概要
この記事ではGPT4.5の小説の生成能力について検証します。
GPT4.5は2025/2/28に公開されたOpenAI社の新たなモデルです。
特徴は以下の通り。(GPT4.5に解説してもらいました)
GPT4.5は、OpenAIが2025年2月27日に発表した最新の大規模言語モデルです。
このモデルは、従来のGPT-4からさらに進化し、パターン認識や関連性の把握能力が向上しています。
具体的なモデルのサイズやトレーニングに使用した計算資源については公開されていませんが、
OpenAIはGPT-4.5をこれまでで最大のモデルと位置づけています。
OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏は、GPT-4.5について「これは初めて、思慮深い人と
話しているように感じられるモデルです」と述べています。
ただし、同氏はこのモデルが推論能力に特化したものではなく、ベンチマークで高得点を
狙うタイプではないとも説明しています。
GPT-4.5のリリースは、モデルのサイズとトレーニングデータの拡大による性能向上を
目指したものであり、OpenAIはこのアプローチを再び重視しています。
現在、GPT-4.5は研究プレビューとして提供されており、その強みや限界を理解するための
試験運用が行われています。
今後、推論能力のさらなる向上が期待されています。
また、ChatGPT4.5は「Orion」というコードネームで呼ばれており、
非Chain-of-Thought(CoT)モデルとしては最後のリリースになる予定です。
また、以下のXのスレッドにOpenAIの社員やテスターが書いたGPT4.5への感想集が載っているんですが、そこではGPT4.5はIQではなくEQに優れた、人と心地よい関係を築けるモデルだと述べられています。
そこで私は考えました。
EQが高いということは、もしかして今までのOpenAIのモデルではちょっと無味乾燥感があった小説生成も良い感じに情感がある小説を書いてくれるのではないかと。
そこで、この記事ではGPT4.5に小説を書いてもらい、その検証を行います。
検証項目は二つ。
1つは、プロットはこちらで用意して、用意したプロットを書いてもらう場合。
もう1つはテーマだけ与えて、それを元にプロットを作成してもらって小説を書いてもらう場合。
この二通りで検証します。
指示したプロットを如何に面白く表現してくれるかの能力と、プロット自体を作成して小説を書く能力。
これら二つを検証します。
GPTo1 Proはもうすでに以下の記事で同項目で検証しているので、この記事の結果と比較してGPT4.5がどれくらい優れているかも検証します。
気になる方は以下の記事も見てください。
プロットはこちらで用意して、用意したプロットを書いてもらう場合
実験内容
以下のプロンプトで、小説を生成してもらいます。
o1 Proと比べて長い小説を一発で書いてくれないので、各プロットごとに5000文字程度で書いてもらっています
あなたは優れた小説を書くAIです。
以下の世界観とプロットから、面白い物語を記述してください。
設定
主人公は元プロボクサー。
23歳ぐらい。若い。
「勝たないと意味がない」と思ってる。
無敗で世界タイトル挑戦までいった。でも負けた。そこで潔く引退。
経験を活かしてボクシングの小説を書こうとする。
小説を書くのは生まれて初めて。
話のスジ
【起】
引退会見にのぞむ主人公。なぜ早々に引退するのか聞かれ「勝つ姿を見せられないボクサーに存在意義などないからだ」と言い放つ。
引退後、のんびりした暮らしをする主人公。でも退屈で何の張りもない生活に飽きてくる。どうすればいいのだろう。「そうだ。小説を書こう。経験を活かせばいいボクシング小説が書けるはず」
