[中級者向け] Python 構造的パータンマッチの 10 のパターン

はじめに

比較的新しい機能である構造的パターンマッチ文 (以下、マッチ文) を解説します。
初学者はまず if 文で条件分岐を身に付けるべきと考え、タイトルでは中級者向けと謳っています。

Python 3.10 以降の機能です

マッチ文の概要

他言語における switch 文のようなものです。

if 文での条件分岐

a = 0

if a == 0:
    print("0")
elif a == 1:
    print("1")
else:
    print("other")

--> 0

マッチ文での条件分岐

a = 0

match a:
    case 0:
        print("0")
    case 1:
        print("1")
    case _:
        print("other")

--> 0

マッチ文を定義する手順

1. match の後ろに値を記述して、: で区切る
2. case の後ろに値を記述して、: で区切る
3. 分岐の数だけ 2. を繰り返す
4. どの条件にも当てはまらない処理は case _: の後に記述

Java の switch 文では分岐が多いと記述が簡潔になるとのことですが、Python はもとより if 文の記述が簡潔なため、マッチ文のメリットが薄いように思えます。

ですが以下のケースに当てはまる状況下では、その恩恵を享受できます。

OR パターン

| で要素を列挙するパターンです。

複数のパターンを併記

mob = "villager"

match mob:
    case "zombie" | "skeleton" | "creeper":
        print("Hostile")
    case "chicken" | "pig" | "villager":
        print("Passive")
    case "enderman" | "piglin":
        print("Neutral")

--> Passive

if 文でいうところの or で繋げるイメージです。

AS パターン

as で条件を満足した要素と変数を束縛するパターンです。

変数への束縛

mob = "villager"

match mob:
    case "zombie" | "skeleton" | "creeper" as hostile:
        print(hostile)
    case "chicken" | "pig" | "villager" as passive:
        print(passive)
    case "enderman" | "piglin" as neutral:
        print(neutral)

--> villager

ビルトインクラストのマッチは こちら を参照してください。

リテラルパターン

リテラルを利用した一般的な例です。
内部的には == (真偽値や None は is) で評価しています。

だいたいのリテラルが利用できる

val = None

match val:
    case 0:
        print(0)
    case "abc":
        print("abc")
    case """abcabc""":
        print("abcabc")
    case r"\t\n":
        print(r"\t\n")
    case b"abc":
        print("byte-abc")
    case True:
        print(True)
    case False:
        print(False)
    case None:
        print(None)
    case _:
        print("other")

--> None

数値 (複素数)・文字列・真偽値・None が利用できますが、式と f 文字列は記述できません。

式は利用できない

val = 2

match val:
    case 1 + 1:
        print(2)
    case _:
        print("other")

--> SyntaxError

ちなみに複素数の場合のみ、+ や - を利用できます。
複素数を使うタイミングなどほとんどないとは思いますが...

複素数

val = 1 + 2j

match val:
    case 1 + 2j:
        print("1+2j")
    case 1 - 2j:
        print("1-2j")

--> 1+2j

ちなみに実数は左側で虚数は右側と決まっています。

実数と虚数の位置は変更できない

val = 1 + 2j

match val:
    case 2j + 1:
        print("1+2j")
    case -2j + 1:
        print("1-2j")

--> SyntaxError

キャプチャパターン

パターンに変数を指定することで、常にマッチを成功させ値をその変数に束縛します。

値を変数に束縛

mob = "slime"

match mob:
    case name:
        print(name)

--> slime

後述するパターンと組み合わせることで、真価を発揮します。

ワイルドカードパターン

前述した _ のことです。
最後に記述することで、else のように振舞います。

値を変数に束縛しない

mob = "slime"

match mob:
    case _:
        print(_)

注意点はキャプチャパターンより優先されるため、_ に値が束縛されないことぐらいでしょうか。
つまり上では case _ の _ と mob は紐づいていませんし、そもそも case _ と print(_) の _ は別物なので、なにも表示されません。

バリューパターン

オブジェクトの属性と値を比較します。
. が付いていると、バリューパターンと認識されます。

オブジェクトの属性と比較

class Pokemon:
    def __init__(self, name):
        self.name = name


pikachu = Pokemon("Pikachu")

name = "Pikachu"

match name:
    case pikachu.name:
        print(name)

--> Pikachu

グループパターン

() でパターンの可読性を高めるだけです。

長いパターン

tool = "chainsaw"

match tool:
    case "auger" | "chainsaw" | "impact driver":
        print(tool)

--> chainsaw

グルーピングしたパターン

match tool:
    case ("auger" | "chainsaw" | "impact driver"):
        print(tool)

--> chainsaw

この程度の構文であれば、可読性に差は感じません。
AS パターンを併用した例で確認すると、効果を実感できそうです。

グルーピングで可読性を向上

mob = "villager"

match mob:
    case ("zombie" | "skeleton" | "creeper") as hostile:
        print(hostile)
    case ("chicken" | "pig" | "villager") as passive:
        print(passive)
    case ("enderman" | "piglin") as neutral:
        print(neutral)

シーケンスパターン

リストやタプルといったシーケンス系にマッチするパターンです。

単純なリストのマッチ

lst_1 = [0, 1, 2]

match lst_1:
    case [0, 1, 2]:
        print(lst_1)

--> [0, 1, 2]

単純なタプルのマッチ

tup_1 = (0, 1, 2)

match tup_1:
    case (0, 1, 2):
        print(tup_1)

--> (0, 1, 2)

これでは if 文で事足りますが、下のようなケースではかなり簡潔に記述できます。

要素数が 2 で 0 から始まるリスト

lst_2 = [0, 1]

match lst_2:
    case [0, x]:
        print(x)

