はじめに
Python の天文学ライブラリ astropy で定義されている物理定数を確認します。
学部では物理もやっていましたが、修士は生物がメインだったので、物理に関する内容はかなり抜けていました。
そのせいか説明も大雑把ですが、それでも astropy の雰囲気はつかめるはずです。
ちなみに僕はスフィアアーサーです。
定数
天文学および物理学で扱う定数が数多く用意されています。
from astropy.constants import *
万有引力定数
G
$$6.6743\times10^{−11}\mathrm{\frac{m^3}{kg\cdot s^2}}$$
万有引力の公式 $F=G\frac{m_1m_2}{r^2}$ に用いられる物理定数です。
あらゆる物体間で働く引力のことを万有引力といいますが、あまりに小さいため普段意識されることはありません。
ただし惑星などの天体レベルで質量が大きくなると無視できない力となります。
アボガドロ定数
N_A
$$6.0221408\times10^{23}\mathrm{\frac{1}{mol}}$$
約 $6.02\times10^{23}$ 個の構成要素をまとめて、$1\mathrm{mol}$ といいます。
原子や分子などは小さすぎるので、$12$ 個を $1$ ダースというように、ある程度まとめて扱うと便利になります。
以前は質量数 $12$ の炭素 ($\ce{^{12}C}$) $12\mathrm{g}$ 中の原子の数と定義されていました。
ガス定数
R
$$8.3144626\mathrm{\frac{J}{K\cdot mol}}$$
理想気体の状態方程式 $pV=nRT$ に用いられる物理定数です。
ボイル・シャルルの法則によると、気体の体積 $V$ は 圧力 $p$ に反比例し、絶対温度 $T$ に比例します。
またアボガドロの法則によると、どんな気体であっても同じ温度・圧力・体積であれば、同数の分子 ($=1\mathrm{mol}$) を含みます。
それらから温度・圧力・体積の関係を表したのが、状態方程式といわれるものです。
リュードベリ定数
Ryd
$$10973732\mathrm{\frac{1}{m}}$$
リュードベリの公式 $\frac{1}{\lambda}=R(\frac{1}{n^2}-\frac{1}{m^2})$ に用いられる物理定数です。
水素原子の線スペクトルの波長に関する式であるバルマーの公式 $\lambda=f(\frac{n^2}{n^2-4})$ を、可視光外まで一般化したものです。
ボーア半径
a0
$$5.2917721\times10^{-11}\mathrm{m}$$
水素原子の電子の基底状態における軌道半径です。
電子の軌道半径は $r=\frac{\epsilon_0h^2}{\pi me^2}\cdot n^2$ であり、$n=1$ のときを基底状態といいます。
$\epsilon_0$ は真空の誘電率、$h$ はプランク定数、$m$ は電子の質量、$e$ は電気素量となるため、分数部分は定数となっており、見た目ほど複雑な式ではありません。
微細構造定数
alpha
$$0.0072973526$$
電磁相互作用の強さを表す物理定数です。
$\alpha=\frac{Z_0e^2}{2h}$ と表される無次元量で、逆数がおよそ $137$ となります。
標準気圧
atm
$$101325\mathrm{Pa}$$
海抜 $0\mathrm{m}$ における大気圧です。
地球には大気があるため、その重さによって生じる圧力を大気圧といいます。
大気の希薄な火星は地球の $1\mathrm{%}$ 以下の大気圧になっています。
ウィーンの変位則における比例定数
b_wien
$$0.002897772\mathrm{K\cdot m}$$
ウィーンの変位則 $\lambda_{max}=\frac{b}{T}$ に用いられる物理定数です。
最大放射強度を与える波長は温度に反比例するという法則ですが、言い換えると高温になると波長の短い光を出すということです。
恒星の光から表面温度を推定するのに便利で、波長が短いほど温度が高く青白く見えます。
光速
c
$$2.9979246\times10^{8}\mathrm{\frac{m}{s}}$$
真空中での光の進む速さです。
$1$ 秒で地球を $7.5$ 周できるのは有名ですが、宇宙の広さに対してはこれでもかなり遅いです。
電気素量
e
$$1.6021766\times10^{-19}\mathrm{C}$$
電子 $1$ 個が有する電気量の大きさです。
電気量は電流に秒数を乗じたもので、その最小値が電気素量になります。
つまり電気量は電気素量の倍数となっています。