【承前半】
自分と同じように「勝たないと意味がない」と思っているボクサーの小説を書く。無敗で世界チャンピオンになる男のストーリー。自分の叶えられなかった夢を叶えるボクサーの話。
そうやって小説を書き上げた。でもなんだか面白くない。
なぜつまらない小説になってしまうのか、その原因の検討がつかない。仕方がないので取材に行くことにする。
【承後半】
お世話になっていたジムを訪問。取材する。
自分がデビュー戦でKOしたベテラン選手の引退試合も見に行く。弱い選手だったけど意外とたくさんのファンが駆けつけていた。
大怪我をして再起不能と言われた選手の復帰戦も見にいった。負けてしまったけど彼は今の自分にできることを必死にやろうとしていた。
新人王戦のとき1ラウンドで軽く倒した選手も取材させてもらった。もう子供がいて試合も何回か見に来ているらしい。でも毎回負けている。「今度こそ勝つところを見せたい」そう意気込んでいた。
【転結】
主人公はジムの会長に頼まれて天才高校生とエキシビジョンマッチで戦うことに。オリンピックを目指している期待の若手だ。
前座として他の選手の試合もいくつか組まれていた。「子供に勝つところを見せたい」と言っていたあの選手の試合もあった。主人公は会場の後ろの方からその試合を観戦する。彼の奥さんと子供も見に来ていた。でも彼は今回もやっぱり負けてしまった。泣き崩れながらリングを降りるその姿が主人公の胸に刺さる。
主人公はリング上で天才高校生とグラブを交える。彼の強烈なパンチを受けながら主人公はずっと自分の中にくすぶっていたものに気づく。
主人公は小説を書くことをやめて現役復帰のトレーニングをはじめる。もう一度世界タイトルに挑戦するのだ。
重要項目
オモテのストーリー
ボクシングの小説を書いて賞に応募。
裏ストーリー
引退したあと胸にくすぶっていたものを払拭。
秘めたる想い
勝たないと意味がない。
間違いが正される
勝つことだけにドラマが潜んでいるわけではない。
指示:
また、文章は小説のように、できるだけ詳細まで描写してください。人物の体の動きや心情描写、情景まで描写してください。
また描写は主人公の一人称で行ってください。
優れた小説家のように、同じ描写を繰り返すことなく、読みやすくわかりやすい文にしてください。
小説の文字数は日本語で起で5000文字をまず書いてください。
プロットの情報から適当に話を膨らませてください。
実験結果
スポットライトが眩しく俺の瞳を焼いた。リング上とは違う硬質な光が、俺の表情を暴いているようで不快だった。カメラのシャッター音が無数の小さな銃弾のように耳元で鳴り響き、俺は無意識に眉間に皺を寄せる。
「本日をもって、プロボクサーを引退します」
俺の口から放たれたその言葉に、会場の空気が一瞬で張り詰めた。予想通りの反応だった。23歳、無敗のまま世界タイトル戦まで登りつめた若きボクサーの突然の引退宣言だ。当然のように、記者たちが一斉に騒めき始めた。
俺は表情を変えずに記者たちの顔を順に見渡した。自分がいま何を感じているのか自分でもよく分からない。ただ、胸の奥には空虚な冷たさだけがあった。
「なぜ、この若さで引退を? まだまだ挑戦できる年齢だと思いますが」
予測していた質問が投げられる。俺は短く息を吐き、目を閉じて再び開いた。
「勝つことができなくなったボクサーに、リングに立つ資格はないと思っています」
再びざわめきが広がる。だが俺にとって、この言葉以外に伝えられるものはなかった。
俺は勝つためにリングに上がっていた。負けるためではない。負けることを許容してしまえば、自分の全てが崩れてしまう気がした。世界タイトル戦での敗北は、ただの敗北ではなかった。俺の全存在が否定されたような、あまりにも決定的な敗北だった。