--> 1

[0, x] は 0 から始まる 2 要素のリストであれば、次の要素を x に束縛するという意味です。
キャプチャパターンとの合わせ技になっているのがミソです。

上を if で

lst_2 = [0, 1]

if len(lst_2) == 2 and lst_2[0] == 0:
    print(lst_2[1])

--> 1

どうでしょう、マッチ文のほうがかなり読みやすくはないでしょうか?
要素を増やしたもう少し複雑な例も確認します。

要素数が 3 で 0, 1 から始まるリスト

lst_1 = [0, 1, 2]

match lst_1:
    case [0, 1, x]:
        print(x)

--> 2

上を if で

lst_1 = [0, 1, 2]

if len(lst_1) == 3:
    if lst_1[0] == 0 and lst_1[1] == 1:
        print(lst_1[2])

--> 2

このレベルだと if 文の可読性は酷いものです。

if 文と len() を同時に利用する場合は、ぜひマッチ文も検討してください

複数の変数

パターン内で複数の変数を利用する際には、別の変数を記述してください。

複数の変数

lst_1 = [0, 1, 2]

match lst_1:
    case [0, x, y]:
        print(x)
        print(y)

--> 1
    2

可変長の要素

関数定義と同様に、要素が可変長であれば * を記述します。

可変長の要素

lst_1 = [0, 1, 2]

match lst_1:
    case [0, *values]:
        for value in values:
            print(value)

--> 1
    2

マッピングパターン

ディクショナリのようなマッピング系にマッチするパターンです。

単純なディクショナリのマッチング

mob = {"name": "ghast", "health": 10, "width": 4.0}

match mob:
    case {"name": "ghast"}:
        print(mob)

--> {"name": "ghast", "health": 10, "width": 4.0}

指定した要素が含まれるかのみで判断するため、他の要素が存在してもマッチすることは注意してください。
AS パターンとの合わせ技で、下のような型の判定のような記述も可能となります。

値の型を判定

mob = {"name": "ghast", "health": 10, "width": 4.0}

match mob:
    case {"name": str() as name}:
        print(name)

--> ghast

str() のようなビルトイン関数は下のようにも記述できます。

ビルトイン関数特有の記述

mob = {"name": "ghast", "health": 10, "width": 4.0}

match mob:
    case {"name": str(name)}:
        print(name)

--> ghast

上を if で

mob = {"name": "ghast", "health": 10, "width": 4.0}

if "name" in mob and isinstance(mob["name"], str):
    print(mob["name"])

シーケンスパターンほどの差はないですが、マッチ文だと意図が明瞭にみえます。

if 文と isinstance() を同時に利用する場合は、ぜひマッチ文も検討してください

他の要素をキャプチャ

関数定義のキーワード可変長引数と似ていますが、** を記述するだけです。

パターン以外の要素を取得

mob = {"name": "ghast", "health": 10, "width": 4.0}

match mob:
    case {"name": str(name), **features}:
        print(features)

--> {"health": 10, "width": 4.0}

クラスパターン

クラス系にマッチするパターンです。
今まで同様にパターン内の変数に値を束縛します。

単純なクラスのマッチング

class Pokemon:
    def __init__(self, name, type, id):
        self.name = name
        self.type = type
        self.id = id


pikachu = Pokemon("Pikachu", "Electric", 25)

match pikachu:
    case Pokemon(name="Pikachu", type=type, id=id):
        print(type)
        print(id)

--> Electric
    25

上を if で

pikachu = Pokemon("Pikachu", "Electric", 25)

if isinstance(pikachu, Pokemon):
    print(pikachu.type)
    print(pikachu.id)

--> Electric
    25

やはりマッチ文のほうが直感的かつ明瞭にみえます。

位置引数によるマッチング

実はデフォルトだと位置引数によるマッチングができません。
対処法は簡単で、クラス定義に __match_args__ を追加するだけです。

パターンに位置引数を適用

class Pokemon:
    def __init__(self, name, type, id):
        self.name = name
        self.type = type
        self.id = id

    __match_args__ = ("name", "type", "id")


pikachu = Pokemon("Pikachu", "Electric", 25)

match pikachu:
    case Pokemon("Pikachu", type, id):
        print(type)
        print(id)

--> Electric
    25

__match_args__ に属性名を文字列としてタプルで渡すだけです。

ガード

case の後ろに if を記述することで、複雑な条件に柔軟に対応できます。

下ではガラル地方のポケモン (id が 810 ~ 898) のみ表示するために、パターンの後に if 文を追加して、制限を設けることでより細かな条件を指定しています。

パターンに条件を追加

class Pokemon:
    def __init__(self, name, type, id):
        self.name = name
        self.type = type
        self.id = id

    __match_args__ = ("name", "type", "id")


pikachu = Pokemon("Pikachu", "Electric", 25)
cinderace = Pokemon("Cinderace", "Fire", 815)


match pikachu:
    case Pokemon(name, type, id) if 810 <= id <= 898:
        print(type)
        print(id)

match cinderace:
    case Pokemon(name, type, id) if 810 <= id <= 898:
        print(type)
        print(id)

--> Fire
    815

エースバーン (英名 : Cinderace) は if 文の条件を満足するため、タイプと図鑑 No. (ここでは id) が表示されます。

まとめ

if 文でも記述はできるので、マッチ文に触れたことない方も多かったかもしれません。
とはいえ前述した 10 のパターンとガードさえおさえれば、マッチ文のスペシャリストといっても過言ではありません。
今後条件分岐を記述する際は、マッチ文と if 文を使い分けてロバストなコーディングを目指してください。

更新履歴

2025/04/23 初版
2025/04/24 改行を調整 & 誤植を修正