗算でも素因数分解できる数しか表現できません。16量子ビットだって、しょぼいコンピュータでも一瞬で解けるような大きさです。
けれど、希望がないわけでもなく、問題の種類によっては、量子ビットの数に対して指数関数的、あるいは準指数関数的に性能が上がっています。そして56量子ビットを超えると今のスパコンではシミュレーションできなくなる、とも言われています。(ただし、この数値はスパコンの性能向上とともに上がっていきます。最近までは49量子ビットでした。)
一方、Googleは49量子ビットの実機を作ろうとしています。
もしかしたら、ある日突然、量子ゲート方式のマシンがスパコンを追い抜く日が来るかもしれません。
#量子イジングモデル方式 (量子アニーリング方式と量子ニューラルネットワーク)
2007年にD-Waveというカナダの会社が、全く新しい形式の計算機を発表しました。
これは、量子アニーリングと呼ばれる処理を実機で行うことで、最適化問題を解く計算機です。
数値計算や最適化法に詳しい方なら、焼きなまし法という手法を聞いたことがあるでしょう。量子アニーリングは焼きなまし法と似た手法で、イジングモデルという磁性体のモデルを使って最適化を行う手法です。
D-Waveのマシンは、イジングモデルに従う系を作って実際に実験し観測することで、量子アニーリングの「計算」を高速で行います。
なんだか、粘菌を使って迷路の最短経路を求めるとか、そういった類の話みたいですね。
量子イジングモデル方式は、量子ゲート方式のような汎用性はないのですが、上述のD-Wave社の計算機のように、既に商用化されている実機があります。
最近、NTTから量子ニューラルネットワークという新しい計算機が発表されました。
D-Waveの計算機は超電導を使っているのに対し、NTTは光を使っていて、全く別物に見えます。けれど実は、これも実機でイジングモデルと同等のモデルを作って実験するタイプの計算機です。なので、量子ニューラルネットワークは量子イジングマシン方式に含まれます。
量子イジングモデル方式は、いずれも、イジングモデルを実機で再現して実験を行うことで最適化問題を解く、それに特化した方式です。
#量子ゲート方式と量子イジングモデル方式の利点、欠点
それぞれの違いが分かったところで、利点、欠点をまとめます。
##量子ゲート方式
- 利点
- 汎用的で、いかなる量子計算も実現できる
- 量子イジングモデル方式でできる計算は、量子ゲート方式でもできる
- 欠点
- 現時点では、実用的な性能の実機がない
##量子アニーリング方式
- 利点
- 既に、商用レベルの実機が存在している
- 最適化問題は現在のコンピュータでは解きにくい問題も多く、それに特化していたとしても、十分にうれしい
- 欠点
- 最適化問題以外は解けない
#量子ゲート方式と量子イジングモデル方式 まとめ
量子コンピュータには大きく分けて2種類。
- 量子ゲート方式
- 量子イジングモデル方式
- 量子アニーリング方式 (D-Wave社)
- 量子ニューラルネットワーク (NTT)
量子ゲート方式⇒汎用的な量子計算を行うことを目指した計算機。2017年12月現在、まだ実用的な実機がない。
量子イジングモデル方式⇒最適化問題を解くことに特化した計算機。既に商用レベルの実機がある。