記者会見が終わり、俺はひとり控え室で椅子に座ったまま天井を見上げていた。部屋の蛍光灯がチカチカと微かな音を立てて点滅している。リングの熱狂とは対照的な静寂と孤独が俺を包んだ。
数日後、引退生活が本格的に始まった。時間が無限にあるように思えた。何をしても自由だが、何をしていいか分からない。朝起きても走り込みに行く必要はなく、食事制限もトレーニングもない。ただテレビをつけ、ソファに寝転び、無為に時間を流すだけの日々。
最初はそれが新鮮だった。だが一週間もするとその退屈さに耐えられなくなった。俺の体が、動きを欲していた。鏡に映る体がわずかに緩んでいることに気づき、内心動揺した。ボクシングに打ち込んできた日々の代償が、こんな形で現れるのは惨めだった。
退屈な時間が流れる中、俺はベッドの横に放置していた数冊の雑誌を手に取った。パラパラとめくると、書評コーナーが目に留まった。新進気鋭の若手作家が華やかに紹介されている。
ふと、その時、ある考えが頭に浮かんだ。
「そうだ、小説を書こう」
思いついた自分に驚いた。小説など書いたこともなければ、まともに読んだ記憶もなかった。しかし、自分にはリングでの体験がある。誰よりもボクシングを知っている。その経験を活かせば、誰も書けないリアルな小説が書けるかもしれない。
部屋を出て、近所の書店でノートとペンを買った。新品のノートの白さが眩しかった。俺は帰宅すると、机に向かい椅子に座った。真っ白な紙を前にすると、リングに立つ直前の緊張感に似た感覚が蘇った。
ペンを握ったが、言葉が出てこない。いざ書こうとすると何をどう書けばいいのかまるで分からないのだ。リングの上なら次の動きは自然に体が覚えていたが、小説の書き方など俺の体には刻まれていなかった。
俺は数時間そのまま座っていた。外はいつの間にか夕暮れになり、窓から夕焼けの柔らかな光が差し込んできた。
焦りと戸惑いが入り交じった感情が俺を支配した。だが同時に、自分がいま確かに何か新しいものへ挑戦しているという実感があった。リングを降りた俺が初めて感じる、新たな戦いの始まりだった。
「やるしかないか……」
俺は自分自身を励ますように呟き、真っ白な紙に一文字、慎重に書き始めた。
翌朝、俺は目覚めるとすぐ机に向かった。昨晩書き始めたばかりのノートが目の前に置かれている。初めて綴った数行の文章を読み返すと、なんともぎこちなく、稚拙な文章に思えた。それでも、俺は再びペンを握り締めた。
俺が書こうとしているのは、俺自身が叶えることができなかった夢を描いた物語だ。無敗で世界チャンピオンになる男の物語。その主人公には俺自身の魂を注ぎ込み、俺が味わった苦しみや痛みを一切与えないつもりだった。彼は完璧で、どんな強敵にも怯まず立ち向かい、華麗に勝利を掴む。敗北など知らない、完全無欠のヒーローだ。
書き始めると、不思議なほど言葉が溢れ出した。試合中の駆け引き、強烈なパンチが相手を打ち倒す瞬間の興奮、観客の歓声――。俺は自分がリングに立っていた時の感覚を再び追体験しながら筆を進めた。
書き上げた原稿を初めて読み返した夜、俺は奇妙な違和感を覚えた。全てが順調で完璧だったが、何かが決定的に欠けている気がした。翌日再び読み返しても、違和感は消えなかった。確かに迫力はある。リアリティも十分だ。だが、主人公があまりにも無敵すぎて感情移入ができなかった。
俺は苛立ちを覚え、頭を掻きむしった。なぜだろう。俺が書いた物語なのに、なぜここまで他人事のように感じてしまうのか。
数日間、その疑問は消えなかった。何度書き直しても、ストーリーは単調で味気ないままだった。いつしか俺は、何が自分の小説をつまらなくしているのか、その原因を突き止めようと決意した。
俺はかつて所属していたジムを訪ねることにした。リングから離れて以来、一度も訪れていなかった場所だ。扉を開けると、懐かしいジムの匂いが鼻を突いた。汗と革と、古びた設備の独特の匂いだった。リングの上では後輩たちが必死にパンチを繰り出している。