真空の誘電率
eps0
$$8.8541878\times10^{-12}\mathrm{\frac{F}{m}}$$
コンデンサの静電容量の公式 $C=\epsilon_0\frac{S}{d}$ に用いられる物理定数です。
誘電率とは分極のしやすさ (蓄えられる電気の大きさ) を示す指標です。
真空の誘電率と誘電体の誘電率の比を比誘電率といいます。
標準重力加速度
g0
$$9.80665\mathrm{\frac{m}{s^{2}}}$$
地球の重力により地表面近くの物体に生じる加速度です。
実際には地球の自転による遠心力の影響もありますが、こちらはかなり小さいので無視できます。
真空における値で定義されていますが、実際の加速度は空気抵抗などがあるので、物体の形状にも影響されます。
プランク定数
h
$$6.6260701\times10^{-34}\mathrm{J\cdot s}$$
光子のエネルギーと波長の関係式である $E=h\frac{c}{\lambda}$ に用いられる物理定数です。
現在の $\mathrm{kg}$ はプランク定数に基づいた定義となっています。
ディラック定数
hbar
$$1.0545718\times10^{-34}\mathrm{J\cdot s}$$
プランク定数を $2\pi$ で除した物理定数です。
エネルギーと各周波数 $\omega$ の関係式である $E=\hbar\omega$ に用いられます。
ボルツマン定数
k_B
$$1.380649\times10^{-23}\mathrm{\frac{J}{K}}$$
絶対温度とエネルギーを関係づける物理定数です。
気体定数をアボガドロ定数で除すことで導出できます。
分子一つあたりの気体定数とするのが分かりやすいです。
電子質量
m_e
$$9.1093837\times10^{-31}\mathrm{kg}$$
電子 (electron) の質量です。
陽子のおよそ $\frac{1}{1840}$ の重さしかなく、原子の質量を考える際には無視できるほど軽いです。
中性子の質量
m_n
$$1.6749275\times10^{-27}\mathrm{kg}$$
中性子 (neutron) の質量です。
陽子の質量とほぼ同じですが、わずかにこちらのほうが重いです。
陽子の質量
m_p
$$1.6726219\times10^{-27}\mathrm{kg}$$
陽子 (proton) の質量です。
中性子星では強大な重力により、陽子と電子が反応して中性子になります。
真空の透磁率
mu0
$$1.2566371\times10^{-6}\mathrm{\frac{N}{A^{2}}}$$
真空下における透磁率を表す物理定数です。
透磁率とは物質がどれくらい磁化しやすいかを示すもので、磁束密度を磁界の強さで除した値です。
ボーア磁子
muB
$$9.2740101\times10^{-24}\mathrm{\frac{J}{T}}$$
電子の固有磁気モーメントを表す物理定数です。
もう少しかみ砕くと、電子が原子核の周りを軌道運動するときに生ずる最小の磁気モーメントです。
$\mu_B=\frac{e\hbar}{2m_e}$ で導出されます。
トムソン断面積
sigma_T
$$6.6524587\times10^{-29}\mathrm{m^{2}}$$
電子に対するトムソン散乱の断面積です。
トムソン散乱とは自由電子が電磁波と相互作用して、入射光と同じエネルギーと波長の光を散乱する弾性散乱のことです。
$\sigma_T=\frac{8\pi}{3}(\frac{\alpha\hbar}{m_e c})^2$ で導出されます。
シュテファン=ボルツマン定数
sigma_sb
$$5.6703744\times10^{-8}\mathrm{\frac{W}{m^{2}\cdot K^{4}}}$$
シュテファン=ボルツマンの法則 $I=\sigma T^4$ に用いられる物理定数です。
この法則は黒体の単位面積から単位時間に放射される熱量は絶対温度の $4$ 乗に比例するというものです。
黒体とはすべての電磁波を吸収して、反射しない理想的な物体を指しますが、恒星の放射を黒体放射とみなすことが多いです。
原子量
u
$$1.6605391\times10^{-27}\mathrm{kg}$$
$\ce{^{12}C}$ の $\frac{1}{12}$ の質量です。
定義から分かる通り、陽子や中性子の質量とほぼ同じです。
地心重力定数
GM_earth
$$3.986004\times10^{14}\mathrm{\frac{m^{3}}{s^{2}}}$$
地球質量 ($5.972\times10^{24}$) と万有引力定数の積で与えられる物理定数です。