「久しぶりだな!」
俺に気付いたトレーナーが笑顔で駆け寄ってきた。その表情には驚きと嬉しさが滲んでいた。
「ちょっと小説を書くために取材をさせてほしいんです」
俺がそう告げると、トレーナーは驚きながらも快く了承してくれた。
俺はジムの隅に座り、練習する選手たちをじっと観察した。リングの上で戦う選手たちの表情には、それぞれの物語が刻まれているようだった。勝ち続けることだけがボクサーのドラマではないと、何となく感じ始めた。
その後も俺は、かつてKOした選手たちの試合を観に行った。初めて倒したベテラン選手は、多くのファンの前で感動的な引退試合を行っていた。また、大怪我を乗り越えて復帰した選手は敗れたものの、誰よりも強い意志を見せつけていた。
自分が倒した新人選手のもとにも取材に訪れた。彼には子供が生まれ、何度負けても必死にリングに立ち続けていた。「子供に勝つところを見せたい」と話す彼の真剣な目を見ていると、胸の奥が痛くなった。
俺が書きたかったのは、こういう物語だったのかもしれない――。そう気づき始めた俺の胸には、新たな希望のような感覚が生まれていた。
自宅に戻ると、俺は再び机に向かい、まっさらなページに新しい物語を書き始めた。今度は完璧なヒーローではなく、傷つき、敗北を知り、それでもなお前に進もうとするボクサーの物語だ。
物語を書き進める俺の手は、初めてリングに上がった時のように震えていた。それは恐れではなく、確かな熱だった。俺自身が再び戦いに挑んでいるような高揚感が体中を巡り、俺は夢中でペンを走らせた。
俺が小説を書き直し始めてから数週間が経った頃、ジムの会長から突然電話がかかってきた。
「ちょっと頼みがあるんだが、お前、エキシビジョンマッチでリングに立ってみないか?」
驚きのあまり一瞬声が出なかった。リングに戻ることなど、まったく考えていなかったのだ。
「相手は誰ですか?」
「オリンピック候補の天才高校生だ。お前の経験をぜひ彼に伝えてやってほしいんだ」
迷いもあったが、何かが俺の中で動いた。俺は無意識に頷いていた。
試合当日、会場に足を踏み入れると、懐かしい高揚感が体を包んだ。前座では、かつて俺が取材したあの新人選手の試合があった。リングサイドには彼の妻と幼い子供が祈るように手を握りしめていた。
試合が始まった。彼は序盤から果敢に攻め込んだが、徐々に押され始めた。そして結局、判定負けを喫した。リングを降りる彼の姿は悔しさで震えていたが、その目にはまだ希望の光が宿っているように見えた。
俺は胸が締めつけられるような感覚を覚えた。勝ち続けることだけがボクシングではない。その時、はっきりと理解した。
ついに俺の出番がやってきた。リングに上がると、眩しい照明が再び俺を包んだ。対角線上には、鋭い視線を放つ若き挑戦者が立っている。
ゴングが鳴り響く。天才高校生は若さと勢いに満ち溢れ、容赦なくパンチを打ち込んできた。俺はその攻撃を受けながらも、どこか喜びを感じていた。久しぶりのリングだ。痛みさえ心地よかった。
試合が進むにつれて、俺の中で眠っていた闘志が目を覚まし始める。彼の攻撃をかいくぐりながら、自分がまだ戦えることを確かめていた。
試合後、リングを降りた俺の目に、かつて倒した新人選手が映った。彼は妻と子供に慰められながらも前を向いている。
その姿が俺に問いかけてくるようだった。「お前は本当に、もう終わったのか?」と。
俺はその夜、机の前に座ったが、小説を書くことはなかった。その代わりに、部屋の隅で埃をかぶっていたグローブを手に取った。
翌朝、俺は再びジムの扉を開けた。トレーナーが俺を見ると微笑んだ。
「戻ってきたのか?」
「はい。もう一度、挑戦します」
その言葉を口にした瞬間、俺の胸は軽くなった。リングは俺を待っている。まだ俺の戦いは終わっていない。
考察
GPT4.5、だいぶ馬鹿。
全然指示に従わないし、長い小説も書いてくれない。
文章自体もo1と比べてそこまでいいとは思えない。
これは、期待外れだったんでしょうか……
GPT4.5は自由さが強いとのことだったので、次の自由に書かせた場合に期待します。
テーマだけ与えて、それを元にプロットを作成してもらって小説を書いてもらう場合
実験内容
以下の内容のプロンプトを連続で与えて、自分で作成した小説をo1 proに作ってもらう。
ほぼ最低限のプロンプトで自由に考えさせたかったのだが、それではGPT4.5の性能では不可能だったので作ってもらったプロットの一部ごとに作成してもらった。
あまり見ない、斬新で面白い短編のファンタジー小説のプロットを書いて
ではこのプロットを使用して、小説を書いて。
小説家のように、地の文大目で重厚な古典ファンタジー小説のように書いて
文字数は3万文字程度で書いて。
実験結果 プロット
物語の舞台は、すべてがガラスでできた世界「グラッセ」。住民たちは感情によってガラスの色や透明度が変化する。感情を抑えることが美徳とされ、常に無色透明を保つ者が高貴とされる世界。
主人公の少女イリスは、自分の感情を抑えることが苦手で、常に鮮やかな色彩をまとってしまい、周囲から異端視されている。ある日、完全透明の高貴な青年リュカと出会い、なぜか彼は彼女の「色」に惹かれる。
やがて二人は、ガラスが不透明化し崩壊し始めている世界の異変に気づく。調査を進める中で、感情を抑え込みすぎた結果、人々の心の底に「澱み」が溜まり、それがガラスを蝕んでいることが判明する。
感情を抑える社会の常識を覆し、感情を受け入れることが世界を救う鍵だと訴える二人は、激しい抵抗にあいながらも世界を変えるため奮闘する。
最後には、イリスの放つ鮮烈な感情が世界中のガラスに共鳴し、世界は美しい色彩で満たされ、透明さだけが美徳という価値観が崩れ、新しい時代が訪れる。
実験結果 生成した小説
グラッセ――そこは、何もかもが透き通るガラスで築かれた、儚くも美しい世界であった。家々や道はもちろんのこと、空にそびえる塔も、流れる川の波打つ水面さえもが滑らかなガラスでできている。その透明さゆえに、世界は昼夜を問わず星のような輝きに満ちていた。
この世界の人々は、生まれながらにして心の内をガラスの色彩として映し出す。喜びは淡い金色に、怒りは赤く燃え、悲しみは深い青を帯びる。だが、グラッセでは感情を抑え、色を隠すことが最上の美徳とされていた。ゆえに人々は常に自らの心を鎮め、無色透明の姿を保とうと努めていた。
そんな世界の片隅に、少女イリスがいた。彼女はどうしても感情を隠すことができず、心の揺れに合わせて常に鮮やかな色彩をまとってしまう。嬉しさを覚えれば身体は黄金に輝き、悲しみに暮れれば深い紺碧に染まった。人々は彼女を奇異の目で見つめ、遠ざける。イリス自身もまた、自らの色を忌まわしく思いながら、孤独な日々を送っていた。
ある日、イリスは街の中央にそびえる無色透明な宮殿の庭で、完全に透明な青年リュカと出会う。彼は貴族の中でも特に高貴な家柄であり、その完璧な透明さは誰もが羨望するものであった。だが、彼の瞳に映るイリスへの眼差しには、周囲とは異なる不思議な興味と優しさがあった。
「あなたの色は、実に美しい」
リュカが穏やかな微笑みと共にそう告げると、イリスの心は動揺し、頬が薔薇色に染まった。それは、彼女が生まれて初めて感じる感情の喜びであった。
ある日のこと、イリスとリュカはグラッセの中心街を散策していた。いつもならば澄み渡り、光を柔らかく透過させるガラスの街並みが、この日は何となく薄暗く、不気味な陰影を帯びていた。最初、二人はそれがただの気のせいだろうと思っていた。だが街を歩けば歩くほど、明らかにどこかがおかしいという違和感が強まっていった。