人工衛星の軌道計算や地球の重力場について調べるのに利用されます。
木星の地心重力定数
GM_jup
$$1.2668653\times10^{17}\mathrm{\frac{m^{3}}{s^{2}}}$$
木星質量 ($1.898\times10^{27}$) と万有引力定数の積で与えられる物理定数です。
木星は他惑星の質量の合計よりも $2$ 倍以上重いため、他天体の軌道に大きな影響を及ぼします。
日心重力定数
GM_sun
太陽質量 ($1.989\times10^{30}$) と万有引力定数の積で与えられる物理定数です。
万有引力定数や太陽の質量、天文単位といった必要な値をまとめて扱えるのが便利で、公転周期の計算に用いられます。
$$1.3271244\times10^{20}\mathrm{\frac{m^{3}}{s^{2}}}$$
ボロメトリック等級のゼロ点における光度
L_bol0
$$3.0128\times10^{28}\mathrm{W}$$
等級 $0$ の天体が有する光度です。
もう少しかみ砕くと、ボロメトリック等級のスケールを定義するための基準値です。
以前は太陽のボロメトリック等級を基準にしていたため、値のばらつきがあったそうで、その基準を統一するために導入されました。
太陽光度
L_sun
$$3.828\times10^{26}\mathrm{W}$$
太陽の光の強さです。
太陽光度は徐々に大きくなっており、短期的な活動の変化はあれど、長期的には地球の気温は上昇します。
$10$ 億年後には海水が消滅する説まであるほどです。
地球質量
M_earth
$$5.9721679\times10^{24}\mathrm{kg}$$
地球の質量です。
太陽系内の岩石惑星では最大の質量を有しています。
ある程度の質量がないと重力も小さくなり、大気の維持が困難だと考えられています。
木星質量
M_jup
$$1.8981246\times10^{27}\mathrm{kg}$$
木星の質量です。
太陽系内の最大の惑星で、質量は地球の約 $318$ 倍あります。
それでも太陽の質量の $0.1\mathrm{%}$ ほどで、核融合するにも $80$ 倍の質量が必要になります。
太陽質量
M_sun
$$1.9884099\times10^{30}\mathrm{kg}$$
太陽の質量です。
その圧倒的な質量は地球の約 $33$ 万倍あり、太陽系の質量の $99.86\mathrm{%}$ を占めます。
また圧倒的な重力は $100,000\mathrm{au}$ にも及び、理論上の天体群としてオールトの雲を形成しているとも考えられています。
地球半径
R_earth
$$6378100\mathrm{m}$$
地球の半径です。
地球は自転による遠心力で赤道部分が膨らんだ楕円体となっています。
そのため赤道半径 (約 $6378\mathrm{km}$) と極半径 (約 $6357\mathrm{km}$) の平均値を利用することが多いです。
木星半径
R_jup
$$71492000\mathrm{m}$$
木星の半径です。
太陽系内の惑星で最も自転が早く、赤道での半径と自転軸での半径では大きな差を生じるため、通常は赤道半径を用います。
太陽半径
R_sun
$$6.957\times10^{8}\mathrm{m}$$
太陽の半径です。
地球半径の約 $109$ 倍あり、地球と月の距離の倍近くあります。
天文単位
au
$$1.4959787\times10^{11}\mathrm{m}$$
地球と太陽の平均距離です。
オールトの雲が数万天文単位まで分布していると考えられており、太陽系内の天体の位置関係を扱いやすい値で表せます。
恒星間の距離など太陽系外を考える際は、桁数が大きくなりすぎるため光年やパーセクを用いるべきです。
パーセク
pc
$$3.0856776\times10^{16}\mathrm{m}$$
年周視差が $1$ 角度秒となる距離です。
年周視差とは地球の公転運動による天体の位置の変化 (角度) です。
年周視差が小さいものほどその天体が遠いと判断できますが、あまりに遠いと年周視差が小さくなりすぎて測定が困難になります。
キロパーセク
kpc
$$3.0856776\times10^{19}\mathrm{m}$$
$1000\mathrm{pc}=1\mathrm{kpc}$ というだけです。
約 $3260$ 光年に相当するため、銀河内の天体の距離に用いられます。
おわりに
大きな世界を扱う天文学だけではなく、小さな世界を扱う量子力学に登場する定数も数多く用意されています。
もっと詳しくこれらの定数を説明できるように物理分野の学習も進めていきます。