通りの片隅に、小さな人だかりができていた。そこでは人々が不安げな表情を浮かべ、小声で囁き合っていた。
「一体、何があったの?」
イリスが群衆の一人に尋ねると、彼は顔をこわばらせて小さく頷きながら指を差した。指の先には、これまで完璧な透明さを保っていたはずのガラスの建物があったが、今ではくすんだ灰色に濁り、ところどころにひび割れが広がっていた。
「朝までは普通だったんだ。なのに突然、色が濁って崩れだして……」
男の声は震えていた。イリスとリュカは顔を見合わせる。その目には互いの懸念がはっきりと映っていた。
「行ってみよう」
リュカが落ち着いた口調で言うと、二人は崩れかけた建物へと近づいていった。近寄るほどに、その異変の深刻さが明らかになった。ガラスはもはや滑らかさを失い、灰色の濁りが混じった粗い粒状に変質している。触れると簡単に崩れ落ちるほどにもろくなっていた。
「どうしてこんなことが……」
イリスが不安げに呟く。これまで彼女が感じた孤独や疎外とは違った、世界そのものが揺らぐような恐怖だった。
その日を境に、街のあちこちで同様の現象が頻発し始めた。ガラスでできた建物や橋、道が急速に濁り、脆く崩れ去る。人々の間に動揺が広がり、混乱が街を覆い尽くそうとしていた。
異変の調査を始めたイリスとリュカは、崩れかけたガラスの破片を注意深く観察し、調べることから始めた。その過程で、リュカは奇妙な事実に気づいた。
「見てくれ、イリス。ガラスの内部に何かがある」
リュカが示したガラスの破片の内部には、微細な黒い粒子が漂っていた。それは触れると指先に吸い寄せられるように移動し、感情をかき乱すような冷たさを持っていた。
「これは、もしかして……」
イリスが息を呑む。彼女自身がずっと抑えようとしていた感情の塊のように、それは重苦しく粘りついた。
二人はその後も様々な場所を調査した。そして崩れた建物の中に共通して存在する黒い粒子を集め、それが感情を過剰に抑圧したことで生じる心の「澱み」であることを突き止めた。抑え込まれた感情は行き場を失い、徐々に固まり、やがて世界を形作るガラスそのものを侵食していたのだ。
「私たちが感情を隠すほどに、この澱みは増えていくのかもしれない」
リュカが静かな声で言った。彼の完全な透明さもまた、自身の感情を長く深く抑え込んでいる証だった。彼が本当に透明であり続けることが、この世界にとって良いことだと疑わなかったのは、たった数日前までの話だった。
イリスは胸に痛みを感じた。自分の感情を抑えられず、周囲に異端視されてきた自分と、完全に感情を封じて透明であることを強要されたリュカ。そのどちらの道も間違いだったという真実が、彼女を苦しめた。
「私たちにできることはないの?」
イリスは叫ぶように問いかけた。するとリュカは穏やかな目で彼女を見つめ、ゆっくりとうなずいた。
「きっと方法はある。澱みを取り除くためには、私たちが避けてきたものを直視しなければいけないんだ」
それはつまり、自分自身が持つ本当の感情を認め、受け入れ、外へと解放すること。だがその試みは、透明であることを絶対的な価値としてきたグラッセの社会の根幹を揺るがすものだった。二人は今、自分たちの手で、この世界の常識を覆さなければならない岐路に立っていた。
感情を抑える社会の常識を覆すこと――それは容易ではなかった。
イリスとリュカが自らの発見を街の人々に伝えようとした時、人々は即座に反発した。彼らにとって感情を抑え込むことは、ただの慣習ではなく、道徳そのものだった。心を抑制することによって初めて秩序が保たれるという考えは、長い年月をかけて世界に深く根付いていた。
「感情を解放するなど、愚かな真似だ!それは破滅をもたらす!」
住民たちの怒号が二人に浴びせられた。とりわけ、リュカに対しては厳しい視線が向けられた。完全な透明さを誇っていた彼が、自らの主張によってその透明さを失おうとしていることが人々の目には裏切りと映ったのだ。
だが、二人は諦めるわけにはいかなかった。彼らは懸命に街を巡り、人々に訴えかけた。時には強い罵声を浴びせられ、時には石を投げつけられもした。イリスの身体は不安や恐怖、悲しみの色に染まり、リュカもまた微かに色を帯び始めていた。
それでも二人は言葉を重ね続けた。破壊されつつある街の惨状を示しながら、人々の抑え込まれた感情がどれほど深刻な危機を生んでいるかを訴え続けた。
ある日、グラッセを統治する評議会が二人を呼び出した。評議会の場は重苦しい空気に包まれていた。リュカはそこで、堂々とした態度で自らの考えを語った。
「私たちが長年信じてきた透明さは、確かに美しい。しかし、それは本当の平和や秩序ではない。抑圧された感情は消えるのではなく、心の奥底で醜く腐敗し、世界を蝕んでいるのです。私たちは感情を恐れるのではなく、それを認め、受け入れなければなりません。そうすることで初めて、世界は真の意味で癒されるのです」
評議会のメンバーたちはざわめき、戸惑い、動揺した。しかし、年長の評議員たちは頑なに首を振り、二人の主張を断固として拒絶した。
「我々の社会が守ってきた秩序を否定することは許されぬ。君たちの考えは危険であり、世界をさらなる混乱へと導くだろう」
しかし、この評議会の決定は、かえって人々の心に火をつける結果となった。街の人々の中には、イリスとリュカの言葉に共感する者が少しずつ現れ始めていたのだ。特に、抑圧された感情によって家族や友人を傷つけてしまった者や、心の痛みに長く苦しめられてきた者たちが、二人を支持し始めた。
徐々に彼らの周りには、感情を受け入れ解放することの重要性を認める小さな集団が生まれた。街は次第に二分され、互いに対立するようになってしまった。
だが、イリスとリュカは決して対立や争いを望んではいなかった。彼らは自分たちの主張が正しいことを示すため、自ら率先して感情をさらけ出し、人々の前で感情を共有する試みを始めた。その姿はある者には美しく、ある者には恐ろしく映ったが、何よりも二人の真摯さが人々の心を打った。
やがて街に起きた大きな事件が、人々の意識を変える契機となった。街の中心にある巨大なガラス塔が激しく崩れ落ち、人々の目の前で灰色の破片と化したのだ。この悲劇は多くの人々の目を覚まさせた。
評議会もまた、この事態を受けて再び二人を招き入れた。評議会の人々は既に揺らいでいたが、それでもなお、長年築いてきた伝統を容易には捨てられなかった。しかしリュカは、感情がもたらす混乱を恐れる人々に、静かに、だが力強く語った。
「感情は確かに混乱を生むこともあります。しかし、それがあるからこそ、私たちは真に他者を理解し、愛し、共に生きることができるのです。私たちが恐れているのは感情ではなく、自分自身なのではないでしょうか」
その言葉が評議会の人々の心に深く刺さった。次第に、評議会の態度も軟化し始め、人々は自らの感情を恐れることをやめようとしていた。
しかし、まだ完全な変革への道のりは遠かった。街中には根強い抵抗が存在していたし、多くの人々が不安を抱えていた。それでも、イリスとリュカは確かな手応えを感じながら、世界を変えるための奮闘を続けていった。
評議会での二度目の議論から数日後、ついに決定的な瞬間が訪れた。
イリスとリュカが街の広場で自らの感情を解放し、率直に語り始めたとき、その場に集まった群衆は固唾を呑んで二人を見つめていた。空気は張り詰め、誰もが息を詰めて見守る中、イリスは震える声で語り出した。
「ずっと、私は自分の感情を恥じてきました。自分が鮮やかな色を帯びるたびに、周囲から疎まれ、孤独を感じていました。でも今は違います。私たちが抱えるすべての感情が、この世界を救う鍵なのです」
彼女の言葉に応えるかのように、イリスの身体から鮮やかな光があふれ出した。それは黄金色に輝き、まるで世界そのものが目覚めたかのように広場を照らした。
「感情は恐れるべきものではありません。悲しみも喜びも、怒りも愛も、すべてが私たちの一部です」
続いてリュカが口を開く。その瞬間、彼の身体にも微かな色が浮かび上がり始めた。それは薄い青色から徐々に強く鮮やかな蒼へと変化し、完全透明だった彼が初めて色彩をまとった瞬間だった。
彼らの強烈な感情はやがて、二人を取り囲む空気を振動させ、共鳴するように世界全体へと広がっていった。初めは驚き、戸惑っていた人々も、その美しさに目を奪われていった。人々の胸に眠っていた感情が少しずつ目を覚まし、色彩として溢れ出す。
街のガラス建築がそれに呼応するように、次第に色を帯び始めた。灰色の崩れかけたガラスは浄化され、鮮やかな色彩を取り戻していく。その光景は息を呑むほど美しく、人々の心を深く揺さぶった。
評議会の人々も広場に駆けつけ、その壮大な光景を目撃した。そして、長老の評議員が初めて涙を流し、深い紫色の感情を露わにした瞬間、長年守られてきた価値観が崩壊した。
「私たちは間違っていた。透明さだけが美徳ではなかったのだ」
その言葉が響き渡ると、世界は一気に変わり始めた。人々は自らの感情を恐れずに抱きしめ、色鮮やかに自分自身を表現し始めた。それまで透明であることを強要されていた社会は、鮮烈な色彩で満ち溢れ、活気に満ちた新しい世界へと生まれ変わった。
イリスの放つ感情の波動は世界中のガラスを共鳴させ、かつてないほど美しい虹色の輝きが街を、山々を、川を、森を満たした。彼女が抱えてきた孤独や苦しみは、今や世界全体を照らす希望の光へと姿を変えていた。
「あなたの色は、この世界に必要なものだったんだ」
リュカが穏やかに微笑んだ。彼の瞳には鮮やかな感情が宿り、それは何よりも温かく、優しい色合いを見せていた。
「あなたがそばにいてくれたから、私は自分の色を恐れずに済んだのよ」
イリスが彼に向けた微笑みは、これまでで最も美しい色を放っていた。
二人の感情が響き合い、重なり合う。その美しい調和がさらなる輝きを放つと、世界は新たな時代の幕開けを迎えた。
グラッセはもはや透明なガラスの街ではなく、多彩な感情と色彩にあふれた生命力あふれる世界へと姿を変えていた。人々は自らの色を恥じることなく、自分らしく生きる喜びを見つけ出し、過去の抑圧から解放されていた。
イリスとリュカは手を取り合い、新しく生まれ変わった街並みをゆっくりと歩き始めた。彼らの後ろには色鮮やかな光が道を照らし、行く先々で人々が笑顔と共に彼らを迎え入れた。
透明さだけが美徳という価値観は消え去り、代わりに感情が尊ばれる時代が訪れたのだ。新しい世界は希望に満ち、人々は初めて本当の自分を受け入れ、自由と共に歩み始めていた。
考察
o1に比べて圧倒的に微妙。
まとめ
分かりました。
小説を書くには、一定以上の賢さが必要なんだということを。
一定以上の長さの物語を論理的に考えられないとEQが高い高くない以前の問題になる。
GPT4.5はReasoningモデルではないので、今後GPT4.5をベースにReasoningモデルとして訓練されたモデルに期待することにします……
まぁ、AIが日常生活のパートナーとして、またより大きな世界モデルを持つためにはこういうモデルは必要だと思うので、これをベースにした頭のいいモデルだとo1より良くなるでしょう。
人当たりをよくするためのレイヤーをかますようにするだけなら、世界モデルを持った常識というか、本当の意味での頭の良さは作り出せないでしょうし。
実際、以下のようなsimpleqa(そこまでシンプルではないファクト検証ベンチマーク)の能力はかなり高いみたいなので、AGIに行くためには必要なモデルなんだと思います。